招かれないと入れない! 無名の遺跡『光霊王の古祠』
イーベルロマに近づく毎に島出身の4人はソワソワしている。町や村で休憩をとる際にも情報収集には未成年の2人は同行を許さず、クレアカリンとリリアンナにメアリヤッカの同行を許可する程度で、代わりに俺がカロラインやフィルミーナに買い物へ連れ出して気分転換させつつ、入手した情報の報告に立ち会わせていた。……そうでもしないと安全を確保しながら情報を得ることは難しいと思ったからだ。
結果、高確率で父さんは生きていることが発覚。もちろん絶対ではないのだが、たまたまウチの大型貨物船が稼働していて、自衛能力が高い者を含む数名が船で逃れることができたという情報が入ったからだ。
そんな情報を仕入れつつ南下して、12日掛けて目的地に着いたのだが、俺以外はピンと来ていないようだった。
「ここに遺跡があるの?」
「あるよ」
既に日が落ちて見通しは悪くなっているが、もうすぐ目的地ということで強行した。しかし、俺以外に場所が判っていないため、「遺跡どこ?」状態である。
「ほら、あそこ」
街道の直ぐ傍にある海岸のその先に小さな島がある。俺はそこを指した。
「あそこって、どうやって行くの?」
マオルクスが興味津々に訪ねてくるが、他の連中も聞き耳を立てているのは丸判りだった。
「明日の日の出の時間に干潮を迎える。朝4時くらいかな? そのくらいになると、あの島まで歩いて行ける」
「あ~」
マオルクスは納得してくれたが、他の連中は理解しつつも半信半疑だった。
「どちらにせよ今夜はここで過ごすことになるから、コテージ展開するよ~」
「ねぇ、本当に船が無くて平気?」
ハルチェルカが心配そうに尋ねてくる。多分他の連中も同じ気持ちなのかもしれない。
「大丈夫。……とは言っても見た事ないだろうし信じられないよね? まぁ、明日は3時45分に1階へ集合にするから、早く寝るようにね」
話し合いの結果、申し訳ないが一般職のメンバーとエルミスリー、アグリシアさん達が野営の見張りを引き受けてくれて、2人1組でして貰えることになった。
街道沿いだがコテージを展開し、風呂が沸くまでの間は休憩を取る。
「それにしても、良いタイミングでブライタニアを出てきたよな……今頃、あのまま街にいたらと思うとゾッとする……」
「ゾッとする?」
カロラインが俺の言葉を理解できずにいるようなので、流れで説明をする。
「俺はチームを率いる際にルールを設けている。1番は原則として、俺は誰もチームに誘わない……だからね、情報収集中に仲間に入れて欲しい人が多すぎて焦った」
男なら勝手に拒絶されるのは過去例で判るのだが……今はこれ以上増えてほしくなかった。
「食事の用意ができましたよ~」
シオリエルの声でカロラインの追求が中断される。
「お手伝いします」
「あ、わたしも」
カロラインに釣られてフィルミーナもシオリエルの手伝いを始める。元々はカウンターに置かれた料理を各自運ぶのが基本だったのだが、カロラインとフィルミーナはみんなが仕事をしている中、ただ滞在しているだけなのが申し訳ないと自分達から手伝いを申し出たという経緯がある。
当時は一瞬、別に気にしなくても……と言いかけたが、俺達は良くともイーベルロマ出身じゃない者達が内心何を思うか判らない。それに、2人も何か役割があった方が気は紛れるかもしれない。
少し時間が掛かるものの、2人が必死に働いて食卓に料理が並ぶ。
「お疲れ。じゃあ、食べようか?」
俺の言葉が合図となって「いただきます」の言葉が溢れる。
「聞いていない人がいるかもしれんから、再度通達。今日はみんな、速攻寝てね。明日は3時45分に集合。場所はここ」
多分全員聞いていたとは思うけれど、念押し。
「ねぇ、歩いて渡るって聞いたけど、歩いている途中で水没とかってないですよね?」
「ないない。……ただ、時間的に余裕があるかどうかは微妙だし、完全に水面から道が顔を出すとも限らない。だから、原則潮が引いて足場が確認できるくらい水位が下がったら移動を開始する。歩いている間に道が顔を出して、渡り終わる前に水没はしちゃうかもだけど、渡り切れることは間違いない。泳ぐような羽目にはならないよ」
「……まぁ、サクリさんがそう言うなら……」
サティシヤがそんな心配をするから、一瞬疑惑が脳裏を過る。
「サティ、もしかして……泳げない?」
「……!?」
彼女は凄い勢いで視線を顔ごと逸らし、何事も無かったかのように食事を再開する。
