貧しさと老朽化で限界を迎えた終焉間近の演芸場
「初め……まし……て」
あまりにも想定外なことが起こると、口が話すことを辞めてしまう……もちろん、無意識で。
今朝、朝食後に演芸場へと向かっていた。急募していた内容について話を聞くために。そこに現れたのは演芸場の管理をしている支配人の男性と、もう1人。
「……もしかして、リンクルム姫?」
そう言ったのは俺ではなくカナディアラだった。
「はい、えーっと……」
「お久しぶりです。カナディアラ=M=ソーンブルグですよ。思い出しました?」
「え、えぇ?! カナディアラ姫?!」
うん、俺の挨拶はキャンセルですね? まぁ、仕方ないけども。
そんなどうでも良い事より、俺は咄嗟にその場で跪き頭を垂れる。その場にいた2人を除く全員が同じ姿勢になったことは言うまでもない。……王族でなくとも知る一般教養という奴である。
ちなみに、俺達からは俺、カナディアラの他にリリアンナとクレアカリンの計4名。カナディアラを連れてきたのは、もちろん予知夢の影響でしかない。
「皆さん、頭を上げて椅子にお座り下さい。わたしは既に王女ではありませんので。それに、カナディアラ姫は現在行方不明と聞いていましたが……?」
「まぁ、色々あって。そこにいるリーダーのサクリウスに助けられたの。ねぇ、彼の話聞いてくれる? ……あっ、そちらの方々も頭を上げて。今日のわたしは冒険者の1人として来たのだから」
そういうと、相手の方々も元の体勢に戻すものの、明らかに動揺しているようだった。……まぁ、そうなるよな。
「……それでは改めまして。俺はカナディアラ姫含む冒険者チーム“サクリウスファミリア”のリーダーをしているサクリウス=サイファリオです。今回はこの急募のポスターを見て来たのですが、モデルが必要なんですよね? 経緯と何人必要なのか、話を伺いたいのですが」
「人数に関しては多ければ多いほど助かるのですが、冒険者を雇えるほどの報酬金は用意が難しいかもしれません」
「大丈夫ですよ、正式な依頼ではないので。それに我々が欲している報酬は別のモノですので」
まぁ、現金は用意できるならプロを雇うはずだし、正直最初から期待していなかった。
「それではその、現金をそれほど出せないと知りながら、何を期待されているのですか?」
そう尋ねたのはリンクルム姫ではなく、男性。年齢は40歳前後だと思う。桜色の髪をオールバックにした青い瞳の優男。細身の体型ではあるが鍛えられているように見えた。名前はロッキング=バーンとは聞いたけど、呼ぶことは無いと思う。
「実は、この街に冒険者の店が無くて困っていたんですよ。そこで、仕事を得る手段等の情報とこの国で動く際に必要なコネクションを欲していまして。その紹介をして頂けたら……と」
一応言ってはみたけれど、素直に紹介してくれるとは思っていない。それでも、情報くらいなら貰えるだろうし、それなら低賃金でも働く価値はあるだろう。
「そうですか。モデルを急募した経緯でしたね? 実はこの演芸場、数年前までは国内では有名な演芸場で多くの方々がこのステージに立つのを目標にしていたんですよ。ですが、流石にもう建物が古く、老朽化を原因に取り壊しが決定したんです」
「修繕工事などは?」
「それは何度かされているのですが、何かあった時に大きな事故が起きる可能性もあるとのことで、仕方なく……」
歴史ある愛された建物ならば残していきたいものだけど、それを決断するのは持ち主だからな……仕方ないのか。
「このステージを利用していた一部の者は一般奴隷として再就職が決まっているのですが、まだ多くの人が今後の身のフリを悩んでいまして。なるべく多く稼げるようになりたいと言うことで、上級奴隷にスカウトされるためにも……と再就職活動の一環で街が主催するファッションショーに参加することになったんです」
……ん? 一般奴隷? 上級奴隷?
『竜騎幻想』に出てこない用語であることはもちろんのこと、これまでの人生でも聞いたことがない。
「あの、その一般奴隷? 上級奴隷っていうのは何ですか?」
カナディアラが尋ねてくれた。知らんのは俺だけでは無かったという事で内心ホッとする。
「国外の方はご存知じゃなかったんですね。失礼しました。上級奴隷は、奴隷商がスカウトした奴隷のことで、貸与には高額のお金が必要とされます。当然、奴隷となった当人の報酬も多く、現在もっとも憧れの職業なんですよ。一般奴隷は、当人が希望して採用された奴隷でして、貸与額は普通。報酬も普通。労働時間も普通と……まぁ、一般的な労働者のようなものです」
奴隷なのに貸与? 報酬? 疑問が増えるばかりだけど、どうも奴隷という物騒な単語が使われているだけで、要は奴隷商が派遣会社。奴隷が派遣社員って感じだと理解した。このシステムも転生者が関与しているだろう……多分ね。
「ちなみに、上級奴隷になるには天職以外の特技がある事や容姿が美しい必要があります」
なるほど。それでファッションショーで容姿のアピールしようってことか。
「よろしいですか? それでは、話を戻しますね」
トゥーベント王国民以外だと違和感しかない奴隷制度。多分、慣れないだろうなぁ。
「そんな訳で参加が正式に決まったんですけど、その翌々日くらいからモデル役の女性が参加辞退を申し出るようになったんです」
「……何故ですか?」
俺が聞く前にリリアンナの相槌が入る。……ここは黙って聞いておこう。
「本人の話では奴隷商からスカウトを受けたという話なんです。確かにスカウトされたならファッションショーに参加する理由もないですしね。最初はまぁ、そんなこともあるかなってくらいだったんですよ」
仕事が決まったならめでたい事。でも、そんな雰囲気では無い理由としては一度引き受けた仕事はやり遂げるべきという考えからで、スカウトされた人としては参加する意味が消失しているので辞めるというのも理解はできた。……まぁ、追い出されたわけではないのに身勝手だとは思うけどね。
「ですが、そういった事が続きまして……最終的に20人が辞退しまして」
「そんな……参加する理由がないとはいえ、全員が辞退されたんですか?」
「そうですね。何でも、奴隷商の条件だそうです。ですので、全員が同じ人物にスカウトされたのではないかと考えていまして、その目的も我々の邪魔なのではないかと」
「その奴隷商というのは特定できてます?」
「いえ……全ては状況からの推察ではあるんですが……」
まぁ、辞める人が転職先を伝える義理はないよなぁ。辞める本人もモデルを辞退した手前後ろめたいだろうし。でも、同じ条件、同じタイミングで人が抜かれると流石に断定するほど疑いたくなる気持ちも理解できる。
「そうですか。その裏付けも再発防止のためにも必要な気もしますが……まずはモデルの確保ですよね。モデルの条件はありますか? もちろん、最低限の話にしてくださいね」
モデルをする人の目的を考えると……再発防止……可能なのか?
