デンドロム王国へ向かう間に振り返る、思っていたのと違っていた仲間集めの旅路
「むぅ~」
「どうかしたんですか?」
風に当たりたくて甲板に出たけど、日焼けを嫌って日影へ避難する。太陽が見える反対側はすぐ陸地なので、海を眺めるには日の当たる側にいなければならず、日影探しは苦戦した。
潮風を感じ、海を眺めながら考え事をしていたら、オイファルが心配してくれた……優しい。
「ちょっとね~。ここだけの話、思っていたのと違ったなって」
一応周りを見回して誰もいないことを確認してから唯一気を許している友人にボヤく。
「何かありました?」
「ううん。わたしの考えが浅かったっていうかね」
そう話すも当然ながらオイファルはわたしが何を言いたいのか理解できない。そして、わたしも言葉にするのは誰かに聞かれる危険性を考えると迂闊にできない。
「何でも話して下さい。どんな内容でも力になりますよ」
……流石、オイファル。もう貴女の娘になりたいよ。
「ここだけの話にしてほしいんだけどさ。実は最初にお城に呼ばれて、国王様に頼まれて国の完全サポートで大陸を救う……不謹慎だけど主人公になった気分でかなり気持ち良かったの」
「まぁ、ですよね」
……てっきり苦笑いされるかと思ったが理解を示してくれて嬉しかった。
「でもさ。みんなが倒したトロールとか、コボルドとか、実際に死んでしまう姿を見ると可哀想に思えて」
「可哀想?」
「いや、不謹慎なことを考えているのは解っているの。被害者の家族の前で同じこと言えるのかって聞かれたら、口が裂けても言えないもん」
……今度はしっかりと苦笑いされましたとさ。
「何かさ、仲間にも傷ついて欲しくないし、相手も可哀想だし……戦わない方法って無いのかな? そもそも何で襲ってくるのさ?」
「そうですねぇ……例えば、ヒューム族は肉も野菜も食べるじゃないですか?」
「食べるね」
「それはヒューム族が美味しいと思える食材だからです。……まぁ、そんな感じですよ」
「わたし達、食べ物?」
そう問いかけると、オイファルは真顔で頷く。……ふみゅ。
「じゃあ、他に美味しい食べ物があれば解決?」
「まさかとは思いますが、亜人種を食べさせるつもりですか?」
「ち、違うよぉ。ただ、人の代わりに食べられるものがあれば被害が無くならないかなって」
……いや、言ってて無理って解っているよ? 邪竜王復活による影響があるから、妖魔や魔獣が狂暴化しているんでしょ? 知ってるけどさぁ、戦いは可能な限りしたくないよ。
「それは無理でしょうね」
「何故? やってみないと判らないじゃない?」
「割と簡単な理由ですよ。……知っていますか? 亜人族ってそれぞれ考え方が違うんですよ。それは子供の時に身に付けるべき教養なのですが、その内容が種族ごとに違うんですよ。そして、知能や嗜好は同種族であっても差がある。同族であっても1つの対策で充分ということがないのに、異種族……ましてや妖魔なんて不可能なんですよ」
これまで楽しく話していたオイファルだったが、これだけはきっぱりと言われてしまった。
「恐らく、殺し合うことはヒューム族間でもあるくらいだし、仮にトロールが人以外を食べるようになったとしても襲うことは辞めないでしょう。何故なら、わたし達が魚を釣ったり、肉を食べるために家畜を飼ったり、野菜を食べるために畑を作っても良心が痛むことはない」
……家畜は心が痛むよって言いたかった。でも、確かに肉は食べるし、魚釣りをスポーツにしている人もいるし、野菜を収穫しても良心は痛まない。……だから争いは消えないのか。
戦闘の回避が難しいことくらい承知している。だからこそ、仲間集めを頑張ったわけで。
「人も増やせましたね」
「まぁ、名声とお金が入るから頑張る人は多いと思うよ」
オイファルに対し率直な感想を返す。是非強くなって欲しい……それだけがわたしの希望でもある。
