サクリから頼まれる本物の聖女の仲間入り。ついでにもう2人
「……えーっと……今、何て言った?」
いや、聞いていたけど。でも今ほど自分の聞いた内容を信じたくなかった。
「絶対聞こえていたよね?」
「聞こえたけど、理解できん」
……だって、舞歌だしなぁ。
「何でよ? わたし、見た目もそれっぽい感じになっているでしょ!」
そう、見た目がバグってるんだよ。
ヨシノノアさんより多分少しだけ身長が高いと思う。股上まである長い金髪は、ナッツリブア大陸の金髪女性であれば伸ばし続けるのは常識らしい。どちらかというと、金髪を切ることの方が罰当たり的な非常識人扱いされるらしい。透き通るような肌の色に露出の少ない清楚なワンピース姿。……まるで、前世で着る事がないような格好を楽しんでいるようだった。
……舞歌って、部活で日焼けしていたし、髪もショートで、サバサバ系ボーイッシュ女子だったからな。……まさか、こんなお姫様系美少女になっているとはビックリだよ。
しかし、彼女自身が普通に【聖女】という単語を口にしない辺り、そのヤバさは理解しているようだ。
「まぁ、見た目も声も確かに別人だけどさ。その天職のヤバさは理解してる?」
「……あまりピンと来ていないけど、一応理解しているよ」
……やっぱり。
「実は、『天職進化の儀』をうけて賜った時に記憶が蘇ってね。思い出したのよ、『竜騎幻想』のこと」
「ほぅ。でも、やってなかったよね?」
「やらなくても、朔理の部屋に何度も来ていれば攻略本みたいなのを目にすることもあるよ」
……ちなみに攻略本は持ってない。んなもん、ネットの攻略サイトで充分だ。持っていたのは設定資料集とか画集とかだな。見たのは間違いなくそれだろう。
「とは言っても、詳しくは憶えていなくて……ただ、素直に天職を告げたら拙い事くらいは今のわたしの記憶からでも推測できるから、隠れていたの」
「隠れてって……」
いくら隠れても生きている以上、その金髪金眼は目立つだろうよ。だから、いずれその存在はバレて、城に連行されるんじゃないか? ……いや、むしろ連行される前に会えたことがラッキーというべきか?
「あのさ、国を出る気は無い? その天職でデンドロム王国に暮らし続けるのは無理がある」
「そうだね。朔理が一緒に居てくれるなら別に良いけど」
……まぁ、そう来るよな。
幸いなのは、マユシェさんがマオルクスの占いに集中していて、こちらを気にする様子が無かったこと。
「良くないでしょ。何勝手に決めてるの?」
女の子が扉をバンッと乱暴に開きながら入って来て、怒っている表情で彼女に詰め寄った。
「ユッキー……聞いてたんだ?」
「そりゃ、普段と様子が違うから、気になって様子ぐらい探るわ」
ユッキーと呼ばれた少女はおどけた様子でサキマイールとは会話するものの、こちらを見る時は表情が厳しく、露骨に警戒されているのが判った。
「サキチは連れて行かせない。貴方達、本当は何者?」
……その態度、彼女の天職を知っているって言ってるようなもんだぞ?
「待って、ユッキー。彼はわたしの運命の人なの。お願い、邪魔しないで!」
「ちょ、運命って本気?!」
……ん?
「サクリ、ごめんね。彼女はユキサーラ。ウチに住み込みで働く1歳年下の手伝いの子で、わたしにとって幼馴染みなの」
雰囲気が舞歌からサキマイールのモノに戻ったかと思ったら、突拍子もないことを言い出す。
「ずっとわたしの天職の事を隠すことを手伝ってくれて、ここで自由に暮らせたのも彼女のおかげでもあるの。だから、凄く心配しているんだと思う」
「そっか。えーっと……俺も呼び方はサキチが良い感じ?」
「うん、それが良いかも」
「わかった。サキチはちゃんと守るから大丈夫。だから彼女のためにも連れて行くよ」
「……させないと言っている」
ユキサーラの雰囲気が変わる。それは殺気に近く、とても嫌な予感がする。
「気を付けて。彼女は年齢を詐称している。それに【盗賊】だから油断しないで」
「……【学者】がいたのね……」
そう言うと、スッと殺気が消えた。
「ユッキー、成人してたの?!」
「ごめんね。わたしは第一王妃様の命令でサキチを守るために配属された用心棒なの」
「えっ?!」
てっきり、正体を知っていて庇っているのかと半分疑ったけれど、違ったか?
