【学者】レイアーナ=ヴェーシャ=グリモヴァード
最近、はっきりと記憶に残る夢は、これしか見ないと言っても過言ではない。
個人的には『竜騎幻想』の夢を見る事は嫌ではない。それくらい、このゲームを愛していた。遊び方は戦略シミュレーションというより、育成ゲームになっている所は似ているかもしれない。ただ、唯一の不満は夢に見るゲームのプレイヤーがどうやら俺ではないということ。夢にまで見るこのゲームのプレイヤーはいったい誰なのだろうか?
毎回の如くオープニングが終わり、タイトル表示が1分くらいだろうか? その後に、画面が暗転し最初に流れたのがAパートとするならば、Bパートのムービーが流れ始める。
「落ち着いて。さぁ、あなたが賜った新たな天職は?」
「【学者】のようです。……良かった。【学者】なら大好きな本を読んで、静かに暮らしていけそうです」
膝丈まである長い黒髪が印象的な少女が職審官に答える。先程会ったレイアーナだ。当人のままではあるのだが、声が良い。清楚系おっとり美少女ボイス。……もちろん、推しキャラの1人である。……まぁ、レイアーナの性格は清楚系おっとりの皮を被った引き籠り物臭娘なのだが。……実際の当人は俺の想定を遥かに凌駕していたのはショックだった。
視界が暗転し、別のシーンに切り替わる。
「レイアーナ。国王様から手紙が届いている」
「……これは、『国立賢王学院』からの招待状? お父様、これは……」
あぁ、これも憶えている。確か彼女が就職先は家から通えるところを……と王族である父親に就職先の相談していた矢先に招待状が届いたんだよな。
「国王様直々に推薦して下さった学院の招待状、受けないわけにもいくまい」
「……そうですね。学院では……お母様と離れて暮らさないとなりませんね……」
寂しそうに言うレイアーナ。彼女は多分、母親の身を案じていたんだろうな。
レイアーナ達が暮らしているのはグアンリヒト王国第二都市のリュミエード。国の東端にある港湾都市だ。一方、『国立賢王学院』は国の北方。自宅から通うのは不可能だ。
また、彼女の父には2人の妻がいる。第一夫人は息子2人と娘1人。一方、第二夫人にはレイアーナだけ。もし居なくなったら、第二夫人は孤独になるだろう……それを彼女も不安に思っていた。
「お父様。お母様のこと、よろしくお願いします」
彼女の父親と第一夫人は所謂、政略結婚というものだった。親同士が幼い頃から婚約をし、許嫁として長い時間を過ごし、成人して結婚をした。しかし、親が決めた結婚ということもあって、当人同士……特にレイアーナの父は義務のように感じていたようで、2人の仲が本当の夫婦になるようになるまで相当な時間が掛かっている。
一方、レイアーナの母親である第二夫人とは恋愛関係にあり、第一夫人と結婚したのだからという彼の我儘で結婚した。当然、平等に2人を愛するなんてことは無理なわけで。
第一夫人の劣等感は少しずつ大きくなっていく。……そう考えると、一番の罪作りは彼女の父親ということになるのだが、その彼も好きで政略結婚を受け入れたわけではないのだから、本当に悪いのは、そんなところに嫁がせた第一夫人の両親ということにもなる。……いや、結局のところ受け入れた当人の責任なのか? ……正直、王族のことは解らない。
ただ、レイアーナにしてみれば、自分の母親のことを託せるのは、父親しかいないわけで。
「任せなさい。レイアーナも色々と気を付けるように」
「はい、お父様」
そう言い残し、遠方の『国立賢王学院』へと向かうことになる。これらは全て、第二夫人に嫉妬した第一夫人が用意したシナリオだとも知らずに。
視界が暗転する。オープニングはもう終わっているはず。次は何処に飛ぶのかと思っていたら、さっき考えていた彼女の家庭事情が描かれていたクエスト内のムービーだった。でも、このアニメーションを見るのは、現段階よりもずっと先に発生するクエストのはずなんだが?
