出発の1日遅延と何故か広まっていたシャドウ級昇格の噂
朝を迎えたが、チーム内の空気は重たいものだった。原因は家族が心配で沈んでいるカロラインとフィルミーナが発する雰囲気と、俺を含むイーベルロマ出身者達へ気に掛けるメンバー達との相乗効果だった。
「おはよう」
チーム内では割と遅い方の起床。まぁ、正直若干寝不足ではある。
実際のところは家族を心配する気持ちが無いこともないが、それ以上にルーチェの毎度の行動や確かに追い出したはずなのに、目が覚めると全裸で添い寝されていたユカルナへの説教などで、ある意味気が紛れていた。……全く、健全な青少年を挑発しすぎなんだよな。
「おはよ。サクリさん、目の下に隈が……」
「ちょっと睡眠不足でさ」
リリアンナが俺の顔を見て心配そうにするが、ただの寝不足だとわかると普段の表情に戻る。しかし、彼女の次の言葉には驚いた。
「サクリさん。出発を1日延ばしましょう」
「なんで?」
正直、あまり延長する余裕はない。デンドロム王国では追いつくだろうけど、情報の把握は間違いなく遅れるし、旅行するわけではないので、現地で金策することを考えるならばコネ作りは早めにやらないといけない。今回はマリーさんのような方の助力を得られないのだから。
「あの子達、とても何かできるようなメンタルだとは思えないわ。それに、サクリさんもデンドロムに向かう際に野営で見張りできないですよね?」
……寝不足だから見張りはできない……まぁ、事実だよな。ただ起きているだけなら可能かもしれないが、周りに気を巡らせるだけで疲労もする。もし襲われた際に疲労状態では普段しないようなミスをするかもしれない。そのせいで誰かが死んだら……正直死にたくなるだろう。
「……確かに」
「ですよね。ですから、せめて1日は延長しませんか?」
3人が1日延長で完全に立ち直るということはないだろう。それでも、このままではいけないことやデンドロムへ向かうことは伝えてあるので、1日で気持ちを少しは切り替えることができるかもしれない。
「みんな、済まない。デンドロムへ向かうのを1日延長させて貰いたい。ダメな人いる?」
その場にいる全員が俺の提案に同意してくれた。多分、俺達が思っている以上に外から見ると弱っているように彼女達の目には映っていたのかもしれない。
準備は昨日の内に終わっていた。……まぁ、今日出発予定だったし。ただ、寝不足だからコテージ内にいると部屋で昼寝してしまいそうで、夜眠れなくなるのが怖かった。
「サクリさんは居てくれるだけで良いですから」
そこで俺達は『邪竜討伐軍』の動向やイーベルロマのスタンピードに関する情報を調べ始める。クエストもやると効率が良かったりするのだが、明日には街から出ることを考えるとクエストは受けられない。
情報収集はリリアンナとクレアカリンの2人で行い、俺は彼女達の男避け兼護衛の立場として頼まれて同行している。個人的には丁度良い眠気防止だった。
「あのぉ……」
リリアンナに女性冒険者が声を掛けた。基本、リリアンナから声を掛けるか、男性から声を掛けられることが普通だったため、自然と目に留まった。
「どうしました?」
「もしかして、“サクリウスファミリア”の方ですか?」
「そうですけど」
声を掛けられたリリアンナも戸惑っているように見えた。
「あの、シャドウ級おめでとうございます。……是非わたしも仲間に加えて頂きたいと思っているんですけど、どうすれば……?」
「あ~、ごめんなさい。今は人を募集していないんですよ」
「そうですか……」
仲間に入れて欲しいということは、きっとアイアン級の人。でも、ここはシャドウ級の冒険者の店。……なるほどね、アイアン級の冒険者の店でチーム組むより、強いところに入れて貰うことにした人か。……最初、俺もその方法を考えたんだけど、今思うと無謀だったなぁ。
……いや、待て。
「すみません。そこの方。さっき、“サクリウスファミリア”をシャドウ級と言ってました?」
「あたしですか? ……えぇ、そうですよ」
「それ、何処で知りました?」
「カッパー級冒険者の店では割と有名ですよ?」
……俺達が昇級したの昨日なんだが?
「その話、詳しく……」
「お兄さん、“サクリウスファミリア”に興味あるんですか? ……でも、入るのは無理だと思いますよ。あのチームは男性にとって入る事は不可能という噂もあるくらいだし。見ていた通り、女のあたしでも無理だったくらいだし」
「……ですね」
これはうっかり俺が“サクリウスファミリア”のリーダーだとバレたらダメなパターンだな。
「まぁ、気持ちはわかるわ。短期間でシャドウ級まで昇りつめた“サクリウスファミリア”に入れれば、直ぐに大金を稼げるというもの。普通、交渉するよね?」
……ごめんな。女性でも得体の知れない人物は入れられないよ……。
その女性達には正体を知られずに何とか別の冒険者の店へ移動する。しかし、何処に移動してもイーベルロマのスタンピードに関する情報は得られなかった。
もしかしたら、シャドウ級より上のブロンズ級……それより上の階級の冒険者の店であれば最新の情報が手に入ったかもしれない。……残念ながら利用する権限がないんだけど。
多分、冒険者の店には入ることはできる。飲み食い程度であれば可能かもしれん。けれど、こちらが冒険者だとバレた時点でトラブルが発生する。階級詐称を疑われたり、雇われた妨害・諜報工作員と疑われたりとか。
つまるところ、冒険者として仕事をした時点でアウト。情報収集もその一環。何故なら中には守秘義務が発生する依頼もあったりするからだ。
ちなみに逆パターンは問題ない。例えば、俺達シャドウ級がカッパー級の冒険者の店を利用するのは平気。というのも、そもそも冒険者の階級は扱える情報の権限の高さを示している。誰にも知られたくない依頼というのは階級関係なく個室で情報を開示されるので、街単位、地方単位、国単位といった情報を扱うための資格のようなものだと考えて良い。
だから、シャドウ級の冒険者の店を巡ることが最新の情報を入手する現状最高の手段というわけだ。……まぁ、シャドウ級冒険者の店も利用者人口を考えれば結構早い情報源だとは思うけれども。
「……ごめんなさいね。今は人員を募集していないの」
もう何人目か判らない……そもそも数えてすらいない……チーム入り希望者をお断りするところを見守ってから、3人で同じテーブルを囲む。
「無いね」
「……うん、流石【広報官】といったところ?」
「みたいだね」
人伝の伝達速度というのは遅い。例えば人口の少ない村の中であれば一瞬で広まる。しかし、村から別の村、さらに町から町となると話は変わって来る。自分にも関係あることであれば広まるかもしれないが、他人事の噂なんて広まり難いものである。……例外はゴシップ系か?