「成人女性でどんな事情があっても当日にモデルとして出場して頂ければ……」
「なるほど。そういうことでしたら……可能っぽいですね、サクリさん」
「ん……多分?」
リリアンナが誰を想定して言っているのか気づいてはいたけど、俺は言葉を濁した。
「とりあえずの障害は何とかできるとして……うーん……でも、よく解らないですね。とりあえず、その謎の奴隷商が存在しているとして。皆さんがファッションショーを辞退することで奴隷商はどのようなメリットがあるのでしょうか?」
……言われてみれば。確かにリンクルム姫達をファッションショーに出したくないから、モデルを引き抜いたと仮定して……出ないことで奴隷商に何のメリットがあるのだろうか? いや、確かに奴隷商を従わせている上の誰かが居るのかもしれないけど。
「えーっと、もしかして、他の参加者も引き抜かれてファッションショー出演辞退とかってあったりするんですか?」
「いいえ、知る限りそんな話はないですね」
……尚更解らん。つまり、奴隷商の目的はファッションショーの開催を妨害することではないらしい。じゃあ、リンクルム姫達を出場させないことが目的だと仮定する。彼女達の目的が就職活動で有利になることだから、その失敗を願う者ということになる。だけど、妨害手段が引き抜き行為という名のスカウトである。結果、モデルは目的である就職が叶ってしまう。
あと考えられるのは、個人への攻撃。リンクルム姫達全員が目標ではなく、今残っている誰かをターゲットにしているため、嫌がらせとして無関係の人を間引きして目的の妨害をしているというパターン。……それも違うかもしれんけど、今はそれしか思いつかない。
「あの、さっき20人抜かれたって聞いたけど、今は何人残っているんですか?」
特定の人物がターゲットであるならば、20人も抜かれているのだから原因が絞れるはず。そう思って聞いてみた。
「ここにいる者達で全員ですよ」
ここには支配人、リンクルム姫と他7名。……普通に考えると狙われている可能性が高いのはリンクルム姫っていうのが妥当だよなぁ。
「あの、リンクルム姫。最近、嫌がらせや勧誘、しつこく接触してくる人はいませんか?」
「いえ、特にないですけど……」
うーん。根本的な原因を取り払うことは簡単ではないっぽい。
「それで、肝心のファッションショーですけど、予定はどうなっていますか?」
再びリリアンナが必要事項の確認。確かに急募のチラシ? ポスター? は見かけたけれど、肝心のファッションショーの告知は無かったような?
「ファッションショーは10日後ですね。リハーサルはその前日。準備として考えるならギリギリの日程です」
「ギリギリというのは、衣装の準備的な意味ですよね?」
「そうです」
一通り聞き終えたのではないだろうか? あとはこちら側の決断になるわけだが。
「それでモデルとして働いてくれる方を紹介して頂けるのでしょうか?」
「そうですね。20人もの人を集めるのは大変なはず。こちらが欲しいモノが頂けるなら現金は少なくても問題ありません。紹介しますよ……あ、でも本人の了承を得てからですけど」
「欲しいモノ? コネクションと仕事でしたね? 仕事は正直難しいかもしれませんが、可能な限り紹介することを約束します。それと……」
「コネクションはわたしが用意します」
支配人の言葉を遮ってリンクルム姫が言い切った。それを支配人は驚きつつも何も言う事なく、立ち上がって頭を下げる。
「よろしくお願いします」
……推測だけど、周囲の様子から急募のチラシから人が応募してきたことはないようだしね。こう言ったら悪いかもしれんけど、恩を売ってでもコネを手に入れないと。
今日にでも可能であれば動き始めたいということで、支配人は俺達と共にコテージに付いて来た。
「おかえりなさーい」
ハグという名目のアミュアルナの高速タックルを避ける。コテージの中の女性陣を見てなのか、今のタックルを見てなのか判断できないが、支配人はとても驚いていた。
「ただいま。みんな、聞いて欲しい。こちらは例の急募の依頼主の支配人さん。依頼内容は女性のファッションモデル。報酬はコネクションの紹介。……受けられない人いる?」
「ロッキング=バーンです。よろしくお願いします」
未成年のカロラインとフィルミーナを除く全員が参加に同意してくれた。まぁ、興奮してテンションが高くなっている人から嫌々な感じな人までピンキリな反応ではあるけどね。
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