【獣操士】リンクルム=M=ワールクロウ
「落ち着いて。さぁ、あなたが賜った天職は?」
「【獣操士】です。女神ナンス様、素敵な天職をありがとうございます」
いつもの教会内ではなく、城の中で行われた『天職進化の儀』のシーン。例によって夢であり、彼女もまた推しの1人であるリンクルムのオープニングだ。
そこで思ったのは、「何故彼女の夢?」って話で。
彼女の名はリンクルム=メアリー=ワールクロウ。クラウンハーフアップにされた膝まである銀髪に桜色の瞳を有したトゥーベント王国の姫君である。当然姫様なので、彼女は城の中に存在している。よって、ヴィエトゥールにいる俺達と会えるわけがない。それに彼女が俺達の仲間になるはずがないんだよ。
「お父様、お母様。わたし【獣操士】を賜りました」
「まぁ、予想通りだな」
「ですね」
国王も王妃も彼女を笑顔で迎える。
「「お姉様、成人おめでとうございます」」
「2人ともありがとう」
彼女の弟と妹が祝福する。一応2人は双子という設定だが、男女のためか微妙に似ていない。別のクエストでNPCの話によると幼い頃の姿は瓜二つだったらしいけどね。
ちなみに予想通りと言われたのには理由がいくつかあって、その1つがメアリー家の血筋であることだった。設定だけの話にはなってしまうが、メアリー家の女は【獣操士】を賜ることが多いらしい。……何故って思うじゃん? 調べたけど公式発表されていないのか、詳細が不明なんだよね。
多分、ゲームのメインシナリオに直接関わらないから半端な設定でお茶を濁しているのかもしれない。……知らんけどね。
「でも、そうなるとリンクルムの護衛である獣も選ばないといけないな」
「お父様、わたしには『守護り隊』がいますから」
「『守護り隊』ってアレだろう? もっと強そうなのを従わせた方が良いだろう?」
「……お父様、みんなに失礼です」
ちなみに『守護り隊』というのは、スキルの影響ではなく、むしろ【学鍛童】の頃からリンクルムに懐き従う動物達。アヒル、猫、犬、兎、牛、羊と個人が飼うのだったら大変な数である。羊と牛以外は元々城の近くにいた野良であり、羊と牛は牧場で気に入って彼女の我儘で飼うことになったという経緯があるなど、元々彼女は動物が大好きだった。
「みんなぁ~、集合! ……うんうん。ほら、みんな優秀でしょ?」
リンクルムの号令でアヒル達が城内なのに集まる。……そう、『守護り隊』は城の中で飼われている。
リンクルムは『守護り隊』の面々を愛しており、父親もそれ以上言えなくなってしまった。
視界が暗転し場面が変わりゲーム画面での三頭身キャラに切り替わる。
「リンク~、リンク、どこ~?」
「姫様~! リンクルム姫様~?」
王妃様はのほほんと、メイド達は顔を青ざめた状態でリンクルムを探す。
「大丈夫よ。まだ城から出られる歳でもないんだから」
ゲーム画面では判り難いけど、このシーンは回想だったりする。部屋でおとなしく遊んでいた彼女だったが、少しメイドが目を離した隙に部屋を脱走したらしい。
……そりゃ、メイドは責任問題を追及されるのが怖くて顔色が青くなっても仕方ない。幸いなのは王妃様が全く怒っていない事。……代わりにメイド長がカンカンだったりするけど。
「キャッキャッ!」
「あら、こんなところにいたのね」
居たのは現在主が不在である国王の私室のバルコニー。そこに3歳児のリンクルムはつかまり立ちをしていた。
そこで、視界が暗転しアニメーションに切り替わる。
「あ~……ん~……」
何を思ったのか彼女はバルコニーの格子の隙間から身を乗り出し、ポンッと効果音が出そうな勢いでバルコニーの外側に弾き出て……そのまま下へ落ちていく。
「リンク!!!」
流石に血相を変えて慌てる王妃。慌ててバルコニーに出て下を見る。
「え?」
「キャッキャッ!」
リンクルムは飛んでいた。もちろん、自力ではなくかなり大きな鴉に捕まえられて。
「しゅごぉ~い! トリさん、たか~い!」
「リンク!」
「マァマ~!」
王妃の方に手を伸ばすと、鴉はバルコニーの内側でリンクルムを離し、それを王妃が受け止める。
「とりしゃん、あーとー!」
「カア~ッ!」
まるでリンクルムに返事をしたように鴉が鳴き、飛んでいく。
そこでアニメーションは終わり、元のゲーム画面に戻る。
「あぁ、良かった……無事で……心配したでしょ!」
