光のフェアリークイーンとの邂逅。彼女はルーチェの母
遺跡『光霊王の古祠』に入るため、光源の準備をしようとする行為を止める。
「この遺跡は、明かりの魔法やランタンは要らないから」
そう言って俺は最初に入る。人工的に仕掛けられた罠もないので、襲撃以外の危険性は無いこともルーチェに確認済みだ。
最初は普通の洞窟で、入り口から差し込む光だけが頼りだったりしたが、完全に視界が奪われる前に視界が明るくなっていく。
「えっ? 明るい?!」
「これは……光苔ですね」
サティシヤが驚きの声をあげるが、その正体を直ぐにレイアーナが気づく。
「うん。光源はそれだけじゃないけどね。だから、暗い場所は少ないよ」
話には聞いていた。確かに『竜騎幻想』でもそんな描写はあったかもしれない。……でも、そもそも戦闘マップが暗くて操作できないなんてことはありえないし、『光霊王の古祠』というくらいだから光が溢れているんだろうな……なんて、ぼんやりと思っていた。けれど、ここまで明るいとは思っていなかった。
もちろん、機械的な明るさではないので、明るさにはムラはあるものの、暗くて見通しが悪いという程でもない。まるで観光名所の洞窟でライトアップされているかのようだった。
光源は複数個所あるようで、影ができない。よく見れば薄っすらとあるのだが、影も光で打ち消されているようだ。
「凄い……かなり神秘的な場所だね」
「異界に通じると言われても信じます」
アミュアルナの感想にリリアンナも同意の意見を漏らす。それほどに幻想的な空間だった。……俺とマオルクスを除いて。
「ねぇ、お兄ちゃん。そろそろ戦う準備必要?」
「どうだろう? でも歩幅の関係もあるし、元の姿に戻っていても良いと思うよ」
そう答えると、彼女はそのまま耳のイヤリングを外す。すると、歩きながら身体が成長していき、歳相応の姿に戻っていく。ダブダブだった服とローブもタイトな服とサイズぴったりのローブとなる。
「えっ……大きくなった?!」
マオルクスの姿を見て、メアリヤッカが露骨に驚く。そして、そんな様子を周りが生暖かく見守っている……これもメンバーが追加される度に起こるイベントだった。
和気あいあいと観光気分で地上階と地下1階を歩いてきたが、地下2階に入った途端に俺やクレアカリン、メアリヤッカが周囲を警戒する。
「何かいるよ。構えて!」
クレアカリンが短く指示を飛ばす。
「索敵します。暫く待機をお願いします」
「スキルがあるからって1人では危ないよ。あたしも行く」
メアリヤッカが先に動き始めると、クレアカリンも後に続く。
「……近くに居ます。トロール1体です。強い再生能力があるので気を付けて下さい」
……まずは1体か。
「行きます! いつぞやのリベンジ!」
【拳士】になったアミュアルナの攻撃。レベルが一度下がってしまったが、別にステータスが下がっているわけでなく……だからこそ、スーパーレア職は強いわけで。
「やあ!」
ガッ!!
振り被った渾身の双棍の一撃でトロールの巨体がよろめく。
「お~、流石スーパーレア職……早いなぁ。じゃあ、強化するよー! ……天王星の星霊よ、仲間達に星々の加護を!」
マオルクスが範囲強化魔法を掛ける。……これは、アミュアルナが少し行動を遅らせないといけないかもな。
「《閃矢の行射》」
29本の光の矢がトロールを貫く。
ズーン!!
地響きと共に倒れるトロール。……あの時の苦労はいったい……とか考えたが、思えば『邪竜討伐軍』の人達も圧倒的火力で倒していたことを考えれば、今のウチ等は当時の『邪竜討伐軍』より強いのだから当然の結果なのか。
「ただい……トロール?」
帰ってきたクレアカリンが思わず声をあげると、遅れてメアリヤッカも戻ってきた。
「レベルは判らなかったけど、本当にトロールとコボルドしかいなかったよ」
「まぁ、レベルは大丈夫。下への道は?」
「それは大丈夫」
「じゃあ、道案内よろ」
確か俺の記憶が正しければ、無駄に数は多かったけれど、低レベルだったはず。
「戦闘が起きたらレベルチェック。主にメアと天職進化したばかりの連中メインで戦う方向で。あとアミュアルナはバフ掛かるまで攻撃は遅らせて」
緩く指示を飛ばしながら、地下へ向かって進む。幸い、下に進んでも敵が強くなるということはなく、ただただ数が多いだけ。適正レベルでここに来れば結構しんどいはずなのだが……かなり安全に進むことができていた。
戦闘に関しては敵のレベルは1から3までという低レベルばかりで、MPを節約するような戦い方をしても余裕で倒すことができていた。
地下5階を過ぎた頃から異変が起き始めていた。
「ねぇ、サクリさん。頭に何か……」
「あっ、よく見ると何か付いてる!」
……ん?
そう指摘しているのはサティシヤとハルチェルカだった。他の連中は「何が?」状態ではあったのだが、俺にはその心当たりがある。何故なら俺には周りのプルーム達も若干見えているから。ただ、透けているんだよな。
そして、ルーチェの姿は階層が下がる度に姿がハッキリと視認できるようになっていき、地下8階に着いた際には声も聞こえるようになったようだ。
……俺ですら耳から彼女の声が聞こえるようになっているし。
「ルーチェ、そろそろ紹介して良い?」
「そうですね。皆様、妖精界に入ったため見る事ができるようになったようですし」
言われてみれば、なんか遺跡内も暑くなってきたような気がする。じっとりと汗も出てきているし。……熱源は何処だ?
