再会した故郷の親友が運んできた父からの手紙
ハルチェルカとの思い出を思い出すことは出来ないくせに、彼女の事情は全て把握しているという事態に大変申し訳なさを感じている。把握しているが故に彼女からの話には辛うじて合わせることはできているけど。
翌日の早朝。一旦ブライタニアに戻って遠距離移動の準備をすることが決まった。
「あのぉ、サクリ君。わたしも、仲間になりたい」
……あ~、やっぱりそう来たか。無駄だとは思うけど、一応抵抗してみるか。
「確かに俺はリーダーではあるんだけど、新しい仲間の加入に関しては全員の承諾を得ることを条件にしているんだ。だから、それをクリアしたらってことで良い?」
「わかった」
現実問題として、【風水士】が2枚というのは厳しいんだよな。救いは今回の戦闘でレベルがまた上がったこと。表示上はまだ8だが、更新すれば9になるはずだ。
「ねぇ、みんな。ハルチェルカさんが仲間に加わりたいって言うんだけど、反対の人っている?」
見かねたクレアカリンが全員に声を掛ける。その声は台所で朝食の準備をしているシオリエルに聞こえるくらいの大きさで、朝からよく声がでると感心してしまう。
各々「彼女ならいいよ~」とか「異議なし」とか、今話している広間以外の場所で準備をしている連中の声も聞こえてくる中、誰も反対とは言わなかった……まぁ、やっぱりね。
「だそうだ。そういうわけだから、これからよろしくね、ハル」
こうして、予想通りというか……仲間がまた1人加わった。
ブライタニアに戻ってきて、遅めの昼食を食べることになった。いや、それ自体は普通の事。だけど、俺はハルチェルカに誘われ、強引に彼女の実家に連れて来られたのだが。
「あっ……セレニティ商会……」
「ん? そうだけど、何かあったの?」
「いや、仕事をしたばかりでね」
……全く思い出せなかったんだが?
「ただいま」
「おかえりな……あら、サクリウスさん?」
流石にまだ会ったばかりなので奥様にも顔、忘れられていなかった。
「お母さん、サクリ君だよ。ほら、サイファリオ商会の!」
「サイファリオ商会……あぁっ! あの時のサクリ君だったの? 大きくなって……全然わからなかったわ。お父さん! お父さん!!」
随分、仕事で会った時と印象が違うものだと思わず自分の記憶を疑ってしまうものの、よく考えればビジネスとプライベートで気持ちが大きく切り替わる人というのも存在するだろう。
「サクリウスさん……今度は娘を助けて頂いたそうで……本当にありがとうございます」
「いえ、無事で良かったです」
「お父さん、彼、あの子なのよ。ほら、サイファリオ商会の男の子」
そう奥さんから言われて、彼も俺が何者かを理解したようだった。
「……それで、お父さん、お母さん。わたし、多分死んだことになっているの。だから、そのまま死んだことにしておいて。だって、彼がわたしの探していた人だから。わたしは彼の冒険者チームに所属して、一緒にデンドロム王国へ向かうから。……いいよね?」
本来、俺はこの話が何を言っているのかは理解できないはずなのだが、全部理解してしまった。つまり、婚約破棄に自身の死亡情報を利用するということなんだよな。
挨拶をして直ぐ帰る……なんて事はできるわけもなく。昼食をご馳走になりつつもサイファリオ商会のことや冒険者となった話なども根掘り葉掘り聞かれ、そこでハルチェルカは俺が彼女の兄の遺品を持ち帰って来たことを知った。まぁ、俺もさっき色々繋がったばかりだが。
最終的には彼女の両親からも了承を得て、ハルチェルカと俺は何故か両親公認になった。……公認とは違うか。ハルチェルカは死んでいることになっているのだから。尚、国から正式に情報が降りてくるまでは、両親のスタンスとして『邪竜討伐軍』に娘は在籍しているという認識のままでいる予定らしい。……相手は王族だし取り扱いは慎重にならないとだしな。まぁ、俺は相手が誰なのかは直接聞いていないけど。
食事を終えて、セレニティ商会を出ようとした時、穏やかじゃない会話が聞こえてきた。
「待ってください。わたしにはもう居場所が……」
「有余はあったはずだよ? 申し訳ないけど、今となっては他人様。今日中には出て行くように」
「そんなぁ……」
まともに聞こえてしまったので思わずハルチェルカの方を見ると、彼女は言い辛そうに表情を歪める。
「彼女、カナシリアさんって言うんですけど、兄さん……亡くなった次兄の婚約者だったんですけど、彼女の唯一の肉親であるお父様と一緒に亡くなったのですが、成人した彼女を家に置く理由がないということになって……結構前に出ていくように伝えていたらしいんですよ」
……あの人は……確かにまだ結婚していないとはいえ、厳しい処置のような……。
声を……いや、話を聞いてしまった以上は素通りできない。……けして声が可愛いからという理由では断じてない。
「あの……」
目に涙を溜めていたからなのか、儚げに映る。……いや、個人的な印象であり、けして声によるイメージ先行ではない。……多分。
腰に届くほどの淡い青色のポニーテールに深い桜色の瞳。ハルチェルカの兄の婚約者で成人と聞いているから間違えないが、見た目だけだと年下に見えなくもない。
