ユカルナが自我を示した……サクリは精神にダメージ!
朝食を食べるために身なりを整え終えてしまい、こんなに部屋を出るのがしんどいのは初めてだと深々と溜息を吐いた。
重々しい気分の中、覚悟して扉を開ける。下の階から吹き抜けを通じて女性陣の話し声が聞こえる。何の話をしているかは想像がついた。
階段を降りる途中で俺が視界に入ったのか女性陣の会話が止まる。……あ~、やっぱりそうですよね。
「サクリ君、後ろの人は誰かな?」
笑顔でクレアカリンが尋ねるが、目は笑っていない。……まぁ、付き合いは長いがこんな表情の彼女を見たことが無い。……本来であれば理不尽な扱いだと思う反面、自惚れだった場合恥ずかしいので黙っているけど、そこに恋心があるならば俺に腹を立てる気持ちも理解できる。逆の立場だったら、誤解だと伝えても聞く耳があるだろうか? ……いや、ない。
「おはようございます。わたしはユカルナです。主人がお世話になっております」
……はい?
「……は? ねぇ、サクリ君。何時の間にご結婚されたのかしら?」
「してない。約束もしてない」
「……結婚? わたしが主人と婚姻する資格はありません。ですが、一生を懸けて共に歩んでいきます。皆様、よろしくお願いします」
そう言って、彼女は深々と頭を下げる。
彼女はいつの間にか尻まである黒髪を高い位置でポニーテールにして、三つ編みで束ねてあった。部屋に居る時は間違いなく全裸だったのだが、淡い橙色をベースにしたワンピースを着ていた。黒のアクセサリーによる差し色が入っていて似合ってはいるんだけど、そんなものを購入した憶えはない。その見た目はまるで普通の村人だ。
「……いったい、どういう……」
「あの、彼女は人ではないですね?」
問い詰める気満々だったクレアカリンを遮るようにレイアーナが質問を投げた。
「もちろんです。わたしは主人の武器ですから」
……まぁ、俺は知っていたけれども。
「武器……やはり貴女はサクリさんが使った黒い斧なのでしょうか?」
「はい、見ての通りです」
……見ての通りじゃないんだわ。
「えーっと……あの、種族名はオートマタとなっていたのですが、そういった種族は聞いたことがありません。貴女はいったい何者ですか? 斧だった貴女が何故その姿に?」
レイアーナが戸惑いながら質問を重ねる。……多分、何者かを探るため〈アナライズ〉を使用したんだろう。
「皆さんがお話していた通り、わたしは神器です。女神様により作られ、悪用されぬように自我を与えられました。オートマタという種族名は女神様に付けて頂いた種族名ではありますが、今のところわたし以外には多分いないと思います。ですので、オートマタは神器という認識で大丈夫だと思います。ちなみに、オートマタは自動人形という意味だそうですよ」
「レイアーナ、それは事実?」
「はい、彼女の話すことは事実の可能性が高いです」
クレアカリンが思わずレイアーナに確認するけれど、確認したい気持ちも理解できる。いきなり武器が美少女になったって理解できんよな。……一部の日本人以外。
「……まぁ、うん。理解が追いつかないけど、とりあえずわかった。一番わからないのは、何故、ずっと斧だったのに女の子になっているのさ?」
代表して話しているのはクレアカリンなのだが、全員が疑いの眼差しでユカルナを見ている。
「ずっと斧だったのは、前の主人に適応した結果ですね。今の姿は今の主人に適応した結果、こちらの姿が必要と判断しました」
……ん?
「その、何故必要だと?」
「主人の主な武器は両手剣です。わたしは斧なので、早々に放置や売却の可能性がありました。そこで、わたしの必要性と使用武器の変更の有用性を示す必要がありました。とはいえ、直ぐに示すのは難しい。直近として彼と距離を置かれることの回避が必要でした。そこで、彼の記憶の中で、彼の理想の異性像から庇護欲を得られるタイプの中でわたしの記憶にある方をモデルに再構成しました」
「……それって、貴女の姿がサクリさんの好みの姿ってこと?」
割って入ったリリアンナの質問に「好みの内の1つです」と答えた。
……要約すると、俺に捨てられないために俺好みの容姿になりましたってことになるんだけど……言葉にしたら凄すぎる。でも、意味違うんよなぁ。
「あの……サクリさんの好みって、どんな感じなのでしょうか?」
「……? 容姿の話ですか? それでしたら……」
「ちょっ、おい、やめろ!」
ユカルナの口を塞ごうとしたタイミングでアミュアルナに阻止するように抱き着かれる。
「離してくれ……頼む」
「ごめんなさい、サクリ君。わたしも聞きたいので」
【戦士】のアミュアルナに筋力で勝てるわけがなく。
「髪が長くて、清潔で、胸部が大きい女性ですね」
「やめてください、恥ずかしくて死んでしまう!」
女性陣の生暖かい視線が突き刺さり過ぎて辛すぎる。
「あの、そろそろやめてあげた方が……それに、わたし、聞きたいことがあるんです。あのぉ、前の所有者の方に対しても、その方の好みの異性の姿になって捨てられないようにしてきたのですか?」
カロラインが助け船を出してくれたのだろう、次の話題を投下する。
「いえ、前の主人は女神様から直接わたしを賜っていたので、わたしを使う適正があったのです。ですから捨てられる心配もなければ、主人と同じ種族の姿になる必要もなかったのです」
……ん?
