想定以上の大規模人攫い集団と奴隷商人との取引現場
メイディロッサの南には森が広がっている。その森の中を南下すると岩壁に突き当たる。この岩壁が隣国デンドロム王国との国境となっている。
岩壁付近は1日中日影であるため、木は少ないもののデンドロム側から水が滝となって流れ落ちている為に底が見える程度には浅いが流れの早い川が多く、東の海へと流れている。広大な水辺ではあるが、水棲の魔獣や妖魔は生息していない。
ワンボタンで進むわけではないので、実際は歩きにくい上に割と遠かった。少なくともイーベルロマの森に比べると湿度が高くてジメっとしている。
今回の戦場は予定通りであれば滝に隠れている岩壁に穿たれた天然洞窟の1つをアジトとして改良されたモノだ。村で大雑把な場所を聞き、滝の裏を注視するように伝えた上でクレアカリンにスキルを駆使して偵察して貰った結果、彼女曰く「割と簡単」にアジトを見つけてくれた。
「それでさ……たいした人数居ないって言っていたけど……結構いたよ?」
「え?」
『竜騎幻想』の初期に発生する期間限定クエスト『桜髪少女誘拐事件』。この世界に桜はないのに桜髪とはいったい? ……まぁ、それはおいておくとして、チュートリアルが終わった後に即受けられるクエスト。このゲームにおけるクエストはメインシナリオに影響のない、「やる」「やらない」の自由があるシナリオという位置付け。だから、現実でも【剣の乙女】達にスルーされたのだろうとは思う。
事実、俺が調べた感じではグアンリヒト王国内の話しかけるだけで仲間になるユニットやアイテムを渡すだけで仲間になるユニットは全員仲間に加えられていて、クエスト攻略が必要になるユニットのみ放置されていた。しかも、その内2名が俺の推し達。クエストが発生する系のユニットは放置すると死ぬ運命が待っているのだから助けるしかないわけで。
……まぁ、助けた後に幸せそうにしていれば、俺的に問題なしってことで。
「結構って、6人くらいじゃなかった?」
「うーん。あたしが見た限りでは10人は超えていたよ?」
「……マジか」
初期クエストでそんな大規模戦闘するわけがないんだが? ……まぁ、仕方ない。
「とりあえず、人数多くても慎重に攻略すれば問題ないと思う。とりあえず、案内よろしく」
……もしかして、また運命改変抑制力的な何かが働いているのか?
「何者だ!」
「……貴様等に名乗る名はないが、覚悟はして貰う」
隠れて強襲なんてことも考えなくも無かった。けれど、戦闘マップがダンジョン内の時点で無理だろうと正面突破を試みることになった。まぁ、予定では弱い相手のはずなので楽勝……だと思ったんだけどね。予定と人数が大きく違うんだ。
ちなみにカッコつけて言ったわけでなく、討ち逃した際の名前漏れを避けるためと、こちらの目的を知られて囚われた人を人質に使われないためだ。
……そもそも、聞かれたことに正直に答える義理もない。
ハンドサインで開戦の合図を出す。それと同時にアッツミュ以外が後ろを向く。
「《閃球の放擲》」
呪文詠唱後に放たれた彼女の放つ魔法が敵の集まっている場所に放たれ、数名が衝撃波で吹き飛びつつ、視界に納めた術者以外の全員が一時的に視界を失う。俗に言う『状態異常:盲目』という奴だ。
「天王星の星霊よ、仲間達に星々の加護を!」
「お願い、プルーム達。少しだけ力を貸して!」
マオルクスによる命中率と回避率アップのバフによる強化、サティシヤによるランダム系のデバフが発動。ちなみにサティシヤのデバフは《地形効果:死霊の呼び声》により、範囲内にいる敵ユニットの被クリティカル率がアップするというもの。前回同様に3回まで重ね掛け可能である。
「目、目がぁ!!」
「敵襲だ!」
……おいおい。ざっくりと1アライアンス……18人くらいの人数だろうか? ゲームの3倍なのだが?
とりあえず、再びアッツミュの詠唱が開始されたのを合図に俺、クレアカリン、アミュアルナの3人が前に出る。
今回の相手は革鎧系の【戦士】や【盗賊】が相手で短剣装備のクレアカリンでも高ダメージを期待できる。カッパー級になって初の対人戦ではあったが、何度も魔獣や妖魔相手に戦闘していたので、連携に問題は無かった。
……幸いなのは、多分相手のレベルがゲーム通りだったということくらいか。
充分にデバフされているからだとも思うが、正直殴り放題だし、魔法ダメージで先に削られていることもあり瞬殺だ。何よりもアミュアルナの育成が順調に進んでいた。
「やあああああっ!!!」
ガッと盾の上から体重の乗った蹴りを放ち、大の男を吹き飛ばしている。彼女の武器を片手剣と盾から双棍に変更したことで彼女の攻撃力がアップしていた。
アミュアルナのおかげでMPを節約したまま敵を殲滅していく。ユミウルカとシオリエルに関しては出番がほぼ無い。経験値稼ぎ目的ではないし、余裕もないので倒し漏れ以外は戦闘しなくて済むようにさせている。……そもそも2人はもう戦闘をしなくても経験値稼ぎ手段は沢山ありそうなのだが、仲間外れな感じがするらしく、戦闘に付いて来る。
……クエストやメインシナリオですら余裕になるくらいまで経験値稼ぎしたからなぁ。
既に全員がレベル5である。
なぎ倒すくらいの勢いで奥へ進んでいって、囚われていた少女達を発見。……ゲーム画面にいた人数より多い……まぁ、これくらいならよくある話。
「おっと、勝手に触れてくれるなよ? 大事な商品だからな」
……この台詞も聞いたことがある。人攫い集団のボスである。見た目的には判らないが、きっとそう。
「リーダー、後ろのヤツ、やっとく」
「了解」
クレアカリンが一言だけ言うと、後ろへ戻る。恐らく奥へ進んだ結果、ここが終着だと判断したのだろう。残りの掃討をするのが役割と思ったようで。
「全力で行きます!」
これはアミュアルナの合図。多分一撃で片付けるつもりだろう。〈アグレッサー〉、〈チャージ〉、〈ラッシュ〉、〈インパクト〉、〈ブレイク〉というアクティブスキルの特盛での助走からの飛び蹴り。
……あっ、多分それ、オーバーキルや……。
「やる気か? ……いいだろう。全力で掛かって……」
「せーのっ!!!」
ドンッ!
