木の上位精霊エントと中位精霊ドリアード
……思っていたのとは違う……。
それがエントと対面した際に抱いた感想だった。
木の上位精霊と言えば、大樹の姿やエルフのような女性の姿を予想していた。木の精霊のイメージってそんな感じなのも、前世で見た異世界アニメが参照元である。
「ようこそ、冒険者サクリウス。そして、久しぶりですね、カナディアラ姫」
ママ味溢れる大人の女性の声。声だけで想像するなら、かなりの美女を想像しただろう。
「久しぶりね、エント」
平然と彼女は答えたが、果たしてエントの耳に彼女の声は届いたのだろうか?
「初めまして」
半信半疑ながら、カナディアラと同じくらいの声量……あくまで普通に挨拶をする。
エントの姿は高さ10メートルくらい。幅10メートルくらい。奥行は20メートルくらいあるだろう……そんな巨大な亀だった。全身濃淡はあれども緑だから一応ミドリガメ?……っていうか何故、亀?
「2人とも、結果として急いで呼んでしまったこと、本当にごめんなさい」
「どうして、そんなに急いでいたの?」
「時間の関係よ。貴女、実体で来たのは初めてでしょ? 物理世界は時間に縛られるからね」
何を言っているかは理解できないが、時の流れ具合が体感と大きく違うことは前回から学んでいる。
「それで急用だったんでしょ?」
「いえ、来て頂いたのだから、もう急ぐ理由は無いの。早めに、こちらの時間域に入って欲しかっただけだからね。それにわたしが話さなければならないのはサクリウスよ。貴女に用事があるのは別の者です」
カナディアラは一国の姫とはいえ、相手は上位精霊。旧時代の神と言っても過言ではないと思われる存在に対し、まるで庶民の家族のような話し方をすることに恐れ知らずかと内心はヒヤヒヤしていた。
「俺ですか?」
「えぇ。話はルミナスから聞いているとは思うけれど、貴方に力を貸すということで、こちらからもヒューム族が使える魔器や素材に使える品などを用意しました。帰る時に土産として渡しますから、有効に使って下さい」
「ありがとうございます」
実は結構貴重な素材をくれるんだよな。ただ、信頼に足る技術者がいないだけなんだよ。
「それと、助言です。貴方は女神の計らいにより、多くの力を手に入れる素養があります。ですから、積極的にユニーク職持ちの方を集めるのです」
……ユニーク職?
やはり、俺の環境はナンス様による企みか。なら、転生したのは何かをさせるためなのか?
「ユニーク職持ちを集める……か。出会う機会はナンス様によって与えられていて、声を掛ければ仲間入りも不可能ではない状態になっていると。……何故、俺なんだろう?」
「詳しくは知りませんが、この役割はサクリウスだけが可能なのだと……そう理解しています」
言い回し的に、ナンス様とは会話をしたわけでなく、超感覚的な理解みたいな感じなのか?
「女神ナンス様に聞いたわけではなく?」
「もちろん、本人から聞いたわけではないですよ。ただ、未来に起きることから考えるとそうとしか思えないというだけの話です」
あ~、そういえば、未来を知っているのか。
「知っていたら教えてほしい。……ヒューム族の間では、邪竜王が復活するとユニーク職を授かる者が増えるという共通認識がある。それは事実か?」
多少話を盛って聞いてみたが、結果論として話してくれるだろうか?
