成功を収めるファッションショー
……油断していたことは認める。
モデル出演が決まった日の午後、男の俺には用がないということで久しぶりに休日モードを満喫していた。とはいえ1人で行動というわけにもいかず、カロラインとフィルミーナの相手をすることにはなったけれど、最近忙しかったこともありコミュニケーション不足を自覚していたために状況を受け入れていた。
そんな経緯で消化したため、翌日も休日モードだろうと思っていたのだが、呼び出されてしまった。……そして現在、工房に来ていた。
「えーっと……演芸場の支配人に言われて来ました、サクリウス=サイファリオですけど」
中には女性が1人、一心不乱に縫物をしている。もちろん、ドレス作成である。
「……来たわね」
彼女は手を止めると椅子から立ち上がり入り口付近で立っていた俺の前に立つ。
「どうも。ファッションショーでロッキングさんのモデルさん達の衣装を担当するフカネーゼよ。来てくれて助かるわ」
「俺が役立てるなら良いですけど、まだ何をするかも聞いていないんですよ」
「ホントに? ……うーん、伝えといてって言ったんだけどなぁ」
フカネーゼ=セイレドール。腰まである紫色の髪をポニーテールに結っていて、二重の大きな茶色い瞳の女性……いや、女の子かな。年下に見えなくもないが、だとしたら仕事をしていないだろうから、同じ16歳かもしれない。
半袖の無地なシャツとパンツスタイルで、かけているヨレヨレエプロンには糸屑がついていた。多分、早朝……いや、徹夜で仕事をしているのかもしれない。
「君の仕事は雑用。特に重要なのは食事の用意と工房以外の掃除。あとあたしが寝た時に時間になったら起こす。それだけ。工房の物は触らない。何もしなくて良い。片付けも不要」
「それで食事は……?」
「軽食であれば何でも良い。常時寝不足だから消化に良さそうな物をお願い」
……そう言われてもなぁ……後でシオリエルにでも聞いておくか。
フカネーゼは工房から出なかった。それどころか多分ほぼ寝ていない。
俺からすれば信じられないことだが、20着以上のドレスを1人で作っていた。知らんけど、こういうのって人海戦術で作っていくんだと思っていただけに、ビックリしていた。
少し雑談した際に聞けた情報として、元々は2人ほど手伝いが付いてくれるはずだったらしい。3人でも大変だと思ったんだけど、モデルの人が引き抜かれたタイミングでその2人も辞めてしまったらしい。
それを聞いてから、もしやフカネーゼさんもターゲットなのかと疑っている。結局誰が狙いなのかまでは判らないんだけどね。
頼まれてはいないけれど、もしかしたらボディガードも必要かもしれない。
「おはようございます」
「……おはよ~。もう朝かぁ……お腹減ったなぁ」
「朝食持参してきました。食べましょうか?」
「うん」
彼女は手を止めると工房の奥にある私室に行く。6畳間1室+台所+トイレ+風呂という狭いスペースで、そこの掃除や洗濯を任されている。
男の俺に触られて不快なものは予め避難するように伝えたところ、そんな余裕はないから好きにしろと言われた。……まぁ、変態趣味はないけれど、不慮の事故で責められることがないというのは救いかもしれない。
もってきた朝食を皿に並べて準備が整うと「いただきます」という言葉で食べ始める。
「フカネーゼさん、この街って冒険者いないんですかね?」
「居ないよ。数年前まではいたけどね。観光で来る分には歓迎するけど、長期滞在はさせない雰囲気を作ってるしね。実際、冒険者はこの街では不要だからなぁ」
確かに冒険者というのは武装した怖い方々だからな。荒事を請け負ってくれる助かる存在であると同時に怒らせたら何をされるか解らないとも思われている。冒険者もピンキリで見た目じゃ判らないからね。……まぁ、英雄として名が知れ渡れば話は別かもだけど。
「なるほどね。だから仕事がないわけか」
「荒事が発生しないからね。衛兵の数、結構いるでしょ? アレのおかげ。他の街だったら警戒態勢なのかと驚くくらい居るからね」
「フカネーゼさんも冒険者は不要って考え?」
「まぁ、そうね。でも、サクリウスさん達なら歓迎かな。それも結果論だけどさ」
考えてみれば当然だけど、冒険者であろうと無かろうと知人なら平気ってことなんだよな。
忙しい日々は怒涛のように過ぎ去っていき、もうリハーサル前日になっていた。
俺が演芸場に足を運ぶことは無いだろうと思っていたけれど、今日は最終チェックの衣装運びを頼まれていて、服も沢山あるとかなり重いが〈サイコキネシス〉で判らないようにズルをしながら運んでいた。そのおかげもあって迅速に運べたまであった。傍から見たらさぞかし怪力と思われたことだろう。
もちろん運び終えれば俺の仕事は無くなり長時間の休憩に入る。いったんコテージに戻ろうかとも思ったが、それは呼び止められることで中断される。
「お久しぶりです、サクリウスさん。お疲れ様です」
「どうも。えーっと……」
「わたし、モデルの1人でジュリエルです。話は皆さんから伺っていますよ」
