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サクリの生態に関心を持ったルーチェの疑問

 『国立賢王学院』経由でのブライタニアへの帰り道。割と長い旅路を経て、レイアーナは仲間達と仲良くなったように見える。コレが馴染んだということなのかもしれない。


 仲間に推しユニットが3名も居る。贅沢極まりないと思うのと同時に、実は今回もかなり背筋が冷たくなる感触が何度もあった。……はたして、このチームにいることで推しは幸せになれるのだろうか? 冒険者エンドで本当に良いのだろうか?


 ……近い内に死んでしまいそうだが、死なないように抗わないと。


「……うぅ……まだ少し頭が痛いですぅ……」


「話せるようになった?」


「……はいぃ……」


 まだ若干辛そうに話すルーチェ。現在はラムルーチェを出発して2泊目の夜。徒歩移動は明日で最後になり、その後は乗合馬車での移動になる。その間、ルーチェはずっと移動は最小限で基本俺の頭上に突っ伏していた。何も話すことは無く、『亡国の廃城遺跡』での戦闘後から同じ状況で、今やっと口を開いたといった感じだ。


「返事、ヘロヘロだなぁ。……そうだ。改めて、ボーンナイト戦の時は本当にありがとう」


 彼女が居なければ苦戦……いや、下手したら負けていた可能性すらあるわけで。


「はいぃ……でも、話は聞いていましたぁ。それでそのぉ……質問があるんですよぉ」


 普段は穏やかなお嬢様口調だが、口調に力が抜けた彼女は舌ったらずでかなり可愛い。


「質問?」


「そのぉ……サクリ様はレイアーナと呼ぶ雌個体を仲間に加えたくない様子でした。ですが、嫌っているわけでもない……どうして拒絶したいと考えたのでしょうか?」


 ……おっ、少しずつ口調がしっかりしてきた……。


「まぁ、レイアーナは実際推し……あ~、えっと……好きだからな」


 言い回しに多少語弊はあるが、間違ってはいないはず……咄嗟に良い言葉が出てこなかった。




 多分、そんなに深い関心はないだろう……そう思って率直に答えたわけだけど、ルーチェはどうも納得していない様子。


「どうしたん?」


「その……サクリ様のことが解らないんです。好みの個体であれば仲間に加わりたいという打診は歓迎すべきでは? もう一度聞きます。何故、仲間に加えることを拒絶するのですか?」


 ……そうか、確かに答えになってないか。好きだから拒絶するという行為は事情を知らないと意味不明だよな。


「まぁ、ルーチェになら話しても良いかもな。どうせ、他のヒューム族やヒューム族とコミュニケーションがとれる種族と会話が不可能だもんな」


「……わかりました。誰にも知られたくない話なのですね? わたしは同じ妖精族であっても話さないと約束します」


 ……どうやら、すっかりヘロヘロモードを脱したようだ。いや、もしかしたら俺が秘密の開示をすることに敬意を払って、我慢しているのかもしれない。


「ありがと。……さて、何処から話すべきか……まず、俺は前世から続く女難に苦しんでいる」


「前世? 女難?」


「ひとつずつ説明すると、俺はサクリウスとして生まれる前の記憶を持っている。それは、こことは違う異世界の記憶。そして、女難とは女性……ルーチェ風に言うなら雌個体と関わることで、俺が不運になるというもの。好かれたり、嫌われたりっていう強い感情をぶつけられる程に厳しい状況に陥り、最悪の場合は死に至る呪いのようなものだよ」


「……それで、好きな雌個体なのに仲間に迎えたくないと?」


 どうやら彼女の疑問には答えられたようで、俺は首を縦に振る。


「なら、遺伝子を残すための最低限の雌個体を残し、他の雌には接触しなければ……」


「詳しくは説明し難いんだけど、前世で生きていた時に、この世界のことを知っていたんだ。この世界の特定の人物達が好きで、その人達の幸せに暮らしている様子を確認したい。それが冒険者をやっている目的なんだ。放置すると不幸になる可能性が高いのを知っていたから、助けが必要なら手を貸したいと思って」


「……サクリ様はお優しいのですね」


 説明してはみたものの、伝わらないだろうと思っていた。が、意外な反応が返って来た。




「優しい?」


「えぇ、とっても。不幸になる可能性が高いからという理由だけで命を賭けているのだから、優しいのだと思いますよ。誰にも真似できるものではないかと」


 ……過大評価……いや、俺の言ったことが部分的に伝わっているから、そんな評価になったのか?


