予知夢再び。【風水士】ハルチェルカ=セレニティ
「落ち着いて。さぁ、あなたが賜った新たな天職は?」
すっかり恒例となった『竜騎幻想』の夢。これは多分予知夢なのだと思う。でも、これは検証のチャンスかもしれない。今夜は誰の夢を見るのか? 実際に会う人物は夢に見た人と同一なのか? これで答え合わせができる。
「【風水士】です。……折角だし、冒険者にでもなって世界を見て回ろうかな」
股上まである純白の髪のクラウンハーフアップ。そして少し薄暗い白の瞳。歳相応で整った顔立ち。同世代であれば美少女だと認定するくらいに目を惹く彼女はハルチェルカだ。
グアンリヒト王国で仲間になる初期ユニットの内、【風水士】の女性はハルチェルカのみだ。『竜騎幻想』ではなく現実で考えるのならば、【風水士】は余り気味と言っても過言ではない。それでもゲームに出演するのは彼女だけ。しかも話しかけるだけで仲間になる。だから、彼女は『邪竜討伐軍』に誘われたのだろう。ただ、彼女の物語的には事情があったんだよな。
視界が暗転して場面が変わる。建物の中で……多分彼女の家だろう。
「お父さん、お母さん。わたし【風水士】を賜ったから、家を出て冒険者になるね」
「……まぁ、仕方ないだろうな」
「そうね……でも、居場所は判るようにマメに手紙を寄越しなさいね」
このシーン、ゲーム内での三頭身キャラだから、両親がどんな人か判らんのだよ。だって、ゲーム内でのNPCは同じキャラの使いまわしだから。
ちなみに、彼女があっさりと冒険者になることを許されたのには理由がある。彼女の家は商家で、兄が2人いる。跡取りは既に長兄がなることに決まっていて、次兄は別の店……支店だったかな? を任せるような話になっていたはずだ。
なお、ハルチェルカに関しては商売に関心が無かった故に何処かへ嫁に出す……確かそんな感じだった。だが、それが嫌だった彼女は家に留まるとマズいと理解していて、さっさと家をでることにしているというわけだ。
「はーい」
でも、女性冒険者……しかも低レベルのソロは危険。彼女はそれを知らなかった。けれど、知らなくとも彼女は人を見る目……観察眼があって、変な輩には近づかずに済んでいた。
「なぁ、ハル。念のために確認するが、約束は忘れていないな?」
「約束……期限は1年。それまでに伴侶となる夫を見つけてくること。ダメだった場合は素直にお父さんが決めた相手の方と結婚する。……大丈夫。約束は守るわ」
……あぁ、そうだ。ハルチェルカには婚約の申し入れがあったんだ。けれど、彼女はそれを渋っている。理由は彼女には既に好きな人がいるから。彼女が冒険者になる目的が実はその彼を見つけ出すことだったりするんだよな。
「それなら良い。冒険者もそうだが、男には注意するように。関わるなとは言わないが、上手に立ち回って、嫁入り前の自分の身体を傷物にすることがないように」
……確か、ここまでがオープニングだったはず。そう思った矢先、視界が暗転した。
どうやら、次のシーンはハルチェルカ関連のクエストのイベントのようだ。
場所は何処かの草原。どう見ても街の中ではない。……この時点で、何のイベントか思い出した。
「ねぇねぇ、何でハルちゃんって髪が真っ白なの?」
……確か、街のイベントか何かで街の外にある近くの河原でキャンプをするって内容だったかな。その中での出来事だったはず。
「ふぇ?」
大人がやればあざといだけの返しではあるが、当時の彼女は確かまだ5歳だから歳相応の表現としては問題ない……とは思う。
「聞いてるんだけど?」
「……わかんない」
「なんか、おばあちゃんみたい」
幼い故の無邪気な言葉のナイフ。相手に悪意があるかどうかは判らないが、少なくともハルチェルカは傷ついて、その後ポロポロと涙をこぼしてしまうんだよな。
この件がキッカケとなり、元々おとなしい性格だったが、更に内気で人見知りの激しい女の子になってしまった。
視界が暗転して場面が変わり、二年後と表示される。
多分、彼女の部屋と思われる場所で彼女が何かをしているところに、扉がノックされる。
「ハルちゃん。ちょっと悪いけれど、この子の相手をしてくれる?」
母親にそう促され、彼女は嫌そうながらも素直に頷く。あの一件が原因ですっかり同世代の子供に対して苦手意識に侵されていた。
