『竜騎幻想』では不可能なユッカンヒルデ救出作戦
「よっ……頭では理解しているけど、怖かったわ……」
単身飛び込んでも、落とし穴では死なないことは判っていた。
【念動士】のパッシブスキルである〈レビテーション〉。直訳すると空中浮遊なんだけど、飛びたい時に飛べない不便なスキルである。所謂「落下ダメージ無効」くらいの効果なんだろうな……多分ね。
……さて。足元にユッカンヒルデ姫は倒れていない。そうなると、落下の衝撃で転がったということか。
「即死だけは勘弁してくれ……」
そう愚痴りながら、魔道具のランタンを付ける。『木霊王の古祠』の時の教訓から火の使えない場合の光源として魔道具のランタンを用意していた。
「……おぅ……」
……スケルトンとかゾンビがウロウロしていらっしゃる。まぁ、雑魚っぽいし問題ないとして……居た。
音を立てないように浮いたまま近づき、そっと足を床に付ける。そして、恐る恐る彼女に触れてみる……脈がある……とりあえず生きているが……落下のショックなのか腕や脚が関節ではないところで異様な角度で曲がっている。
「メディス、これ治せる?」
「……もちろん……でも、時間は掛かるよ?」
本人の位置を確認せずとも、俺から離れない彼女は傍にいると確信していた。
「骨が折れているのを治すのと、出血しているところを治してくれれば、HPまでは回復しなくて大丈夫。あと、討ち漏らしたアンデッドの討伐も頼む」
そう指示をして、俺はアンデッド達の掃除を開始した。
万が一襲われた場合にユッカンヒルデの守護と治療だけを頼み、フロアを歩いてスケルトンやゾンビなど、アンデッド族でも弱い敵を倒していく。気になるのは、アンデッド達の装備が妙に良いこと。……後で回収しても良いかも知れない。
ゾンビを自分の武器で倒すのは抵抗があったので、最初に武器持ちのスケルトンを倒して武器を回収し、その武器でゾンビを倒す。……幸い拾った武器は魔器でもないようなので、壊れても問題ないと言わんばかりに倒していく。
リリアンナのMPが回復する歌の効果は範囲外なため切れてしまったが、他の強化はまだ掛かっていたので、サクサクと探索を進める。
「回復の様子はどう?」
「もう少し時間掛かるよ」
戻ってきて最初に声を掛けてみたが、治療時間には短かったようだ。周りにアンデッドが転がっていないので、多分遭遇していない……いや、戦闘後に消滅している可能性あるか?
「敵には襲われた?」
「何も襲って来てないよ」
……やっぱり。ドロップ品も転がっていないのでそうだろうとは思ったけれど、もしかしたら落とさなかっただけって可能性も考えていた。
「なぁ、メディスはここが何なのか知らない?」
上と様子が違っていて、明らかに人工的な遺跡だった。ただ、この感じ、見覚えがあるんだよな……。
「知らない。初めて来たし。わたしが判ることは、このヒューム族を今動かすと死んじゃうことくらいかな」
そう。それは俺も可能性を考えていて、怪我人を動かさずにいた。危ないから端に移動しようとした矢先にそれがトドメとなったら最悪だし。だから、動かせる程度に回復できればそれで良いと思っている。
「もう少し掛かりそうだな……ちょっとアンデッド達がドロップしたアイテム類を回収してくる……なるべく早く戻るから」
「行ってらっしゃい」
こちらをチラリとも見ることなく、メディスは治療に専念していた。
最初は意外と思っていたが、このフロアのドロップ品には魔器の類が結構落ちていた。もちろん、アンデッドの核である魔石も回収したし、明らかにゾンビのドロップ品は一度洗浄したいと考え、別に避けてはいるものの、明らかに良い物が多かった。……ほら、魔器と一言で言ってもピンキリがあったりするからね。
そして、出した結論。落とし穴で殺された人は結構いる。その成れの果てがこのアンデッド達なのだろうと。それならば、魔器の多さも頷ける。ただ、回収していないことを考えると、冒険者もここには入ってきていないし、落とした本人も下に降りる手段が無いのかもしれない。
