名目は監視役、理由は護衛役、見た目はデート?
あれから、『邪竜討伐軍』は国内にはいるものの、メインシナリオを攻略している。街に戻って来る様子はなく、多分戻る理由ができない限り戻ってこないかもしれない。だからこそ、逆に俺達はブライタニアにあるカッパー級の冒険者の店を巡ってクエストを受けては達成するというのを繰り返している。それも、戦闘不要で遠出が不要なもの。所謂「お使いクエスト」とゲーム用語では言われる部類のクエストだ。
「あっ、ありましたよ。アルーラの花」
レイアーナが見つけ、根を傷つけないように掘り起こす。……花の事は詳しくないけど、根を傷つけると直ぐに痛んでしまう花なのだとか。実験に使うのか、観賞用として育てるのか知らないけれど、依頼主が所望している花である。
交渉は主にリリアンナ。調査、推理はレイアーナが担当し、主に2人で依頼を達成させている。それもこれも、全てレベルを他のメンバーに近づけるためである。
「早い……レイアさん、見つけるのが早い……」
「スキルがあるので、見つけやすいだけですよ」
表情がコロコロと変わり、周囲の……主に男性の……視線を普通にしていても集めてしまうリリアンナに対し、表情が微妙にしか変わらない物静かなレイアーナ。あまりにも性格が対照的なのだが、実は話が合うらしい。『竜王の時代』の勇者の話が2人の共通の話題のようで。
「いいなぁ。レイアさんは戦闘でも活躍しているし」
「そんなことないですよ」
2人楽しくクエストをしているので、俺はなるべく空気となって雰囲気を壊さないよう気を使っているわけである。
そもそも、何故俺が2人と行動を共にしているのか?
「では報告いきましょう!」
そう言ってリリアンナは俺の腕をとる。反対側の腕もレイアーナにガッチリと抱き着かれる。傍から見れば「両手に花」的な状況なのだが、実は俺の逃亡阻止が目的なのは当人達のみぞ知るという話だ。……名目は監視役らしいけど。
他のメンバー達同様に戦闘でレベルを上げられれば良いのだが、一応『竜騎幻想』での話ではあるけど、2人とも戦闘での経験値が多すぎると天職進化を失敗するんだよね。戦闘で得られるものよりは超少ないスキル使用での経験値や、クエスト達成の報酬経験値などで稼がないとならず……まぁ、実際はどうか知らないが、ゲームではそうなのだから用心のためだった。
幸い、クエスト関連はずっと放置していた。だから2人がやるクエストも充分にあった。
「は~い、こっちおいで……よ~しよし……いい子いい子」
リリアンナが猫を呼び寄せると抱っこして撫でまわす。抱かれた猫も嬉しそうに喉をゴロゴロ鳴らしている。
「では、飼い主さんに届けましょう。思ったより近くにいてくれて良かったです」
レイアーナが猫の確保を確認した上で、彼女に行動を促す。放っておいたら、ずっと猫と遊んでいそうな勢いだったから言ったのだろう。
簡単なクエストを片っ端から達成させていく。まだまだ経験値は足りないが、あとは夜間業務でリリアンナは経験値が間に合いそうだし、レイアーナも戦闘で稼げば……と思っていた矢先にリリアンナが拾ってきたのが、この猫探しである。それも今終わったわけなのだが。
依頼主である雑貨系卸問屋のセレニティ商会は今いる場所から近い。猫を抱っこしたまま運んで、依頼主を尋ねた。
「もぅ、ゴザルゥ!! 探したわ!」
そう言って会長夫人が猫を受け取ると猫のお腹に顔を埋める。……奇抜なネーミングセンスに若干引きつつも、猫が逃げ出す動機も一瞬で理解した。
……多分、また逃げるな……。
「ありがとう。これは約束の報酬です」
そう言って中年の男性……商会の会長が6000ナンスを持ってくる。美味しい依頼が放置されていた理由は仕事が飼い猫探しだったからかもしれない。
「あの、冒険者の店の主から伺ったのですが、貴方が“サクリウスファミリア”のリーダーの方でしょうか?」
「あっ、そうです」
「そうでしたか。息子の遺品と店の品を届けて頂き、ありがとうございました」
「いえ、たまたま見かけただけなので、お気になさらず」
実はとっくに気づいていた。ここが以前パーティに加わる前のアッツミュ達が受けていた依頼主であったこと。そして今、亡くなった方の多分若い方が彼の息子だったということを知った。
その言葉に、猫を吸っていた夫人と近くで雑用をしていた女性が顔をあげて、こちらに視線を向けて、頭を下げる。
夫人の方は判るけれど、雑用していた女性は何故頭を下げるのだろうか?
「あの、あちらの方は?」
「あぁ……アレは亡くなった息子の婚約者だった者で、もう1人亡くなった者がいると思うのですが、その者の娘です」
本人に聞こえるようにそう言われたら、彼女に声を掛けないと気まずいじゃないか。
何て声を掛ければ良いのか……そんなことを考えながら、彼女の元に近づく。
「この度は、父と婚約者のこと、ありがとうございました」
「いや、見かけたのは偶然だし、助けられたわけでもないので……」
「いえ、もし護衛の方々が全滅されていれば、わたしは家族の死を知らないままでした」
彼女の方から声を掛けてくれて助かったと思ったのも一瞬で、やはり内容は重い。尚、会長夫婦は報酬も渡し終えたし、暇でもないわけで建物の中に戻って行ってしまった。それを見届けたから……といったタイミングで彼女は話し始める。
「わたし、一度会って、ちゃんとお礼を伝えたいと思っていました」
「大丈夫ですよ」
「いえ。わたし、ここを出ていくことになりましたので、そうなる前にケジメをつけたくて」
「出ていく?」
不穏な言葉。……彼女の境遇の話ではなく、俺にとって悪い都合の話。
「はい。セレニティ商会からすれば、わたしは息子の婚約者であり、従業員の娘でした。けれども、どちらも失いまして。わたしがここに居る理由を失ってしまいました」
「いやいや、貴女も従業員ですよね?」
「……そうだったのですが、実はまだ18歳で、ここで働き始めて2年くらいしか経っていないんです。ですので……」
……なんだ、それ。戦力外なので要らないって? まだこれから経験を積めば戦力になるかもしれないのに?