「でも、勧誘で来たのはオイちゃんのおかげね」
「仕事ですからね! ……ふんすっ」
主張の少ない胸を張ってみせて……思わず2人して笑う。
「実際、誘うべき人材って見た目じゃ判らないし、何を相手が求めているのかっていうのも男の人って何考えているか解らないし」
……まぁ、同性でも正直解らない。まともな女は冒険者なんて危険な仕事しないだろうし。
「幸いだったのは、ジオデイン家のヒロキール様とエヴィックリヒト家のダイラース様がご自身から希望して下さったことですね」
「そうだね。王族だったら無理して戦わなくても贅沢して暮らせそうなのに」
……いや、わたしも詳しく知っているわけでなく、ただの偏見だけど。このムッチミラとしての人生においても王族様と関わる機会はなかったわけで。
「特にヒロキール様は王位継承権も高いお方。恐らく天職が【風水士】だったので何か功績が欲しかったのかもしれません。ダイラース様は【学者】ですので、家から出たかったのだと思います……多分」
オイファルが言葉を濁したのは、ダイラースはエヴィックリヒト家の養子で、実子である姉の権力が強かったから……かな。あれは男も逃げ出したくなるというもの。多分嫁探しでしょうけど……結構な眼鏡系美青年だから脱落は許さない予定。
ヒロキール様は可愛い系の青年ではあるんだけど……いまいち頼りないのよね。強くなってくれれば良いけれど。
「あとは平民出身の人達だっけ?」
「ですね。【獣操士】のユークエルさんと【盗賊】のカッシュさん。あと【話術士】のシュートさん、【狩人】のサイオウルさんですね……男性は」
……おっ、解ってる! まぁ、実際のところ女性も不本意ながら加えている。理由は2つあって、1つは男性だけを誘っても近接系の戦力が不足してしまうということ。もう1つが仲間に入る条件として、その女が必要というパターン。特に後衛の女は不要だと思ったのだけど、こればかりは仕方ない。
「最初にいたみんなと違って、経験がないから鍛えて貰わないとだね」
「皆さん、レベル1ですからね。でも、それはムッチもですよ?」
「デスヨネ~」
……わたしに限っては、甘やかして貰っているおかげで順調にレベルが上がっている。ステータスの上がり方が気になるけれど、死んじゃうよりはマシよね。
問題は男性陣。アーキさんとコージュさんに頼ってしまって、他の方々が経験値をあまり得られていない。原因はわたし。彼等が得るべき経験値もわたしが貰ってしまうからダメなのよね。……甘やかされているなぁ……。
「でも、そろそろ1人で1匹倒せるようにならないとマズいよね?」
「ですねぇ」
そう。経験値を多く得るのでレベルは上がっているけど、上げ方に問題があって、ステータスの成長が他の人より少ない。原因は多分甘やかされているからだろうってオイファルは分析している。
根拠は女達のステータス成長具合がわたしより多いらしいこと。
最初、わたしは女性冒険者の強さとは戦闘力ではないと考えていた。もちろん、レア職を賜ったなら、ノーマル職の男性よりレア職女性の方が強いこと自体は疑ってはいない。でも、同じ天職を賜れば女性より男性の方が強い。それは身体の構造上当然なことだと思っていた。
結論を言えば、わたしは間違っていた。男性が筋力をベースにして戦うことが多いのに対し、女性は魔力をベースにして戦う。魔力は何も魔法を使うためのものだけではなく、身体能力の向上にも影響する。……実は最近知った事実だけどね。
だから、男女が同じ鍛錬方法をしていても、絶対に性差を超えることはない。性別にあった鍛錬方法と性別にあった戦い方を学ぶ必要がある。
「だとすると、戦い方を女性から教わらないとダメだよねえ」
「ある程度はスキルでサポートされるとは思いますけど……正しい鍛錬方法はステータス成長に影響しますからね」
……すっかり冷遇しちゃってるから、教えて貰えるかなぁ?
