メディスの決断。彼女との契約と別れ
戦いは、被害なく勝つことができた。適正レベルだった場合は毎度の如く死亡確定イベントだったりするんだが、拾った魔器が大活躍だったことと俺が単独でアルラウネを倒せたことが大きかった。
ただ、通常の戦闘時間と比べて異常な長さの戦闘だったため、全員が疲弊しており、予定地点まで到達することができなかった。
『ドランガルフ雨流大道』を抜けたところで野営することを決めて、開けた平地にコテージを設定し、休むことになった。
「サクリさん、ちょっと良い?」
疲弊しているところに風呂まで入って直ぐにでも眠ってしまいそうなタイミング。メディスから話しかけられて後にしてほしいところだったが、今日の表情が真剣だったので多分真面目な話なのだろう。
「ん?」
「実はここ、もうデンドロムを出ているのは気づいているよね?」
「まぁね」
「だから、世界樹の森へ帰ろうと思う。だから、契約しよっか?」
多分、様子見の限界の時が来たんだろうな。自分なりにきっと決断したのだろう。
「夜が明けたら『木霊王の古祠』へ帰る。1人なら、この崖を飛んで直ぐだし。でもね、わたしが古祠に着いたら連絡するから、直ぐに召喚して」
……どういうこと?
「ごめん。意味がわからん」
「少し考えれば解るでしょうに。……あのね、貴方達が古祠に来た時、体力の回復が遅いと感じなかった?」
「……言われてみれば確かに」
冒険者はともかく、この前まで一般人だったコノミリナ達はかなり疲弊して、結構休んだのに回復しなかったっけ。
「今、わたしがその状態なわけ。……まぁ、でも貴方のおかげで少し回復できているけどね」
一瞬何のことか考え、すぐに思い至った。
「そもそも召喚術はどのようなモノであっても原理は一緒で一瞬で居場所を動かすってこと。そして召喚された者は一瞬で帰れる。これから遠出するならば、一瞬で帰れる術は必要なわけ」
「そうだったんだ……召喚の理屈とか考えたこともなかった」
……まぁ、まだ使ったことないし。
「それと時間の流れも歪んでるの。一度戻れば余程消耗していない限りは直ぐに回復するから、呼び出す時の感覚とか、スキルの使い方とか、色々慣れが必要でしょ?」
確かに、スキルというのは知識があるから、どう使えば良いかとかは理解できるんだけど、どういうタイミングで使うモノかとか、どのくらい疲労するのかとか、感覚的なモノは慣れが必要なんだよな。
……まぁ、それはそれとして。
「呼びだすのは構わないけど、メディスは嫌じゃないの?」
「あのね、嫌なら契約しないという選択もあったの。それに直ぐに呼んでって言わない。さっきの戦闘で指示を無視するという選択もあった。……2度と言わないけど、認めてるから」
……素直じゃない。こういう女の子が好きな男もいるけどさ……そういう女の子は二次に限るんだよな。
「さて、これから契約するんだけど、その前にわたしにとって大事なことを説明するね。妖精を召喚するにあたって一番大事なのは会話。主に〈テレパシー〉ね。召喚スキル発動する際に必ず発動して。いくらスキルでもその場にいないと声は聞こえないからね?」
「それはそう」
思わずクスッと笑ってしまうが、確かにその場で呼んだところで普通聞こえないわな。
「ちなみに送還は直接「おつかれさま」とでも言えばいいよ。それで帰るかどうかはわたしの勝手だから。……あっ、それと大事なこと。召喚したわたしの姿は誰の目にも見えるようになるの。呼ぶ場所、ちゃんと考えてね」
「マジか……わかった」
姿が見える……もしかして、呼んだら直ぐにお帰り頂かないと面倒なことになるんじゃ?
「さて、そろそろ契約しますか」
メディスは深呼吸した後にそう言うと、何時の間に運び込んでいたのか薬品を取り出す。小さ過ぎる容器だったため、全く気付かなかった。
ルーチェの時のように自身の掌に薬品で魔法陣を描く。
「……ところでサクリさん。この契約、眷属契約っていうんですけど、その意味って知ってます?」
「何だろう?」
……いや、前に聞いていたから知っているけどさ。特にメディスには言えないだろう。何倍で棘のある言葉が返って来るかと思うと知らないと答える方が無難というもの。
「ツガイになるという意味よ。……まぁ、わたしがサクリさんの子を身籠ることはできないけど、不義理は許さないですから……っと、完成。はい、こちらに掌を向けて、目を瞑る」
……やっぱりキスするとは言わないのか……そういう文化?
