別ルートメインシナリオ『眠れる森の姫君』
とりあえず、最大のピンチは脱したと断言して大丈夫……だと思う。
「それで、サクリウスさんは何故森に?」
「森で素材を探していたんだ。そしたら、メディスに奥にあると教えて貰って」
そう言って、どうせ誰にも見えないだろうと思いつつもプルームを指す。
「見えないだろうけど、ここにプルームがいて……」
「見えますっていうか、見えるんですか?」
彼女は驚き、そしてエルフ語で周りに何か伝える。
「でも、そういう事でしたらお手伝いしますよ」
「ありがとう。正直助かる。あと必要なのはそこに生えている『音精の殻木』と『ファウナー』という花を探しているんだ」
彼女は少し考えて、俺達にちょっと待つように言ってエルフ達と何かを話し始めた。
「サクリウスさん。お手伝いします」
数分話し合った後、彼女はそう言った。ただ、話し合っていた時間は意味こそ解らないものの割と激しい口論だったような気がする。
「嬉しいけど、大丈夫?」
「はい。心配しないで下さい。……それに、こちらにも少し事情がありまして」
「事情?」
俺達を囲んでいたエルフ達は撤収し、ワカナディア1人だけを残した。普通心配でもう1人くらい監視を残すのではないかとも思ったが、そうしなかったのは彼女を信用しているから……いや、もしかしたら俺達の思いつかないような方法で監視されているのかもしれない。
『音精の殻木』を収穫後、『ファウナー』の群生地へ案内すると言われ、そこに向かう間に彼女から聞いた事情というのが、複雑な気分にさせた。
「以前からヒューム族による人攫いが横行していて。なので、ヒューム族が森へ入ってくることに抵抗のある人達が多くなっているんです」
確かに亜人種に対する扱いについて問題になることは多い。エルフ族では聞いたことはないが、遥か遠方の何処かの国では復讐のために亜人種がヒューム族の都市圏に攻撃を仕掛けてきたり、生活を保障するよう圧をかけてきたりする集団もいるらしい。
「事実として、我々の仲間は行方不明になってから発見されることが無いんです。もちろん、全てがヒューム族のせいではないと皆知っています。ですが、誘拐された者も居るのも事実。ですから、サクリウスさん達を発見して森から排除しようと動いていたわけです」
どんな世界にも似たような問題はある。……実際そんな現場に遭遇しているしなぁ。
「それでエルフの方々がピリピリしていたのか……まぁ、気持ちは理解できる」
「言っておくけど、わたし達だってヒューム族の全てが悪人とは思っていないです。でも、やっぱり、そういう人もいるのも事実です……残念ですが」
「それは仕方ないっしょ。どんな種族でも同族が一番大事なのは当たり前で、知人でもない異種族に対し、そうじゃない奴は利権が絡んでいるか、病んでいるかのどちらかでしょ。むしろ、そんな人達を抑えてくれてありがとう」
そう伝えると、彼女は嬉しそうにニコッと微笑む。
「それで、かなりの人数で森を見張っているの?」
「あっ、いえ。今回はたまたまです」
「たまたま?」
先程までの嬉しそうな表情が問いによって少し曇らせてしまった。
「実は近年、困っていることがあって……どうにかしたいと思っているのですがどうしようもなく……」
「困っていることって?」
「ここ『世界樹の森』の大半はわたし達エルフの居住区画なんです。それこそ、ヒューム族がデンドロム王国を建国する前から」
……でしょうね。
むしろ、ヒューム族が海岸沿いに国を興したのは、大陸の歴史からすると、ごく最近と言っても過言ではない。むろん、ヒューム族からすれば、既に何百年も昔の話なのだが、エルフ族の寿命は千年。彼等にすれば、まだ最近の出来事なのかもしれないし。
そして、ワカナディアの話し方から、彼女なりに気を使って言葉を選んでいるように思えた。
「エルフの集落があるんだ?」
「あります。一応、大陸一大きいと言われています……実際はどうか知らないんですけどね」
「やっぱり、他のエルフにはあまり関心ない?」
「みんなはそうですね」
……なるほど。エルフとは閉鎖的な種族。そういう認識があったけど、事実なのか。
「それで、わたしが生まれる前の話ですけど、ヒューム族の国が興ってから、よく森を訪れる人達っていたんですよね。生きるために森の恵みが必要なのだろうと、当時の里の長老が森の外側には立ち入っても咎めないようにしようという方針を決めたらしいです。でも、それと同時に襲われていても助けない。……原則関わらないという方針ですね」
森はエルフのエリア。だから他種族は来るな。……その方針も理解できるんだよな。ヒューム族の中にもそういった考えの者もいるからね。
「ところが、そんな風に無関心を貫いていたから気づくのが遅くなったのかもしれません。実は、森に我々エルフが介入できない場所が出来てしまったのです」
「どういうこと?」
「森の中で猛毒に包まれて近づけないエリアが出来ていたんです」
その毒は風で霧散されることもなく、毒の発生源にも心当たりが無いと言う。とはいえ、棘の罠では無いようだし、カナディアラの封印とは関係無い……ということか?
