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仲間になるはずのないNPCの【修道士】ユイディア=ベルクリス

 あれから何も無くデラフトウッドへ入った。ゴブリン達が現れなかったのは、単純にもう街に近かったからだとは思うが、既に『竜騎幻想』のシナリオ通りの進行から微妙に外れているのかもしれない。


「カオちゃん?」


「ただいま、お母さん」


 孤児院に来ると、その姿を見た夫人と孤児院の子供達が集まってきた。


 ……普通だわ……「お母様」とかって呼ぶかと思ったけれど、マオルクスやレイアーナの時とは違うんだなぁ。


 考えてみれば、王族という肩書にもピンキリがあるということだよな。囲まれている環境に応じてTPOは大事ってことか。


「カオリア、それにユイ。……おかえり」


「お父さん!」


 最初にカオリアリーゼがハグをし、続くようにユイディアも一緒に抱き着く。


「2人とも、大きくなったな」


「もう9年も経てば大きくもなりますよ」


 フェイストラさんから出た感想にユイディアが苦笑して答える。


 ……小さい子供が身内から引きはがされる環境か……。


「“サクリウスファミリア”の皆様もありがとうございました。是非食事をしていって下さい」


 ……依頼主からのお誘いに、報酬をまだ貰っていないこともあり、ご馳走になった。




 食事をご馳走になった後、報酬の準備をされている間にユイディアに連れ出されて、孤児院の外へと出ていた。


「ごめんなさい。ちょっと聞かれたくない話だったので」


 そう言って、ユイディアが座るには小さすぎるブランコに腰掛ける。彼女の長い金髪は夜間故に輝きを既に失っており、黄土色に見えるその髪は座ったことで地面に引き摺っていた。


「それで、話って?」


 ……護衛依頼か? だとしたら無理もない話ではあるし、内心はするつもりでもいるけれど。


「わたしを仲間にしてほしいんです。近日中に冒険者になって国を出るつもりです」


「何故?」


 ……とは聞いてはみたものの、その方針に関しては賛成だ。ただ、冒険者という進路に関しては賛成し難いんだけど。


「帰ってくれば昔の生活に戻れるかと思いました。でも、墓地で狙われたことで考え方が変わりました。恐らく、わたしはデラフトウッドでも命が狙われることになるでしょう。その際に周囲の人達が安全だとは限らない。それなら、出ていく必要があると考えました」


「……そうですね。その考え方は正しいと俺も思います。ですが、俺達のチームで良いのですか? 俺達の行動範囲は大陸全土だし、近日中にはデンドロム王国を出国しますが、戻ってくることもありますよ?」


「構いません。絶対に戻りたくないわけではないですし、わたしのせいで巻き添えにより犠牲になってしまう方々を出したくないんです。特に孤児院には迷惑を掛けたくない……です」


 俯いていて表情は見えないが、声色から彼女の悲痛な心情が込められている気がした。


「それに、サイファリオさん。わたしは女神ナンス様からの啓示で、貴方の傍に居て、貴方を支え、生涯絶対離れないようにと神託されています。わたしは従わなければなりません」


 ……これって、まさか俺に断る口実を与えないために女神が介入したのか?




 しかし、現実問題として全員に一応確認する必要はある。まぁ、反対する奴はこれまでの経験から居ないだろうなぁ。


「サイファリオ様との出会いは女神ナンス様のお導き。わたしは自身の全てを貴方に捧げ、生涯を共に歩む覚悟です。……不束者ですが、よろしくお願い致します」


 ……はい? ちょい待ち!


「いやいやいや。チーム入りの話だよね? なんか不穏な響きが含まれているような気が……」


「気のせいだと思いますよ」


 そう言って、俺を見上げ笑顔で答えていた……が、その目が笑っていない。


 ……あれ? 思っていたのと違う?!


 背筋に悪寒が走り、変な汗をかいた自覚をしたタイミング。


「待って下さい」


 声で直ぐにカオリアリーゼが来たのだと理解し、内心安堵していた。


「カオちゃん、どうしたの?」


 扉が開いた気配は無かった。そう考えると、割と最初から話を聞いていた。聞くために居たまであるのではないか?


「ユイちゃんが行くなら、わたしも行くから!」


「……カオちゃん……」


「そういう訳ですので、わたしもチームに入れて下さい!」


 ……まぁ、カオリアリーゼの件は想定していたけど、状況が大きく違っていた。




 『竜騎幻想』ではカオリアリーゼが仲間になるタイミングはもう少し後だ。厳密にはユイディアが死亡した後、デラフトウッドに留まる理由が無くなった彼女が生きる目的を見つけるために『邪竜討伐軍』に入りたいと希望し、入れるかどうかの選択肢が出る。陸路攻略を決めた人なら全員が入れただろう。


 ……まぁ、俺が反対しなければ入っちゃうんだろうな……。でも、このタイミングは流石に抵抗があるんだ。


「ユイディアさんは事情を理解したので検討するとして。カオリアリーゼさんは王族の一人娘。ご両親の許可は得てますか?」


「わたしも成人しているわ。自分の生き方くらい……」


「うん、カオリアリーゼさんはそれで通る。でも、それでご両親は納得する? 俺達やユイディアさんに迷惑掛けないと言い切れる? ……問題が発生する前に、ちゃんと理解を得るべきだと思うんだけどさ。……どうよ?」


 そう話すと彼女は神妙になった。……まぁ、ちゃんと話せば理解を得られることを俺は知っているんだけど、タイミング的にまだ話し合っていないと思ったんだよな。……勘だけど。


