エルフの里での食事会とデンドロム王国第二王女の事情
森の中、どう歩いてきたか記憶に無い。……冒険者失格? 確かにそうかもしれないが、無理なものは無理だ。
……しょうがないだろ? こんな展開になると誰が予想できる? 特に俺がこんな自殺行為をするとは正気を疑う。それが仕方ないことで、運命に強いられていたとしても。
俺達は今、世界樹より奥にあるエルフ達が暮らす集落“ルースヴァルトの里”へ向かっている。ただ、俺の斜め後ろを歩くカナディアラ姫は解呪された瞬間全裸になってしまったので、マントを貸して身体を隠して貰っているが、石化してから全ての状況を理解しているらしく現在進行形で首から上が赤くなっている。
そんな様子が面白くないのか隣を歩くワカナディアは何故か俺の腕に抱き着いて、『案内』という名目で離れない。
……健全な男なら美味しいポジションと思うところだが、俺は何時死んでもおかしくないと周囲を過剰なくらいに警戒していた。……女難さえなければ……と美少女に囲まれる度に怯えなければならない自分の運命が恨めしい。
……しかも、厄介なことにモテているわけでもない。これがポイントである。今、俺に向けられている感情は嫉妬心と羞恥心だと思われる……多分ね。
そして、何気に後ろから突き刺さっている複数の視線が痛い。何も言わないのは優しさなのか怒りなのか……怖くて表情すら見られない。それに、どっちにしろ、これだけ強い感情を向けられたら、生命の危機は近いだろう。……気のせいでなければ……気のせいであってほしい。
「着きました」
「おぅ……凄い」
エルフの家って、ログハウス的なモノだったりヒューム族と変わらぬ木造の家だったりをアニメなどから想像していた。しかし、目の前に広がる光景は大樹そのものが住居へと改造されたモノが主だった。
「あの、もしかして歓迎されていない?」
俺が口を開く前にマオルクスが思った事を言葉にする。
「そんなはずはないのですが……やっぱり怖いのかもしれません……ごめんなさい」
「……」
ワカナディアが謝ってから、それを合図にしたかのようにメディスが俺の後頭部に抱き着いて来た。……若干久しぶりな感触だと思いつつ。
「どうした?」
「エルフ族達の緊張を解こうと思ってね」
俺とメディスが会話をした瞬間、周りがザワザワし始めた。それに慌てて見覚えのある男性が近づくと俺の前で何か言って頭を下げた。
「……あの時は助けて頂きありがとうございました。我々は“サクリウスファミリア”の皆様を歓迎致します……と言っています。兄さん、すっかりヒューム語を話せなくなってしまって……でも、言っていることは伝わりますので、用事があったら話しても大丈夫ですよ」
「それは助かる。マサークイールさん、お久しぶりです」
……名前、ついさっき思い出したことは内緒。
「宴の準備をしています。それまでは部屋を用意していますので、ご自由にお休みください」
こちらとしても正直助かる。ずっと歩きっぱなしだし、この状況を何とかしないといけない。
他の家と同じく大樹をくりぬいたような部屋に案内され、各々椅子に腰を下ろす。これで落ち着いて話ができる状況になったわけで。先に口を開いたのはカナディアラだった。
「改めまして。助けて頂きありがとうございました。わたしはデンドロム王国第二王女のカナディアラ=M=ソーンブルグと申します。お見苦しいものを晒し、恥じる思いです」
俺の認識が正しければ、彼女は7歳から世間を学ぶ機会はなかったはず。だから、そんな難しい言い回しをしていることに驚愕してしまう。……ただ、どんな言葉を返せば正解なのか、何を言ってもダメな気がしてスルーするべきか悩んでいた。
「こちらこそ、色々配慮が足らず申し訳ない。俺は冒険者チーム“サクリウスファミリア”のリーダーでサクリウス=サイファリオ」
例え混乱していても、「ロリボイスに興味があるのであって、ロリボディには微塵も興味がない」とは口が裂けても言ってはならぬことくらいは自重していた。
……さて、大事な情報は聞かないとな。
「9年前から石化封印されていたと聞いています。しかも、魔法ではなく呪詛の類とも。何があったのか教えて貰えますか?」
つい、小さい子に話すように言いそうになるが、相手は一国の姫。言葉を慎重に選びながら尋ねてみる。
「当時の状況は詳しくは判りません。ですが、状況から7歳の誕生日を迎えた日の夜、眠っていたところを拉致されて、封印されたということだと思います。厳密には眠っていたので判りませんが」