「わたしは、グリモヴァード家の第二夫人の娘として生まれた」
アニメーション内では若い男女が赤ちゃんを抱いていた。様子からして生後数ヶ月といったところで、少なくとも生まれたての映像ではない。……まぁ、よくある若き家族といった構図なのだが。
「父は国王の弟の息子。必然的に王位継承権が高い身だったこともあり、この平和な世の中で絶対に自分の番まで来ることはないと思っていても、念のためと単身で外出が許されない身ではあった」
そう言って、5才くらいのレイアーナが1人で遊んでいるシーンが流れる。主に庭に咲く花を愛でたり、人形を使ってままごとをしたり。背景から早送りで月日が経過しているのは判るのだが、常に1人で遊んでいた。
「そんな環境だったから、友達は居ない。寂しいという感情もない。1人が当たり前だから」
やがて、庭に彼女の姿が見えなくなった。そして画面が暗転して、場面転換される。
今度は父の書斎。レイアーナは本を読んでいた。書斎には本来の主である父親が出入りしているのだが、大人しく本を読んでいるので何も言わない。
「7歳になると、家庭教師がついて読み書きや計算を学んだ。それによって、お父様の書斎にある本を読めるようになった。言葉が難しくて意味が解らないものは、家庭教師が来た時に尋ねて理解を深め、時間がある時は黙々と書斎の本を読み耽る。その頃のわたしは歳相応の知識が無く、難しいことばかりを理解していっていた」
10歳を過ぎた頃には本を書斎から持ち出して、部屋で読むようになる。それは第一夫人の子供達が邪魔をするようになったから。第一夫人からレイアーナとは関わらないようにと言われていたようで、部屋にいれば兄達は訪れない。……これは俺がゲームをして話しかけた結果判った知識だ。
「レイアーナ。何も欲しがらないから、何をあげれば喜ぶか……迷ったんだが、これを」
そう言って渡されたプレゼントの中身は5冊の本。それは帝王学や経済学の本などではなく、『竜王の時代』に関する勇者の伝承。その内容は事実1%、脚色99%という事実に沿ったフィクション。その理由は子供向けの本だから。
「ありがとうございます、お父様」
「喜んでくれるかい?」
「もちろんです」
レイアーナは本が好きだ。読書は孤独の心を埋められる。知識欲を満たせる。何より、相手に気を使うことなく、自分の好みの世界を創造して浸れるのが一番好きだと語っていた。……ただ、そんな彼女を両親が心配していたことすら彼女は気付かないんだよな。
視界が暗転して場面が変わる。
「何故、あの女の娘だけレア職を賜ったの? 納得いかないわ!」
『天職進化の儀』を終えて、父親に報告するためレイアーナが書斎に向かう。その途中で父親と第一夫人の言い争う声が聞こえた。それで彼女は咄嗟に身を隠す。……自分が彼女の視界に入ることで父親が困ると考えたからだ。
「わたしの息子達は2人ともノーマル職でした。武術の稽古をしていましたし、魔術の勉強もさせました。学術もあの女の娘よりさせましたし、礼儀作法だってしっかりと躾しました。それなのに、どうして?!」
「落ち着きなさい。全ては女神ナンス様の采配だよ」
何故、第一夫人がレイアーナの天職を既に知っていたのかは疑問だけど、手段はいろいろあるのだろうと彼女は理解していた。母親へ先に報告していたのだから、当然先回りされていたのだろうと彼女は考えている。
「落ち着いていられますか! わたしに何の落ち度があるというのですか?」
「そんなものは無い」
「なら、どうしてわたしの息子達だけ……」
そう言って第一夫人は父親の胸を叩きながら泣く。
……俺的には息子達の意思が伴っていないからではないだろうかと邪推しているんだよな。
再び視界が暗転し、今度は『国立賢王学院』に場面転換された。操作キャラは学院に入ることは無いから、こういったクエストのシーンでしか表示されないんだよな。
「ようこそ、『国立賢王学院』へ。貴女のことは優秀な方だと伺っています。どうぞよろしく」
「……どうも」
……名無しの准教授補佐との対面。レイアーナの立場は准教授補佐見習い。そして対面にいる女性が彼女の上司である。
「それで、わたしは何をすれば宜しいですか?」
「最初は雑用を任せることになるわ。ただ、憶えて欲しいのは雑用を上手になるためにやって貰うのではなくて、雑用しながら准教授補佐の仕事を憶えてほしいの。