「……こんにちは」
戸惑いながらも男の子がハルチェルカに挨拶すると、彼女も少し怯えながらも彼を招き入れる。
「こんにちは。中に入って?」
そういうと、男の子は中に入って突っ立っている。その様子を見て、彼女は直ぐに慌てる。
「あっ、そうよね……えっと、ここに座って?」
自分が今まで座っていた椅子から立ち上がって、男の子に譲る。そして、自分はとりあえずベッドに腰掛けた。
「わたしはハルチェルカ。貴方の名前は? ……あっ、そうなんだ」
男の子の音声は無い。外見も量産型のNPC少年のアイコンだった。以降、男の子のセリフは字幕で表示される。
「同じ歳なのね。遠くからどうやってきたの? ……へぇ、いいなぁ」
少し会話して、彼女の恐怖心は若干和らいだようだった。
「……え? 髪?」
男の子は彼女に近づくと、多分彼女の髪を撫でているのかもしれない。そして、「とっても綺麗。お姫様みたい」と表示される。
「そ、そうかな? えへへ……ありがとう」
元々、最初の回想では腰まであった長い髪を例の一件で現在はショートボブ……というか、画面上ではおかっぱになっていた。まぁ、画面上の話であって、実際は違うかもしれないが、どう見てもぱっつん前髪にしか見えない。でも、本当にそうなら、「お姫様」という表現は出ないよな……。
ちなみに、このイベントが彼女の初恋シーンらしい。
視界が暗転したので次のシーンかと思いきや、随分とシーンを飛ばしたようだ。
イベントアニメーションが流れ始め、ハルチェルカの姿が仲間にした時の姿と変わらぬ姿になっていた。
「どうしたの? 急に呼んで」
彼女は既に冒険者として家を出て数ヶ月を過ごしていた。ただ、思っていた以上に早く呼び戻されたことに内心怒っているような演出だった。
「確認したいことがある」
彼女の父親……あれ? 見たことがあるような……?
「何よ?」
「ハルの婚約をしたくない理由は、片思いながらも好きな人がいるから……そうだったな?」
「えぇ。彼に一度は確認しない限り、諦める事なんて出来ないわ」
……あ~、そんな話だったな。彼女は成人し、何をするにしてもまずは婚約を……と考えていたが、彼女が断固拒否。理由を求められて我儘が許されないと悟った彼女は正直にそう答えたんだっけ。
「その男は、幼い頃にあっていて、最近全く会っていない。だから冒険者になって多分会いに行こうとしたのだろう。しかし、肝心の居場所が判らなかった。……違うか?」
「そうよ」
ハルチェルカは機嫌が悪いのを隠さず、父親に攻撃的に答えるが彼は慣れているのか平然と尋ねていた。
「ふむ。実はな、思い出したんだよ。昔、何度か仕事関係でお前に会いに来ていた子供」
「……ん?」
そう答える父親に期待の眼差し……ではなく、怪訝そうに言葉の続きを待っていた。
「クロノワール家の息子、ツグノス君。彼から嫁に来て欲しいと打診があった」
「断固拒否!」
嬉しそうに語る父親に対し、即拒絶した娘。そんな娘の反応に驚愕する父親。……最初にこれを見た時は思わず吹きだしてしまった。
「何故だ?」
「そいつじゃない!」
「えぇっ?!」
そう、このやりとりこそが、ハルチェルカ個人のメインシナリオとなるのだが、クエストをやらないプレイヤーには知ることもないっていうね。
「ソレは、わたしの事を人形か何かのように飾っておきたい変態よ。それに、「ハルは黙っていれば絶世の美少女だな」とか本人に向かって言っちゃうほどの失礼な奴。正直、嫌悪の対象でしかないわ。お父さん、断っておいてね!」
そう言われて、しょぼくれた父親の表現がまた滑稽で……可哀想だったなぁ。
アニメーションは終わるが話は続く。まぁ、ハルチェルカの話の導入だからね。
「ハル……悪いが、そうはいかないんだ」
「どういうこと?」
「実は、お前が幼い頃から気になる人がいることを話してしまったんだ。そうしたら、クロノワールさんからも、息子が嫁に欲しがっているから丁度良いと……もちろん、お前が気になっている人がツグノス君だとは指摘していない。それでも、彼等はそう受け取った可能性があって、私も彼のことを好きなのだと思っていたので否定しなかったんだ」