「サクリさんは違うのですか?」
俺と同じ疑問を感じたのかカロラインは驚いているようだった。
「はい、違いますね。わたしの所有権は主人であるサクリウス様にありますが、主人には現段階で適性がないので、残念ながらわたしの力を使いこなすことができません。ですので、サクリウス様にはわたしの人型形態が必要だったのです」
使うことができんのに、何故俺に所有権があるんだろう?
「つまり、自身を武器と言っている割にサクリにとって用無しだと解っているから、武器以外の役割を担おうと?」
カロラインの質問を継いで更にクレアカリンが問い詰める。
「今はそうですね。いずれ主人はわたしの全てを引き出すことができるようになるでしょう。しかし、それまでには時間が掛かると思います。ですから、彼の成長を待とうと考えております」
「そうなると、サクリが成長するまで常に一緒に行動する必要はないということですよね? だったら、別の部屋で待機しても良いんじゃない?」
「いいえ。わたしは主人と常に一緒にいる必要があるのです。ですから、彼のお世話をするためにこの身体になったのです」
……なんか、ユカルナの言動は主人として仕えているというより、監視対象のような?
「お世話をすることに対し否定はしませんが……別に同じ部屋で寝なくても……」
カロラインが再び尋ねるが、ユカルナは首を横に振る。
「わたしは武器です。睡眠を必要としておりません。ですので、わたしの部屋は不要なのです。ですから、寝ていて無防備になった主人を守るのはわたしの仕事と考えています」
「……いやいや、そんなサクリ好みの身体で夜に2人で居る方が変なのよ」
再びクレアカリン……2人の圧に他の人達が質問できない程度には怯ませていた。
「あの、わたしが主人の好みの姿とはいえ武器なのです。クレアカリン様は主人が武器に欲情する変態だとお思いでしょうか?」
「いや、それは……」
「わたしの姿は赤ん坊が親に母性を抱かせるのと同じ。主人に大切にされるための自己防衛手段であって、他の意味はありません」
俺はこの時点で、会話に口を挟むと自爆行為だと悟り、静観すると覚悟した。
「あのぅ、結局ユカルナさんは武器として今はサクリさんの戦力にならないという認識で良いでしょうか? それと、今の姿では戦闘に参加可能なのでしょうか?」
レイアーナの問いを聞いて、初めて俺も興味のある質問だと思わずユカルナの答えに集中する。
「……残念ですが、今のわたしは何の戦力もありません。主人の身はおろか、自身の身すら守れないでしょう。わたしは武器ですので、装備できないのであればタダの荷物にすぎません。ですが、主人の適正の成長に伴い、わたしの本来の力が解放されていきます。主人がいずれはわたしの全てを掌握してくださると信じています」
「サクリさんの適正を成長させるのに何が必要なのでしょうか?」
続くレイアーナの質問にこれまでサクサク答えたユカルナだったが、数秒考える。
「そうですね……まずはわたしの身体の隅々まで触れて、慣れて頂く必要があると思います。あとは主人の手に馴染むように普段から使い込んで頂ければ……」
……あれ? 周りの雰囲気が……。
「やっぱり、別部屋用意するべきじゃない?」
「わたしもそう思います」
クレアカリンの提案にカロラインも同意する。他にもみんながコクコクと頷いている姿が若干怖い。……それでも結局、ユカルナの行動を誰かが制限するのは多分難しいんだろうな。
「……それで、サクリさんが扱えるようになるとして、今のサクリさんは斧を使っていません。サクリさんは適応したら斧を使うのですか?」
レイアーナの質問の矛先が急に俺へと向いた。「我関せず」を決め込んでいただけに不意打ちの状況になって言葉が詰まる。
「えーっと……斧か……うーん……今のところ考えてはいないけど、とりあえず天職に武器の制限はないから、使えないことはないんだよな」
「大丈夫ですよ、主人。わたしに慣れて頂ければ使いこなせるようになるはずです。そのためにはわたしを抱いて寝るくらいの気概を見せて、スキルを習得することが肝心です」
……つまり、俺は武器を抱いて寝るような変態になれってことなんですかね?
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