「ごめんたい」
……大人向けの設計故に小さい3歳児のリンクルムが4階のバルコニーから落ちるというショッキングな事件ではあったが、彼女にとっては能力が開花した瞬間でもあったんだよな。
泣いて叱る母親と理解できていないけど、泣いている母親を見て謝る3歳児。シチュエーションは違えども、稀によくあることかもしれない。……俺が知るのはフィクションだけど。
その後、現在まで鴉が彼女の元に集うことはなかったけれど、動物の方から彼女に懐き、気が付くとリンクルム親衛隊組織『守護り隊』なるものが結成。幼い頃のリンクルムの面倒を動物達も見るようになるという……不思議な力の持ち主なんだよな。
「……王妃様、大変申し訳ありませんでした」
「この経験を肝に銘じ、同じミスはしないようにお願いしますね」
子守りをしていた若いメイドは王妃様の寛大さのおかげで失職せずに済んだとか。
視界が暗転し、再び明るくなった時に見えたのは記憶が間違っていないと確信するのと同時に大きな疑問が主張する。
……何故、俺は今、彼女の予知夢を見ているのか?
このイベントはヴァンバードで行われている。だから、俺が明日にでも城に行かないと仲間にできんという話。それは不可能だし、そもそも俺は【剣の乙女】ではないので同じイベントが発生するはずがない。
「遥々トゥーベントまで、ようこそ参られた。活躍の噂は我々の耳にも届いている。我々も『邪竜討伐軍』を支持し、支援を約束しよう」
「ありがとうございます」
お城の謁見の間。【剣の乙女】が城を訪れると発生する強制イベントである。リアルに考えるならば軍が他国の王都へ押し寄せているわけだから武力侵攻と言われても仕方ない。しかし、そこはゲーム。事前に話はいっているという形で省略されている……多分ね。
「そして、我々からも兵を……と言いたいところだが、話は聞いている。【剣の乙女】は自分の仲間は自分で見定めて声を掛けると。ならば、了承を得られる限り好きなだけ兵を連れて行くと良い。……それと、紹介しよう」
「初めまして、リンクルムと申します」
「私の自慢の娘で、【獣操士】を女神ナンス様から賜っている。戦力的にも力になることを確信しているが、仲間をスカウトする際にも彼女は国民からのカリスマみたいなものがある。きっと、娘がいるだけで力を貸してくれる国民は多いだろう」
親バカなのか過保護なのか親に愛されていると表現するには過分な内容ではあるが、自身の子供を政争の道具にする奴より好感度は高い。……まぁ、娘の立場としては少し恥ずかしいとは思うけど。
「※※※※様。精一杯大陸の平和のため尽力したいと思います。どうか、同行の許可を下さい」
リンクルムはそう言うが、プレイヤーに決断する権利は与えられていない。……そう、これは強制加入イベントだったりする。そして、彼女が加入することで『竜騎幻想』に出てくる天職の中で最強ユニットである【竜騎士】が仲間に加わるんだよね。
……それにしても、相変わらず【剣の乙女】の名前は聞き取れない。ただ、過去の例からも考えて、このゲーム画面は俺のプレイした記憶の再生ではないのだろう。
「それは構いません。むしろ助かります……ですけど、大丈夫でしょうか? 失礼とは思いますがその、リンクルム姫様の髪は……」
「髪?」
今は光を失っているが、日没と共に光り輝く銀髪。一国の姫だからこそ差別の対象にこれまでならなかったのかもしれないが、国を出て活動するとなると、その銀髪は目立つだろう。
「大丈夫ですよ。信心深い方にはもしかしたら嫌われてしまうかもしれませんが……」
とは言っているけれど、リンクルム関連のクエスト内ではしっかり差別されちゃうんだよな。
再び視界が暗転し、再び明るくなった時にはまだ彼女は幼くなっていた。でも、当然ながらそのシーンは知っている。リンクルム関連のクエスト内の回想シーンだ。
「わ~、お姫様だ~」
「ワンワンもいる~!」
外観では教会にも見えてしまう孤児院……実際には教会だった建物を孤児院として再利用というのはよくある話なんだけど、ゲーム的には建物の使いまわしなんだろうな……ふと、そんなことを思い出しつつ、無遠慮、不作法にじゃれてくる子供達を姫様は笑顔で受け入れる。
「いらっしゃいませ、リンクルム様」
「遊びにきちゃいました。お邪魔でしたか?」