「あのね、気付いていると思うけど、サキチの天職って国にバレると殺害されるレベルなの。でも、王妃様は行方不明になっている姫様が戻って来ることを確信していて、戻ってきた時に姫様が王位に就くためにサキチが必要なのよ」
「いったい誰に命を狙われる……」
「第一王女よ」
ユッカンヒルデがサキマイールの言葉に被せ気味に答える。
「そう。あの自称【聖女】の第一王女。【聖女】というのはユニーク職。世界に1人しか存在しないの。でも、ここに本物がいる。偽物が本物と言い張るには本物の存在が邪魔なのよ」
……あっ、とうとう【聖女】と言っちゃったか。
「それについても心配ないわ。何故なら、第二王女であるカナディアラ姫はわたし達と一緒にいるのだから」
「え?」
今度はユキサーラが戸惑っていた。……まぁ、戸惑うよな。
「サクリさんに付いて行けば、結果的に第二王女と行動を共にすることになる。城に戻る時は当然2人一緒になるというわけよ」
「……ちょっと待って。それ本当? だとするなら、王妃様にお知らせしなければいけない立場なんだけど」
「あのさ、俺が口を挟むのもなんだけど、それを知った時点で、ユキサーラさんも……」
彼女は直ぐに気づいてくれた。第一王女に知られたら自分も消されるという現実を。
「……そんな……じゃあ、どうしたら……」
「一緒に来てよ」
混乱するユキサーラにサキマイールは真剣に提案する。
「ユッキーには既に何度も話していると思うけれど、わたしはずっと会いたい人がいた。それが彼なの。だから、絶対に一緒に行くわ。……ユッキーも来てよ」
……まぁ、舞歌ならそう言うよな。
舞歌は女難回避のために春休み中ゲーム三昧だった俺にも卒業旅行に誘おうとするくらいに彼女は面倒見が良い。記憶が目覚める前は知らんけど、今の彼女は任務失敗による罰や情報漏れによる口封じの可能性があるユキサーラを見捨てられるはずがないんだよね。
「……はぁ。もう、仕方ない。……あたしも世話になって良い?」
「何とかするよ」
何とかしないと俺がサキマイールにネチネチと怒られそうだ。
「では、改めて……ユキサーラ=カノンストです。お世話になります」
……しかし、彼女は間違いなく初対面だし、『竜騎幻想』に登場するユニットやNPCでもない。ただ、既視感があるんだよな……この感覚、アッツミュの時と同じなんだよな。もしかして没キャラかと思って記憶を探る。
ショートボブの茶色い髪、桜色の瞳、150センチ未満の小柄な体型……この世界に存在する人物なのだから『竜騎幻想』関連の設定だと思うんだけど……。
「待たせたね。商品を荷車に積んでおいた。確認を頼む」
「はーい」
サキマイールの祖父が戻ってきたのを受けてマユシェさんが入れ替わるように外へ行く。
「お爺ちゃん」
「ん?」
サキマイールは先程のように真剣な表情で話しかける。
「わたし、家を出るよ。ユッキーと一緒に冒険者になって、彼と一緒に行く。彼はわたしが探していた運命の人なの」
「ふむ。……お前が話していた例の彼か?」
……なんていうか、サキマイールの言い回しが妙に気になる。運命の人って何?
