先送りした問題と向き合ったレイアーナの決断
結局、転移装置で元の場所へ戻ることはできなかった。厳密に言えば、転移装置が起動しなかったというのが正しいのかもしれない。
収穫は未開封の宝箱の中身を含め、ゲーム的に言えばレアドロップと呼ばれる類の品をゲットしていた。……ちなみに、『竜騎幻想』において通常ドロップとは違う物がドロップすることはない。で、現実的に考えても、こんなもの持っているのはおかしいという品が手に入ってしまった。
でも、転移装置が起動しない以上は帰る手段が無い……普通は。幸い、別の目的で設置した〈マーク〉発動済みの短剣の元へ〈リコール〉して問題なく帰ってこられたというわけだ。
それに、ボーンナイトを倒してくれたルーチェにも大感謝である。その彼女も今は俺の頭の上に腹ばいでしがみ付いた状態から動かない。力を使い過ぎたために動けないらしい。
他のメンバー達もアンテグラを余裕で殲滅したようで。戻ってきた頃には戦闘は終了していた。……すっかり心配を掛けてしまった。
日没までには村には到着できそうなペースで『亡国の廃城遺跡』から帰る。
「あの……サクリウスさんはユニーク職だったんですね。スキルを使用した際に知ってしまって……」
「あ~、うん。内緒にしていてくれると助かるんだけど……ダメ?」
「大丈夫です。命の恩人を売るような真似はしません。ですが、どうして冒険者を? ユニーク職でしたら、国に召し抱えられて特別待遇で生活できるのに」
「うーん。まぁ、俺も聞いたから話しますけど。実はウチの両親って再婚なんですよ。俺は父さんの連れ子で、家族はあと継母とその連れ子である義兄。それに父と継母の間に生まれた妹がいました。ですが、妹は7歳で死んだんです。それが原因で……ウチの家族は壊れたんです。ですから、もう家に居場所はないんですよ」
「そうだったんですか」
別に家庭の事情に関しては秘密にする気はない。だが、ベラベラと話すモノでもない。聞いても面白い話なわけでもなく。ただ、今回は聞いたから話したというだけの話。……もちろん、俺の本来の目的は黙っていた。
「あの、サクリウスさん。今回の仕事は終わりました。学院に報告へ戻らなければなりません。その際の護衛もお願いできないでしょうか?」
「もちろん良いよ。でも、報酬は別途貰うけど……良い?」
「もちろんです」
……まぁ、報酬が無かったとしても推しを放置する真似は出来なかったんだけどね。
出発は翌日の朝となった。大量の本はどうするのかと尋ねたら、持ってきた時同様に魔器の鞄に入れるので大丈夫だという。……魔器の鞄……流石、金持ちと言ったところ。
魔器とは、魔法を付与された道具のこと。魔道具とは違い、魔石不要で庶民では手がでないくらいの高価。なので、入手方法は基本的に遺跡や迷宮などの未踏破区域で発見できる可能性があるくらいだろうか? もしくは【付与術士】による自主製作の失敗品を安く入手するか……。どちらにせよ、贅沢品である。
一方俺達はというと、レイアーナから報酬を受け取った後にコテージへ戻る。
「さて、分配の時間だ」
冒険者であれば誰でも一番のお楽しみの時間である。……とはいえ、今回の報酬は少ない。
「まず、報酬。申し訳ないが今回は6000ナンス。9人で割るから、1人700ナンスだな」
今回の依頼は俺の都合。よって自分の取り分は減らしてでも均等に分配する。結果、俺は400ナンス。他は700ナンス。それでもかなり少ない報酬だ。
「あの、わたしは辞退しても……」
「わたしも良いよ?」
ユミウルカとシオリエルが申し出るが、俺は首を横に振る。
「まぁ、受け取って。俺もやらかしたことがあって、本来なら400ナンスだって俺以外で分けるべきなんだ」
そう言って、俺は銀色の表紙の本が3冊、黒い両手斧、白く濁った水晶石を見せる。
「回収した素材はブライタニアで売却するとして……問題はこれ。どれも多分非売品だと思うんだけど、この斧さ……多分、所有者登録のようなものがあったらしくて、俺になっているかもしれない」