「ここを辞めて、もっとお給金の良い場所を探そうと思って」
……あぁ、自分から辞めるのね。
「そ、そうですか」
「それに、『邪竜討伐軍』が国外に向かうという噂も聞いているので、きっと軍が留まる国であれば、経済が活性化して儲け話もあるかもしれません」
「それもそうかもしれない。……頑張って下さいね」
「ありがとうございます」
……ふぅ。内心、連れて行って下さいとか言われるかと思ってビクビクしていたが、何とか回避できた。チームの人数はもう充分な気もするんだよな……でも、推しはまだ沢山いるし、これまでの経験から極力仲間は増やさないに越したことはないんだよな。
「おお、みんな成長したね」
『邪竜討伐軍』が国外へ出ると言う噂のより詳しい話を経験値集めがてらリリアンナに調べて貰った結果、もうすぐ出国するというのが正しい情報だと判明した。現状攻略しているのは『聖女リアラインの棺』と呼ばれる遺跡で、それを突破したら『光霊王の古祠』を攻略し、その後は南のデンドロム王国へ向かう。それが『竜騎幻想』でのメインシナリオの流れで、噂が届いたタイムラグを考えたら、既に『聖女リアラインの棺』はクリア済みと考えるのが妥当だろう。
そこで、みんなのレベルやステータスの現状を共有し、『聖女リアラインの棺』へ向かいたいと伝える予定だ。
「レイアーナ以外レベル8。もう8年分くらいの経験値を稼げたことになるかな」
レイアーナもレベル7後半。すぐに追いつくだろう。
全員、想定通りに育っている。これなら全員が天職進化できるだろう。……ゲーム通りの仕様ならね。
更新したばかりの冒険者カードを眺めながら、全員のレベルとステータスを確認。さて、本題だ。
「実は今日、頼みがあってさ」
「頼み?」
クレアカリンの問いに頷いて言葉を続ける。
「噂は聞いているかもしれないけど、『聖女リアラインの棺』へ向かいたい。正直、依頼ではないから報酬も出ないけど、一緒に来てくれると嬉しい」
今回は無理と言われても咎める気はないし、最悪1人でも向かう予定だけどね。
「いいよ。行こう? それが目的だろうし。……みんなは?」
すっかりサブリーダーの地位に就いているクレアカリンが周囲の同意を求めると、全員が首を縦に振る。意義は無いようだ。
これで向かうことが確定はしたが、そこで会えるのが推しとは限らないんだよな。
「ところでお兄ちゃん。その『聖女リアラインの棺』って、どんな場所なの?」
すっかり膝の上が指定席になっているマオルクスの問いにリリアンナかレイアーナが答えるかと思ったが何も言わないようなので、色々説明がてら話す。
「そうだな……えっと、【聖女】リアラインという『竜王の時代』に勇者と共に活躍した女性を盛大に弔った場所なんだけど、そこはグアンリヒト王国の王族にとって神聖な場所で今回の遠征での無事を祈願して国王様達も参加して祭事を行うらしい。だが、国内には王族を狙う不届き者達が存在していて、そこで襲撃された……というわけだ」
「そうだったの?!」
リリアンナも情報を把握していたのは承知していたが、彼女より俺の方が詳しい。理由は俺の知識は『竜騎幻想』のモノだから。
「……という事らしいよ。それで、ここからが重要な話なんだけど、あの遺跡には残酷な仕掛けが存在している。この遺跡に入ると原則出ることができなくなる。魔法的な仕掛けなんだけど、遺跡を出るには生贄を必要とするんだ」
「生贄? ……そんな存在が必要な場所が聖域なの? 理解できないわ」
マオルクスが悪態を吐く。……忘れているとは思うけど、君も一応王族なんだぞ?
「王様達が同行するのだから、奴隷か罪人かを連れて行って生贄にしたんだろうけど、実は襲われた際に最初にその生贄が殺されているんだ。まさか王族を生贄にするわけにいかず、『邪竜討伐軍』から生贄を出すことになって……俺の目的は、その生贄が誰かを確認すること」
推しならば命を張って助けたいところだが……そうじゃなければ見殺しも視野に入れていた。
「正直危険すぎる場所だから、中に入らず何とかできるのならばそうしたいところ。誰か遺跡に囚われていること自体は確定しているんだけど、軽い覚悟では助けられないだろう。だから、最悪確認するだけして見殺しにする可能性もある」
……正義感の強い人もいるだろう。もし、見殺しにするような状況になったら、良心が耐えられないかもしれない。そんなことを心配していた。
「わかった。サクリはあたし達の誰かを生贄にしたくないんだよね? 理解したから……変な気はまわさなくて良いからね?」
全員の総意ではないことは承知しつつも、クレアカリンの言葉には感謝した。
「じゃあ、行こう。あまり時間に余裕がないから」
幌馬車と御者をレンタルし、俺達は最短距離で『聖女リアラインの棺』へと出発した。
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