ルーチェは翅を展開し、翼のように羽ばたきながら浮かび上がる……ただ、俺だけはその羽ばたきが無意味なことを知ってる。……あれって浮力に何も影響されない飾りらしい。
「“サクリウスファミリア”の皆様、初めまして。わたしはルーチェ。光のプルームです」
そう言って彼女は頭を深めに下げる。
「そのルーチェさんが何故、サクリさんの頭に?」
「わたしは以前、サクリ様が所有した『妖精の小瓶』に囚われていた者です。サクリ様に助けて頂いて、ここまで連れて来て頂きました」
頭を上げてそう言うと再び俺の元に降りて、今度は肩に腰掛ける。
「そういえば、初めの頃にサクリさんから瓶の中の妖精が見えるかと聞かれたような……」
サティシヤ、ハルチェルカと俺が話していると、マオルクスに上着の袖を引かれた。
「ねぇ、サクリ君。その妖精さん、何か話しているの?」
「え? マオちゃんは聞こえてないの?」
「……何も聞こえないよ」
どうやら、彼女の姿を見る事は全員が出来ていても声は俺達3人にしか聞こえていなかった。
地下9階まで降りて来て、ここが最下層なのだと教えて貰った。
「もう、ここには妖魔の類は現れません。お疲れ様でした」
辺りを見回すとプルームの他にもいろんな妖精が見える。そんな様子を見て安全圏なのだと気を緩めると身体の疲れを自覚したと同時に俺とマオルクス、メアリヤッカ以外のレア職メンバーの冒険者カードが点灯していることに気づく。どうやら、レベルクラウンに達したようだった。あとは3人か。メアリヤッカは当然として、俺とマオルクスがまだレベルアップしないのは、多分ユニーク職だからなのかもしれない。
「あっ、声が聞こえる」
「わぁ、可愛い声」
アッツミュやリリアンナが聞こえた声に反応したことで、この階層にきて全員がルーチェの声が聞こえることを確認した。
彼女は改めて自己紹介をした後、案内をすると言って俺達を誘導する。光苔以外にも光る果実のグロウベリーや大きな木に成り高いところから広範囲を照らす魔光樹も自生していて、地下の広い空間なのに昼間の屋外のように明るかった。
かなり奥に進み、部屋のようになっていた区画。そこに妖精が居た。雰囲気はルーチェと似ているが、大きく違うのは身長が160センチ近くある8頭身の美女の姿であることだった。
「ヒューム族のお客様方。ようこそおいで下さいました。そして、娘のルーチェをここまで連れて来て頂きありがとうございました」
彼女はそう言って深々と頭を下げる。……娘と言った?
「ここは光妖精の里。わたしはここを治めるフェアリークイーンです。貴方達が来て頂けることを知ってから、ずっとお待ちしておりました」
「来るのを知っていたのですか?」
「もちろんです。わたしも僅かではありますが、未来を見る事ができますから」
「えっ?!」
もしも、ピンポイントで俺達が来ることを知っていたのならば、俺なんかと同等に思われることが申し訳ないくらいの精度な予知である。
ただ、親子の再会には見えなかった辺り、その辺の常識はヒューム族とは違うようだった。
「そうですね……まずはこのエリアは安全です。上の階層に行かない限り皆様の安全はわたしが保障します……が、ここより奥へは勝手に入らないようにお願いします」
そう言って指さしたのは部屋の奥ではなく、このエリアの奥という意味だと理解した。
「そこから先は精霊界に近いエリアです。物質界の生物が入るにはリスクのある場所です。精霊の加護がない者が入って影響がない人は稀ですし、精霊に敵対されることがあれば無事を保障できません」
そう説明されたが、ムッチミラはメインシナリオ通りの進行であれば奥に行っているはずだ。
「あとは、妖精界は物質界と時の流れが違います。なので、お帰りの際には声を掛けて下さい。上まで直接送り届けますし、古い友人に頼んでおきましたので、地上に戻った際には入ってきた日に地上へ着くよう手配しましょう。なので、回復のためにも泊って行ってください。その方がルーチェも喜ぶと思います」
チラッとルーチェの方を見ると彼女と目が合う。
「是非、ゆっくりして行ってください」
そう言ってニッコリ微笑む。
「ところでフェアリークイーン様。どうしてもわたしはサクリ様と離れなければならないのでしょうか?」
「……それは貴女がよく解っていると思いますよ」
そう返されて、彼女は黙ってしまう。……ただ、その事情を俺は理解していなかった。
「ルーチェは長い間地上にいたことで、すっかり身体が弱ってしまったのです。サクリ様と出会えたことで、その苦労以上の奇跡に恵まれたとも思いますが……」
つまるところ、ルーチェは見た目以上に消耗していて重症ってことなんだろうな。
「……やっぱり……ダメ……ですよね……」
ルーチェはポロポロと大粒の涙を零す。それを見たクイーンは彼女の元に近づいて抱きしめる。そのクイーンの行動には共感できたと同時に、今まで泣いた姿を見せなかった彼女に対し保護欲のような感情が湧いていた。
「これは落ち着くまで時間が必要そうですね。……ところで、貴方達の仲間にハルチェルカという名のヒューム族がいらっしゃいますね? その方と貴方に精霊王が会いたいと言っています。皆様も同行する許可を得ましたので、どうぞ奥へ」
……もしかして、気を使ってくれたのだろうか? ハルチェルカが呼ばれるだろうことは予想できていた。『竜騎幻想』のシナリオでもそういった話はあるしね。
戻ってくる頃には泣き止んでいるだろうことを信じて、精霊の元へ向かった。
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