「自分の仕事以外の仕事を憶えるのでしょうか?」
「そう。何故なら、誰も仕事を教えてくれないから」
つまるところ、ひとつ上の役職の仕事を憶えるのがメインの仕事というわけなのだが、説明なしで理解するのは至難の技かもしれない。何故なら自分で調べなければならないのだから。それでも可能な人達が集まるのが、選ばれた者しか就職できない『国立賢王学院』というグアンリヒト王国の頭脳機関だ。
その日から、お嬢様故にやったことがない雑用を一通り憶え、雑用をこなしながら言われた通り准教授補佐の仕事を理解しながら憶える日々が過ぎる。
「……ごめんなさい。体調が悪くて……あとの仕事、任せて良いかしら?」
「はい、ゆっくりお休み下さい」
ある日、准教授補佐は顔色が悪い状態でフラフラしていた。……流石に倒れられたら面倒だとレイアーナは淡々と彼女に休むように促し、彼女の仕事を引き継いだ。
「……さて……」
レイアーナは黙々と仕事を始める。
……実はこれには裏話がある。レイアーナの上司、救いようのないポンコツである。そんな彼女の下にレイアーナを所属させたのは、ずっと上の上司である教授である。その教授は「王様からの推薦で入って来たのに、何の仕事の成果もあげられないどころか、碌に仕事もできない無能だった」という事実を作るために現在のレイアーナの上司に任せたんだよね。
当然ながら、教授とグリモヴァード家第一夫人は間接的に繋がっている。……全てがレイアーナを追い詰める罠というわけだ。第一夫人の目的は「学院にいっても成果を上げられなかった無能」として家に帰ってきて、第二夫人を馬鹿にするためだ。
……本当にくだらない。もちろん、現実がそんな人かどうかは知らないけれど。
次の日。レイアーナが部屋で雑用をしていると、準教授が准教授補佐を尋ねて部屋に来た。
「……この前頼んだ調査書類だが……」
「あっ……その、申し訳……」
「とても素晴らしかった。君もやればできるじゃないか。またこの調子で頼むよ!」
それだけ言って、準教授は嬉しそうに部屋を出ていく。
「……えーっと?」
「はい、昨日の頼まれた仕事は引き継いで終わらせておきました」
淡々とレイアーナが事実を告げる。
「えっ? 終わったの??」
「はい。昨日終わったので書類を准教授に提出して帰りました」
そう、彼女は調べ物においては超優秀だった。ただでさえ知識量が多い上に、裏付けを得るために本を読めることに喜びを感じていたからだ。
視界が暗転して、次のシーンに。確か、俺の記憶では回想アニメーションはこれが最後だったはず。
「ここはラムルーチェ。何も無い小さな農村さ」
名も無きモブキャラが答えている。……ということは、【剣の乙女】が話しかけたから答えたということ。モブの正体はRPGではお約束の現在地を教えてくれる一般村民である。
三頭身キャラで表示されている【剣の乙女】は不慣れな操作で村内を進む。やたらとNPCに声を掛けながら、村の終わりまで歩き……やがて、明らかに他の家より古い小屋へと入る。
小屋にいる黒髪ロングのNPCに声をかけると、アニメーションに画面が切り替わる。それは、今さっき経験したラムルーチェでの出来事。
「貴女がレイアーナさん?」
画面には先程話しかけたNPCが本来の頭身の状態で背を向けていた。踝まである長い髪が印象的だが、三頭身キャラだとロングヘアのキャラはみんな似た表示になる。まぁ、それでも仲間になるキャラクターは、髪色や衣装の違いから特定できるけれども。だからこそ、本来の姿を見られる機会は貴重だし、俺はこの映像に一目惚れしたんだよな。……だからこそ、現実は残酷だと思ったわけで。
「……はい。確かにそうですが、貴女は?」
声を掛けられたレイアーナは振り返る。この反応は間違いなく、ファーストコンタクトだ。
黄色系の肌ではあるが色白で、スタイルも良い。髪が長くなったのも含めて、これが『天職進化の儀』から時間が経過したという根拠だと気づくのは、初見からしばらく経過した後だったっけ。……当然、知ってからアニメーションを見比べたとも。
「わたしは※※※※。邪竜討伐軍を率いているの。貴女が【学者】だと伺って会いにきました。一緒に戦ってくれませんか?」
……ん? 確かに名前を答えたはずなのに、聞き取れなかった?
