トゥーベント王国への船旅で振り返る、印象のかなり悪い【聖女】と偶然回避できた危機
船の上は暇。多分、それでも前世の記憶が蘇る前であれば初めての船旅と初めて行く国に対する期待だけでドキドキできたかもしれない。でも、船でも可能な娯楽をもう知っていた。
「退屈そうですね、ムッチ様」
「様は要らないって言ったけど……どうせ、辞めてくれないよね?」
「ですねぇ。立場がありますし、誰に聞かれるとも知れないので」
海を眺めるしかないわたしの横にオイファルが並んで一緒に海を眺めている。海は景色が変わらず、イルカやクジラが現れるわけでもない。……この辺に存在するかは知らないけど。
「船旅、飽きられました?」
「まぁね……流石に2回目だから。1回目の時のような感動は無いかなぁ」
約1ヶ月ぶりの船だけど、景色に関しては代わり映え無く。
「……感動といえば、“エイゴー”みたいな店って、他国にもあるの?」
「どうでしょう? 聞いたことはないですね。……ただ、あそこは凄かったですね」
「だよね! もう見ているだけでも楽しかったなぁ」
総合店“エイゴー”は飲食店や鍛冶屋等、あらゆる店舗が砦サイズの建物の中に入っていて店内で全てを揃えられる。品揃えも豊富で見ているだけでも楽しい。
問題があるとすれば、王都アルボンニウにしか存在してなくて、またデンドロム王国に来ないと店に入れないことだけど、多分もう来ることはできないんだろうなぁ。
例えば、今の旅は邪竜王を討伐するための遠征ではあるんだけど、その間はグアンリヒト王国がお金を出してくれている。船も宿も食事も。だけど、わたしが個人で世界を巡るとかは可能なのかと考えると、かなりの稼ぎがないと厳しいんじゃないかなって思う。
「何も買わなかったんですか?」
「もちろん買ったよ。可愛い洋服とか、イヤリングとか」
「ですよね。品揃えが良くてビックリです」
「だねぇ。ただその分、良いお値段だったような……」
「ですよねぇ……」
とはいえ、ぼったくりとも思えない。街の住民の価値観で高級品を購入するくらいの感覚と思えば、商品の品質を考えると妥当な値段だと思う。
「それを差し引いても、品揃えの良さと品質の良さと一ヶ所で必要な買い物が終わるという利点を考えると少々良いお値段だったとしても利用しちゃうと思うなぁ」
「見ていても楽しいですもんね、あれだけ品揃えが良いと」
……明らかにデパートなのよ。もしくは大型スーパー。もしくは高級コンビニ?
「でも、そんなに新しい建物じゃなかったよね? あれだけ素晴らしければ国外で噂になって模倣する人が現れても不思議じゃないよね?」
「そう言われると不思議ですね。当然デンドロム王国へ向かう前に事前情報を仕入れていましたが、全く知りませんでしたし、“エイゴー”の規模を考えると商人の間で噂になっていないはずがないのに……」
商売のことを考えると噂は広まった方が隣国から買い物に来る客が現れるかもしれないし、良い事尽くめのはず。
「“エイゴー”の話ですか?」
美少女系【修道士】のアユミュルト君が今日も女子力高い格好で話に混ざって来る。絶対生まれてくる性別を間違えていると思うのだが、本人を女子扱いすると凄く怒る。
「そうそう。噂が隣国に伝わっていなった理由を考えていて……」
「それは……その“エイゴー”が商人の敵だからじゃないですか?」
一瞬、彼の言っていることが理解できなかった。彼もそれを察したのだと思う。
「だって、その店が繁盛したら、自分の商品が売れないわけじゃないですか」
「「あ~……」」
思わずオイファルと声がハモった。
客として行けば便利で楽しい“エイゴー”も集客能力と高い利益を上げている反面、他の商人は厳しい状況に置かれているなんて考えもしなかった。
「難しい話だよね。全員が儲かるなんて事は無いからね」
アユミュルトの言う事は尤もだけど、折角の“エイゴー”が国内のみの営業なのは勿体ないようにも思えた。
「王様は国外への“エイゴー”のアピールについてどう思っているのかな?」
「多分、考えていないですよ」
キッパリとオイファルは断言する。
「デンドロム国王は自身で動いている様子は見られなかったですね。……流石に決断はご自身でされているとは思うのですけど、それも確認できませんでしたね。主に3人の王妃様が特定分野を掌握している感じですね」
「……だから……」