「唯一、有効な情報といえば、『邪竜討伐軍』が『光霊王の古祠』を通過したという話かな?」
「そうね。リーダーの話によると、そこからはもう寄り道無しでデンドロムに向かうんだよね?」
一応、冒険者の店なので「リーダー」と呼ぶが、俺と同一人物であるとは匂わせない。こういった情報収集のノウハウに最初は凄く感心したっけなぁ。
あれから、更に冒険者の店を巡り、ブライタニアのシャドウ級とカッパー級の冒険者の店を全て巡り終えて、コテージに戻る。
「ただいま~」
「おかえりなさい」
夕飯時だからなのか、俺達の帰りを待っていたのか……まぁ、正直判らないけど全員が既に1階の広間に集まっていた。
「どうだった?」
メアリヤッカの問いにクレアカリンは首を横に振る。
「そうか……」
露骨にガッカリした表情を見せる。
「それだけ【報道官】の情報は最速ってことだよ。まだ街の中で聞かないということは、公表前の情報を聞いたわけだから」
「情報が出回るのには、もう少し時間が掛かるかもね」
クレアカリンにリリアンナが続く。……俺? 当然何も言わない。
女同士の会話に極力入らない。これが俺の処世術だ……まぁ、今は話に入っても当事者の1人だし、何の問題も起こらないかもしれないけど……生活習慣という奴だ。
「それより、深刻な問題が発生しているの」
リリアンナが少し真剣な表情で話題を変える。……彼女にしては戦闘中でもないのに珍しいことだった。
「昨日、シャドウ級に昇格したわたし達だけど、既に噂が出回っている……変じゃない?」
……それは俺も思っていた。そして、それは冒険者としては嬉しいことかもしれないが、俺個人としては望ましい展開ではなかった。でも、そう考えたのは俺だけではなかったようで。
「えっ? 秘密だったの?」
そう素っ頓狂な声をあげたのはアミュアルナだった。
「別に秘密ってわけではなかったんだけど……ちょっと面倒なことがね」
「ごめ~ん。わたし、シャドウ級になったことが嬉しくて……ね?」
どうやら、情報を流した犯人は身内だったようだ……陰謀でなくて良かったわ。
翌日の早朝。あまり良い思い出の無い東の広場に集まっていた。デンドロムへ向かう陸路には2種類の道がある。
1つは西回り。そのルートは問題があって原則使われないが、最短でデンドロムに入ることができる。……問題というのは、ヒューム族が治める領域外に出ることなんだけどね。一部の冒険者が止むを得ず使うこともあるが、ご利用は命懸けです。
もう1つが一般的なルートの東回り。かなりの遠回りだが比較的安全な道である。まぁ、どの道も絶対に安全なんてものは存在しないのだが、1割の可能性で危険なのと、1割の可能性で安全ならば、普通は前者を選ぶだろう。
ついでに通った町や村でイーベルロマの生存者情報が入手できればラッキーだ。
「お待たせ!」
エルミスリーの声が背後から聞こえて来て、振り返ると二頭だての幌馬車の御者台に座っていた。なお、手綱を握っていたのは隣にいるアグリシアさん。
「その馬車は?」
「国から支給された馬車なの」
「自由に使って大丈夫なん?」
「問題なし」
俺の問いにエルミスリーが太鼓判を押すが……壊れて弁償とかにならないことを祈る。
「皆さん、乗って下さい。残念ながら乗り心地は良くないですが……徒歩移動よりは早いですよ!」
アグリシアさんがそう言ってくれたので、遠慮なく全員が荷台に乗り込む。1人でずっと御者するのは大変だろうからと、シオリエルやカナシリアさんが途中で交代を申し出ていた。
ずっと無言で不安そうな表情を浮かべていたルーチェも座る俺の肩に腰を下ろす。
「行こう」
俺の言葉が合図になったのか、馬車はゆっくりと進み始める。
随分仲良くなったとは思うのだが、それはきっと、ルーチェが一生懸命勇気を出して歩み寄ってくれた成果だと個人的には思っている。
「まずは……『光霊王の古祠』に寄る。そこまでも道中は長いから、町や村に寄った際には情報収集していくので、そのつもりで」
そう伝えると、各々返事が帰って来る。
「ついに帰る時が来たのですね。……あのぉ、紹介したい方がいます。是非寄って下さいね」
ルーチェが耳元で囁く。……出会った頃の警戒具合が懐かしいまであった。
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