クエスト『銘菓生クリーム増し巨大プリンを食べるために』
「……ただいまぁ……」
ユッカンヒルデを仲間に受け入れた翌日の朝。城に向かったきり戻ってこなかったエルミスリー達が戻ってきた。
「おかえり、エルミ。アグリシアさんもおかえりなさい」
「ただいま。……いいね、戻ってきて迎えてくれる人がいる生活って」
……? 今の発言について、具体的にどういう意味なのか聞いてくれって意味のフリだと思うんだけど、その前に気になる人がいた。
「随分長い間拘束されていたみたいだけど……それで、そっちの人は?」
2人に隠れる形で、初見の女性が1人いた。身長はヒューム族女性では割と高めの160センチくらい。オレンジ色の瞳は伏し目がちで前髪も長めなこともあって視線が合うことがなく、緑色の髪はセミロングくらいの長さで髪を首下で束ねて持ち上げる形でクリップ留めされていて、頭の上で毛先が揺れている。
「彼女は【治療官】のヨシノノアさん。調査に同行することになったの。それで、そっちの子はサクリウス君。シャドウ級冒険者チーム“サクリウスファミリア”のリーダーよ」
「いや、今はブロンズ級ね」
「……また人が増えたのね」
エルミスリーは呆れ、アグリシアさんは驚いていた。
……スーッ。
何故かヨシノノアと紹介された女性が大きく息を吸う。
「え、えと……は、はじめ……まして。ヨシノノア=メディリアベリーと申します……その……お世話になります……」
言い終わると、俺の方をチラッと見て、視線が合うとビクッとして再び2人の後ろに隠れる。
「もしかして、彼女って男性恐怖症とかだったり?」
「違うの。重度のコミュ障。人見知りな上に照れ屋で妄想逞しいものだから……実は彼女に慣れて貰うために城内で暫く一緒に居たの。……大変だったんだから……」
……スーッ。
「ゴ……ゴメン……なさい……」
「わたしもごめんなさい。失言でした……」
なんか、相当苦労したんだろうな……まぁ、俺の場合は最悪会話しなくても……まぁ、問題ないかな。
お昼前には全員が戻ってきたので、早めの昼食の後にアルボンニウを出発した。本来なら翌早朝出発の方が良いのかもしれないが、なるべく王都はさっさと離れるべきと判断した。
実際、死んだと聞いていたユッカンヒルデを目撃したエルミ達は軽くパニックになったくらいだったし。生存が知られて状況が混乱する前にトゥーベント王国へ向けて出発した方が良いと判断して即出発。……で、それから5日後。
俺達はトレーポコに戻って来ていた。理由は陸路でトゥーベント王国へ向かうためだ。
実はデンドロム王国から出国する際には基本海路を選ぶことが一般的で、陸路は長い天然洞窟を通らなければならず、陸路の方がお金の節約ができるものの、お世辞にも安全と言えないために利用を避ける傾向にある。
で、その天然洞窟の入り口というのがトレーポコの西にある。
「今日は時間的に早いけれどトレーポコで休んで、明日の早朝から洞窟に入ろうか」
「やった! プリン!!」
俺の提案にリサエラが速攻で欲望を垂れ流した。
「あ~、雑貨屋を兼業している茶店だったっけ? 確か『元祖巨大チョコプリン』という名前だった……」
「何ですか、それ?!」
数名がこの話題に食いつく。……これは食べなきゃダメっぽいな。
「わかった、行こうか」
「やった~♪」
リサエラを筆頭にみんなが喜ぶ。……店に全員入れるだろうか?
甘い物が苦手だったり量を食べられなかったりする人も居たが、多数が食べに行くために結局全員で店へ向かうことになった。
「済みませんね、現在品切れで……」
「そこを何とか……」
店はやっていたけど、プリンが出せないらしい。
店主……なのだろうか? 主に対応してくれるのは、少なくとも前世の俺の親より年上に見えるので、50歳前後のおばちゃんだ。それと娘と呼ぶには似ていない同世代の女の子が1人。
「そんなに食べたいの? 仕方ないねぇ……じゃあ、少々お使いを頼まれてくれる? 村の外れに牧場があるんだけど、そこからチョコレート乳牛のミルクを取りに行って貰える? その代わり、プリンを1個分値引きするから」
クエストにしては安い報酬ではあるが、労力を考えると妥当……本来はもっとランクの低い冒険者が受けるクエなんだろうな……と思いつつ。
交渉していたリサエラが不安そうに俺の方を見ていて、思わず笑みが零れる。
「わかった。その依頼を受けます。……とはいえ、全員で行くのは多すぎだし、俺1人でも構わらないけど……リサッペとユッカンとマオ、一緒に行こうか」
順当に言い出しっぺのリサエラと8歳児姿になっているマオルクス。プリンと聞いて露骨に喜んでいたユッカンヒルデ、それと店の女の子と4人。牧場へ向かうことになった。
……このクエスト、駆け出しの冒険者用なんだろうな……なんか申し訳ない。
そんなことを思いながら、村の北西……他の家と結構離れている位置に大きな牧場があった。多分、近くに家がないのは動物に影響があるので避ける意味と、動物の環境音を避ける意味で誰も近くに住まないのだろうと予想する。
しかし、チョコレート乳牛……ゲーム世界特融の生き物だよなぁ。サクリウスとしての人生でも普通の乳牛しか見た事無いし。もしかしたら、違う味の乳牛も存在しているかもしれん。
「こんにちは! マユシェです!! 牛乳買いに来ました!!!」
ログハウスっぽい小屋の前で大きな声をあげる。
「いや、中に入って普通に言えば……」
「小屋の中にいるとは限らないんですよ。だから、中に入る前に厩舎にも聞こえる声で叫ぶのが一番早いんですよ」
俺のツッコミに説明を受けていると小屋の扉が開いて金髪金眼の少女が現れた。
「お爺ちゃん、厩舎ですよ? ……あら、お客様?」
「牛乳運びを手伝って下さるサクリさんです」
「……貴方、サクリっていうの?」
俺の名を聞いた途端に露骨に興味を示し始めた。……俺ってそんなに有名になった?