「戦い方と言えばですが、ハルチェルカさんは強かったですよね?」
「言われてみればそうだったかも……」
ハルチェルカ=セレニティ。彼女は【風水士】だったのに細剣による剣術に優れ、前衛と変わらぬ戦い方をしていた。でも、オイファルの説明によると【風水士】のスキルには戦闘技術をサポートするものはほぼ無い。
「しかも、彼女は入った時からレベルが高かったのに、どうして生贄に?」
「うーん。それは他の人を選んだとしても、非難されていたと思うんだけど……」
「いや、けしてそういう意味では……」
判ってる。せめて彼女から技術や鍛錬方法を学べば、得るモノはあったかもしれないし、スキル持ちの人より理解しやすかったかもしれない。
「生贄に選んだ理由かぁ……一番の理由は彼女には別の目的があったからかな」
「確かに仲間に誘う前はそのような話をしていたけれど、もう仲間に加わることを了承した時点で覚悟はしていると思うんですけど?」
「そうかもしれない。でもさ、絶対心の中ではくすぶっていたと思うよ? わたしだったら、与えられた役割に手を抜くことは無いにしても、隙さえあれば自身の目的のためにできることを考えていたと思う」
「……それで生贄に?」
不思議そうに聞いて来るので、そんなに変なことを言ったかなと思いつつ。
「『聖女リアラインの棺』はブライタニアからも近い場所だし、王族も利用する遺跡なら救出されるのも早いでしょ? そうやって口実を与えれば、彼女はわたし達に見捨てられたのだから、これを機に自分の目標に向けて旅立つと思うの」
そう伝えると、何故か彼女は深々と溜息を吐いた。
「あのぉ、本気で言ってます?」
気のせいか彼女の言葉に若干のトゲが潜んでいるように思えた。
「今頃、ハルチェルカさんは亡くなっていますよ」
「は?」
そんなわたしのリアクションを残念なものでも見るように彼女は言葉を続ける。
「ハルチェルカさんは冒険者です。なので、国民ではありますが国に所属していません。国の運営機関に属している者でないことはもちろん、労働力ですらありません」
「だから助けない? まさか……」
「そうですね……ハルチェルカさんはブライタニア出身ですので、遺品を引き上げて家族へ返すことくらいはするかもしれません。でも、国として急ぐ理由はありません。壊された遺跡を修復できる職人を手配して、兵士と共に遺跡へ向かい、安全を確保した後に修復作業を開始する。それまでにどれだけの日数が必要になるかは判りませんし、全部の手配を終えて向かった際に彼女が生き残っている可能性は低いでしょう」
「そんなの判らないじゃない? もしかしたら、直ぐに職人が見つかるかもしれないし」
「では、何時から職人を探し始めると思いますか?」
「え? そんなの帰って直ぐじゃ……」
「次に『聖女リアラインの棺』を使う予定ができた時ですよ」
……はい? 思わず耳を疑う。
「そんなに直ぐに動いてくれるなら、村々からの救援に対して直ぐに少数でも兵を出すでしょうよ。正直、みんな自身の仕事に追われて、直ぐに使う予定のない遺跡の修理なんて後回しですよ。……良いですか? 我が国に限らず、何処でも国が直ぐに民のために派兵することはありません。役人的には1人の冒険者を助けるために金がいくら掛かるか……って考えていると思いますよ」
……謝って許される問題でもない。
それを聞いて、わたしはかなり良心を痛めた。
「……あれ? そうなると、まだイーベルロマは……」
「そうです、放置ですね。恐らく、何かしら用事がない限りは国が何か関与することもないでしょう」
オイファルが断言。彼女が断言するのだから、絶対そうなんでしょ。
イーベルロマの放置は大問題だと思うけれど、それ以上に国が動いてくれないというのは異常じゃない?
「やっぱり、国は村人の救助には動かない?」
「普通だったら、流石に国も動くんですけどね」
「……普通、そうだよね?」
「今回は島で暴れているのがアンテグラだったから」
「あ~」
それでも酷いと感じた。何ともならない状況に良心も痛む。
どういう事かというと、アンテグラは水を嫌う習性があり、少なくとも地上から海を渡って本土に上陸することはない。だから慌てて派兵する必要は無いと判断されたのだろう。
「それは判るけれど、酷い……」
「国からの情報だと、村人はほぼ全滅したらしいよ。若干名が船に乗って逃れることができたけれど、避難先は追えていないらしいし」
……多分無自覚……だと思うんだけど……チクッチクッと彼女の言葉が刺してくる。
「何か辛い……」
実は、イーベルロマが壊滅してしまったのは、わたしのせいかもしれない。
イーベルロマ島にある唯一の遺跡『忘れ去られた無名の墓所』に腕試しに向かった際の話。