「……そう……でも、わたしはまだ途中の仕事があるの。ごめんなさい」
「その仕事、手伝うわ。だから、仲間になって欲しい」
「わかりました。では、お手伝いお願いできますか? これから『亡国の廃城遺跡』に向かいます。その往復の護衛をお願いしたいのです。よろしいですか?」
ここで「もちろん」を選択すれば、マップ『亡国の廃城遺跡』に移動する。
クエスト『亡国の廃城遺跡』。これはメインシナリオとは別に用意されたマップだ。
クエストには装備やアイテムを入手できるタイプと仲間になったユニットのサブストーリーを追いかけるタイプ、ユニットを仲間にスカウトするタイプの大きく分けて3種類が存在する。
当然ながら、『亡国の廃城遺跡』はスカウトするタイプのクエストというわけである。クエストの良いところはどのタイプでも経験値が稼げること。短所はゲーム内の時間が経過してしまうこと。……実はこれが大きなデメリットだったりする。
このマップでの出撃数は【剣の乙女】とゲストのレイアーナを除けば、あと16体。とはいえ、通常ルートを辿っても16体ものユニットを仲間にできないので、この段階では攻略サイトでカンニングしない限りはせいぜい10人前後だろう。
画面が再び暗転する。ユニット選択画面かと思いきや、不意に目が覚めてしまった。
多分起きている。……いや、前に目が覚めた夢を見たから疑っているわけだが、寝ぼけているのか頭がボーっとして思考が纏まらない。
とりあえず、思いつくままに夢の内容に関連したことを思い出してみる。
まず、『竜騎幻想』における【学者】の仕様。【学者】は【話術士】と似たポジションだ。ただ、明確な違いとして、特に序盤の【学者】のパッシブスキルである〈薬品知識〉があげられる。これは薬品として分類される消耗品……例えばポーションとか……の効果を上げるスキルである。そういった理由から、【話術士】と違いアイテムヒーラーとして活躍が可能だ。
もちろん、回復薬に限らず毒薬や爆薬も適応されるので、各ユニットが使うより、【学者】に消耗品を使わせる方が効率は良くなる。……まぁ、1ユニットが持てるアイテムは少ないけれど。
後半になると、銃が入手可能になるのだが、【話術士】と同じく【学者】は〈銃装備適正〉を持っている。ただ、【学者】の場合は〈薬品知識〉と〈魔法学知識〉のスキルの併用により魔銃を装備した場合、戦闘力的にかなり化ける。
……それらは全てゲームによる仕様である。
実際にはアクティブスキルの内容から考えて戦闘よりも交渉や調査などに役立つユニットなのではないかと考える。……まぁ、戦略SRPGには不要な要素ではあるんだけどね。
けれど、現実問題として戦闘を意識する【学者】は存在しない。【学者】は潰しの利く天職で、それこそ研究者や子供相手に読み書きを教える教師など、いろんな職業の方々に重宝される。特に王族の女性において【学者】は最も好ましい職業とすら言われている。
その根拠までは知らないが、実はそれが原因でレイアーナは第一夫人に生死問わず失脚するように狙われているんだけど。そして、そのことをレイアーナ自身も気付いている。
……だいぶ意識が覚醒してきた……少し早いけど起きる……ん?
起きようと思った矢先、股間に違和感があった。
そっと毛布を避けて、ズボンの中を覗く。
「……おい」
「はやく戻して下さい……寒いです……」
表現は自主規制させて貰うが、とても言葉にできず、第三者に見られたら間違いなく誤解される状況へと寝ている間に陥っていた。……幸い、リーチェの事は誰も見えないけどな。
「いやいや、早く出て! 変態行為だからね?!」
「んっ……それはヒューム族の価値観でしょ? 一方的な価値観を押し付けないで下さい」
瞼をこすりながらルーチェが這い出てくる。
「ズボン……しかも股間部分の生地が伸びるだろう? はやく出なさい」
「意地悪言うのは止めて下さい……とても寒いんですから……」
……寒い? 言うほど寒くないような? ……いや、それもヒューム感覚か。
「それに、ここが一番温かいんですよ」
「変なところを触らないように!」
ズボンの上からパンパンと人の股間を叩く。いくら二頭身キャラで小さな手とはいえ、敏感なところを叩く刺激は強く、そういった趣味はないので普通に痛い。……わざとじゃないよな? ……知らないだけだよな??
「頼むから、ここに入るのは止めてくれ。寒いなら、もっと布団用意するから」
「いりません。わたしはそこが温かくて寝心地も良く気に入っているのです」
……熟睡している間を狙って侵入してくるから阻止できんのが辛い……。
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