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想定内の『邪竜討伐軍』の動きと想定外のクエストの受注内容

 ユイディアとカオリアリーゼは登録を終えて冒険者になった。嬉しそうに真新しい黒い冒険者カードを眺める様子は既に何度も目撃している。


 ちなみに登録は出発前のデラフトウッドで行っていた。ナッツリブア冒険者支援組合は当然王都のアルボンニウの方が大きく処理が早い事は承知しているものの、彼女達の背景を考えれば手続きに多少の時間が必要でも、デラフトウッドで登録して正解だと思う。


 多分、「元【聖女】候補が冒険者になった」という噂が広まるのは若干遅くなるだろう。


「念願の鍛冶屋……本当に助かったぁ」


 ……いや、本当に。


 クレアカリンとハルチェルカの意見に内心同意する。多分話に加わっても何もないとは思うけれど、女難は何処から来るか判らない。だから依頼関連でもない女同士の会話には極力加わらない。……いや、上手にボケる人には思わずツッコミいれちゃうんだけどさ。


 紹介状を持参し、カオリアリーゼの案内でフェイストラ家と親しくしている鍛冶屋を紹介して貰い、チームの武器のメンテを頼んで無事に完了した。


「ところで『邪竜討伐軍』の話って何か聞きました?」


 カオリアリーゼが【鍛冶師】の男性に世間話でもするかのように話しかける。


「あ~、ウチにも来たよ。武器のメンテしに来たけれど、今頃『世界樹の森』に行っているんじゃないかな?」


「何をしに行くとか聞いてますか?」


「いや、だって、正直それどころじゃないだろう?」


「……確かにそうですね」


 前に来た時に判っていたことだが、やっぱり興味の中心は【聖女】に関することのようだ。


「それで、実家に戻ったって聞いたけど……それとも、これから戻るのかい?」


「いいえ。もう戻って帰って来たんですよ」


 ……余計な話をせずに聞き出してくれたカオリアリーゼは良い仕事をしている。


 鍛冶屋を出て、今後を考える。恐らく、『邪竜討伐軍』はシナリオ通りであれば『木霊王の古祠』へ向かったと思われる。そして時間を考えればクリア済み……と思いたいが正直怪しい。時の流れが違うことを知ったしねぇ。


「国内で仲間を拾うだけ拾って、森へ向かったって感じか。……そうなると、俺達も早々に森に行く準備をした方がいいのか?」


「森も良いけど、まずは家具買わないとでしょ! ねぇ?」


 ユミウルカがレイアーナとの会話を聞いていたようでユイディアに気を使う。……いや、今の独り言を聞いていると思わなかったんよ。


「わかった。とはいえ、ゾロゾロと大勢で行くものでもないし二手に別れようか?」


 食料調達班と家具調達班で別れる。俺は家具調達班として、当事者であるユイディアとカオリアリーゼの2人とメアリヤッカ、アミュアルナとマオルクスで木工屋へと向かった。




 ……この世界のスキルは万能だ。スキルを得られれば知らない知識を得て成功率は別としても試みることはできる。誰に何かを教わることも無く。


 ここは街の【木工師】と取引している木工屋。木造製品の専門店である。簡単に言うと、【商営師】が【木工師】から製品を買い取り、商品をストックし、一般客へ売却する店だ。


 そこには家具はもちろん、弓や矢、訓練用の木剣や木の盾。木靴から食器、楽器まで売られている。前世の知識があれば、それぞれ専門の知識が必要であり職人としては材料が木というだけの別の職種と認識するものだけど、【木工師】のスキルはそれらを全て製造することができるわけだ。もちろん、材料の揃えやすさや製品作成の成功率に差こそあるけれど。


「サイズ、大きいね」


 コテージの部屋は今後2人で1部屋使うことになった。大きすぎる家具は邪魔になるということで、困っていた。


「あのぉ、いきなりですが、家具をお求めですか?」


「そうですけど、店員さん?」


「いえいえ。あたしは【木工師】のコノミリナ=ハオルフオードっていうの」


 多分レベルは低いだろう。だって、同世代に見えるから。16歳か17歳……だと思う。いや、見た目を変える手段はいくらでもあるから絶対とは断言できんけども。


 穏やかそうな和む顔立ちに緑色の瞳。口元は緩く見えるがだらしないというよりは可愛いが先行する感じ……そう、例えるなら「ゆるキャラ系マスコット」。尻に掛かるくらい長い茶色の髪は少しクシャっとしており、運動直後……いや、熱心に働いていた形跡なのだろう。ズボンのポケットにはキャップ帽がねじ込まれており、少なくともお洒落のためではないようだ。