まるでダンプトラックが突っ込んできたくらいの迫力でアミュアルナの全力の飛び蹴りで敵のボスと思われる【盗賊】は、まるで瞬間移動したかのような勢いで壁に叩きつけられて、一撃で絶命していた。……南無。
「騒がしいな。どうし……!!」
見るからに【盗賊】には見えず、どちらかというと商人のような色男が現れた。もちろん、【商営師】とは限らないのだが。……そんな彼が現状を見て判り易く硬直した。
「来い、マサ!」
男が誰かを呼ぶ。現れたのは長身の男だった。
「エルフ?」
先端が横向きに尖った耳。同じ人族の1つとして数えられる森の守護者であるエルフ族。プライドが高く閉鎖的な性格故に他種族と関わるエルフは変わり者、もしくは……。
「やれ。ピンク髪の女以外殺して構わん」
「……」
命じた男を一瞥するが抵抗する事はなく、こちらに向き直って構える。しかし、その表情は何処か申し訳なさそうで。
「……ねぇ、相棒。MPは残ってる?」
あえて名を呼ばずにアミュアルナに問う。
「えーっと……ごめんなさい。全力出しすぎちゃった……」
「もう、ドジっ子さんだなぁ。……他の仲間のサポートに行って貰って良い?」
「わかった。……気を付けてね、リーダー」
ゆっくりと後退していく彼女の気配を感じつつ、俺は短剣を構える。
「行くよ?」
4本の短剣を投げる。
……〈サイコキネシス〉。
投げた短剣を念力で掴み、軌道をコントロールしてエルフに変な動きをさせないように注意しながら、優男の背後に〈テレポート〉して回り込み、背中から大剣で斬りつける。
「ぎゃあ!!」
やっぱり冒険者ですらなかったか。回避することもなく、一撃で優男が絶命する。……さて、問題はここからなのだが。
「……タタカワナイ。ヤメヨウ。リユウ、ナイ」
予想通りのエルフからの片言な申し出に俺は大剣の構えを解いた。
「まぁ、読み勝ちして良かった。これで戦うことになっていたら苦戦するところだった」
「エート……」
続く言葉を待っていたが、エルフ語で彼は何か言った後に困っているようだった。
「妹が助けられれば、こんな男の指示など聞く理由がない……って言っているよ?」
自信が無さそうな幼い声。でも、声を聞いた瞬間に俺は声の主が誰か判った。声の主は檻の中。多くいる桜髪の少女達の中から聞こえていた。
……クレアカリンは見えるところに居ないし……仕方ない。
檻の鍵穴をジッと見て、罠があるかもしれないから構造をだいたいで理解すると鍵穴から離れて〈サイコキネシス〉で強引に解除する。
カチリ。
良かった……魔法錠じゃなかった。
「もう出て大丈夫。近くの村まで送るけれど、俺にクレアカリンという名の仲間がいるんだ。サクリウスが呼んでいると伝えてほしい。あと、さっきの方は通訳をお願いしたい」
「いいですよ」
まだ事情を知らないから彼女の名を呼べないが、間違いなく推しのリリアンナだ。彼女はエルフと話をした後、こちらに振り返る。
「何処かにエルフが閉じ込められているそうです。彼女を人質にされていたので用心棒奴隷をさせられていた。ソイツが死んだので彼女も助けて貰えると助かる……だそうです」
どうやら、そのエルフさんは別の檻にいるようなので、彼女の檻を探す。
「いたよ」
合流したクレアカリンと共に檻を探し、他にも囚われていた桜髪の少女を解放する。そんな中、1人だけ別の移動可能な台車付きの檻にエルフが俺を見ていた。何かを言って怯えているように見えるがエルフ語で全くわからない。
リリアンナとクレアカリンを呼んで、助けに来たことを告げて貰い、解錠を試みる。
「……ゴメン。魔法錠で開けられない……」
「わかった。エルフ語で俺の手に触れるように伝えて貰って良いですか?」
不安そうな彼女に手を差し出すと、怯えながらも手をとってくれた。
……〈テレポート〉
一瞬にして檻から抜け出していた彼女は驚いた表情を俺に向けながら固まっていた。
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