動機は……確かアーキオルクさんとコージュガンさんとわたしの3人だけレベルが上がってしまい、他の人達もレベルを上げないと今後大変だったり、わたし自身もレベルが高いだけで実戦能力的に低いことが気になっていたから、大した敵は出ないと聞いた遺跡に向かったんだけどね。
遺跡で遭遇したアンテグラ達と戦闘をした際に1匹逃がしてしまった。多分、その1匹が仲間を呼び寄せて復讐に来たのではないかと思う。……だとしたら、逃がしたわたしが悪い。
「あれは仕方ないですよ」
「仕方ないで見捨てられた方はたまったものじゃないよ……」
確かに修行的な意味があったから、アーキオルクさんとコージュガンさんが出撃しなかったので、倒す速度も遅かったし、逃げたアンテグラを追いかける人手も足りなかった。
……だからこその「仕方ない」発言だと思うんだけどね。
「気持ちは解りますけど……」
「ほら、何て言うか……村に寄ったじゃない? あそこで話しかけてきた子供達とかさ、応援してくれている人達の笑顔とか思い出しちゃってさ……でも、堂々と悲しんでしまうとサイ君に申し訳なくて」
サイオウルさんは、イーベルロマ出身の【狩人】で、冒険者として活動中だったのに、たまたま里帰りしているところを仲間にスカウトしたんだよね。本来一番辛い彼が我慢して気丈に振る舞っているのに申し訳なく思ってしまう。
「……そうなんですよね」
自分のせいで彼の家族を奪ってしまった……その後悔すら示すことが許されなかった。
「……思えば、ルミナス様にも期待されなかったね。見透かされていたかな?」
「流石に偶然です」
長い沈黙の後、ふと思った事を口に出して、尤もな返事が返ってきた。
「だって、ルミナス様にあった時はまだスタンピードは発生していなかったんですよ?」
「確かに。でも、それなら……」
……何故、塩対応だったのか?
言葉にしそうになるけど、それを堪える。
長い『光霊王の古祠』の道程はかなりわたし達を消耗させた。何匹倒しても現れる魔物に辟易しながらも体感で数日掛けて一番下の階層まで降り、やっとのことで光の上位精霊ルミナス様と会うことが叶ったというのに……。
「多分、期待しているんですよ。だから、閃光剣“ライトブリンガー”を頂いたんでしょ?」
オイファルはそう言うが、全くそう思えなかった。……いや、彼女も感じてはいるものの、わたしを励ますためにあえてポジティブなことを言っているのかもしれないし。
「そうかな」
そう言って、異空間から閃光剣“ライトブリンガー”を取り出す。剣は柄を握ると剣身として光の刃が現れる。まるでビームサーベル。
「光の束なのに熱はないのよね」
重さも無く剣身も無い。一応わたし専用の剣らしい。不思議なことにわたし以外の誰かが握っても光の刃は現れない。だから、使いこなせるのは今のところわたしだけ。
「夜間は重宝しそうですね」
「……そういう使い方?!」
思わずツッコミを入れると笑顔が零れる。多分、彼女なりの気遣いかもしれないけどね。気持ちが沈んでいると士気に関わるし。
「今思えば、本当にルミナス様ってフワフワだったね」
「ですね。大きな猫……いえ、ライオンだったんですけど」
女性だったのでタテガミは無かったものの、白い毛皮は見るからにフワフワでモフりたかったんだけどね……残念なことに拒否されてしまった。
「もう後悔したくない……今度こそ頑張らないと!」
「その意気ですよ、ムッチさん」
……気遣ってくれるのだから、わたしも頑張らないと。
「次こそ、自分の趣味を長く楽しむためにも美少年や美青年達を集めないと」
彼女は苦笑するが、その表情は安堵しているように見えた。……やっぱり心配させたみたい。
「王様に会う前に知っておきたいんだけど、デンドロム王国ってどんな国なの?」
「簡単に言うと、【聖女】信仰の国って感じですかね」
「えっ……【聖女】?」
あまり【聖女】という単語に良い印象は無い。
わたしの知る【聖女】とは、物語の主人公で、沢山の恋人候補にチヤホヤされ、甘やかしてくれるのかと思いきや、肝心なところは【聖女】任せっていう男共が頼りにならない。ダメ男製造機であり、女の屑である。
「何でも、第一王女が【聖女】の天職を賜ったという噂があり、周囲から大切にされているようなので……今みたいな露骨に嫌そうな素振りを見せないようにお願いしますね」
……あ、顔に出ていたか……。
「気をつける……出ちゃったらフォローは任せるね」
「任せないで下さい!」
オイファルの苦情を聞き流しながらも調子を取り戻させてくれた彼女に感謝した。
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