この斧の核となる部分に触れてしまった時、『天職進化の儀』の時と似た感じで脳内に直接女性の音声が流れて来て、[種族確認……適正確認……思考同期成功。これにより所有権が正式にユニット名『サクリウス=サイファリオ』へ移行されました。適応を開始します]って、聞こえた。つまり、フィクションなんかでよくある所有者を選ぶ系の武器という奴だろう。
「それは……魔器ではなくて、神器なのではないですか?」
「神器って?」
俺の説明にリリアンナが思い当たったみたいだが、俺は神器という存在は知っていた。ただし、『竜騎幻想』の設定だけの話として。……結局実装されていないからな。
「神器というのは、『竜王の時代』の時代の遺物で、女神ナンス様が直接、最弱の種族と呼ばれていたヒューム族に与えた対竜武器です。種族間対立が激しい当時、最強種族であることから傲慢になった竜人族は他種族を力で支配していました。それを危惧したナンス様がヒューム族の中で選ばれた者へ竜人族への対抗手段を与えたという伝承です」
……うんうん、そんな設定だった。でも、結局のところ実装されていなかったはず。何故なら、ヒューム族は確かに『竜王の時代』では最弱だったかもしれない。でも、現代においては多種にわたる天職の数に最大の人口を誇る、けして弱いと断言できない種族になったのだから。
「まぁ、これが神器と決まったわけでもないけど……とりあえず、これを引き取るよ」
そう言って、俺は自分の報酬400ナンスを後で素材売却金と合算すると決定した。
「じゃあ、わたしも」
そう言って、アッツミュが自分の取り分の700ナンスを俺に渡してくる。
「ん?」
「そこの銀色の本3冊を引き取らせて欲しい。あれは魔導書。しかも、禁書扱いの邪属性魔導書なの。……是非、譲って欲しい」
禁書扱い……まぁ、中には本当に危険な魔導書もあるのかもしれないが、多分これは違う。何故なら、『竜騎幻想』では普通に存在していた魔導書だから。でも、彼女がそう言う理由も理解できなくもない。結局のところ、邪属性というところに機縁しているのだと思う。
「他に必要な人は? ……居ないね? なら決まりで。お金は素材売却金と一緒にして他の連中と等分するからね」
「わかってる」
前回から決まったルールではある。滅多に手に入らない素材以外の戦利品。それらは仲間全員の賛同を得た上で報酬と素材売却金の分配から外れる代わりに所有権を得る。多分、それでも破格の品をゲットしているはずだし、ぶっちゃけ得ですらある。売却してお金分配した方が平等ということもあるのだが、売却不可能な非売品は仲間の戦力アップになるのなら個人の利益より優先されるべきというチームの方針として納得して貰っている。
「それで、残りのこれなんだけど……当然、誰も要らないよな?」
「そもそも、これは何ですか?」
最後の品。白く濁った水晶石。当然、これの正体を知る者は居ないだろう。事実、サティシヤが不思議そうに石を見ながら尋ねる。まぁ、全員が同じ疑問を持っているだろう。
「これは高確率で当たっているとは思うんだけど、多分『光竜晶』だと思う」
「何か、聞いたことがあるような?」
リリアンナ以外はアイテム名を伝えても全然わからなかったようだ。
「えーっと、竜人族のルーメンスって知ってる?」
「確か、光竜王の眷属ですよね?」
流石はリリアンナといったところか……ルーメンスは白い鱗を持つドラゴンである。ヒューム族とは違い、魔導書が無くとも光属性の魔法を使いこなす。一説には竜人族が他種族に魔法技術や魔導書を伝えたという伝承がある……何処まで本当かは知らない。
「そのルーメンスは普通、人の姿をしているが竜の姿になったら、人の姿には二度と戻れないと言われている。でも、光竜晶を使って竜の姿になると、人の姿に戻ることができる」
この知識もソースは『竜騎幻想』の設定資料集からである。
コンコン。
扉がノックされる。シオリエルを制止して、光竜晶を鞄に放り込むと俺が扉を開けにいく。……今は夜だ。知恵のある妖魔の可能性だってある。何故なら、ここは村の外だから。
「レイアーナです。入れて頂けませんか?」
「あぁ、どうぞどうぞ!」