「……解りました。それでは、お父さんに理解して貰って許可を得てきます」


「うん。ちゃんとしてきたら、チーム入りを検討するよ」


 ……もう俺単身じゃ、死に抗えない次元の女難しか起きないだろうなぁ。




 部屋に入るとカオリアリーゼは両親を呼んで、家族会議を始めている。


「みんな、聞いて欲しい。ここにいるユイディアさん。チーム入りを希望している。反対する者はいる? もし判断材料が欲しいなら直接ユイディアさんに聞いても良い。反対と言う人は俺のところに来て」


「サクリが話聞いたんでしょ?」


 クレアカリンの問いに頷くと、彼女は「問題なし」と判断したようだ。


 そのやり取りを聞いていたからなのかは不明だが、全員が反対しなかった。


 ……決まりだな。


「サイファリオさん、ちゃんと許可を得ました。仲間に入れて下さい」


「……だそうだ。カオリアリーゼさんのチーム入りに反対する人は?」


 まぁ、ちゃんと許可を得たなら逆恨みされることもないだろうし、ちゃんと報酬も貰えるだろう。……特に紹介状は絶対必須だからな。


 ……正直、何よりもユイディアを国外に連れ出せる事実が個人的には嬉しく感じていた。




「さて、2人とも正式にチーム入りが決まった」


 翌日、ナッツリブア冒険者支援組合に行き、2人の冒険者カードを作って、“サクリウスファミリア”へ所属の登録をさせた。


「今日から客扱いではなく、仲間扱いだ。……問題は部屋が足りない事か。結構狭くなるとは思うが、今日から俺とゲストを除いて2人1組で部屋を使って貰う」


 コテージの個室は全部で18部屋。足りなくなる日が来るとは思いもしなかったよ。




「サイファリオさん。遅くなりましたが、約束の品です。納めて下さい」


 娘達を見送るため、コテージのある西側の外れまで来たフェイストラ夫妻。報酬金と紹介状を複数枚持ってきてくれていた。……本当は昨日貰うはずだったのだが、フェイストラ親子間で色々あって貰い損ねていた。


 ……ちなみに何があったのかは誰も聞いていない。当事者のみぞ知るという奴だ。


「ありがとうございます。これで武器の手入れができます」


 今回、相手がスケルトンということもあって本来の使い方をしなかった分、武器の耐久力に負荷をかけすぎてしまった。


 ……これは出発する前に確認しないとダメだろうなぁ。とても愛されているみたいだし。


「俺達は大陸中を巡る旅をする冒険者チーム。またデンドロムに来る事もあるとは思いますが、1年以上は先の話になると思います。……本当に娘さん達をお預かりして良いのですか?」


 そのリアクションは俺がそう尋ねたことが意外だと彼等の顔には書かれているようだった。


「娘……カオリアリーゼは、幼い頃からユイディアと姉妹のように生きて来ました。私達から見ても本物の姉妹と変わらない。2人が離れて暮らすことが考えられないことは、9年前にユイディアがアルボンニウ大聖堂へ行く日から判っていました」


 多分、『竜騎幻想』のシナリオと同じで、ユイディアは【聖女】候補として強制的に大聖堂へ連れて行かれる時に彼女の侍女としてカオリアリーゼは付いて行ったのだろう。


「それに、ユイディアは国内に居ない方が幸せかもしれません」


「それは、彼女の天職の件ですか?」


「この話は国民なら同感だとは思いますが、口にはしないようお願いします。……デンドロム国民はリムザキュア姫が【聖女】を賜ったこと、良く思っていません。露骨な政治利用を王様はしているので、実は嘘なのではないかとも思っているくらいです」


 ……正解。言えないけれどね。


「当然、そういった国民感情の情報を国王様達は把握しています。ですから、国民を黙らせるためにも、ユイディアは邪魔な存在のはずなのです。リムザキュア姫の【聖女】が嘘だと思われるのと同じく、ユイディアが【聖女】ではなかったということも嘘だと思われているからね」


 ……なるほど。それはハズレなんだけど、二択だと勘違いしている時点で信じないよなぁ。


「実際、命を狙われたことがある以上、国外に逃がした方が良いってことですね?」


「……はい。2人とも私達の大事な娘です。どうか宜しくお願いします」


 リーダーとして了承はしたものの、2人の「お願いします」には「ナンス様の導き」が含まれていないことを密かに天に祈った。




 別れを済ませて、再びアルボンニウへ向かう。


 『竜騎幻想』のシナリオ通りであれば、近日中にユイディアはまた狙われる。そして、死ぬ運命である。それは、陸路も海路も関係なくである。


 ただ、サティシヤの時と同じように死亡する運命を回避することは可能だろう。


「サイファリオさん、頑張って修行してお役にたてるよう頑張りますね」


「サクリでいいよ。俺もユイって呼ばせて貰う。フルネームを隠す目的の意味でもね。カオリンもそのつもりで」


 ……だからこそ、国内にいる間は気を引き締めて警戒しておかないと。




 細かいところはうろ覚えではあるが、『竜騎幻想』ではユイディアが死んだ未来でカオリアリーゼを仲間にしなかった場合、【聖女】が現状存在していないことを証明することになる。


 国王も実は姫様に騙されていて、怒った王様は姫を無期限幽閉に命じる。そして、カオリアリーゼは国王から勲章を貰い、国内での地位を約束されていたはずだった。


「……それでも多分、こっちが正解だろう」


「何が?」


 俺の独り言を聞いていたマオルクスが俺を見上げる。本当に子供の姿は偽りだと判っていても油断してしまう。それでも考えていることを言う気にもなれず……つい苦笑しつつ。


「道」


 わざと勘違いさせるような答えを言って、俺は気持ちを切り替えた。

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