コテージに戻って待っていたのはサクリにとっての地獄だった
「ごめんなさい。待たせちゃったのね」
「おはよう、メディス。俺達も準備が今整ったところだから大丈夫。……んじゃ、行こうか」
夜の夕飯時には『木霊王の古祠』に一度戻っていたメディスが朝、戻ってきたタイミングで俺達はルースヴァルトの里を出発した。
「待っててくれると思わなかったな」
移動を開始して、すぐ。メディスは俺に並走……飛んでるけど……しながら、ボソッと話しかけてきた。
「俺は最低でも自分がされたくないことはしないことにしているんだ」
「何それ? そんな自分がされたくないことなんて人それぞれじゃない?」
「そうだよ。でも、自分がされたくないことをしてしまったら、自分にもして良いという合図になっちゃうからね。……だから、俺はメディスを置いていかない」
「……ふ、ふ~ん」
……なんか嬉しそうだな。この妖精、素直じゃないだけか?
「……あのさ……ごめんなさい」
「ん?」
「わたしが契約を延期した理由を話したでしょ? アレって一部嘘なの」
「嘘? ……言い分的には正しいと思ったけど」
「本心は、危険だと知っているけど物質界を少し見て回りたかったから……ごめんなさい」
……俺、割と本気で嫌われていると思っていたよ? ガチで。
森を抜ける寸前。思ったより早く森を抜けられた。今回は最初から森から出ることを目的として歩いていたからかもしれない。
「森、出ましたね。……じゃあ……変身!」
「「はい?」」
思わず反応してしまった俺とマオルクス。何故かっていうと、ワカナディアが特撮ヒーローのように腰のバックルに両手を添えて「変身」と言ったから。
派手な変身モーションを期待していたのだが、残念ながらそんなものは無く……尖っていた耳が丸くなる。
「えっと……何を?」
「あぁ、そっか。えっと、この魔器『変身の腰紐』を使用してヒューム族に変身したんです。ヒューム族の集落に向かう際には必須のアイテムなんですよ」
……ん?
「もしかしてだけど、それって割と沢山あったり?」
「そうですね。ヒューム族以外は割と珍しくないかもしれないですね」
「もしかして、その『変身の腰紐』で人の姿になったヒューム族以外の人が来ている可能性ってある?」
「そうですね。エルフはいないと思いますけど、他の種族の方なら」
……やっぱりか。それなら、街の中で暮らす亜人種もいる可能性があるのか。だからといって、どうしたってわけでもないけど、一方的な関わりが不公平だと思うから個人的にはあまり好きではない。
「それって、もしヒューム族が使ったらどうなるの?」
「何もならないですね。発動してもヒューム族の姿になるので」
でも他種族への差別意識が消えない限り、本来の姿での交流は難しいかもしれん。
トレーポコまで戻ってきて、ここからは馬車移動。……だが、時間は昼前。今から移動すると中途半端な場所で野宿になる。3人の様子を見て判断し、村の外側でキャンプして明日に備えることになった。……荷物も重いしね。
何気にエントから頂いた品が多く、ルミナスの時は直ぐにコテージに格納したから気づかなかったが運ぶのは割と大変だった。それでも、途中〈サイコキネシス〉で運んだので負担は最小限。流石に誰かと遭遇しそうな距離になってくると少々大変な思いをした。
……こういう時にお約束のアイテムボックス的なものがあれば良いと思ったけど、残念ながらそんな便利な仕様は無い。
「あの、サクリさん」
「どうしました?」
コノミリナさんが神妙な面持ちで話しかけてきた。
「サクリさんのチームではノーマル職も仲間にしていましたよね? わたしも他の方と同じ条件で構いませんので、仲間に入れて貰えませんか?」
「何故?」
「……わたしは知っての通り新人【木工師】です。ですので、『エイゴー』で働くことはできません。仮に働けたとしても嫌でしたが……ですが、来るときに話をさせて頂いて、素材を現地調達して加工しながら修行するという行為を素晴らしいと思って……もちろん、冒険者になるからには戦闘も頑張ります。……ダメですか?」
良いも悪いもないなぁと思い、俺以外の全員に入る許可を得られたらと毎度の条件を出した。
村の食堂で夕食を終えたタイミングで、今度はリサエラさんに呼び出された。……何となく嫌な予感がする。多分「仲間に入れてくれ」って言われるのではないかと思いつつ、彼女に付いて行った。
「あ~、プリン屋さん、閉まってる……」
「いや、そこはプリン屋じゃないよ?」
……確かに、その店には元祖巨大チョコプリンと書かれている。だが、そこはプリン屋ではなく、多分子供相手に商売している雑貨屋。
「知っているけど、プリン以外に用はないです」
……お、おぅ。
「まぁ、時間的に閉まっているのも仕方ないですよ。また食べに来れば良いじゃないですか」
「う~」
……うん、反応がちょっと可愛い。
「ねぇ、サクリさん」
「うん?」
彼女はポケットからアイアン級冒険者カードを取り出す。