「それで、家具をお買い求めですか? どんな感じの物がご入用ですか?」


 凄い商売っ気を出しているようにも感じるが、どう見ても冒険者を相手に腰が引けているんだよなぁ。


「実は携帯用のコテージの部屋に置く家具類を揃えようと思っているんだけど、2人で1部屋を使う都合から小さくとも実用的なモノを探しているんだけどね……」


「なるほどぉ……だから買うのをどうしようか? 他の店も見に行こうかなっと?」


「そんな感じ」


 今、ここにはリリアンナもクレアカリンも不在で交渉担当が存在しない。なら、俺が交渉するしかないんだが。……それにしても、腰が引け続けているというのに愛嬌良く振る舞おうとする彼女に根性っぽい何かが見える気がする。声も僅かに怯えのような色が見えるのだが、注意深く聞かないと判らない程度だ。


「なら、どうでしょう? オーダーメイドとか作ってみちゃうとか? お安くしますよ?」


「うーん。何か裏がある??」


 そう問いかけて、普通は「何もない。ただお金に困っているから直接交渉を……」と話すのが一般的だと思ったのだが。


「いやぁ……実は欲しい木材があるんですけど、森は危険で……一緒に行ってくれる人が欲しいんですけど、ノーマル職って冒険者の仲間には入り難いじゃないですかぁ? だから、【木工師】が必要な冒険者の方と交渉できたらなぁって……ダメ……ですかね?」


 そう言って彼女は苦笑する。……そんな彼女に思わず俺も笑ってしまった。


「俺達、大陸中を巡るタイプの冒険者チームだよ? それでも仲間になりたい?」


「……はいっ! ただ、戦闘は素人なので教えて頂ければ何でもやります!」


 ……おぅ、正直者……思わず笑わせた彼女のセンスに敬意を払い、お試しくらいは良いだろうと条件付きで彼女の提案を受け入れた。




 コノミリアさんには、明日の5時に北門広場で待ち合わせをした。理由はコテージを設置した広場だから。実際、森へは北に向かい、北方の町リヴァヴィルを経由して西に向かう予定で、その理由と言うのが、恐らく『邪竜討伐軍』が『世界樹の森』から西方の町アルボルザフトから、トゥーベント王国へ向かう可能性が高いと考えたからだ。


 俺達は一番可能性の低い北周りを選んで『邪竜討伐軍』との遭遇を回避する予定だ。まぁ、俺達の噂はデンドロム王国では広まっていないので、後を付いて来ているとは思わないだろう。


「いらっしゃいませ~」


 次に訪れたのは薬局。お目当ての人は挨拶をしてくれたので直ぐに見つかった。


 緑色の瞳に橙色で頭上に大きなお団子髪。ゲームと同じなら名前は確か……リサエラだったかな?


「こんちわ。防眠薬下さい」


「あっ、ごめんなさい。それ品切れ中なんです……どうしても必要ですか?」


 そうそう。これで「はい」と答えれば、アイテムを要求される。


「必要ですね」


「そうですか……もう薬は生産せず、在庫を処分したら閉店を考えていたのですが……どうしてもという話でしたら、『カカオの実』が3つ必要なのです。『世界樹の森』に生えているのですが……一緒に採りに行って貰えますか?」


 ……あれ? 知っている内容と微妙に違うのだが?


「えーっと……はい」


「じゃあ、何時に行きますか? 急ぎですよね??」


 ……いやいやいや。取ってきて~って言われるだけ……あっ!


 今回は女難が原因ではないと思いたいが、心当たりはある。……例の『エイゴー』だ。どう考えても転生者の所業。本人が直接関わっているかは不明だが、絶対に無関係ではないだろう。


 ……でも、まぁ……『カカオの実』を採ってくるのは一緒だしな……。


「では、明日の5時、北の広場集合で」


「わっかりました~♪ あっ、もちろん品物とは別に護衛報酬はちゃんと払いますからね?」


 ……うーん。なんか面倒なことになったなぁ。


「それはどうも。……あの、ちょっと気になったんですけど、閉店しちゃうんですか?」


「えぇ、残念ですけど……『エイゴー』がある以上、ここでの商売は難しい感じで。……本当は祖父から譲って貰った店なので続けたかったし、生前、祖父にも相談したのですが……どうにもならなくて……」


 生前か……もう亡くなられているんだなぁ。


「じゃあ、何処かの町にでも引っ越しですか?」


「うーん。まだ先の事は何とも……」


 まぁ、生粋の異世界転移系が好きな日本人であれば、知識を利用して何かしたいよなぁ。




 ……1人守るのも2人守るのも一緒……なわけないよなぁ。


 護衛クエのダブルブッキング。これが厳密なゲームであれば、1つずつクエストは処理されていくので、2回同じマップで戦闘をすることになるのだろうけど、ここは現実。多分同時に処理することは可能と思われる。……多分?