「ただいま。どう?」
「おかえりなさい。良いタイミングですよ」
見ると変な方向に曲がっていた腕や脚はいつの間にか違和感のない状態に治っていた。現在の彼女のHPは確認できないが、満タンでも多分負けない……でも、手間だから瀕死のままであってほしい。……今は死ななければ良いのだから。
「……ん……ここは……」
「ここは『木竜王のねぐら』の地下。落とし穴の落ちた先。憶えてない? 奥にいた偉そうな【神官】のおっさんが落としたんだよ」
「……あぁ……そうね……それで、どうして貴方までここに?」
「もちろん、放置したら死んでしまうから助けにきたんだよ。全快はしていないだろうけど、もう生死を彷徨う事もない程度には回復されているはず」
そう言うと、彼女はフラフラと立ち上がる。
「とりあえず、アンデッドがリポップするかもしれないから、移動するけど……どんな事情があったのか教えるくらいなら、バチは当たらないと思わん?」
彼女は一言、「わかりました」とだけ言いながら、俺に続いて付いて来た。
このフロアから抜ける道は2つ。ただし、1つは土砂で埋まってしまっていて、実質1つだけ。それも扉が閉じていて、その先が出口に繋がっている保証はない。それでも向かう先はそこしか無かった。
「王室内では、王位継承権の上位の者による争いが絶えません。表向きはリムザ姉様が【聖女】を賜ったために次期王とされているのですが、元々はカナディ姉様が継承権1位だったのです。それに、わたしは【学者】。リムザ姉様が【聖女】でないことは知っているのです。多分、それが原因でわたしを殺そうとしているのだと思います」
そこまで聞くと、扉の前に着いた。
「開けるから、少し離れて」
バレないように〈サイコキネシス〉を使ってかなり重い石の扉を開く。
慎重に気を付けながら部屋に入ると、ユッカンヒルデもゆっくりと中に入る。
2人とも部屋に入った瞬間、重かった石の扉が凄い勢いで閉じた。
「……!!」
多分、罠。そんな言葉が脳裏を掠め、改めて武器を構える。
「……敵は正面。相手はロックゴーレム。レベルは5よ」
ユッカンヒルデがそう告げると同時にそのゴーレムは立ち上がる。
「ちなみに鈍器以外の物理攻撃は無効。弱点はあの腰の部分である大きな核」
「ご丁寧に情報ありがとさん。貴女は下手に攻撃してヘイトがそっちにいくと困るから何もしないでいてくれ」
そう言いながら攻撃を何度か仕掛けてみたが、やはりコアへの攻撃は難しいと実感した。
……これ、ヤバいかもしれん。
絶望感は無いものの、ゴーレムの懐に入れない。しかも、一撃でも入れば致命傷の可能性が高い。
「仕方ないわ。わたしも力を貸すから何とかして!」
メディスがそう言うと、地中から急遽伸びてきた蔓がゴーレムに絡みついたかと思うと、転倒させる。
「クソッ、武器が通れば……こんのぉ!!」
……〈テレポート〉
間合いを一瞬で詰める。ここで潰されたら確実にヤバいけど、何度挑んでも近づけない以上、これしかない。
……〈サイコブラスト〉!
パキパキ……。
ゴーレムのコアにひびが入る。……もう一撃……。
そう思っていた瞬間、ゴーレムの拳が迫る気配があったが、迷わず撃つ。
パリン……コアが砕けた瞬間、倒れるゴーレムの身体がのしかかってきた。
……痛い……。意識だけは失ってはいけない。
意識を失うと〈マーク〉が解けてしまう。そうなると、脱出手段は無くなってしまう。……まあ、今日は罠があると知っていたから、当然入り口に短剣を刺して〈マーク〉してあるんだけど、気絶したら台無しだ。
「ちょっと、大丈夫ですか?!」
メディスが蔓を使ってゴーレムの身体を持ち上げ、俺の身体を引きずり出す。
「ゴメン……ちょっと休憩……」
骨、何本か逝ってそうではあるが……そんな俺をメディスが治療し始めた。
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