リリアンナの加入と俺にだけ見えるプルーム
ブライタニアに戻ってきて、ようやく一息吐いた。
想定より多かった敵や居ないはずのエルフ兄妹。多少想定外なことはあったけれども、特に絶望的な状況は無く……これも過剰な経験値稼ぎの成果かもしれん。ゲームだったらヌルゲ確定である。
……想定外のことがあるのだから、用心のしすぎに越したことはない。
一日しっかり休んだ後、再び全員で集まる。理由は分配である。
「正規報酬は6000ナンス。いったん1人800ナンスってところか。不足分400ナンスは追加報酬から優先で貰うよ」
この報酬は本来6人分の額である。それを8人で割っているのは平均額が少なくなってしまうのだが、もちろん既にみんなには了承済みである。
「それで、敵アジトにあった戦利品だけど……現金と宝石類は先に換金していて、総額2000ナンス。それを分配すると正規報酬と加えて丁度1000ナンスずつって感じになるかな。あとは、装備類だけど……魔器+1の短剣と数本のポーション。あとは……例の俺しか見る事ができない妖精が入った小瓶」
一応、普通の装備品も売却済み。人の血を吸った装備なんて物騒で持ちたくないというもの。
結果、短剣はクレアカリンが。ポーションは前衛には2本、後衛とノーマル職に1本ずつ渡す。
「最後に、この小瓶だけど……」
全員が拒否したので、遠慮なく俺が貰うことになった。
その日の夜。俺は小瓶を片手にどうしたものかと悩んでいた。
中にいる妖精は動く様子がなく、目を閉じ瓶底に座したままピクリとも動かない。また、逆さまにしてみても瓶底から落ちない辺り、単純に中に入っているわけではなく異空間に囚われている封印系の魔法の品なのだろう。
……多分、売れば良い価格になる。その価値が判る人ならば。でも、俺以外に中の妖精を視認できない。【風水士】のサティシヤですら見る事ができない。……誰が正しい価値を判るというのか?
中身を見れなければただの小瓶である。……つまるところゴミである。
「ふむ」
俺は決断するとその小瓶の蓋を開封した。
シュポッと中に入っていた妖精が出て来て絶句する。……いや、物理法則無視だろ……中に入っていたのは全長40センチ程度の二頭身の女の子。背には白い翼状の翅、白い髪に白い肌。瓶の中に入っていた時の見た目とは変わらないが大きさが違いすぎた。……絶対構造的に小瓶に入らない。予想通り封印系の魔法の品ということか。
……〈サイコヒール〉
戦闘中には使えない上にMP消費の激しいコスパの悪い回復系スキルではあるのだが、効果は絶大。弱っていた妖精があっという間に回復したのだが、動かない。……妖精のMPがないのか?
「サクリ、お客だよー」
「誰だ? ……ちょっと待って貰って!」
万が一気絶しているフリの可能性も考慮して、部屋の窓を開ける。妖精が出て行けるように。
「開けておけば、勝手に出ていくことも可能だろう」
……これだけ言っておけば、帰って良いと理解するだろう。……言葉が通じていれば。
呼ばれた以上、行かなければならない。だが、妖精が気掛かりであることにも違いなく。……だって、二頭身だよ? 見た目は赤ちゃん……いや、小さすぎる3歳児くらいかな? 二次元でしか見た事ない生き物だよ? ……気にならない方が変だと思うんだよ。
「……起きてくれんかなぁ?」
……反応はない。けど、ヒューム族の感覚で触れて潰してしまったらと思うと怖い。いや、潰すは言い過ぎだが、うっかり何らかの身体のパーツを壊してしまいそうだ。……同族の赤ん坊を抱くのだって怯むくらいだし。
「……ですよね」
もう時間的に限界だろう。
魔器の短剣+1は付与魔法により短剣自身に命中率が上がり、物理ダメージが通らない敵にもダメージを与えられる。また、何らかの魔法が付与されている可能性が高いんだけど、何かは専門家に鑑定して貰わないと判らないだろう。
一方、この妖精は赤ん坊サイズ。妖精はヒューム族には基本視認できないと言われている。ただ、幼い子供……記憶の残らない2歳以下であれば普通に見る事も可能と言われているのだが、それを確認する術もない。子供の証言を何処まで信じれば良いか……とかね。どちらにせよ、こうして成人している俺が見る事のできる妖精と会えるのは二度とない機会である。
実益のあるアイテムと同等に分けたのだから、彼女の声くらいは聞いてみたかったんだよな。逃げても構わないからさ。
……そろそろ行かなきゃ……渋々諦めて、部屋を出て客人を出迎えに行った。
後ろ髪を引かれる思いで下へと降りると、既にみんなが集まっていて客人を囲んでいた。
「……えっ?」
客人の顔を見て最初に浮かんだ単語は「何故?」だった。
「サクリさん、遅いですよ?」
「……ごめん。えーっと……どうして?」
居るはずのない人物がここに居る。驚きつつも言葉を選んで尋ねるが、言葉足らずである自覚はあった。
「やっぱり、仲間に加えてほしくてお願いに参りました」
150センチと割と小柄な身体。深い桜色の瞳。尻に届く程に長い淡い桜色の髪。間違いなく彼女はリリアンナ=レーモンドである。しかし、彼女を仲間には誘っていないし、フラグを立てないように注意していた。
「どうして? 冒険者稼業は危険だよ?」
事実、【話術士】は冒険者稼業に不向きと言われている天職である。ゲームに当てはめるならば支援職。銃も装備できるクラスではあったが、ここは現実である。銃は存在している世界ではあるが、入手が難しい。それに、【話術士】は極端に戦闘系スキルが無い。もちろん、育て方は把握しているけれど、俺的には村を離れたところまでは正解として、他の村、町や街でも良い。何処か地元ではない土地で幸せになって欲しかったんだよな……。
「サクリウスさんだけが他の男性と反応が違ったから、信用できると思ったんです」
「反応が違う?」
……それが冒険者稼業を選ぶ理由とどんな関係があるのだろうか?
