ルーチェがサクリと離れることが決まり、自分の感情に気づく
夜も更けて、そろそろ寝ようかと思っていた。
相変わらずルーチェは俺の顔面に張り付いている。……多分ハグ……ううん、きっとそう。
コンコン。
「どうぞ」
来客に応じてルーチェは俺の頭部を解放し、一度机の上に移動する。
「遅くにゴメン。サクリは村の件、大丈夫?」
「俺はまぁ……むしろクレアの方が……」
「あ~、ウチはね。絶対生きてると思う。父さんは自警団の団長だから、生存者を守る使命みたいなものがあるだろうし、母さんも実は【暗殺者】で、村で実は一番強いから、死なないかな」
村を出てから聞いたが、彼女の母親は実は男である。産みの母は存在し、団長である父親は実のところ赤の他人だ。……まぁ、産みの母に関しては彼女から話すことはなく、こちらからも詮索しないので、詳しくは知らないけど。
「確かにそうかもしれん」
「でしょ? ……まぁ、ウチは平気だけどさ。サクリの両親はノーマル職だったよね?」
「まぁ……でも、結構直近の両親との関係性がね。だから平気かな」
……一応、俺を気遣って来てくれたんだな……と、クレアカリンに感謝した。
俺に心配は不要と理解したクレアカリンは部屋に戻る。……なんだかんだ言って、優しいんだよな、クレアカリンは。
コンコン。
……ん? 何か忘れたか?
「どうぞ。どうした?」
「……ゴメンね。目が覚めちゃった……」
クレアカリンかと思ったら、カロラインだった。泣き疲れて眠ってしまったため、目の周りが赤く腫れている。
「ううん。起きていたから良いけど……もし、お腹減っているなら、夕飯とっておいてあるはずだよ?」
「ううん、時間も遅いし、朝に頂くよ。……それより、さっきはゴメンなさい。冷静じゃなかったって思う……それに……」
何かを言いかけていたが、俺に抱き着いて再び泣き出してしまった。
「仕方ないよ」
「……違うの。折角誤解が解けたのに……間に合わなくてゴメンなさい」
……あ~、そういう……。
「それは別にカロンのせいじゃない。悪いのはアンテグラのスタンピードのせいだからさ」
「解ってるけど……でも……」
「ありがとうね」
「……うん」
とりあえず、彼女が落ち着くのを待った後、お風呂に入ることを勧めた。
カロラインが風呂に行った。流石に夜も遅いため気を使ったのかもしれない。……まぁ、今夜は仕方ないなと思う。
コンコン。
硬質なノックオン。少なくともドアをノックした音ではない。相手が誰かは割と直ぐに気付いた。
「どうしたの?」
ノックされたのはベランダの窓。ベランダにいたのはサティシヤだった。俺は慌てて窓を開けて彼女を招き入れた。
「いくら何でも、夜にベランダは寒いよ?」
「うん。思ったより寒かったけれど、カロンちゃんとすれ違うわけにいかないでしょ?」
俺は彼女が何を言わんとしているのか理解できなかった。
「みんな、なんだかんだサクリさんを精神的に頼っているようだけど、サクリさんは大丈夫?」
「うん。俺は全然平気」
「……まぁ、そうだよね」
そう言うと、彼女は何故か俺を抱きしめる。……臭かった昔が嘘のように良い匂いがする。
「辛い時は辛いって言って良いと思います。……無理はしないでね。おやすみなさい」
それだけ言うと、再びベランダから自分の部屋に帰って行った。
……やっと寝れる。ぶっちゃけ、まだ深夜と呼ぶには早い時間ではある。だけど、冒険者にとっては充分に遅い時間である。……いや、それも個人差があるか。確かに夜遊びが好きなタイプというのは存在するわけで。
俺達は朝が早い。だから、自然と早く寝る習慣がついている……これも女性ばかりのチームだからかもしれんけど……それも個人差があるか。
コンコン。
今度は紛れもなく扉からのノック音。
「どうぞ」
「目が覚めてお水を頂いたんですけど、戻ってきたら光が漏れていたのを見つけて……やっぱり起きていたんですね」
「どしたの?」
入ってきたフィルミーナは入口の傍で止まり、中まで入って来る気が無いみたいだった。
「サクリさんが居なかったから、今頃どうしたら良いか……ううん、そもそも村から出る理由もなくて死んでいたかもしれない。今日は色々ありがとうございました。おやすみなさい」
彼女はそれだけ言って深々と頭を下げると、早々に部屋へ戻ってしまった。
「入れ代わり、立ち代わり……サクリ様は随分人望があるのですね」
言葉とは裏腹にルーチェの言葉には若干のトゲがあるように感じたのは気のせいだろうか?