若干汚れた衣服を纏ったレイアーナさんはコテージに入る。
「片づけが終わりましたので、ご報告まで。それとお部屋は借りて良いとのことでしたが、本当に良いのですか?」
「構わないですよ。学院に到着するまでは使われていない部屋のどれでも利用して下さい」
「……でも、利用するならお風呂に入ってからにして下さいね」
俺が許可を出すと、シオリエルが釘を刺す。現在、このコテージを管理してくれているのはシオリエルである。彼女がコテージ内で発生する家事を受け持ってくれているから、快適に過ごせているまである。
「わかりました。……でも、その前にサクリウスさんに相談したいことがあるのですが」
……数秒の沈黙。
「部屋で待ってる。終わったら呼んで? お客様をお風呂場に連行するから」
椅子に居座ろうとするマオルクスを引っ張りながらクレアカリンが2階に上がると、他も倣って部屋に戻り、俺と2人きりになった。
「相談って?」
「今後……学院へ報告した後のことです。昨日までのわたしは、お父様やお母様の足を引っ張らぬように企みを知りつつも遅延行動しか選べませんでした。ですが今日、サクリウスさんの話を聞いて迷ってしまいました」
「迷い?」
「サクリウスさんの言う通り、両親ともにわたしが犠牲になることを望んでいないと思います。死んでしまったら心から悲しんでくれると思います。ですが、学院を辞めれば母が貶められるのではないかと不安なのです。……サクリウスさん、どちらを選べば良いでしょうか?」
俺にそんな答えを尋ねられても……そんなの悩むまでもなく決まってるんだよ。
「そうだな……うーん」
……解っている。これは運命側から突きつけられた巧妙な罠だ。ギリギリ口から出そうになった素直な答えを辛うじて呑み込む。
ただ、今回だけは流石に考える。……俺が見たいのは彼女の幸せな後日談だ。でも、今まで何度も『竜騎幻想』をやり直したことがあるけど、毎回彼女はレギュラーで仲間から外したことがない。彼女の背景を考えると学院へ残っても、家に戻っても結局幸せには程遠い未来しかない。彼女を仲間にしたことで発生するクエストをやらないと彼女の問題は解決しない。
多分、ベストな選択は家に帰る……そうすれば、第一夫人からは嫌味を言われるだろうけど、彼女が死ぬ心配はない……いや、ないか? マジでわからん。
「迷いますよね、わかります」
いや、解ってないよ? 俺はある意味、未来を知っているし。それに、多分レイアーナさんが聞きたいのは、選んだ答えじゃないよね?
「いや、学院は辞めるべきだと思うよ」
「……そうですか」
「うん。俺が悩んでいたのは、学院を辞めた場合はどうするのか? ってね。無責任なこと言ってる自覚はあるから、代案用意したかったんだけど」
「いえ、そう言って貰えた場合はどうするか考えがあります」
……あ~、そうなるのか。普段なら拒否一択なんだが、今回は仕方ないかもしれん。推しを見殺しにはできんのよ。
「学院を辞めたら、わたしをサクリウスさん達の仲間に向かえて貰えないでしょうか?」
……まぁ、そうなるよな。普段なら断るところだけど、今回は首を縦にしか振れなかった。
あの後、レイアーナが仲間に入っても良いかと確認する。毎度の如く女性であれば問題なく了承される。ただ、レイアーナの場合はコテージで過ごす限り、毎晩風呂に入ることを義務付けられていたのは流石に笑った。
食事を終えた後、風呂へ強制連行される彼女は割と滑稽で、彼女は既にお世話される覚悟をしていたのも面白かった。
賑やかな時間が終わり部屋へ戻ると例の黒い両手斧がいつの間にか部屋に置かれていた。
……確かデフォルトの名前が『黒刃の闇斧』だったが、名前を変更しろって強制されて、悩んでいる間に勝手に『ユカルナ』に変更されたんだよな。
一応、倉庫へと片付けて眠ったのだが、翌朝になると例によって股間に違和感があって、ルーチェを引きずり出す。だが、何故か『ユカルナ』は再び部屋に戻ってきていた。
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