……これは、図星か。そりゃ怖いわな。
「えーっと、野営の見張りはエルミとカナシリアさん。次がアグリシアさんとユミー。最後がシオチとユカルナね……任せたよ」
この順番も俺が指定したわけでなく、話し合った結果らしい。最初はカロラインとフィルミーナも見張りに加わると申し出たが、全員が反対したので丁重にお断りした。やはり子供に見張りは良心が痛むし、ほぼ大丈夫かもしれないが、それでも危険なことには変わりない。
「2人は気にせず、普段の時間まで寝ていて構わないからね。外は危険だから、ずっと屋内になるだろうけど、なるべく早く帰って来るから」
「大丈夫です。ご迷惑はかけません」
「自然の怖さは良く知ってるよ」
カロラインとフィルミーナもそう言っているし、変なフラグじゃない限り大丈夫。2人は素直な子だし、迷惑かけるような子じゃないからな……俺と違って。
「そうだ、サクリ。あたしも知らないんだけど、『光霊王の古祠』って、どんな所?」
「ん……えーっと……レイアは知ってる?」
「いえ、聞いたことないですね。干潮で通れることも初耳で……」
「リリアは?」
「わたしも名前だけですね」
……なるほどね。説明の必要が無ければしないまま進みたかったけど、仕方ないか。
「まぁ、俺も直接見た事ないから、実際と違っても勘弁してくれよ?」
とりあえず、そう前置きしておく。……今から語るのは『竜騎幻想』でのシナリオだから。
「何から話すかな……うーん。じゃあ、実は『光霊王の古祠』という遺跡は誰でも入れる遺跡ではないってことから」
「え?」
そう声をあげたのはレイアーナ。どうやら彼女も本当に何も知らないようだ。
「資格の無い者が遺跡に入ったとしても、直ぐに奥へ辿り着く洞穴でしかない。当然、何もなく、ただの穴だ」
もちろん、その「ただの穴」も見たことはない。でも、この設定に関しては事実だと思う。根拠はルーチェからの話。……当然、彼女からも『光霊王の古祠』について聞いているわけで。
「だけど、妖精や精霊から呼ばれた者とその仲間、または同行者、あとは一度来たことがある者くらいかな。その人達だけだが本来の『光霊王の古祠』に入ることができる。その理屈は簡単で、『光霊王の古祠』というのは物質界と妖精界、精霊界が重なっている特異な場所なんだ」
この世界……イヴァルスフィアでは当たり前……とは言わない。少なくとも精霊術士であれば知っている常識として、今いる世界を物質界と呼ぶ。そして、精霊がいる世界が精霊界。その中間にあるのが妖精界と呼ばれていて、精霊は妖精界を通って物質界に現れる。妖精が当たり前のように精霊魔法を使うのも、より精霊に近しい存在だからということらしい。
「そんなわけで、ヒューム族が妖精界に普通に行けないのは当たり前なわけで」
「じゃあ、本来の『光霊王の古祠』とは妖精界にあるのですか?」
「そうなるね」
レイアーナの問いに肯定する。
「ただ、妖精界は平和な世界というわけでなくて、物質界に近いところには各種妖魔も沢山いるわけで。対妖魔戦闘も考慮して進む必要があるんだけどね」
「妖魔……何が出るか、サクリさんは知っているのでは?」
アミュアルナが鋭い指摘に俺は頷く。
「あくまで高確率であって間違いなくってわけではないんだが……まず、何処にでもダンジョンであれば湧くアンデッド系。さっきの理屈でいうと、冥界も物質界に隣接しているからね。それと、平原の支配者であるトロールね。あと何処にでもいるコボルド。ちなみに野獣や魔獣の類はいないから」
物質界の住人である野獣や魔界の住人の魔獣は妖精界に入れない。そういう意味だと物質界が一番混沌としているのかもしれん。
「『光霊王の古祠』は深い階層になっていて、地下7階だったかな? が、最終層になっていて、そこだけが精霊界と重なっている。……妖精界にも当然物質界より精霊がいるんだけどさ……まぁ、そんな感じの場所。で、最下層が目的地らしい」
「やっぱり知ってた。サクリさんの予知能力? って凄いね」
「あはは……まぁね」
……実際のところ、予知能力じゃない辺りがポイントなんだけどね。
夕飯と風呂を終えて部屋に戻る。今日は早く寝なければならない。
「サクリ様」
「どした?」
ルーチェが声を掛けてくる。雑談という雰囲気ではなく、何か大事な話をしたそうな真面目な表情だったので、こちらも真剣に耳を傾ける。
「ここまで連れて来て頂きありがとうございました」