「滅相もありません。どうぞ、ゆっくりしていって下さい」
これ、初見の時は何とも思わなかったんだけど、一国の姫様が孤児院を訪ねて来て、拒める孤児院の職員なんて居ないよなぁとか思ったり。
「しょっちゅう来てしまって済みません」
一方、姫様は恐縮しっぱなし。
「わーい、お姫さま、あそぼ~!」
「あそぼ~!」
「うん、遊ぼうね……あっ、ちょ、ちょっと待ってぇ~!!」
子供達がリンクルムを囲むと強引に引っ張って連行していく。
「あら、どうしたの?」
建物の中から別の職員が出てきて、不安そうにしている職員に声を掛ける。
「いえ、姫様が参られまして」
「あー……彼女も大変よね。確かにこの辺では銀髪に関して何か言う人は少ないけれど……」
「そうですね。少数ですが確実に差別する人はいますね」
このイベントって本当に初見では意味不明イベントなんだけど、実は彼女には友人がいないという話なんだよね。城内にも同世代で友人として接することができる人はいない。何故なら城内では両親が過保護だから。ついでに専属メイドも過保護だから。
先程見たバルコニーからの落下の件以降、彼女がうっかり危険なことをしないようにガッツリと監視されていた。大人の監視下で子供同士が好きに遊べるわけがなく、どうしても大人の目が気になってしまう。……更に、稀にではあるものの銀髪が足を引っ張っていた。
「それでも、まぁ……ここが姫様にとっての心のセーフハウスになれたなら……」
こうして、リンクルムという箱入り姫様が出来上がりましたとさ。
「……んっ……」
例によって早めに目が覚める。このパターンも慣れたモノで、この後二度寝ができないことも知っている。
リンクルムといえば、両親が大切に育てたことと、王家という絶対権力によって守られていただけあって、世間の厳しさを知らずに純粋無垢で素直な美少女として育ってきた。……あっ、美少女という評価は俺の偏見であって異論は受け付けていない。
そんな彼女が『邪竜討伐軍』に加わると今まで親に守られていた環境から出たことで銀髪であることによる差別を経験することになる。……銀髪、綺麗なのになぁ。
「お目覚めですか?」
「おはよう、サヤーチカ」
彼女もベッドに潜り込んでいた。……もう動じないよ?
何より、彼女がベッドに入って来ることでユカルナが俺に抱き着かなくなった。これはこれで問題行動だとは思うけど、安眠妨害にはなっていないからスルーするしかない。むしろ、俺の股間で寝ているメディスの方が問題で、前までと違って彼女は召喚されて実体を得た存在。ゆえに普通に誰かに視認される存在。……もし、誰かに見られたら変態扱いである。
「んぅ……もう、朝ぁ?」
「おはよう、メディス。誰かに見られる前に帰らないか?」
「いきなり酷い……練習付き合ってあげたのに」
「終わったら帰って良いのだよ?」
本当は朝弱いんだけど、毎朝こんなやり取りしているのだから、脳も活性化するというもの。悪意を持って見れば、人形を自身のベッドに侍らせて股間に幼女を突っ込んだ変態である。
まぁ、彼女らの言い分では、寝る時に手元へ武器を置いておくのは当然であり、妖精は寒がりなので、寒さを凌ぐための本能的な行動だという。
脱線した思考を戻して……と。リンクルムというか、【獣操士】は強い。具体的には【重戦士】には劣るものの単独行動が可能な強力なユニットだ。だが、育成に関して言えば知識があっても最難易度と言っても過言ではない。
理由は簡単で、【獣操士】の武器である野獣類は個別に育成する仕様となっていて、しかも死んだら復活せず、再び調教して1から育て直さないとならないからだ。ゲームとして考えなければ死んだら復活しないのは普通の話ではあるんだけどね。
それに、強力な獣は見つけて調教して支配下に置くことも難しい。知識がなければ尚更。
ただ普通に考えて、そんな彼女の予知夢を見ていることが見終わった後でも解らない。それでも、これまでの経験から彼女は近日中に接触して仲間になるはずなんだよな。
ファッションショーのゲストとして、こちらに来ることになっていたとしても、やっぱり本番にしか来ないだろうし、それだけが本当に解らなかった。
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