……そうは言われても、良く言われているのか、悪く言われているのか、デマを吹き込まれているのか……正直自信はない。
彼女はジュリエル=ホワイトラック。特徴はその藤色の髪。人の事言えないが珍しい色で他の人で見たことがない。腰まである髪をポニーテールにしている。茶色の瞳のタレ目でゆっくりな口調もあって優しそうな雰囲気が滲み出ていた。
「どんな話か怖いところだけど、ここで油売ってて平気ですか?」
「うん。先に冒険者の方々からチェックするって言ってましたし。退屈ですので、話し相手になっていただければな~って」
……何か探られるのか? 考えすぎって解ってはいるんだけど、警戒しちゃうんだよなぁ。
「じゃあ話のネタってわけじゃないけど、この国独自の奴隷システムについて教えてほしいんだけど……良い?」
「そういえば驚いていましたね。いいですよ……ここ数年で作られたシステムなんですけど、隷属契約っていう魔法で奴隷商が奴隷を管理して、奴隷は仕事を選べて待遇も予め希望することができるの。奴隷は基本レンタルで、気に入った奴隷は奴隷商から買取りも可能なのよ」
労働時間も給与も決まっていて、人権は契約で守られている……人気の職業なのだそうだ。
……あれから何人かに話を聞いてみたけれど、奴隷という職業が目指すべき憧れの職業として語られていて違和感しかない。もちろん、頭ではここでいう奴隷は他の国とは違って隷属契約という魔法を利用した派遣社員のようなモノというのは解るんだけど。
俺のそんなモヤモヤとは関係なくリハーサルも無事終わり、ファッションショーは本番を迎えた。
「……ヤバいほど混んでる……カロンとフィナ、リョーちゃんもはぐれないように」
「う、うん」
そう返事はするものの、人波に流されそうになっていたので手を繋ぐ。お互いの身体を引き寄せて邪魔にならないように道の端へと避難して一息を吐く。
「昨日までとは別の街みたい」
「道が狭くなっているのも原因だとは思うけどね」
フィルミーナが既に疲れていて漏らした言葉を仕方ないよなーと同情することしかできない。俺は朝の通学ラッシュを経験しているから、それよりはマシって感じではあるんだけど、前世の記憶が無かったら俺も参っていたかもしれない。
こんな状況になっているのも、2人がファッションショーを見たいって言ったことが始まりなんだけどね。それが原因でリンクルム姫の妹、リョーコレイトも面倒見る事になったんだけど、幸い良い子で気遣いができるタイプなので助かっている。……流石、彼女も姫様である。
街のメインストリートにランウェイを設置して、観光客の目に付くようになっている。その反応次第で洋服を作った【裁縫師】やモデルの価値が上がるわけだ。アピール先は当然上級奴隷を扱うスカウトマン。または、既に奴隷商に所属しているなら奴隷を求める経営者相手にである。
……どちらにせよ、俺達には関係ない話ではある。
「わぁ、良い眺め……でも、こんなところで見て良いのですか? 怒られませんか?」
藍色の髪と瞳を持つ女の子にそう尋ねられる。
「バレなければ大丈夫。見つかったら謝ろう」
そう言って苦笑いすると、彼女も苦笑いして……両隣にいるカロラインとフィルミーナの頬がプクッと膨らんで不満をアピールされた。
ここはランウェイの先端の先にある店の上。そこをこっそりと間借りしている。まぁ、普通は梯子でも使わないと来れない場所ではあるんだけどね。
俺と、カロラインとフィルミーナ。それとリンクルム姫の妹リョーコレイトはファッションショーを見に来たはずなのに、あまりの混雑っぷりに下からだと見えない。そこで、急遽ズルをして高みの見物をしているわけだ。
この世界なら犯罪にはならないものの、咎められる可能性はあるわけで。この絶景ポイントで探索に使う小型望遠鏡を手に身を潜めていた。
「人が出てきた! ……わぁ、綺麗……」
「素敵だね」
女の子達がキャッキャしながら見る様子を気づかれないか気にしつつ、周りを警戒していた。
『竜騎幻想』には存在しないイベントではあるけれど、こういうイベントならトゥーベント王国らしいのではないかと……そんなことを考えていた。
俺の心配は取り越し苦労で終わり、ファッションショーは成功という評価で無事に終わった。
「お疲れ様。みんな素敵でしたよ!」
演芸場に戻ってからの打ち上げ。俺達もみんなに合流し、打ち上げに混ぜて貰った。
「……それであの、気付きました? みんな、来ませんでしたね」
リンクルム姫の言葉が最初何を指しているのか理解できなかった。
「てっきり引き抜いて自分達のモデルを補填するため……なんて考えたけれど、違ったね」
「何にせよ、全員スカウトされていたみたいだし、目的は達成だね!」
話を要約するに、全員が上級奴隷とはいかないものの、好待遇での奴隷としてスカウトされたようだった。……ただ、やっぱり俺の中の違和を払拭するほどではなかった。
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