ある意味、納得してしまう。3人の王妃が実質国を掌握しているという噂はわたしも耳にしていた。だからこそ、3人の王妃の個性が色濃く国の様子に出ていたんだよね。まぁ、その辺はどうでも良くて……。
「だから?」
「王様との謁見があったじゃない? 居たのは王様と宰相、それと第二王妃様と娘の第一王女だったんだけどね。メインで話していたのはその王妃様だったってわけ」
「……そういう事があったんですね」
そういう事とは言っているけど、謁見が行われたことはオイファルも知っている。知らなかったのは、その中で王妃が主導で会話がされていたこと。謁見はわたしだけしか許されなかったんだよね。
「第一王女ということは、噂の【聖女】様に直接会ったの?」
「会ったよ。でも、正直の感想としては思ったのと違った感じ。実際の【聖女】様なんて、あんなものなのかなぁ?」
割と失礼な言い回しだけど、もう船の上。少しくらいの暴言は許されるでしょ。
「見て見たかったなぁ」
アユミュルトが羨ましそうではあるけど、気持ちは解る。わたしも直接会っていなければ、見てみたいと思ったかも。
「勝手な思い込みではあるんだけどさ。【聖女】なんて天職を賜るような人って、穏やかで優しくて、おとなしくて見た目も清楚みたいなイメージない?」
2人に同意を求めるもポカーンとしている。……あぁ、ダメだわ。わたしの偏見っぽい。
多分前世の記憶の【聖女】イメージを引き摺っているのかもしれない。でも、わたしの受けた印象はどちらかというと悪役令嬢ならぬ悪役王女って感じかなぁ。……普通に敵役なイメージなのよ。
「無いかぁ……わたしね、言われたのよ。「どうせ、【聖女】であるリムザキュア姫に同行を頼みに来たのだろう?」って。……誰も言ってない」
そう言うと、2人とも苦笑い。……まぁ、そうなるか。
「でも、何か頼んで断られたのなら納得できるんだけど、思っても無いのに言われるのって腹立たしいよね。……相手の立場的にも否定できないし」
肯定しても否定しても下手したら姫様を侮辱した扱いになりかねないから、その時は本当に返答に困った。
「結果論として、あの【聖女】なら要らない。むしろ、代わりに入ってくれた人達の方が余程助かるわ」
「そんなに酷かったのですか?」
「酷いと言うと語弊がありそうなんだけどねぇ……例えるなら、好きでもない人に勝手に好きなのだと勘違いされてフラれるくらい気分が悪い」
アユミュルトの疑問に答えると2人とも苦笑いを浮かべる。でも、わたしの気持ちは伝わったようだ。
「流石にそれは酷い。相手は王女様ですもんね?」
「そうそう。変な事言って国際問題になっても困るし」
「コクサイモンダイ?」
……あっ。
「えーっと、外交問題ね。言い間違えちゃった」
こういう転生モノのフィクションの場合、転生者だってバレると問題が発生する可能性があるって描かれていたし、隠さなくても問題ないと思うし隠す理由もよく理解していないけど、問題が発生する可能性があるなら、隠した方が良いに決まってるよね。
……とりあえず、話題を変えないと。
「ねぇ、アユミュルト。新しい仲間が加わったけれど、雰囲気はどう?」
「直ぐに馴染んでいる……とは言えないですけど、それなりに友好的ですよ。お互いに歓迎ムードですし、今はお互いの距離感を探っている感じですかね」
「そっかぁ。でも、凄いよね。【竜騎士】」
……ジャンプしないけど。
前世の記憶に【竜騎士】はジャンプして攻撃するって記憶があって最初は戸惑ったけれど、よく思い出してみると逆にジャンプ攻撃しない方が違和感になってしまう不思議。有名ゲームによる印象で、わたし自身はやったことがないんだけど……やらなくても知っているくらい有名だったんだよね。
「そうですね。この大陸で暮らす冒険者なら目指すべき天職ですし、それこそ一騎当千の強さを誇りますからね」
【竜騎士】カズピン=C=ディストール。王族の男性で、王様が【聖女】の代わりに差し出した優秀な兵士だ。きっと、王様からすれば【聖女】に比べれば安い代償と思っているかもしれないけど、わたしからすれば逆に嬉しかったりする。
「騎乗用のラプダトールも見ましたが迫力満点でしたよ」
ラプダトールは二足歩行の小竜種で、騎乗用にできるのは橙色の鱗の種類なのだと聞いたことがある。中々人に懐かないと聞いたことがあるけど、馬より早く耐久力もあり、ラプダトール単独で戦っても強い。……だから、【竜騎士】は戦闘に関しては最強の天職の1つと言われているのよね。