「ただい……いらっしゃいませ」


「おかえり、サツミル」


 膝丈まであるフワフワの桜色の髪から甘い香りを漂わせて、サツミルと呼ばれた女の子が入り口から入ってきてカウンターの中に入って行く。藍色の瞳をした可愛らしい人ではあるが、人懐っこい感じのリサエラさんとは違い落ち着いた感じの印象ではある。しかし、髪や瞳の色、髪型も違うのだが、顔はそっくりだったりする。


「もしかして、姉妹?」


「ううん。よく言われるんですけど、違うんですよ。厳密に言うと、母方の祖父の姉の息子の娘……親戚ではあるんですけど、ちょっと遠い感じです。似ているのも偶然で……」


 いや、双子っぽく見えるんだけどね。


 この世界での髪色や瞳色は精霊の影響によるもので、親の遺伝は関係ない。でも、皮膚の色や骨格、造形などは遺伝する。とはいえ、ここまで離れていると親戚とはいえ同じ顔になる確率はかなり低いと思われる。


「お客様にそんな詳細話しても、どうでも良い話でしょうに。ごめんなさいね。リサエラに捕まったのでしょ?」


「違うよ。『世界樹の森』を護衛して貰うことになったの。だから、明日は『カカオの実』を採りに行くの」


「あら、いいわね。なら、わたしも一緒しようかしら。……わたしも香水の材料を探していて……良い香りのする花『ファウナー』を採取したいの。もちろん、別に報酬も支払いますので、守って頂けませんか?」


 ……同じ場所、護衛クエのトリプルブッキング……かなり面倒な気はするが……。


「いいですよ。でも、最低限の自衛の準備はして下さいね」


「もちろん。でも……貴方に守られたいな」


 そう言って、俺の腕に触れてくる。……同じ顔で似た声だが精神年齢が違いすぎない?


「改めまして。わたしは【調香師】サツミル=ローリエレイン。そっちが【薬研師】のリサエラ=エムペット。お世話になります」


 そう言って、彼女は深々と頭を下げ、リサエラもそれを見て慌てて頭を下げた。




 思わぬトリプルブッキングに若干戸惑いつつも、店を出る。少し欲をだしたのが原因で想定外な事情になったが、きっと俺のせいではない。……多分。


「あの、大丈夫なのですか?」


「まぁ、予定通りであれば今いるメンツで充分可能だとは思うんだけどね」


 ……想定外な事態はまた発生しそうなんだよなぁ。仲間に美少女が増えているし……もはや、俺の意思に関係なく、抗えなくなりつつあるよなぁ。


 いや、多分、つよく「拒否する」と意思表示すれば仲間は増えないだろうけど……俺の女難は好かれても嫌われても反応するからなぁ。


 心配するユイディアに苦笑して答える。


「それにどちらにせよ、『世界樹の森』には行かなきゃならない。厳密にはそこにある遺跡『木霊王の古祠』になんだけど」


「……聞いたことがないですね。カオちゃん、知ってる?」


「わたしも聞いたことないです」


 まぁ、精霊信仰と女神信仰は相容れないだろうしなぁ。恐らく『竜王の時代』の話に詳しい人でないと聞き覚えすらないかもしれない。


「細かい話は多分リリアンナやレイアーナに聞けば、いくらでも話してくれるとは思うけど、今は簡単に……『邪竜討伐軍』がそこに行っていて、【剣の乙女】がチート武器の香木剣“ミストルテイン”を手に入れているはず。俺達も木の上位精霊に会う必要があるらしいから、下見がてら『世界樹の森』へ行かなきゃ」


 今の説明では不充分なことは自覚している。ただ、この話はあまりコテージの外で話さない方が良い。近くに異世界人がいるとも限らないのだから。


「それに目的地から察して全員で向かう訳にいかないだろうし」


 チームを2つに分ける必要がある。特に辺境の村へ行く場合はね。


「それにしても、簡単なお使いクエだったはずなんだけどなぁ」


「……サクリさんの話し方、まるで未来を知っているような言い方ですよね」


 隣を歩くユイディアが不思議そうに聞いて来る。……あ~、そういえば言ってなかったな。


「お兄ちゃんはね、未来を知っているのよ。ユニーク職持ちだからね」


 2人の間をマオルクスが割って入ってきて、俺達の手と手を繋ぐ。


「ユニーク職?!」


「シーッ! 秘密だよ?」


 俺が言おうとした台詞を全部マオルクスに言われる。


 ……ゲームであれば評判が上がるし、店が存続するなら現実でも評判は上がるかもしれないが……今回はあまり意味ない護衛クエになるか?


 とりあえず、独断先行は怒られるので、合流したらクレアカリンに報告しないとだなぁ。

読んで頂きありがとうございました。

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何卒よろしくお願いします。

尚、5日間連続投稿2日目+本日中にあと4回投稿します!

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