クエスト『偽りの聖女の帰還』とゴブリン達の襲撃
「もう、流れ的にサクリ君もきっと進化するよね。……もう驚かないから。じゃあ、行くよ?」
驚かないと言いつつもフラグにしか聞こえないエルミスリーのボヤキの後、彼女は小さく咳払いをする。彼女の表情が真剣なものに変わり、雰囲気が変わる。
「これより『天職進化の儀』を執り行います。サクリウス=サイファリオ、目を閉じて女神ナンス様に祈りなさい。自分の進むべき未来に祝福を願いなさい」
前と違って今は「女神ナンス様が俺に何を望むのか? 何をさせたいのかが何となく見えるのではないか?」と……例の声に耳を傾ける。
[ユニット名:サクリウス=サイファリオ。天職【念動士】のレベルクラウンを確認。新しい天職への進化を申請……サクリウス=サイファリオの天職【念動士】はユニーク職【妖精操士】レベル1へと進化しました]
……はい? いや、まぁ……女神ナンス様の思惑は透けて見えてはいるけれどさ……。
「サクリ君。今となっては隠す理由もないわけだから、正直に言ってね? ……新たな天職を授かりましたか?」
「ユニーク職の【妖精操士】というのを授かったんだけど……」
「はあっ?! ……いや、最初にユニーク職を授かるよりは可能性高いけれど……」
やっぱり驚いたよね。……ちなみに俺は予想していた。
事前のエルミスリーの説明でユニーク職を賜った人は天職進化ができた場合、別のユニーク職を賜る確率は3割になるという。もちろん前例が無さ過ぎて情報が不確からしいけど。でも、この天職を賜ったのは間違いなくルーチェと関わった影響だと思う。
「うーん。多分妖精召喚士的な感じかなぁ?」
「【召喚士】? よく知ってるね?」
……マジか。【召喚士】って天職あるのか。……いや、あるか。実装外の天職があるのなら。
「いや、天職にあるのは知らなかったけど、要は妖精に戦わせるというより、妖精に戦いを魔法で補佐してもらう感じかなって」
「うーん。何かサクリ君のとりまく環境や君自身の能力を考えるとさ、まるで英雄だよね?」
「まさか。英雄というのは世界のため、弱者のために人類を超えた力を扱う人だよ? 俺みたいな独善的でエゴイストのような奴なわけ無いだろう」
以前より仲間も増えて強くもなってチート臭くなってきたけれど、それでも今後はもっと恐ろしい女難の効果が襲ってくるので、その対抗手段を授かったような気分だった。
デンドロム王国に入ってから、夜に余裕がある時はエルミスリーに『天職進化の儀』をお願いした。俺、マオルクス、リリアンナ、レイアーナ、ハルチェルカが同じ日に進化し、それぞれ【妖精操士】、【符占術士】、【詩人】、【賢者】、【精霊術士】になった。その数日後にはメアリヤッカも【狩人】から【野伏】に進化して、レア職の全員が進化成功したという快挙を成し遂げていた。……まぁ、ゲーム攻略知っていればマオルクス以外は当然なんだけどね。
ユニーク職だけは『竜騎幻想』に存在しない天職。条件付けが判らないし、俺もマオルクスも存在しないユニットだからな。でも、女神ナンス様からの何らかの意図が込められているのかもしれない。
水力式リフトの要領で乗り場から崖上に登り、一番近い町デラフトウッドを経由して王都アルボンニウへ向かう途中。
「みんな、戦闘の準備。恐らくゴブリン達が馬車を襲っている。大して強くないけど、助けられる命があるはず」
俺がそう告げると、露骨に馬車の速度が上がり、すぐに襲われている馬車を視界に捕らえる。
「《呪矢の行射》!」
アッツミュの奇襲による邪属性の攻撃魔法がゴブリンの1体に当たり、別のゴブリンを襲う。
「行きます」
アミュアルナと共にクレアカリンも飛び出す。……多分、戦力的には充分だと思うけれども……移動速度の関係上、少し遅れて俺達も降りてゴブリン退治に協力する。
こういう村近くに現れる妖魔の類は基本レベル1~2くらい。正直敵ではないのだが、俺達には例外も存在している。……まぁ、今回は予定通りではあったけれども。
「助けて頂き、ありがとうございました」
馬車の中で守られていた40歳くらいの男性とそれより若い女性が出て来て礼を言う。歳が近いことから若手の冒険者チームなのだろう……彼等の遺体が転がっていた。無事だったのは、守られていた2人と、立派な金属鎧に身を固めた戦士風な男で冒険者の仲間には見えなかった。
「いえ、無事で何よりです。それでこの後は?」
「雇った護衛の冒険者の方々が全滅してしまいましたので、残念ですが一度デラフトウッドへ戻ろうと思います。……不躾なお願いは承知していますが、どうか町まで護衛をして頂けないでしょうか?」
「構いませんよ」
俺はみんなに断りを入れずに返事をした。
「俺達はシャドウ級冒険者チーム“サクリウスファミリア”。その依頼、引き受けます」
そう依頼。タダ働きはしない。……でも、適正料金を取ろうとは思っていなかった。
「助かります」
……まぁ、そうした理由も最初に反応していたアッツミュの気持ちを察してのことだけど。
俺達一行は護衛をしながらデラフトウッドへ戻る。
「大変たすかりました」
俺と交渉役としてリリアンナに同乗して貰い、助けた人達の馬車に乗る。
もちろん、亡くなった冒険者達はきちんと埋葬して、女性の方が丁重に弔った後で。
「そういえば気が動転していて大変失礼しました。私は孤児院を運営するリドウセル=M=フェイストラ。彼女はわたしの妻です」
「メイネです」
弔った方、奥様だったんだな……。