「流石、主人ですね」
「うおっ、居たのかよ」
不意のユカルナの発言でいつの間にか彼女が部屋に入っていたことに気づいた。……入口からじゃないよな? 何故なら気づいたら先程まで横になっていたベッドの上に転がっていたからだ。
「主人の安眠を守るのもわたしの役目。ですので、どうぞ気軽に抱きしめて寝てくださいませ。安心してください。わたしは抱き枕。絶対に微動だにしません」
……それはあれか? 眠ったあとに何かするフラグか?
彼女なりのジョークと受け止めたけれど、ルーチェがさらにご機嫌斜めになってしまった。
「どうした? 様子が変だけど」
「別に……何でもありません」
ルーチェはそう答えるけども、どう考えても説得力がない。
「……何でもないと言ってます。放っといて下さい」
完全にへそを曲げてしまった……確かに関与されたくないこともあるかと若干寂しく感じた。
……全員来たし、もう来ないだろ……。
ユカルナを部屋から追い出し、明かりを消す。完全に暗くなるわけではなく、ルーチェの身体が輝いており、仄かな光源となっていた。……まぁ、俺にしか見えないんだけど。
「んじゃ、おやす……」
「お待ちください。……きっと、彼女達をチームに同行させることでよりサクリ様の命が危険に晒されるのではないのですか? ……何故、危険を伴ってでも助けようとするのですか?」
ベッドで横になって割と何度も説明していると思うが……とりあえず意図を確認するか。
「……それ、前にも説明したと思うんだけど?」
「もちろん憶えています。ですが、やはりご自身の命の方が大事だと思うのです」
……まぁ、俺もハーレム系冒険者チームを作るつもりじゃなかったからな。
「なら解ると思うんだけど、俺に彼女達を見捨てるという選択はないんだよ。前世の俺にとって間違いなく彼女達の存在は俺の生きる糧だった」
彼女とは、推しの事を指している。今の仲間には推しではない人達も混ざってはいる。でも、サクリウスとして16年の人生でも、恩義を感じている人もいる。そういった人達を見捨てる選択は選べない。
「それに、最初は1人で幸せかどうかを確認するつもりだったんだけど、これまでの冒険者生活で1人だと詰んでいた場面が何度もあった。どちらにせよ、仲間は必要。その両方を満たすには今のスタイルでないと無理と解釈したんだ」
……実際には違う方法も存在しているかもしれない。けれど、もう変更も無理と言うもの。
「ヒューム族という種族は年中発情期で1年中出産すると聞いています。サクリ様は仲間にした雌達に子孫を作るつもりでしょうか?」
……あれ? 俺の話を聞いていない?
「いやいや。そういった、恋愛感情とか損得勘定じゃないよ?」
「でも、雌達は確実にサクリ様の貞操を狙っていますよね?」
……はい?
「いやいや、流石にそれはない。男として容姿の魅力も財力も権力もない俺を狙うとか……」
もし、そうだった場合は人数から考えて近日中に死んでしまうかもしれない。
「そのぉ、サクリ様。ヒューム族と美的感覚が違うので容姿的なことは判りませんし、財力や権力にどの程度の価値があるかは知りませんが、サクリ様は間違いなく魅力的な人だと思いますよ?」
「ありがとう。ルーチェは優しいね」
……はぁ、ルーチェにも気を使わせてしまった。って、そうだ!
「悪い、伝え忘れてた。ようやく『光霊王の古祠』に行くことが決定したよ。待たせたね」
これで彼女の望みを叶えられると思ったのだが……彼女の表情は喜んでいるように見えない。
「どうした?」
……何故かルーチェの表情が曇っている。もう、妖精の気持ちが俺にはわからん。そんな風に思っていると……。
「ちょ、本当にどうした?」
いきなり彼女はボロボロと涙を零し始めた。
「羨ましい……うん、多分そういう感情だと思います。わたしは帰らなければならないのに帰りたくないと思っています。……わたしもサクリ様に推されたい……とても悲しいです」
「それでも帰らなきゃならない……だろ? とりあえず今日は寝ようよ。ね?」
眠くて事情がよく理解できない。……帰ることは彼女自身も決断しているわけだしね。
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