掌を顔の近くで彼女の方に向けつつ密かに心の準備を進めていると、彼女は掌を俺の掌に重ねて知らない言語で何やら詠唱が始まる。そして、唇に多分彼女の唇が触れる。今回は見ていないけど、きっと前回と同じだろう。
「はい、終わり。これでめでたくわたし達は相棒だよ」
「なぁ、さっきの不義理って?」
「え? あ~、ヒューム族は違うんだっけ? えっと、わたしは貴方に魔力を与えるわ。代わりに貴方はわたしに存在を与えるの。さっき話したでしょ? 召喚されたわたしは誰にでも姿が見えると」
……あ~、そういう……。
「だから、その感覚になれるように当面の間は夜寝る前にわたしを召喚しなさい。そのまま寝ればMP回復するでしょ? もちろん、他にも用があるなら召喚して良いけど、それとは別に寝る前の召喚を日課にしなさい。……良い?」
「わかった」
……意外に協力的だな……もっと渋るかと思っていたよ。
「なぁ、昼間の方が温かいし、メディスには都合が良いんじゃない? 何なら連中は昼間でも良いよ?」
「あのねぇ、呼び出すだけなら昼間でも構わないけど、わたしの姿見られるリスクがあるでしょう? あれだけユニーク職であることを隠していたのに、自分から正体を明かすつもり?」
そう捲し立てるように指摘されたけど、彼女の態度に違和を感じていた。
目が覚めて、何時の間に寝ていたことに気づいた。身体中が筋肉痛で痛い。多分、昨日無茶をしたからだろう。
股間に重みが無い。寝たまま周り視線を巡らすも確認できない。その時点でメディスは帰ったのだろうと推察できた。
「妖精さんなら帰りましたよ?」
視界の上から降って来るおっとりとした女性の声。この時点で俺の頭の下にあるのは枕ではなく膝だと自覚して、寝ぼけていた頭が少しずつ覚醒し始める。
視界をもう少し上に向けると、彼女の胸が邪魔で顔を確認できなかった。
何時までも現状維持なのは問題だと思うし、何より他の誰かに見られたら危険だと察して、ゆっくりと起きる。よくアニメであるような勢いよく起きて頭同士をぶつけ合うというお約束展開を避けるように。
「……おぅ、二度目だから心の準備は出来ていたけども……サヤーチカで間違いないね?」
「はい、サヤーチカです」
上機嫌に微笑みながら答えた。
彼女はユカルナと違い、下着姿だった。……下着姿なら良いというわけではないのだが、全裸よりはマシである。現に隣で寝ているユカルナは何度注意しても毎回全裸なのだから。
サヤーチカはおとなしそうな顔立ちだった。見た目だけで穏やかで優しそうな印象を与えるのだが……まぁ、所詮は見た目である。これで服を着ていれば見た目は清楚な乙女である。
明るい灰色の髪は股上まであり、深い灰色の瞳は二重で大きく見えるタレ目だ。
「何故膝枕を?」
「わたしがこの部屋に来た時に、そこの斧が全裸で抱き着いていましたので、主人の枕を拝借して身代わりにさせ、引き剥がしました。……それで、わたしが枕を取ってしまったので、自ら枕になって快適に眠って頂こうと思った次第でして」
……うん、清楚ではないな。いや、清楚でも独占欲はあるか。
俺は憶えている。武器には常に愛用されたいという欲がある。だから、ユカルナの正体に気づいた彼女がメインウエポンの座を奪おうと行動に移した……多分ね。
「えっと、改めましてご報告です。神器“灰矢の金弩”サヤーチカは、主人用に再構成されて、神器“鋼弾の灰銃”サヤーチカに変更されました。よろしくお願いします」
背は低いものの、優しく清楚なお姉ちゃんって感じでドキドキする。
「銃になった?」
「はい。容姿は主人の知識にありました、バスターライフルという武器をモデルにしています」
……おう、実在しない架空武器かよ……凄いな、神器。
「とりあえず、服を着てくれ」
「はい、わかり……あっ!」
まさに返事をして貰おうと思った矢先、ノックも無くバンッと勢いよく扉が開かれた。
「サクリ、朝御飯の時間よ。さっさと……」
起こしに来たサキマイールの声が途中で消えていく。……また、このパターンかよ。
「ねぇ、サクリ。これは、どういった状況なのかな? かな?」
笑顔で殺気を放つ某アニメのキャラの真似をしつつ、サキマイールは近づいて来る。しかし、意外にも彼女は別の事に気づいて怒気が一瞬にして紛れてしまった。
「もしかして、ユカルナさんって格闘技ゲーム『ブルメタ』のテレサ=スノウキャッスルとソックリじゃない? そっちは、FPSゲーム『クイーンズドール』のアイリシア?」
「知ってるの?」
……まぁ、本当は気付いていたけど。
「だって、どっちもサクリが前世で好きなキャラだったでしょ? ……まぁ、いいや。早くご飯食べないと怒られるし、出発遅れるよ?」
そう言って、サキマイールは部屋を出ていく。
「……これは、あとでアニメの話は口止めしておかないとだな……でも……」
……どちらにせよ、針の筵のような地獄は回避できそうにない。……これも全て、女難のせいに間違いない。
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