「でも、解らないこともあります。サクリ様は前世で、この世界の事を知ったと言いました。でも、それはサクリ様が未来予知をしているということなのでしょうか?」


「あ~、結果として似たようなもんだけど……違うかな」


 できれば、ここがゲームの世界だとは伝えたくないんだよなぁ。


「サクリ様の前世の記憶にある異世界って、どのような場所だったのでしょうか?」


「どのような場所かぁ……俺が居たのは日本という国なんだけど、魔力がない代わりに電力が存在していて、魔道具の代わりとなる電化製品というアイテムで生活するんだ。魔獣や妖魔、亜人や妖精は存在しないし、魔法もない。代わりに科学が発達していて……って、言っても説明が難しいんだけどね」


「……なるほどぉ」


 ……あ、ちょっとヘロってる。やっぱり我慢しているのかも?


「じゃあ、その科学っていう力でこの世界の存在を知ったのでしょうか?」


 ……これは、避ける事が難しいかな。


「まぁ、全く無関係ということはないんだけど、直接起因していることではないかな。日本には『竜騎幻想』という物語が存在しているんだ。その物語には、この世界のこの大陸。厳密には【剣の乙女】の活動の記録が記されているんだ」


 ゲーム云々は多分わからないだろうから物語ということにしたけど、できれば『竜騎幻想』の話をこの世界の誰かに伝えたくは無かったなぁ……。本当に伝え方は気を付けないと。




「その『竜騎幻想』とは、どういった物語なのでしょうか?」


「紙に文字が書かれた本ではないから、細かい部分までは説明できないけれど、ざっくりと説明すると、舞台はナッツリブア大陸のグアンリヒト王国に【剣の乙女】が召喚されるところから始まるんだ。世界に復讐するべく復活した邪竜王がまずは大陸を支配するべく動き始めた。その噂を聞いたグアンリヒト王国の王が【剣の乙女】に邪竜王討伐の任を命じ、軍資金と屈強な仲間を与える。他国とも連携し、仲間を増やし、そして復活した邪竜王と対決するって話」


 超ざっくりと説明する。ゲーム故に分岐エンディングがあるという話をすると説明が複雑になるので、その辺は省略。


「それって……」


「うん、本当にこの世界の話」


 ルーチェはアワアワしているが、彼女が混乱する気持ちも理解できなくもない。


「いえ、その物語はもしや、この世界の預言書なのではないかと思ったので……」


「預言書?」


 ……その発想は無かった。


「確かに言い得て妙だな。だけど、異世界の話だから誰も預言書だとは思わないかな。まぁ、だから俺はこの後、どういった展開になるのかを知っている。その物語に出てくる登場人物も知っている。登場人物の全員が不幸な末路に至るわけではないし、不幸の末路を辿る人物の全員を救えると断言できるほど、俺は有能では無いし傲慢でもない。……ただ、好きな登場人物が実在すると知った今、その人達だけでも救いたいと考えているんだ」


「まるで運命を変える力ですね……それは奇跡というのでは……?」


 ……知ってる。だけど、何の代償もない大きな力は存在しないんだよ。




「……だとするなら、さしずめ女難による生命の危機が代価になるんかな?」


 そう話すと、彼女は神妙な顔つきになっており、何かまずい話をしてしまったのかと不安になったが、直ぐにそうではないことに安堵する。


「サクリ様。丁寧な説明、ありがとうございます」


「ん? あぁ、ルーチェ相手だから言っただけだし」


「……確かに、そういった要因もあったかもしれません。ですけど、それでもサクリ様がこの話をするのにとても悩んだ上に勇気を出して下さったことくらいは理解できます」


 そう、この世界の人達に異世界である日本の話はしたくないんだよな。変な影響……文明破壊しそうで。……まぁ、この世界は日本人スタッフが作った世界だから……もし、別の異世界があるならば、そこよりは配慮が要らないというのは助かるけれど。


「サクリ様が知らない話だとは思いますが、実は妖精族は昔からヒューム族を馬鹿にしている傾向があるのです。ご存知の通り、多くのヒューム族はわたし達を見る事ができません。何をされても気付くこともない。……そういったことが原因だったのですが、考えてみれば当たり前で当然個体差というものが存在するのです。……サクリ様。この度は先入観からの助けて頂いたばかりの頃の失礼な態度、大変申し訳ありませんでした」


 そう言って、ルーチェは深々と頭を下げた。




「いや、そんなに謝らなくて良いよ。それにもう1つ目的ができたんだ」


「目的ですか?」


「うん、実は俺以外にも同じ世界から転生した知り合いがいるんだけど、同じタイミングで死んでいたみたいなんだ。もしかしたら、他にも知り合いがこの世界に転生しているかもしれない。もし、彼女達が困っているようだったら助けたい」


 これはマオルクスのことを知った時から考えていたことだった。


「……心を通わせることができた相手が貴方で良かった……」


 ただ本音を打ち明けただけなのだが、感動している彼女に対し若干戸惑った。




「サクリ様。実はわたしも貴方に黙っていたことがあります」


「ん?」


 ルーチェにしては珍しく床に降り立つと、その場で土下座をされた。


「……ちょ、頭上げて!」


「本当はわたし、サクリ様のことを出会う前から存じておりました」


 ……ん?