「じゃあ、犯人も判らないですね」
「いえ、判りますよ。第二王妃の手の者の犯行ですね」
断言。……いや、俺も想像できていたけれど。でも、状況を考えると彼女は7歳である。その割にしっかりし過ぎているというか、彼女の反応に違和感があった。
「根拠がある?」
「ありますね。まず、この封印というか呪いの特性なのですが、肉体のほとんどが石化し、精神が肉体から切り離されるんです。ですから、わたしはレイスのようになっていて城内の情報を収集していました」
レイスのよう……つまり霊体ということか。ちなみにレイスとはアンデッドで肉体を持たないが故に物理攻撃が効かない厄介な敵……つまるところ幽霊のようなモノのことだ。
「そこで話を聞いたので間違いありません。それに、元々母様である第一王妃と第二王妃との間には立場的な確執があり……まぁ、それ自体は仕方ないことなのかもしれないですが、その対立を利用して権力を増そうとする人達が暴走を始めたのが原因だと思います」
……まぁ、正解だけど。あー、なるほど。霊体で様子を見ていたから状況を掌握していたということか……それにしても英才教育とは凄いんだな……7歳の頃の俺では理解できんわ。
「母様は王室の人達が支持していて、第二王妃は商人が支持しています。ちなみに第三王妃は当時から母様を支持しているので、わたしを封じる動機がないんです」
「つまるところ、カナディアラ姫を封印した連中というのは商人連中ということ?」
「そうですね。中心になって動いているのはそうでしょう。もちろん、商人の中にも母様の味方をしてくれている人もいるし、王室の官職の人達の中にも第二王妃の味方もいるでしょう」
……まぁ、そう言われればそうか。
「それもこれも『聖女伝承』のせいです。本当に情けない」
「『聖女伝承』?」
そう尋ねたのは意外にも、リサエラさんだった。
「『聖女伝承』の中身は簡単に話すと【聖女】リアライン様の伝承ですよ。混乱したデンドロム王国内を聖女様が導いて救って頂いたという伝承です。ですが、王族にとっては別の解釈もあるんですよ」
ふと、違和感。7歳の誕生日の夜に封印された割に、彼女の身体は7歳児相当には見えない。9歳~10歳くらいではないだろうか? 身長だって140センチくらいはありそうだし。まぁ、話の腰を折ってしまうので、今は黙っているが……。
「【聖女】の出現は邪竜王の復活に伴います。【聖女】に限らずユニーク職を賜った者が多いのは邪竜王に対抗するためとも言われています。ですが、それは即ち国が混乱することも暗示していて、その時に【聖女】が陣営にいる人達こそ国を治めるべきという女神様の意思だと思われているのです」
……うん、よくある話だろう。つまるところ【聖女】とは女神の使いであると同時に権威の象徴になるってことだ。だから、各陣営は【聖女】の確保を狙ったというわけか。
「あの……ひとつだけ確認したいことが……」
「皆さん、お待たせしました。支度が整いましたので、どうぞこちらに!」
最後にどうしても聞きたいことがあったのだが、ワカナディアが呼びに来たことで俺の問いは遮られた。
「何でしょうか?」
「いえ、後でにしましょう。今はエルフの方々に恥をかかせるわけにはいかないでしょ」
……ただでさえ、ヒューム族というだけで警戒されているのだから。
「そうですね」
「あの、よろしければ、こちらを。服が無いよりはマシだと思いますから」
「ありがとうございます」
着替えの邪魔にならぬよう、さっさと部屋を出て会場へと向かう。そこには豪勢な食事が沢山並んでいた。エルフだからメインは菜食かと思ったけど、そんなことはなく肉も沢山あって正直助かった。
「サクリウス様。及びお仲間の方々。我々は貴方達をエルフの友として認め、以降も里への出入りを許可します……と、兄が申しています」
感謝の意思表示として深く頭を下げる。……マサークイールさんって偉い人だったのか。
宴が始まると言葉は通じなくとも歓迎されていることが判り、ようやく安堵する。
「説明を尽くしましたが、やはり一定数解って貰えない者もいました。それだけ人攫いに対して敵意があるのも事実。ですが、サクリウスさん達は別にヒューム族の代表というわけではない。あくまで“サクリウスファミリア”の方々のみを友と認めるという話です」
マサークイールさんの言葉を通訳してワカナディアが話す。それを聞きながら、葡萄の飲み物を飲んで……直ぐに酒だと気づいた。
「エルフ族の秘酒、葡萄酒ですよ。お口に合いますか?」