冒険者の間では確かに有名になっているかもしれないけども……こんな辺境の村でも俺の名を知る人がいるとは思えない。
「冒険者のサクリウス=サイファリオです。どうしても『元祖巨大チョコプリン』っていうのを食べたい連中がいまして」
そう言うと、一緒にいるリサエラとマオルクスがコクコク頷いてアピールしている。
「なるほど。ほっぺが落ちる程美味しいから、楽しみにして良いと思うよ」
そうマオルクスに向けて微笑むと、俺の方に向き直る。
「わたしは、この牧場主の孫でサキマイール。……でも、そうか。サクリウスさんだからサクリなのね」
「ん? 俺の名前が何か?」
「ううん。ちょっと馴染みのある名前だったから」
「あら、いつも素っ気ないサキチがそんなに興味示すなんて……サクリさんみたいな人が好みなの?」
……マユシェさんの揶揄い混じりの冗談への返しに困っているようだった。
牧場主の爺さんにマユシェさんが注文を伝え、品が揃うまでの間、サキマイールさんの好意からログハウスで待つことになった。マユシェさん曰く、かなりの特別待遇らしい。
「2人は仲良しなの?」
リサエラの何気ない質問にマユシェさんとサキマイールさんは一瞬言葉に詰まる。
「うーん……仲は悪くないけど……ねぇ?」
「実は接点があまり無くて。つい数ヶ月前から牛乳や卵の買い付けでマユちゃんが来るようになって、少し会話するくらいかなぁ?」
「サキチは村の中心に来ないから」
「うん……あんまり目立たないように言われているの」
「そうなんだ」
リサエラは不思議そうに相槌をうっているが、納得している感じには見えない。年頃の女の子が引き籠り生活というのは、精神的に結構不健全な気がするんだよなぁ。
「牧場仕事がない時とか退屈じゃない?」
「あ、わたしは牧場仕事していないの。実際娯楽も無いし、退屈ではあるんだけど……」
その先の言葉を濁しているように見えた。
「じゃあ、占いする?」
マオルクスがそう言うと、2人とも興味津々で彼女を見る。
「占いしてほしい」
「わたしも!」
……2人とも多分マオルクスは【学鍛童】だと思っているだろうなぁ。
「じゃあ、マユシェさんから占ってあげるね。何を見る?」
そう話しながらマオルクスはタロットカードを取り出してテーブルの上で混ぜ始める。
「……へぇ、この世界にもタロットってあるのね……」
その瞬間、俺とマオルクスが思わず発言主であるサキマイールを見る。
「もしかして、貴女も転生者ではないですか?」
マユシェがいるから躊躇していたのに、迷わずマオルクスが彼女に尋ねる。
まさか、こんなに早く転生者と遭遇するとは思いもしなかった。
「なんか、その言い方だとマオちゃんも転生者っぽい言い方なんだけど?」
マオルクスの釣りに気づいて、サキマイールも「も」と言ってるなぁ。
「うん、そうだよ。……っていうことは、サキマイールさんも転生者ってことね?」
「初めて転生者仲間に会った! 超嬉しい!」
そう言って、マオルクスの手を握る。
「えっ? 転生者??」
当然ながらマユシェさんは話に付いてこれてない。多分、普通は『転生者』という単語すら聞き馴染みのない言葉だろう。……この世界の本好き率は結構低いからね。
「わたしの前世はね、地球の日本ってところで、一応女子高生だったんだ。卒業済みだったけどね。名前は聖浄舞歌っていうの。よろしくね」
……ん?
「念のために聞くけど……崖崩れによるトンネル封鎖、バス転倒、爆発事故が死因だったり?」
「えっ、何で知ってるの?」
思わず俺から尋ねると、彼女はビックリしていた。
まぁ、聖浄って苗字が珍しいから人違いというのは考え難い。それでも万が一同姓同名の可能性も考慮して死因まで聞いてみたが、それも一致。高確率で間違いないだろう。
「なるほど。だからサクリという言葉に反応したのか。まさか、舞歌も転生していたなんて驚いた。ちなみに、俺の苗字は知念だ」
「えっ、本当に? 本当に朔理なの?」
「そうだよ」
そう言うと、サキマイールはポロポロと涙を零したかと思うと俺に勢いよく抱き着いた。
「まさか、会えると思わなかった……本当に嬉しい」
「それは俺もだよ」
辛うじて彼女の突進を受け止めて抱きしめ返すことができた俺だったが、彼女の興奮は余程のようで、込められた腕の力が思った以上に強い。
「これ、運命だよ。ねぇ、わたし達結婚しよ? もう親戚じゃないし、他人だから良いよね?」
「……妄言垂れ流しているぞ? 落ち着け」
落ち着くように優しく語り掛け、彼女の頭を撫でる。すると、腕の力が弱くなるのを感じた。
「落ち着いたね? それで、舞歌の天職って何?」
「天職……内緒だよ? 実はね……」
彼女は耳元で確かに【聖女】だと囁いた。
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