「実は冒険者していたんです。外されちゃいましたけど……サクリさん、仲間に入れて?」
予感はしていたので、苦笑しつつ例によって同じ決まり文句を彼女に伝えた。
リサエラさんが希望するなら、いずれサツミルさんも言ってくるだろう。そしたら、また同じ答えを返す。そう心に決めていたが、結局言ってこなかった。とはいえ、何も言わないことはないだろう……多分明日……そう考えていた。
流石に村の傍とはいえ、絶対に安全とは言い切れない。当然ながら見張り登板を決め、2番手になったので早々に寝ようとしていた。
「こんばんは。就寝前に失礼しま~す」
「何かありました? あんまり、就寝している男性のテントに入る行為は感心しませんが」
目も開けず、横になったまま彼女に問いかける。しかし、彼女は寝ている俺に覆いかぶさる。
「ちょ、何して……」
「サクリさん、わたし……仲間に入れてほしい」
「それを言うために、薄着で男のテントの中に?」
「……男の人なら、こういったサービスは好きでしょ」
俺はそのサービスの受け取りを拒否し、彼女をテントから追い出した。
「どうしたの?」
2番手の見張りは俺とマオルクス。16歳の姿の彼女はスキンシップしないでいてくれるので、正直助かる。
「依頼者の3名から冒険者チームに入れてくれって」
「そっか。色々覚悟しておいた方が良いよ? 君、モテモテだから」
マオルクスの冗談を軽く聞き流しつつ、女難が命を狙いに来る頃合いだと覚悟をした。
「た、ただいま……」
「おかえり!」
……ゴフっ!!
リヴァヴィルまでの道中も色々あったけども、無事に町に到着し、コテージに着いたのだけど、帰って早々リリアンナから抱擁という名目のタックルを喰らう。
「い……痛い……」
昼食前の到着というだけあって、どうやら全員が揃っていた。くっついているリリアンナを引っぺがして、みんなを紹介しようとした。
「おかえりなさーい。サクリさん!」
……ゴフっ!!!!
今度はサティシヤによるタックル。この子はそんな事をする子ではなかったのに……。
「ただいま……痛いって……」
「おかえりなさい、サクリ君!……って、キャッ!!」
勢いに任せてタックルしようとしたハルチェルカを華麗に避けて……一息吐く。
「みんな揃っているよね? ちょっと聞いて欲しい」
そうは言ったが、周りは既に気づいている感じだった。
「……どうぞ」
注目が集まり静まったタイミングで促す。最初にワカナディアが『変身の腰紐』を解除する。
「皆さん、お久しぶりです。そして、初めまして。わたしはワカナディア。見ての通りエルフではあるのですが、仲間に入れて欲しくて来ました。よろしくお願いします」
その自己紹介で彼女が何者か思い出した者も含め、全員が予想通りチーム入りを了承する。
「デンドロム王国第二王女、カナディアラ=M=ソーンブルグ。サクリウス様に命を助けて頂いた者です。事情は後程全て語ることをお約束します。チーム入りさせて下さい!」
「えぇ?!」
……まぁ、姫様が来たらビックリするよな。……それでも了承されてしまうだろう。
「あと、今回の依頼主である……コノミリナさん、リサエラさん、サツミルさんも……」
「「「仲間に入れて下さい。よろしくお願いします」」」
そう言って、深々と頭を下げる。……まぁ、指摘こそされないものの、何故そうなったって思うよな? ……俺もそう思う。
「最後に、見えていないだろうけど……ここにいるプルームのメディスが仲間に加わった」
メディスが羨ましそうに見ていたから、勝手に紹介したら嬉しそうにしていた。
知っていたけれども……結局全員が仲間として受け入れられた。昼食後に女子達は揃って装備や必需品を購入しに行きつつ、教会でカナディアラの『天職進化の儀』をして貰い、冒険者チームの登録も行ってきたらしい。
全員が戻ってきた夕飯前。俺は調理場にいるシオリエルにも聞こえる声で伝える。
「これから、カナディアラに縁のある者を救出するため、アルボンニウに戻る。多分、そろそろ危険な相手と遭遇すると思う。準備と覚悟をしておくように」
むしろ、ここまで運よく想定外の事が起きなかったことの方が不気味なんだよ。絶対に何かのフラグだったりするんだよな、こういうのって。
「……んっ……」
翌朝。確かに1人で眠っていたはずなのに、気づけば添い寝されている。この感覚も久しぶりで、気づけなかったのは久しぶりのテント生活で疲労が身体に蓄積されていたからかもしれない。……だとしても。
「言っても聞かないな……」
「おはようございます、主人。久しぶりでしたので我慢できませんでした」
久しぶりと言う程の日数ではないと思うんだけど……ん?
股間に違和感。……いや、むしろ懐かしさすら感じる。思わず布団を捲って確認する。
「……んっ……サクリさん……寒いです……」
いつの間に、メディスがルーチェと同じ体勢で俺のズボンの中を占拠していた。
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