「実はわたし、つい数か月前までは主婦になる気満々だったんです。でも、それが叶わなくなって、途方に暮れていました」
……知ってる。幼馴染みの裏切り……いや、彼の気持ちを思い込んでいたっていう悲しいすれ違いだよな。
「食欲が無くなって、【話術士】を賜ったこともあって、元々少し太っていたんですけど、自分で言うのも何ですが綺麗に痩せられたと思うんです。ですが、彼の心は戻ることなく……他の男性達に言い寄られて……おかげで女友達にも嫌われてしまいました。でも、サクリウスさんだけが普通に接してくれた同世代男性なんです」
「いやいや。俺以外の同世代の男だって、そんな奴ばかりじゃないと思うよ?」
……【話術士】のパッシブスキルのことか。いや、でもなぁ……推し2名って……。
「確かに、他の男性でも普通に扱って下さる方もいるかもしれない。でも、わたしは自分の直感を信じたい。お願いします、わたしを仲間にして下さい!」
……いや、そう言われると強く拒否できんよ……。
とりあえず、周囲を見回す。誰か反対する人が居るかどうかを確認する。
「言っておくけど、既にみんな賛成しているからね?」
クレアカリンにそう釘を刺されて、多少の違和を感じつつも仲間に加えることを了承した。
「……あっ」
嬉しさ半分、命の危機を半分感じながら部屋に戻ってくると、妖精が起きていた。
「助けてくれてありがとうございました。ヒューム族の成体の方……本当にわたしを視認できるんですね」
声が聞こえた……ただ、耳からというより、脳に直接送り込まれているような、そんな違和感のある声。
「わたしはルーチェ。光のプルームです」
いろいろ思うところはあるけれど、まずは彼女が無事に回復して話せたことが嬉しかった。
「俺はサクリウス=サイファリオ。意識が回復して良かった」
「ごめんなさい。寝たフリしていました」
……やっぱり。
それにしても妖精の正体はプルームでしたか……いや、見た事無いけど。
「でも、どうして逃げなかったの?」
「確認したいことがあって……1つ目は、サクリウス様はプルームを見る事ができる人なのですか?」
「いや、ルーチェさん以外に見たことは無い」
「……ですよね。ヒューム族でしたら幼体であれば見る事ができる人が稀にいるのですが、成体の方で認識できる人は見たことがないんです」
「実際、仲間達も貴女を見る事ができないって言ってたよ」
「普通、そうですよね」
彼女は何かを考えているように見えたが、その見た目が若干シュールなのは内緒である。
「ところで、何故あの瓶に囚われていたのか教えて貰っても?」
「あの瓶の正体は『妖精の小瓶』という魔器で、妖精を捕獲するアイテムです。他種族の者が捕らえて研究をするという話でした」
……学院だとそういう研究しているかもしれんなぁ。存在しか知らないけれど。ゲームのシナリオ的にはあまり良いイメージは無いな。
「わたし以外にも捕らえられた方はいるかもしれません。それくらい気づいた時には手遅れになる恐ろしいアイテムなんです。その瓶の罠を設置した方は何かのアイテムでわたし達を見る事ができるようでしたが、捕獲されて連れ帰られる時に盗賊に襲われてしまって絶命されてしまい……誰にも認識されないまま、長い間瓶の中に囚われてしました」
……でもなぁ、『竜騎幻想』では、そういった展開を聞いたことが無いんだよ。
「それと、あの……『光霊王の古祠』ってところをご存知ですか?」
「うん、知ってるよ」
『光霊王の古祠』はメインシナリオで向かうことになる場所で【剣の乙女】の武器のひとつである光霊剣『ライトブリンガー』を入手する場所でもある。
「お願いがあります。わたしをそこまで連れて行って貰えませんでしょうか?」
「それは構わない。俺達ももう少ししたら向かう予定があった場所でもあるし。ただ、その前にやるべきことがあって、向かい始めるまでに時間が掛かってしまうけど、それでも良い?」
彼女はそれを聞いて、即答できない程に悩んでしまった。
「ふむ。ルーチェさんは直ぐに向かいたい感じなんだね? でも、俺には無理かな。ある一行に気付かれないようにしないといけないし、鉢合わせしないようにその一行の後に向かう予定だから、最速でもその後になる。……それに請け負った仕事もあるからね」
俺にはもう1つ、やらなければならないクエストが存在している。今回の調子から考えると、彼女も仲間に加わってしまいそうな予感がするんだけど。
「どうやら、ここは『光霊王の古祠』から離れた場所のようですし、自力で向かうのは難しそうですね。……わかりました。それまでの間お世話になりたいと思いますが、よろしいでしょうか?」
「直ぐに向かえなくてゴメン。でも、連れて行くからね」
俺しか助けられないし、多少は理不尽と感じても流石に見捨てる気にはならなかった。
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