「触ったんですか?」
「まさか。プラダトールは気性が激しく触れられるのを嫌うから、触ったら噛まれますよ」
オイファルの問いに苦笑しながらアユミュルトが答える。
「デンドロム出身の人達を彼が纏めてくれてます。それと【軽戦士】のユーキヴァルトさんも凄いですよ」
「……知ってる。ただ、ちょっと調子が良すぎるのよね」
「ムッチ様。多分、それは彼の本質じゃないですよ? どうも嘘くさいというか……」
……本当によく知ってる。彼もよく購入した同人誌で見かけたもの。女子人気高いのよね、ルックス良いから。
「そうなんだ? でも、わたしじゃなくて、みんなと仲良くしてくれると嬉しいな」
「それはそう」
オイファルは即同意する。……多分、別の意味でも理解してくれていると勝手に信じてる。
「……後は……あっ、彼は? ユーヤルさんだっけ?」
「はい、彼とは少し話しました。とても穏やかな人ですね」
【修道士】ユーヤル=ブルーベル。彼も線の細い美青年。実際にはどうか知らないけれど、同人誌の中では人気のキャラで、わたしも嫌いじゃない。
「そうですね。後は【重戦士】のトシアンユさん、【剣士】のタクライマさん、【呪術師】のリョーレンさんの計6人が今回新たに加わった方々ですよ」
仲間にできそうな人達の中で、アイドルとしてもやっていけそうなくらい美形な男性だけを選んで仲間に招いた。だから、見るだけでも楽しい……そう思っていたのに。
「そっかぁ。上手くいかないものね」
「ムッチ様、本音が駄々洩れていますよ」
「……あら、いけない」
美形な男性だけでキャッキャウフフしているところを見たいのに、直ぐには無理と判り……とても遺憾です!
「いっぺんに増え過ぎても指揮系統が混乱するかもしれないし、6人くらいが良いかもですね」
……そんなことはないと思いつつ、アユミュルトには曖昧に「そうね」とだけ答えた。
「話変わりますが、今回の上位精霊から授かった武器、戦いに使用していませんでしたよね?」
「うん。正直、使い方にまだ自信が無いの」
“木霊王の古祠”は火気厳禁。多分、酸素濃度が高いのと可燃物で壁が覆われているからだと思う……だから足場が悪い上に暗くて本当に苦労した。まぁ、わたし個人は明かり兼用で閃光剣“ライトブリンガー”をランタン代わりに使っていたから平気ではあったけど、無限に妖魔が湧くし、道には迷うし……毎回疲弊するんだよね。
「どんな剣なんですか? ……その、見た目は弱そうではあるのですが……」
「まぁ、見た目は木剣だしね」
そう言いながら、香木剣“ミストルテイン”を異空間から取り出す。
「この木剣はね、斬れないし、相手の攻撃も受け止められない。受け流すことは可能かもしれないけれど、技量差がないと無理だから、わたしには難しいかもしれない。……まぁ、折れても元の形状に復元するけど」
何でそんなに詳しく判るのかというと、【剣の乙女】のパッシブスキルで所持している剣の知識を得られるからなんだよね。
「じゃあ、戦闘で使えない……わけがないですよね?」
「もちろん、凄く強力だよ」
オイファルの当然の疑問。
「この剣だけを握っていることが条件だけど、毒等の状態異常が完全無効だし、怪我も徐々に回復するの。首を刎ねられても、心臓を刺されても死なない……理論上はね。ただ、両腕を切断されたら握れなくなるから無敵ではないかな。それとね、直接殴るだけなら、木の棒で殴るのとダメージは変わらないけれど、殴らなくても近接攻撃の距離であれば徐々に身体が動かし難くなり、思考も鈍り、やがて深い眠りに落ちるの」
「そんなことが可能なのですか?」
「可能だよ。魔法攻撃だからね」
そう、この攻撃は地味にMPを消費しちゃう。ただ、消費するMPは少ないので問題はないけど、元々が少ないMPなので、回復用に温存しておきたいとは思う。
「魔法ということは、抵抗も可能?」
「もちろん。ただ、掛けられた自覚があれば抵抗することも可能だけど……正直難しいと思うよ。呪文を詠唱するわけでもないし、ダメージがあるわけでもないから。気付いた時には既に思考ができなくなっていると思う」
あとは、見た目が木剣で物質は斬れないけど呪縛や封印などの魔法を切断できるみたいなんだよね。……どうやって斬るのか判らないから言わないけど。
「凄いですね、流石『精霊の剣』ですね」
「本当にね。こんなに凄い武器を渡してくれるのに、どうも精霊からわたし達って歓迎されていないような気がするのよ」