「いきなり失礼ですが、天職は何を賜っていますか?」
「え? あっ、そのぉ……【商営師】ですけど……?」
いきなり聞かれて戸惑う彼女だったが、後ろにいたハルチェルカを見たことで答えてくれた。
「すみません。話していた声が聞こえてしまったので。行き先に宛てはありますか?」
「……いえ」
「先程はどうも。改めまして俺は冒険者“サクリウスファミリア”のリーダーでサクリウス。ハルチェルカも仲間に加わったんだけど、宛てが無いなら一緒に来ます?」
「……そのぉ……お世話になっても良いなら……お願いします」
何故、「一緒に来る」という聞き方をしたかというと、仲間として誘ったつもりでは無かったからなんだけどね。一時的な居場所の提供くらいの気持ちだった。
カナシリアさんも連れてコテージへ帰る途中。
「あっ、サクリさん!」
聞き覚えのある声が聞こえ、そちらを向くと懐かしい顔が4人並んでいた。
「え? みんな、会いに来てくれたんだ?」
現れたのはカロライン、フィルミーナ、メアリヤッカのイーベルロマの友人達とエルミスリーだった。
「やっと見つかったわ。何処の冒険者の店にも居なくて困っていたのよ」
案内していたのだろう、エルミスリーが役目を果たしたと安堵していた。
「そうだろうなぁ。拠点はすぐそこだから、案内するよ」
北の広場に展開したコテージへと戻ると、もう買い物を終えたのか全員が既に集まっていた。メンバー達も見慣れぬ人が増えていたことに気づき、興味津々と広間に集まって来た。
「サティシヤさん!」
1人、フィルミーナがサティシヤの存在に気づき、再会を喜んでいた。
「サクリさん、クレンさんは?」
「クレン?」
カロラインが尋ねる中、「クレンって誰?」みたいな空気が流れる。もちろん、それは彼女も感じ取っているわけで。……そうか、アレから人も増えたからなぁ。
「えーーーーっ!」
指した先にいるクレアカリンにエルミスリー以外の3人が驚き過ぎて固まってしまった。
「改めて紹介するよ。彼女達は俺の故郷、イーベルロマでの友人達で……」
各々自己紹介をして貰った上で、カロラインが周りを見て不安そうにしていた。
「どうしたの?」
「あっ、ううん、何でもないから」
……なんか1人だけ様子が変なんだよな。
「ん~、ねぇ、サクリ君。君のお目付け役として、仲間に加わっても良いかな?」
カロラインの様子を見て、何故かメアリヤッカが仲間に加わる提案をしてきた。
とりあえず、どういう意図か判断できずにメアリヤッカのチーム入りは保留にした。そもそも「お目付け役」というのが、意味が解らない。それに周りからのヘイトも買ったのではないかと心配したが故だった。
みんなに部屋を割り当ててから各自買い物をして、夜を迎えた。
コンコン。
「どうぞ」
もう夕飯も風呂も終えて、あとは寝るだけ……そんな状態の中、カロラインが入って来た。
「どうしたの? 何かあった?」
「まずはコレ。直ぐに読んで」
そう言って、彼女は手紙を差し出す。
「……そっか」
「驚かないの?」
彼女の問いに頷いて答える。
手紙の差出人は父。そして、内容はディックが【職審官】に裁かれて死んだというものだった。恐らく、その【職審官】はヴォルリックさんだろう。そして彼に情報をリークしたのは俺自身だ。
【職審官】は冥職持ちを処刑する義務を背負っている。それはこの世界に生きる者にとっての常識だった。
手紙には他にディックが死んだことで村人が記憶を有したまま正気に戻ったこと、俺への仕打ちに良心を痛めていること等書かれていたが、もうどうでも良いことだった。
「これで、家にいつでも戻れるよ」
「……ありがとう。俺が心を折られなかったのは、間違いなくカロンのおかげだよ」
俺がその件について彼女に伝えられるのは、それだけだった。
翌朝、例の股間の違和感で目が覚める。
「……んっ……ん?」
プニッ。
柔らかく、温かい感触。弾力があり、まるで人肌……?
それに気づいた瞬間、いっきに目が覚めた。目の前には会った事のない黒髪、黒瞳の女の子が何故か添い寝していた。……自分で確認してなんだが、意味が全く解らない。
「おい、ルーチェ。この女の子、いつ入って来た?」
そう声に出して尋ねたものの、彼女も知らないと答えるだけだった。
「おはようございます、主人」
そう言って、彼女はベッドから起き上がる。
多分、身長は140センチくらいかな? お尻に届く長い明るめの黒髪。そして漆黒の瞳。……何か、何処かで見たことがあるような既視感のあるおっとりとした美少女だった。
「えっと、何者?」
「わたしは、神器『黒刃の闇斧』。ユニット名『ユカルナ』。マスターに尽くす為に生まれ変わった貴方専用の武器です」
「……何故、武器が女の子で全裸?」
「わたしの見た目はマスターの記憶にある理想の女性を参照し作られました。全裸なのは……」
彼女が続きを言おうとしたところ、カロラインに目撃され……今日は朝から最悪が確定した。
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