「俺はリーダーのサクリウス=サイファリオ。彼女はチームの交渉を主に担当しているリリアンナです」
「妻のリリアンナです」
「誰が妻だって?」
彼女のボケにツッコミを入れるとリドウセルさん達は面白かったのか、愛想笑いなのか、とりあえず笑ってくれた。
「既に覚悟は完璧ですよ? ……それで、護衛をつれて何処へ向かう予定だったのですか?」
「私達はデラフトウッドからアルボンニウへ向かう途中だったのですが、邪竜王が復活したという噂があったので、念のため護衛を付けたんです。ですが、知っての通りでして」
彼女の要らぬ覚悟はともかく、妖魔の動きが活発になっているのは邪竜王と何らかの関係があるだろう。『竜騎幻想』でも触れられてはいないが、それを匂わせるNPCの発言は聞いている。
「あの、もしかして王族の方ですか?」
「えぇ。ただし、かなりの末席でして。名前だけの王族ですよ」
……そう謙遜しているが、家が孤児院を運営しているというだけで、彼が豪商であることを俺は知っていた。
「そうでしたか。実はわたし達はグアンリヒト王国から来て間もなくて」
「そうだったのですか」
事前の打ち合わせ通りに話は進む。本当であれば、俺とリリアンナ、あとは2名くらいを護衛に残し、残りはアルボンニウへ向かって貰っても良かったのだが……それは言うタイミングを失った俺が悪いということで。
「おかえりなさい!」
子供達がフェイストラ夫妻に駆け寄って、特に幼い子は抱き着いている。そんな子供達が俺達の存在に気づいて、興味津々にこちらを見ている。……怯えられてはいないものの警戒はされている感じ。冒険者なのだから、怯えられていないだけでも僥倖だろう。
「こんばんは」
リリアンナが屈み、幼い子に視線を合わせて声を掛けると子供達が彼女に集まる。……さすが【詩人】。これに釣られて俺も同じことをすれば地獄間違いなしである。
「お姉ちゃん達、誰ぇ?」
「ぼーけんしゃ?」
子供の相手はこの際リリアンナに任せる。ちなみに、彼等の他に生き残った男の正体はフェイストラ家の執事だという。その彼は現在冒険者の店にて彼等の死亡報告と依頼失敗の話をしに行っている。
手続きやコテージ設置のために遅れていた他のメンバーも合流する。
「“サクリウスファミリア”の皆さん。お礼も兼ねて、せめてお食事をして行ってください」
「それなら、ご馳走になります」
建物の中に案内されると中は教会になっていて、正確には元教会施設を孤児院として使っているようだった。そこで暫くすると食事が食卓に並び、大所帯での食事が始まる。よくアニメや漫画で描写される孤児院と違って、満腹になるには充分な料理の量があった。
「食事の用意、お手伝い頂きありがとうございました」
「わたし達、人数多いですからね」
料理をご馳走になることにはなったが、ただでさえ子供達が多いのに仲間の分の料理を作る上に【調理師】も【家政師】も居ないのでは大変だとシオリエルが自ら手伝いを申し出て働いていた。
「サイファリオさん、宜しいですか?」
料理も食べ終わったタイミングでお金の袋をもったリドウセルさんが対面に腰を下ろした。
「少ないですが、こちらがここまで急遽護衛して頂いた報酬です」
確認のために袋の中を見ると13万ナンス。実際依頼するよりは若干少ないが元々雇っていた冒険者がカッパー級だったことからも破格だと思う。
「充分です。ありがとうございます」
「いえ、命が助かったと思えば安いモノです。それで改めて依頼をさせて頂きたいのですが……本当は私達が直接迎えに行こうと思っていたのですが、このような有様。ですが、そもそもアルボンニウへ向かっていたのは帰って来る娘、カオリアリーゼとユイディアのため。どうか、帰って来る娘の護衛を引き受けて下さらないでしょうか?」
「報酬は?」
黙って聞いていたクレアカリンが話に入って来る。
「そうですね。現金は申し訳ないですが13万ナンス。それと、リリアンナさんから聞いたのですが、デンドロムで活動する際の後ろ盾が必要とのこと。それを私達が引き受けましょう。それで如何でしょうか?」
クレアカリンに視線を向けると彼女は俺に頷いて見せる。
「わかりました。正直、信頼できる鍛冶屋や冒険者支援組合への紹介状を書いて頂けると助かります」
「構いませんよ。依頼達成の報酬という形で宜しいですか?」
「はい、確かにその依頼を引き受けました」
『竜騎幻想』では報酬金のみだったのに、紹介状まで貰えるのは幸運だと言えた。
実際のところ、概ね予定通りである。
当然ながら、フェイストラ夫妻がゴブリン達に襲われたことも、最低でもご夫婦の命が助けられたことも、一度デラフトウッドへ戻ることになったのも、食事をご馳走されることも……そして、カオリアリーゼ達の護衛を依頼されること全て『竜騎幻想』の話通りである。
実はデンドロム王国へ入国する際に陸路か海路のどちらで入るかによってシナリオが分岐する仕組みになっている。『邪竜討伐軍』が海路で入ったと聞いた時点で俺達は陸路一択と決めていた。
何故なら、陸路で入ると推しユニットと『竜騎幻想』主要NPCで最も可愛いと定評のあるユイディアとのイベントがあるからだ。
幸いゴブリン達の強さも一緒だったし、早速翌日には王都アルボンニウへ出発した。
大変お待たせしました! そして、読んで頂きありがとうございました。
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