「歓迎されてないなら、剣を頂けないのでは? ……きっと考えすぎですよ」
……オイファルは古祠に入っていないから、そう思うんだよ。かなり塩対応なんだからね。
「そこで考えたの。もしかして、精霊には愛想という概念がないのかもしれない」
「えぇ?!」
「そう考えれば納得なのよ。話さなければならないことを淡々と話して終わるわけだから」
流石に2回続けて事務手続きのような対応されたら、そうとしか思えないわ。
「じゃあ、そろそろ戻るね」
「「はーい」」
アユミュルトは何かの休憩中に来たようで、何処かへ戻って行った。「何をしているの?」とか「何処に行くの?」はいちいち聞かない。どうせ船内の何処かだし、特に用事があるわけでもない。
……しかし、走り去る後ろ姿も女の子そのまんま……服はわたしのせいかもしれないけど。
その姿が見えなくなるのを確認してから、オイファルに確認したいことを聞いてみる。
「実はずっと気になっているんだけど、デンドロム国王名義の依頼で変なのあったじゃない?」
「名義というか、王室からの依頼です。……確かにあれは国の依頼にしては変でしたね」
「国の依頼にしては?」
依頼したのが王様だろうと王室からだろうと、確かに国からの依頼。内容も資金と人材の援助の代わりに第三王女のユッカンヒルデ様と共に反王室過激派の拠点を掃討してほしいというもの。しかし、そんなモノは存在しなかったという。
わたしの印象は国の調査にしては杜撰だと思う程度だったけれど。
「一番の謎ポイントは、反王室過激派の拠点の掃討をわたし達に頼むということなんですよ」
「何で?」
「そもそも国内の情勢不安を他国出身の我々に頼むこと自体がありえないんですよ。他国に事情が漏れるじゃないですか?」
「漏れたら拙い?」
その辺が正直良く判らない。別に何処かと戦争中でもないし、正直戦争どころでは無いでしょ? 何処の国も邪竜王復活に備えていると思うんだけど……。
「凄く拙いです。外交において不利になりますから。自国の問題を解決できる力が無いと判断されても仕方ないですからね」
「……治安が悪くなったりとか、物価が高騰したりとか?」
「それもあるかもしれないです。ただ、変なのはそれだけじゃなくて、国が困る程の規模の大きさの反王室過激派なはずなのに、国民どころか拠点のあるデラフトウッドの人達ですら知らない……そんなことあると思います?」
「あっ……言われてみれば……」
「だから、考えられるのは反王室過激派が存在しない……もしくは、簡単に制圧できる規模ということです」
でも、ちゃんとユッカンヒルデ姫は驚いていたのよね……それはどういう事?
「……ここからは推測になりますが、恐らく反王室過激派は存在しないと思います。王室の狙いは中核を担う【修道士】のユイディアという方の殺害だったのではないかと。そして、その殺害を兵士にやらせるわけにいかず、余所者である我々と責任を押し付ける対象としてのユッカンヒルデ様……ということになるのではないかと」
「えぇっ、そうなの?!」
「いえ、初めに言いました通り状況からの推測です。ですが、ユイディアさんという方は既に冒険者になられて行方不明。そうなると、少なくとも我々は悪事に加担せずに済んだということになりますね」
「それは良かったけれど……えっ、もしかして……ユッカンヒルデ様は?」
「そうですね。多分、ユイディアさんを逃がしたということで、責任をとらされる可能性はあると思います……流石に考えすぎかもしれませんが。ただ、姫様の反応を見る限りは王室側の人ではないように思います」
「……こわっ!」
オイファルは言葉を濁していたけれど、王室というより【聖女】リムザキュア姫が企んでいたのだろう。……やっぱりあの【聖女】は碌な女じゃないわ。
大変お待たせしました! そして、読んで頂きありがとうございました。
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14~22人目の読者様を確認できました。ブックマークありがとうございます!
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尚、16話~20話は7日から11日の5日間で投稿します。
長らくお待たせしましたが、今回も10万文字くらいの量になりますので読んで頂けたら嬉しいです!
何卒よろしくお願いします。