「正確には、サクリ様の記憶の断片を夢に見るようになっていました。なので、サクリ様がどんな人生を送ったのかは、ざっくりと知っております。でも、今日の説明で見た事無い景色について理解できました。……あれが異世界の景色なのですね」


 ……あ~、あんな説明で信じてくれた理由が今わかったわ。


「俺の夢を? 何故?」


「それがよくわからないんです。封印される前からのことですから、サクリ様と出会う前に知っていたことになるんです。意味がわかりません」


 ……封印される前から見ていた。仲間がいるなら既に相談しているはず。それでも知らないということは彼女の周りでは前例がなかったという意味だろうか?


 彼女は立ち上がると再び浮いて、テーブルに腰掛ける。……ファンタジー世界での土下座って違和感しかない。しかも、土下座していたのは二頭身の妖精だし。……幼児を土下座させているみたいで良心が痛くて出血してるっつーの。


 でも、こういった類は自発的にやった以上、止めたら相手の意思を拒絶したことにもなっちまうし……このシステム、本当によくない。


「それでその、これは余計なお世話かもしれませんし、考えすぎなのかもしれませんが……サクリ様、サクリ様の前世の世界から転生してきた方々が複数いるのは理解しましたし、どのような経緯で前世のサクリ様が亡くなったのかも見ました。もし、同じ理由で転生してきた人が悪人であったらなら、どんなことになるでしょうか?」


「えっ?!」


 ……全く考えていなかった。


「しかも、その『竜騎幻想』という物語の内容を知った方だった場合、どんなことをするのでしょうか?」


 ……そうだ。当然ながらその可能性もあったんだ。


「どうだろう。考え方なんて人それぞれだけど、やろうと思えば国を乗っ取ることも可能だし、財宝の独占だって可能だと思う。犯罪組織を作ることもできれば、魔人族の復活だってやろうと思う輩がいるかも……」


「サクリ様は、それらの人達をどうされますか?」


 ……多分、異世界から来た正義の味方として悪を討伐することを望んでいるのかもしれん。


「基本的には何もしない。何故なら、多少の未来を知っている程度の存在に対し、この世界の人々は負けないと思うから。ただ、さっきも言ったけど、俺が助けたい人達と敵対する勢力であれば、助けたい人達のために俺は命を賭ける覚悟はしてあるよ」


 俺の答えを聞いた彼女は呆れるかと思ったが、ただ笑顔を浮かべて俺を見ていた。


「……えーっと、なに?」


 何も言わないルーチェに対し、生暖かい視線を感じた俺は若干怯んだ。


 ルーチェは無言のまま、フワッと浮かぶと背の翼が広がる。……ただ、魔力で飛行している以上、それほど翼に機能的な意味があるのか謎ではあるが。そして、そのまま彼女はポフッと俺の胸に飛び込んできて、反射的に彼女を抱っこすると、彼女の翼が縮小して消えた。


「大事な人のために命を賭けられる。それだけでも素晴らしいことだと思います。最後までお供したいとは思っていますが、きっと難しいでしょう……ですので、せめて『光霊王の古祠』に帰るまでの間だけでも、貴方をお守りすることをお約束します」


 何故、気に入られたのかが正直わからなかったが、女難にカウントされないことを祈った。




「ありがとう。よろしく」


「はい、サクリ様」


 無言で数秒の時が流れる。……引き剥がすのも何だかなと思い、彼女から離れるのを待っていたのだが、一向に離れる気配がない。


「……あのぉ、もしもし?」


「サクリ様、あったかいです……」


 ……えーっと、個人的には幼児を抱っこしている感じなので嫌な気分ではないのだが。


「我々、プルームに限らず、妖精族は基本的には寒がりなのです。個体差や例外も存在はするのですが、大半が眠くなると寒さへの耐性が無くなるので、普段は温かいところを住処にしているんですよ……ヒューム族の住処は寒いので……サクリ様の体温が心地良く……」


 無理を続けて限界が来たのかもしれない。抱き着いたまま、うつらうつらしていたので……まぁ、ズボンに入られるよりマシ……そう思って、そのまま今日は寝ることにした。

読んで頂きありがとうございました。

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何卒よろしくお願いします。

尚、5日間連続投稿2日目+明日も5回投稿します!

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