「それは誤りです。そもそも、邪竜王が復活するのは初めてのことで前例はありません。そして、ユニーク職を賜った者が多く現れているのは、邪竜王復活と直接関係ありません。まぁ、全く無関係とは断言できませんが……知る限りでは偶然の産物ですね」
「……偶然……かぁ」
ルミナスの時と違い話す時間はたっぷりあるようで、今回は追い立てられることもない。まぁ、代わりに早く来るように急かされたわけだけど。
「そもそも、ユニーク職とは何なんだろう?」
「ユニーク職は普通に生きてきたら得られないような経験を得た者が授かるヒューム族固有の天職ですね」
……おぅ、精霊でも天職の事知っているんだ……。
「あのぉ、わたしからも1つ尋ねても宜しいでしょうか?」
後ろで聞いていたユイディアが遠慮がちに尋ねる。
「何でしょうか?」
「質問を許可して頂きありがとうございます。わたしは【修道士】のユイディアと申します。質問はユニーク職についてです。【聖女】の天職はどのような方が賜るのでしょうか?」
「……わかりません。結局のところ女神の思いつきだと思いますから」
「そうですか……答えて頂きありがとうございました」
……まぁ、そうは答えていたが、俺にはエントの答えた内容で想像が付いてしまった。もちろん、ナンス様本人に確認したわけでもないし、検証もできないのだから正解を知る術はないだろうけど。
【聖女】を賜る可能性のある者は、正しく【聖女】という存在についてイメージできている人だけが賜るのだろう。逆に言えば、デンドロム王国に伝わる聖女伝承は正しく【聖女】について伝えられていないということになる。
「続きの質問。最初の『天職進化の儀』でレア職を賜った後、レベルクラウンになった後に『天職進化の儀』をした際にユニーク職を賜ることはある? そして、そのタイミングで賜った人も俺やマオのような存在なのか?」
「当然、レア職を賜った後にユニーク職を賜る人は稀にいるようです。ですが、貴方達のような存在は最初の儀式でユニーク職を賜った者達だけです」
……言葉、濁してくれて感謝。
「ありがとうございます」
つまり、転生者は間違いなく最初にユニーク職を賜った者。ただし、ユニーク職持ちは必ずしも転生者ではないということか。
……答えて貰えるとは思わなかったが、それが答えられるなら、コレを聞いてみても良いかもしれない。もちろん、期待はしてないけれど。
「俺からは最後の質問になるけれど。力を手に入れる素養……言い回し的に仲間が集められる的な意味だと解釈したけど、合ってる?」
「えぇ」
「なら、現状女性ばかり集まって来るんだけど、それも女神ナンス様の計らい?」
尋ねると、エントは数秒の沈黙。
「答え方が難しいけれど、全てではないという言い回しが正しいのかもしれない。確かに女神に導かれて仲間に加わった者がいることをわたしは知っている。でも、女性だけしか集まらないようにはしていないですね」
……今の状況は結果論ということか?
「つまり、生まれる前からナンス様は俺に何かをさせようとしていたということ?」
……だとするなら、ナンス様から直々に説明があっても罰は当たらないと思うんだけど。
「判りません。わたしは未来の状況から察することはできても、女神の考えていることまで知れないし、何をしたかなんてことも観察できるわけではありません」
あ~、そういえば。俺達がいる物質界に干渉できるのは、妖精界と冥界のみだと聞いたな。それで、精霊界は妖精界に干渉でき、神界や魔界は冥界に干渉ができる。それが事実であれば、精霊界から神界は干渉できんわけで。
「ただ、物質界に今、女神の事情に精通している者がいます。その者は仲間になることはありませんが、必ず貴方達に接触します。その際に話を聞くと良いでしょう」
「その人の名前は? 何処で会える?」
「名は確か、シーナッツだったと思います。場所はまだ判りません」
……場所が判らない? まだ未来が確定していないってことか?
どうも、未来予知というのは確定するのは数秒前。それまでは数パターンの可能性がある。とはいえ、そのパターンが全て完全に違う内容というわけではない。過程で似た事象は存在しているということで、言える範囲と言えない範囲というのが存在する。……全部、【念動士】としての知識だ。
「そのシーナッツって何者?」
「判りません。ただヒューム族の雌のようには見えます」
……嫌な言い方だなぁ。断言しないんか。まぁ、見た目だけってことだよな。
「そっか、ありがとう」
今のところは女神が何かをさせたいという事ではないのか?
