デンドロム王国を出国。立ちはだかる魔人族のマンドラゴラ
翌朝。……それこそ普段と変わらぬ朝を迎え、もう日常のボケはスルーして、身支度を整える。……慣れとは恐ろしいものである。慣れすぎて常識と思わぬように気を付けないといけない。……何がとは言わないよ?
「んっ……寒い……」
定位置に戻ろうとするメディスを阻止して起きて貰い、ユカルナには支度をするように指示をする。
「主人、もうちょっとコミュニケーションを……」
「おや? そんなに使い勝手の悪い武器だったっけ?」
一瞬むくれた表情を見せたかと思うと身なりを整えて部屋を出る。……そう、ここで動揺していたから揶揄われるんだよ。
「……なんで、そんなに朝早いの?」
「そりゃ、デンドロム王国を出るからだよ」
「知ってるけど、そんなに早く出なくても……」
……ん? ……あっ!
一瞬メディスが何を言っているのか理解できず困惑したが、直ぐに気付いた。
「メディスさんや、ヒューム族は普通飛べないんだよ」
そう、崖をダイブすれば最短で行けるだろう。時間もほんの数秒。確かに飛べるなら良いかもしれない。
「えっ? じゃあ、どうやって?」
「……まさか、今まで崖をダイブするって本気で思っていたん?! えーっと、崖下に通じてる洞窟『ドランガルフ雨流大道』を通っていくんだけど、それが結構長い道らしいんだよね」
通ったことが無いから聞いた話になってしまうが、噂では片道9時間オーバーという道のりらしい。何より安全な道でもないし、一本道でもないので、気を付けて通らなければならないと忠告もされた。
「飛べないって不便だね」
「飛べる人からすればね。……そういう訳だから、メディスも気合いれてくれ」
内心、実は事情を抱えていなければデンドロム王国にもう少し滞在したいというのが本音だったりする。
会っていない推しがいるので確認したいところだけど……残念ながらそんな時間的余裕はない。それだけが心残りだった。
『ドランガルフ雨流大道』はデンドロム王国内の洞窟と同じで、元々は世界樹の根があった場所である。何らかの理由で根が切断され、排除されたり朽ちたりして根が無くなった場所がそのまま洞窟になったと伝えられている。
「……それにしても……第二王女と第三王女が一緒の冒険者チームって、どうなの?」
「今は仕方ないでしょ。城に乗り込んで行って何とかなると思う?」
隣を歩くユキサーラが不満を零す……いや、不満を言うためにわざと俺の隣を歩いているのかもしれない。
「そんなことは言ってない。一国の姫様が冒険者をしていることについてよ」
「本人の希望なんだから仕方ない。それとも、姫様の命令に従わない方が正しいと?」
「だから、そんなこと言ってないでしょ!」
確かに『竜騎幻想』の内容を知らない者にとっては贅沢の極みのようなチームなんだよね。
……知っている人からすれば、仕様から外れているって指摘されるだろうけど。
本来、この道は陸路ルートのメインシナリオで通る道。だが、肝心のムッチミラは海路ルートを選択している上に、既に襲ってくるはずだったユッカンヒルデが仲間に加わっている。……多分、何も起きない。……いや、ゴブリンやアンテグラの襲撃くらいはあるかもしれない。
「まぁ、俺はグアンリヒト王国出身だから命令に従う義理はないんだけど、身分に関係なくチーム入りの条件は決まっているからね。条件を満たしたなら拒否する理由もない。……むしろ、サキチとユッキーはガチの例外だからね?」
……そうなんだよなぁ。基本的に入りたいと言ってきた人にメンバー全員の了承を得ることでチーム入りが決まるんだけど、サキマイールは絶対に入って貰わないと困るから、俺から頼んでしまったんだよ……ちなみにユキサーラはサキマイールの願いで渋々便乗させたまで。……いや、多分俺が頼まなくても、正攻法で彼女は入ったと思う。
「まぁまぁ、ユッキーもそろそろ落ち着いて」
見かねたのかサキマイールが俺とユキサーラの間に入り、どさくさに紛れて俺の腕に抱き着いて来た。
「サクリ、ありがとね。特別扱い、嬉しいぞ!」
「……えーっと、調子狂うんだが……いや、俺の知っている性格だと今の姿に似合わんのか」
女にモテモテだった格好良い系女子だった舞歌から、萌え声でスタイルの良い美少女になったんだから、違和感が常時働いていますとも。
「前と今、どっちの方がサクリの好み?」
「……判っていて聞いているよね? 揶揄っているよね?!」
「えへへ……こういうの憧れだったんだよねぇ」
……いや、知ってるけどね。
指摘するとガチギレする可能性が無いとも言い切れないから言わないが、前世の頃から実は幼女趣味みたいなところがあって、部屋にぬいぐるみとかピンク色の小物類とか、可愛い服とか隠されていた。……偶然俺が見たことは本人も多分知らない。
……まぁ、現世では理想の自分を前世の分も満喫すれば良いと思う。
それにしても人通りが全くない。流石普通は海路を使うだけあって、襲われる可能性のある陸路ルートは利用者が少ない……とは思っていたが利用者ゼロの疑いまである。
おかげで道を占有していて、賑やかなことこの上ない。「女3人寄れば姦しい」という言葉があるけれど、3人どころじゃないので洞窟内に反響してヤバイ。……他の人も通っているのであれば態度が違うのかもしれんけどねぇ。
……いや、油断している人が多数なのかもしれない。
俺の見立てで警戒し続けているのは、クレアカリンとメアリヤッカ、ワカナディアとユキサーラの4人くらいかな。
「そういえば、聞きたいことがあるんだけど」