大陸の反対側で西の大国、クリスターク王国の王族であるクロノワール家。昔から大陸東方の品を買い求める際に利用してくれるという大のお得意様だ。そんなクロノワール家に誤解させておいて、違う人でしたとは言えないんだよな。
「そんなぁ……どうしたら……まだ日程とか決めてないでしょ? 猶予があるなら、それまでに何とかしないと……」
そう彼女が言ったところで視界が暗転する。
ゲームの進行的には順序が逆転しているが、どうやら時間軸的な順序で展開されているようだ。何故なら、このイベントはよく知っているから。
「貴女、1人? 良かったら仲間になってくれませんか?」
そんな字幕テロップから始まる。
「わたし? 仲間に誘う前に、貴女は何処のどなた様?」
「わたしは『邪竜討伐軍』を率いている※※※※よ。もし、現在進行中の仕事を受けていないのなら、是非仲間に加わって欲しいのだけど」
「……いいよ」
名前のところが聞こえないのはこの夢の内容の出所を伏せるため? よくわからないが聞き取れなかった。
実は、これだけのやり取りで仲間になるイベントが終わる。……まぁ、それだけの手間だから、この世界の【剣の乙女】も仲間に加えたのだろうけど。
再び暗転。今度は家の中で父親と2人きりのシーンだ。
「お父さん。わたし、『邪竜討伐軍』に参加することになってしまいました。そういうことなので、もう誰とも婚約することはできません。申し訳ありません」
「……そうか。流石にそれは仕方ないな。そう伝えておこう……」
……申し訳ないと言っているのに、彼女はニコニコと笑顔で告げる。全然申し訳なさそうには見えなかった。そして、そんな彼女を見て父親は苦笑していた。
再び視界が暗転し、次のシーン……それは『邪竜討伐軍』に入って結構経過した後のイベントアニメーションだった。
「新しい仲間が加わったわ」
主人公が仲間達に宣言する。……もちろん、仲間に加える時には操作をしたのだから、プレイヤーは誰が入って来るのかを知っている。
「初めまして。【双剣士】のツグノスです。貢献できるよう頑張ります。どうぞよろしく」
漆黒の髪に淡い灰色の瞳。装備も黒色がベースの革鎧系の装備。整った顔立ちは『竜騎幻想』の仲間になる全男性ユニットの内、一番人気の美青年である。特に彼の祖国であるクリスターク王国の女性には大人気で、前世の『竜騎幻想』ファンの女性の中でも違う意味で大人気のモテ男だ。
多くの仲間が「よろしく」と自己紹介をしていく中、彼の視線がとある場所で止まる。
「やぁ、こんなところで奇遇だね、ハルちゃん」
「気安く呼ばないでくれる? クロノワールさん」
距離を詰めるツグノスに対し下がって距離をとるハルチェルカ。
このイベントアニメーションはメインシナリオ中盤で仲間になるツグノスを仲間にしたタイミングで仲間にハルチェルカが在籍している場合に発生するものだ。
「な、何故?」
「……1つ、ケジメとしてお詫び致します。わたしの父がわたしの結婚しない理由について、想い人がいる旨を話した際に、父も勘違いしていたようでクロノワールさんに誤認させてしまったと聞いています。確かに幼い頃に出会った男の子のことが好きで、一度この気持ちを整理するために彼に会おうとは思っておりましたが、その彼とはクロノワールさんではありません。ですので、馴れ馴れしい態度は遠慮して貰いたいです」
それだけ言うと、ハルチェルカは頭を軽く下げて踵を返して離れていった。
……目が覚めた。予知夢を見た日は早めに目が覚める。
「ハルチェルカか……これで『聖女リアラインの棺』に行って、彼女が残されていれば予知夢確定ということだよな」
返事はない。つまり、ルーチェは寝ている……多分。
「……」
チラッと股間を見て大きくため息を吐く。もう絶対生地が伸びているに違いない。あえてどこのとは言わないけどさ。
……確か、ハルチェルカは仲間に加えた時点で最初からレベル8とかだった気がする。そう考えるとかなり有能なユニットのはずなんだけどな……本当に生贄にされたのか?
余談ではあるけど前世での検証の結果、ハルチェルカは仲間にしないことが一番幸せな人生になることを知っている。初恋の男の子と結婚したハッピーエンドだった。
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