アルコールに強いわけでは無いがワインの存在に正直驚いて深刻な問題を忘れてしまった。
食事が終わる頃には完全に日が落ちてしまった。
「すっかりゆっくりしてしまったけど、そろそろトレーポコに戻ろう」
世界樹を見る事はできなかったが、今はそれどころではないし、一度戻った方が良いだろう。
「ダメよ、エントが呼んでいるわ。そのまま『木霊王の古祠』に来て貰うわ」
「いや、しかし……」
メディスの言葉に従うことに躊躇する。厳密な意味でいえば、依頼人はチームの仲間では無いので、彼女達だけをルースヴァルトの里に残すことは当然許されないだろう。
「遠慮せず泊まって行ってください」
……確かに夜の森は危険か……そう判断してワカナディアの申し出を感謝して受けた。
そもそも来客など存在しないルースヴァルトの里には宿屋が存在しない。そこでワカナディア達が暮らす家と里の長の家の空いている部屋を借りて寝ることになった。
コンコン。
「はーい」
「あの……」
遠慮がちに入ってきたのは驚いたことにカナディアラだった。
「どうしましたか?」
「そのぉ……ご相談がありまして」
「相談?」
「厚かましいのは重々承知です。どうか、わたしを連れて国外に向かって貰えないでしょうか? 国に残っても殺されると思いますので」
「逃げる宛はあるのですか?」
彼女は首を横に振る。……まぁ、そりゃそうか。しっかりしているとはいえ、7歳である。
「何処かの町で『天職進化の儀』を受けて、レア職を賜った時には冒険者として仲間に入れてほしいのです。そうでなかった場合、護衛報酬を支払いますから……」
……まぁ、彼女は仲間になることは確定か。儀式をするまでもなく天職を知っているから。
「確定とは言えませんが、仲間全員に了承を採り次第、チーム入りは可能です。ですが、16歳以上のような言い方に聞こえましたが、本当に16歳以上ですか?」
「見えないでしょうけど、16歳なのは間違いないです。わたしの見た目は石化していて成長したように見えないと思いますが、中まで石化していたわけでないので心臓は動いていました。よって、肉体は確実に老化しています。ちゃんと16歳なんですよ」
……なるほどね。まぁ、予知夢にも出たのだから事実なんだろうな。
「サクリウスさん、わたしも仲間になりたいです!」
いつの間に聞いていたのか、ワカナディアが扉を開けて入ってきた。
「ワカナディアさん? 森を離れても大丈夫なのですか?」
「構いません。大陸を見て回りたいと思っていましたし、サクリウスさんが一緒なら心強いです。どうか、仲間に加えて頂けないでしょうか?」
「……えーっと、条件は一緒です。みんなが良ければ……でもその前に……」
里の方々の了承を得てからと伝えたが……既に了承済みだと言われてしまった。
いつの間に居なくなっていたメディスだったが、朝には傍に居た。夜間は寝に戻っているらしい。
「おはようございます。『木霊王の古祠』へ案内します。エントの催促がうるさいので……」
何でもないように話しているが、メディスが緊張しているのは見て判った。俺の予想通りであれば、きっと色々プレッシャーを掛けられているのだろう。
「行くのは俺だけで良い?」
「ダメです。呼んでいるのは、貴方と……カナディアラという雌の方」
「わたし?」
彼女は意外そうにしていたが、俺は直ぐにエントが何を考えているのか予想できた。
正直2人で行くことになるのなら、拒否しなければならない。
理由としては『光霊王の古祠』の経験から、また魔人族に襲われる可能性が予測できるから。
「メディス。『木霊王の古祠』へ向かう前に他の仲間を呼んで来たいんだけど」
「ダメ。同行を許されているのは、ここにいるヒューム族だけよ」
2人限定という訳ではないのか。でも、依頼人を守りながら戦うのは難しい気が……。
「『木霊王の古祠』に行くのですか? わたしもお供します」
「彼女の同行は可能?」
「……エルフ族の同行に許可など要らないわ。来たければ好きにすれば良いと思う」
……なるほど、扱いが違うのか。確かにプルームが普通に見える時点で差があるか。
「襲撃の心配をしているのでしょ? 大丈夫よ。今回は平気と伝えれば理解できるって聞いたけど、意味通じた?」
……あぁ、お見通しか……理解した俺はメディスに頷いて不安ながらも向かう覚悟を決めた。
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