「それと、貴方に女性が集まるのは、貴方に何かをさせたいのではなく、女性側の都合もあるという事を考えてみても良いかも知れません」
……あぁ、言われてみればそうか。つい自分中心に考えていたけど、そういうのもあるのか。
「話は終わりですね? ……それでは、わたしからの助力を授けます」
そういうと、木の下位精霊のメリアス達が重そうに宝箱を運んで来る。
「中を見ても?」
「どうぞ」
……多分、ルミナスがくれた物と似た感じだろうけど。
「わぁ……」
思わずユイディアから感嘆の声が零れる。初めてみるなら、確かにそういった反応になるよね。
「魔器に魔銃……それにこの本は魔導書だよね? それに素材の類も入ってる」
……うん、内容は変わらない。ただ、木の精霊界だけに木属性の品ばかりって感じかな。
「エント、ありがとうございます」
「いえ。わたし達の願いを叶えて貰うための前報酬です。それに力を集めることは、貴方自身の願いを叶えるためにも必要なことでしょう」
……俺の願い……推し達の後日譚……後日譚を確認するには、推し達が犠牲になる前に『邪竜討伐軍』に邪竜王を討伐して、メインストーリーのエンディングを迎えて貰わないといけないんだけどね。
「えーっと、それはどういう意味で?」
「貴方が目的としている者達の中には、世界を歪める者達の手によって想定とは違う危機に遭っている者もいます。その者達を助けるには力が必要ということです」
「その力がユニーク職?」
「そうですね。相手はユニーク職なので、立ち向かうには同じユニーク職の力が必要となるでしょう。……もちろん、犠牲をいとわないのであれば不可能ではないと思いますが、多くの犠牲を覚悟しないといけません」
「それは望むところじゃないな。ゲームじゃないんだから、失敗しても良いとは思えないし、命の価値は重い。無駄にできるものじゃない」
……まぁ、ゲームでもヌルゲになるくらいレベル上げはするタイプだけども。
「そうですね。それに……」
「それに?」
「まだ確定ではないですが、この『邪竜討伐軍』は負ける可能性があります。その未来を阻止するためにも、貴方達には頑張って貰わないとなりません」
その一言に俺は思わず一瞬言葉を失った。
……何それ、やばくないか? 『邪竜討伐軍』が負ける? ありえないんだが?
一瞬だけフリーズした思考を再起動し、それは問題だと受け入れる……いや、ポンコツすぎるだろう? ……いや、初見プレイでクリアまで行くのは、もしかして難しいのか??
「さて、それでは宜しくお願いしますね、冒険者サクリウス。……話は終わりました。出て来なさい」
「はい、エント様」
そう言って虚空から現れたのは……鹿だった。……鹿……角があるから牡鹿? でも、聞こえてきたのは女性の声。
「やぁ、カナディアラ」
「ドリアード!」
……はい? ドリアード??
ドリアードってアレだよね? 木の精霊で……って、その思考ルートは既にエントの時にやったわ。……まぁ、エントが亀だからね。ドリアードが鹿でも不思議じゃないのか。
「貴女がわたしを呼んだの?」
「そう。カナディアラ……わたしと契約をしましょう」
……契約……やっぱり、同じなんだな。
「何の契約?」
「わたしの古き友を助けて欲しいの。その代わり、貴女を【豊緑騎士】まで導いてあげる」
意味が解らなかったのか、困った表情で俺を見る。
「【豊緑騎士】とはウルトラレア職の精霊騎士。木の精霊術と近接戦闘をこなす英雄候補になれる天職だよ」
「そうなんだ……いいよ。その代わり、わたしの力にもなって貰うけど構わない?」
カナディアラの問いにドリアードが同意したので契約は成立に至ったようだ。
「じゃあ、まずは【風水士】になって貰わないとだね」
「それは助かるけど……そんなことできるの?」
ドリアードの言葉に疑問を持つカナディアラ。彼女的には初めから冒険者志望だからレア職を賜ることが確定するのはありがたいのかもしれないが、未来を知らないのだから当然疑問に思うだろう。
俺だって未来を知っているとはいえ、契約によって育成に苦労なく【豊緑騎士】まで成長するなんて知らなかったからね。
「うん、君を【風水士】にすることは可能……というか、決まっているからね」
その一言で、そういえば未来知っているんだったと納得してしまった。
「そっか。これで“サクリウスファミリア”の一員になれますよね?」
そう問われたけど……まぁ、手順は踏むけど……なるだろうと内心では思っていた。
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