と、声量を落としてサキマイールに話しかける。
「ん?」
「サキチのスキルってどんな感じ? 戦闘経験とかある?」
すっかり聞くのを忘れていたが、冒険者そのものは前世の知識からでも仕事は何となく理解しているとは思うけれど、実際に戦闘をするとなると話は別。経験の有無は重要だ。
「戦闘経験はないよ。そもそも天職を賜ってからは軟禁生活のようなものだったし。だから戦闘は初心者だからね? あと、スキルだっけ? ほとんど回復系だよ。攻撃力は皆無だと思う。わたしを中心に範囲にいる味方全員に~っていうのが多いかな」
「へぇ……じゃあ、護衛が必要なんだね」
……聞いといて良かった。何となく【聖女】ってヒーラー職のイメージがあったけど、戦闘も未経験なら初戦はパニックになって動けなくなる可能性も考慮しなければいけない。
もっと深掘りして話を聞きたいけれど、一応デンドロムの役人であるヨシノノアさんが一緒にいるので報告されるリスクを考えて内容には気を使っていた。
3人で会話をしながら歩いていると、初めてこちらに向かって歩いて来る人を見かけた。
「あ、人だ……」
「え? ……人?」
男性2人。如何にも旅人って感じで黙々と歩いて来る。
「あのぉ、もしかして“サクリウスファミリア”の一行ですか?」
「そうですけど」
近づいてきた彼等の問いに先頭を歩くクレアカリンが答えると、彼等2人から急に殺意が広がった。
思えば、最初からサキマイールの反応の仕方が変だった。違和感があったけれど、それを確認する前に圧倒的な殺意が皮膚を刺す。
「サクリ、アレが人に見えるの?!」
絞り出すように漏らしたサキマイールの一言で俺の違和感が確信に変わる。きっと、彼女には人ではない何かに見えている。
2人の男のように見える何かの影から、妖魔……いや、違う何かが這い出てくる。
「皆さん、戦闘準備! 襲撃です!!」
リリアンナの通る声が周囲に警告する。傍にはレイアーナがいて、その表情は引きつっていた。
「対象は魔人族のマンドラゴラです。魔法職は馬車と一緒に下がって!」
……影から這い出てくる魔人族の数は既に20を超えている。あの男達を何とかしないと。
「《呪球の放擲》!!」
同じことを考えていただろうアッツミュの呪属性範囲攻撃がマンドラゴラ達にMPへのダメージを与える。人ならば死ぬことなく気絶するだけという良い判断とは一瞬感心したものの、俺も含めて考えが浅かったと悟る。
「……うわぁ……」
魔法を撃った本人が一番ドン引きしている。何故なら、人の姿をしたそれはダメージを受けてMPダメージだというのに身体が損壊し、植物の蔦のようなものが傷口からうねうねと動いていたからだ。
「なるほど、だから人に最初から見えなかった訳か」
「何あれ? グロいんだけど?!」
うん、初戦がこれはサキマイールには気の毒でしかない。
「《対物障壁》」
「天王星の星霊よ、仲間達に星々の加護を!」
「お願い、プルーム達。少しだけ力を貸して!」
続けて、ユイディア、マオルクス、カナディアラのバフ、デバフの支援魔法が飛び交う。そして、満を持してアミュアルナの最速の拳がマンドラゴラを吹き飛ばした。
原則、魔人族に普通の物理攻撃は効かない。しかも高レベルの魔人族になると通常の武器によるダメージは無効と言っても過言ではない。その上、魔法による攻撃でさえ副効果による状態異常は完全無効である。
だが、それでもアミュアルナの拳がマンドラゴラに有効だったのは、彼女の武器のおかげである。
「うーん。やっぱり蹴れないのは気持ち良くないですね」
彼女は今、愛用のトンファーではなく、霊銀製の鋼拳を装備している。数少ない魔人族にダメージを与えられる武器素材の1つである。
銀、霊銀はアンデッドや魔人族に有効な金属ではあるのだが、高価で一般冒険者が持っているのは精々銀装備までだろう。通常武器の百万倍違うのだから霊銀製品は基本素材持ち込みになる。銀でも1万倍。まぁ、前世の世界と比べて鉄が凄く安価なのでアレだけど。
ちなみに、この鋼拳は当然買ったものではなく、拾ったモノである。
「やぁ!」
「はっ!」
銀、霊銀製の武器以外にも、魔器も有効で前と違って前衛も普通に戦えている。……この前、アンデッドからのドロップ品に感謝である。
「……戦えてる……良かった」
「わ、わたしも……」
戦闘の様相に動揺していたサキマイールもスキルを使用したのか、温かい光に包まれる。ちなみに効果はまだ判らないし、聞ける状況でもないようだ。
MPが徐々に回復する歌も流れ始め、これなら何とか……と思った俺が悪かった。
戦闘状況は有利……なはずなのに、数の力で押されている?
「マンドラゴラの魔法の影響で睡眠状態に落ちているようです。叩かれているので一瞬で目覚めますが、一方的に殴られている状況のようです」
レイアーナの焦りが滲んだ状況報告が耳に入る。しかし、こればかりはどうにもならないし、アッツミュや【精霊術士】の2人に頑張って貰うしかない。
「後方に強力な魔力反応! 何か出現します!」
悲鳴のようなレイアーナの報告。新手の出現に備え、武器を抜いて盾になるべく後方に出る。すると、魔法陣から女性の魔人族が現れる。しかし、明らかにマンドラゴラではない。
「嫌な感じね。……さっさと【聖女】を殺さないと」
その魔人族は流暢にヒューム語を話し、その視線の先にはサキマイールを捉えていた。
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