「そう。正直、わたしも実在するとは思ってなかった運命の人。でも、目の前にこうして現れたのだから、一緒に行きます」
「そうか。サキマイールの天職であれば、そういった不思議なこともあるのかもしれんな。行ってきなさい。そして、自身が納得できる人生を」
「……お世話になりました」
そう言って、サキマイールは深々と頭を下げる。
「家にある必要なモノは好きに持っていきなさい」
「ありがとう、お爺ちゃん」
そんな様子を見守りつつ、ユキサーラの元ネタを今のやり取りで思い出した。
この世界、凄いんだ。チョコレート乳牛の他にコーヒー乳牛、ストロベリー乳牛、バナナ乳牛、バニラ乳牛、紅茶乳牛、抹茶乳牛が居るんだよ。そして、それを知って完全に思い出した。
……『マイニングビルダー物語』。『竜騎幻想』と同じメーカーから発売されたクラフト系のアクションゲームで、そこに出てくる登場人物の1人。それがユキサーラという名前だった。……別ゲームキャラが出てくるって、滅茶苦茶だなぁ。
ちなみに、一般的なのは普通の乳牛だけ。特殊乳牛がいる牧場は余程経営が上手くいっているということになる。
そして、プリン屋に戻ってきた俺達は、漸く目当ての元祖巨大チョコプリンの生クリーム増し乗せという裏メニューを食べている。
「うんま~」
「最高ですぅ」
「美味ぃ♪」
他にも各々感想を述べながら、大きなプリンを口に運ぶ。
「あのぉ、サクリさん」
「何でしょう?」
店主のおばちゃんが奥にいる間に小さな声で遠慮がちに声を掛けてきた。
「わたしも冒険者チームに入れて貰えませんか? ここに居てもレベルアップが見込めない。世界中の料理を学びたいんです。もちろん、戦闘も頑張りますし、条件もリサエラさんと一緒で構いません……ダメでしょうか?」
そう言って、アイアン級の冒険者カードを見せる。
「みんな、聞いてくれ」
プリンに気を取られて伝えるのを忘れていた。
「とりあえず、彼女がチームに入りたいと言っている。反対する者は?」
沈黙。話を聞いていないからではない。全員プリンを食べるのを止め、こちらを見ている。
「……というわけで、チーム入りおめでとう。店主に話してきて」
そう言うと、マユシェは頭を下げて店の奥へと向かって行った。
「それと、俺がサキマイールとユキサーラさんをチームに入れたい。頼む、許して貰えないだろうか?」
そう言って頭を下げると、全員が驚いていた。
「……そんなの、誰もダメって言えるわけがないじゃん。サクリが認めた人なんだからさ」
「ありがとう」
クレアカリンの言葉に全員が頷く。俺とサキマイール、ユキサーラは再び深々と頭を下げた。
そんなわけで。村の入り口近くに設置したコテージを牧場近くに移動し、サキマイールに爺さんとの最後の夜を過ごして貰うことにした。……急に身内が居なくなるのは寂しいからね。
サキマイールの強い希望で夕飯は牧場でとれた乳製品を使った料理が振る舞われ、みんなでご馳走になった。
食事と風呂を終えた俺は部屋に戻り、明日の出発に備えようと思っていた矢先、扉がノックされた。
「……サクリ、ちょっと良い?」
「こっちに来て良いの? 爺さんと話せる最後のタイミングになるかもしれんのに」
「うん。お爺ちゃんとは後で話すし。でも、こんなに女の子ばかり連れて……女難は無くなったんだ?」
「いや、残念ながら……マジで理不尽」
簡単にこれまでのことを話す。特にイーベルロマの話をするのは気分が多少複雑ではあったものの、彼女は真剣に話を聞いてくれた。……こういうところは舞歌のままなんだよな。見た目は全然変わって可愛らしくなっちゃったけどさ。
「そっか。苦労したんだね」
「どうせサキチも苦労したんだろ?」
「……まぁね。この金髪金眼は目立つからね。特にお父さんは橋から落ちて死んじゃってさ。お母さんも一昨年、病死しちゃったんだ。今年まで生きていれば治せたかもしれないのに」
まだ【聖女】のスキルについては聞いていないけれど、回復系の魔法が使えるんだと思う。
「身寄りが無かったんだけど、母方の祖父であるお爺ちゃんが今まで育ててくれたんだ」
「【学鍛童】で放り出されたら、生きていけないからね」
「……ううん。多分わたしは身売りされたかも」
……あ~、それも金髪金眼の宿命か。
やっぱり、2人がこうして異世界で再び会えたのは運命なのかもしれんね。
2人でこれまでの生活について話していたら、扉がノックされた。
「やっぱり、ここに居た」
来たのはマオルクス。そういえば、まだ話してなかったな……。
「マオちゃんも転生者なんでしょ? 記憶ある?」
「うん、あるよ。わたしは天原満月。朔理君とは小学生の頃のクラスメイト。ところで聞きたかったの。サキチさんって他の転生者に会った事ある?」
「ううん、無いけど」
「そっか。あのね、ここにいる3人は全員転生者。しかも全員がユニーク職持ち。これってさ」
そこまで言ってマオルクスの言いたいことを理解した。
「転生者は最初の『天職進化の儀』でユニーク職を賜るってことだと思わない?」
マオルクスの問いにサキマイールは頷く。もちろん2人の結論は同意だけど、それとは別に何らかの力で転生者が集められていると上位精霊達の意図が透けて見えた。
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