彼女は布団の上に降りて正座をし、頭を下げる。……まるっきり日本文化なのだが、『竜騎幻想』の登場人物以外でも日本文化の影響受けちゃうのかと、ゲームデザイナーってスゲーって思ったりもした。……いや、開発者は関係ない気もしなくもないが。
「遅くなって思うところもあったかもしれないけど、こうして無事に届けられて良かったよ」
そう答えると、彼女は顔を上げる。
「わたしも最初は早く戻りたいと思っていたのですが……今は自分の気持ちに戸惑っています」
「どういうこと?」
「わたしは物質界に存在する知的種族をサクリ様が言うところの野獣の類と大差ないように思っていました」
「それは、今なら判る気がするよ。コミュニケーションの取れない生物は対等には見れない。ただ、どのように見るかは個人差があるとは思うけれど」
「そうですね」
同意を得たことで、この辺の感覚は一緒なのだと少し嬉しく感じた。
「ですが、わたしを助けてくれたのがサクリ様でした。わたしの声が聞こえて、意味が通じて、意思疎通ができる。そんな方が現れるとは思っていませんでした」
「まぁ、俺も自分だけがルーチェの姿を見ることができることに戸惑ったけどね」
当時は何となく、自分だけが幽霊を見る事ができる霊能者の気分だったりした。
「サクリ様がもし、わたし以外のプルーム族の妖精を見る事ができるのなら、何かしら特殊な能力の持ち主なのかとも思ったのですが、見えるのはわたしだけ……きっと、わたしとサクリ様との間には何かあるのかもしれません」
「……かもしれんね」
そこまで話して、ルーチェは深呼吸するように大きく息を吐く。
「サクリ様。はっきり申します。わたしは貴方のことが心配です。わたしが同行している間にも死んでしまいそうなタイミングが何度かありました。お願いします、無理をされないで下さい。貴方にもしものことがあったら……今ほど一緒に同行できないことが悔やまれます」
そこまで話して、彼女は窓から何処かへ飛んで行ってしまった。
朝、目が覚めると何時の間に戻っていたルーチェが毎度のポジションで眠っていた。……結局、何度も言ったけど辞めて貰えなかったな……と、苦笑いを浮かべつつルーチェを引き抜くと彼女も目が覚めたようだった。
「おはようございます、サクリ様」
「おはよう。支度してくるわ」
「……いってらっしゃいませ」
彼女はまだ寒いのか、布団の中に潜っていく。それを見届けつつ、身支度を整えて出発する準備を整えてから部屋を出て下に降りる。
「おはよ、お兄ちゃん。眠れた?」
「おはよう。まぁ、普通かな」
時間が早くて寝つきは良くなかったものの、スッキリしている辺り睡眠時間は充分とれたようだ。
一方、すっかり幼児姿が見慣れたマオルクスは寝不足な様子が見てとれない。彼女も体調はバッチリなのだろう。
「おはようございます」
「おはよ~」
サティシヤとクレアカリンも起きて来て、共に下に降りると既に朝食の用意は整っていた。
「おはよう、サクリさん」
「何で? まだ寝てても……」
朝食の準備を手伝っているカロライン達を見つけて起きていたことに驚く。
「主人、お2人は良いとお断りしたのですが、夜の見張りもコテージの中から手伝って下さったのです」
「わたし達もちゃんと役立ちたいし、出発を見送りたかったから……だから大丈夫だよ」
カロラインの笑顔に対し、叱るのも違うような気がして……苦笑いしかできなかった。
「わぁ、凄い……」
見送りに来たカロラインとフィナが感嘆の声を上げてしまう程、神秘的な光景だった。
まだ水面が下がり切ってはいないが、小島に向かって道が見えていた。
「もう少しで水面が下がって道が現れるから、そしたら休憩なしで島まで渡りきる。みんなもそのつもりで」
俺が注意事項を促すと、各々返事が返って来る。
「じゃあ、行ってくる」
留守番組に声を掛けて、まだ湿っているギリギリ海上に現れた道を歩き始める。予定では余裕をもって小島に着くはずだけど……俺達のことだから油断はならない。
ルーチェも俺に肩車される形で頭部に抱き着いている。以前より飛ぶことも減るどころか、光の翅も展開されることが減った気がする。……疲労が蓄積しているんだろうなぁ。
無事に小島まで辿り着いた俺達は、探すまでもなく直ぐ近くにあった入り口へと入った。
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