「えーっと、それって、いつから?」
「そうですね……確か9年前くらいだと思います」
……あ~。念のため聞いてみたけど、やっぱり封印の件だな。でも、だとするなら随分状況が変わっていることになるんだけど。
「そっか」
「心当たりがあるんですか?」
……しまったな。そりゃ、聞かれるよな。
そもそも、【剣の乙女】によるデンドロム王国入国が海路ルートだった以上、『竜騎幻想』で言うところのカナディアラを救出する別ルートのメインシナリオ『眠れる森の姫君』が発生することなく、永遠に眠りっぱなしで放置されて終わるわけだから。
けれども、例の予知夢がある以上、高確率で俺は今回で仲間にすることになる。つまり、彼女を助ける手段があるということだ。
……香木剣“ミストルテイン”が無くとも封印が解けるということ?
「正直、見てみないと何とも……」
「そうですか……あっ、着きました。ここですよ」
雑談しながら歩いていると、一面花だらけの広場に出る。
「わぁ」
「すごい……」
そこにはいろんな種類の花が咲き誇っていて、『ファウナー』だけでなく、珍しい花がいくつも咲いていた。
思わず女性陣達からの感嘆の声が漏れる。
「『ファウナー』でしたよね? 1輪で良いですか?」
「はい、ありがとうございます」
どうも自由に入って良い感じでもないらしく、ワカナディアがササッと1輪だけ、取って来る。もちろん、直ぐに枯れないように根っこから丁寧に傷つけないように掘り起こして。
「これで必要な素材は全部ですか? ……でしたら、少しお付き合いして頂けませんか?」
「あ~、さっき話していたところを見に行くんですね? もちろん行きます。……もし、何もできなかったら申し訳ないけど」
「いいえ。それはこちらも了承済みですので。……さぁ、行きましょう」
自分の知識から無理と断定するべきか、予知夢からカナディアラを救出することで封印を解除できるのか……本当に解らなかった。
歩くこと数分。俺の知らない状況が眼前にあった。
「……なんだ、これ?」
「これ以上近づくと危険です。その黒っぽい靄を吸い込むと猛毒で死に至ってしまいます」
よく見ると、靄の近くには小鳥の死骸が落ちている。……正直、可哀想だ。
「なるほど」
靄の奥を頑張って見てみる。……断定はできないものの、何か人っぽい物が封印されているのが判った。
「……この毒の靄はドーム状に展開されていて、上からも入れないよ? あと中は石化した人間の雌が横になって置かれている。……どうする?」
そう言ったのはメディスだった。
「何で判るん?」
「見てきたもの」
先程まで黙って付いて来るだけの彼女は急に説明を始め、靄の中に入って見せる。
「大丈夫なの?」
「わたしは木のプルーム。毒は効かないよ」
……凄いな、木のプルーム。
「やっぱり、妖精と話ができるんですね。ヒュームの方では珍しい」
ワカナディアが再びそういうものだから、やっぱり彼女には見えていると確信した。
「声は聞こえてる?」
「もちろん、聞こえてますよ。妖精を見る事ができないのはヒューム族だけですから」
……そうなんだ……。
「ですが、フェアリー語なので何を言ってるかは全く判りませんけどね」
……そう考えると、やっぱり普通に意思疎通ができることが異常なのか?
「そっか。俺は逆にその木のプルーム……メディスっていう名なんだけど、彼女しか見えない。言葉も彼女のモノしか聞こえないんだ。……で、メディス。その靄って中も靄だらけ?」
「ううん。中は普通だよ?」
あ~、なるほど……どうすれば良いのか何となく理解した。
「それで、その石化の呪いを解呪する方法は知ってる?」
「知らない。でも、貴方なら知っていると聞いたけど」
……はい?
「ねぇ、ユイディア。石化を解呪できる?」
「……ごめんなさい。石化の状態異常は治療できるけど、これは呪いなので今のわたしにはできないです」
……ですよね。そもそも、『竜騎幻想』には石化という状態異常が存在しない。それでもタダの状態異常であれば治せると言えるだけユイディアは凄いのだろう。
だけど、予知夢から俺には解呪する手段があるというのは、メディスの発言と一致しているので実際に可能なのだろう。
「まぁ、とりあえず……」
……〈テレポート〉。
メディスを信じて瞬間移動を試みて、無事成功する。
「入れた。ちょっと試してみる」
靄の外側に向かってそう言うと、確かに寝かされた石像がある。
ゲームやアニメだと定番ではアイテムを使う。某針とか、某薬品とか。……当然、そんなものは持っていないし、このイヴァルスフィアに存在していない。某薬品はもしかしたらあるかもしれんけど。
「なら、後は……呪いの解除方法の定番といえば……」
違ったら恥ずかしいのだが、とりあえずその石像の唇にキスをしてみた。……間違っていたらタダの変態である。
パリーン!
石が砕けるというより、ガラスが割れるような音と共に石化が解除され、カナディアラの身体が元に戻り、黒い靄が徐々に消えていった。
「……マジか」
「その……助けてくれてありがとうございます……」
目を開けた彼女は顔を耳まで赤く染めて口元を抑えながら礼を言う。
「もしかして……石化されている間の周囲の状況を知っていたりします?」
黙って頷く彼女に、「やってしまった」と深い後悔の念を心に刻んだ。
「サクリウスさん、ありがとうございます! 是非、里に寄って行って下さい」
気が動転しているのと、拒否できる状況でもなく、俺はワカナディアの提案を了承した。
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