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メイディロッサ村のクエスト『桜髪少女誘拐事件』

 ……あ~、この夢か。


 どうやら俺はまた記憶に残るタイプの夢を見ているようだ。その根拠は今流れている『竜騎幻想』のオープニング。俗に言うAパートと呼ばれるモノだ。前回と同じパターンだとすれば、タイトル画面が現れた後にBパートへと移行する。


「落ち着いて。さぁ、あなたが賜った新たな天職は?」


「……え? そのぉ……【話術士】です。レア職を賜っておいて申し訳ないですが、多分すぐに結婚しちゃうと思います……」


 ……これ、本編見た後だから痛々しい台詞に聞こえるんだよな。


 リリアンナ=レーモンドのオープニングなのだが、本編で活躍する姿とは容姿が全く違うんだよね。寝癖こそ無いものの横着しているのが見てとれるショートボブの髪、ポッチャリと呼ぶには苦笑いが出てしまいそうな丸々と肥えた身体。ニキビや傷、日焼け跡も気にしていなさそうな肌。着るのが楽そうでゆったりサイズなパンツスタイルの服。肉&炭水化物をこよなく愛する彼女自身が一番【話術士】を賜るとは思っていなかった。


 そもそも、この世界の【話術士】は声芝居を生業にする人が多く、冒険者稼業をしている人は交渉や情報収集、応援などの感情操作系のスキルを駆使する支援職である。それらの能力はユニットの魅力値に依存するので、【話術士】は美男美女というのが固定観念として存在する。


 ……だから、自分でも意外だと思ったんだろうなぁ。


 彼女は友達と楽しくお話できて、幸せであれば自分の容姿を気にすることも無かったし、そもそも恋愛も意中の相手と両想いだと信じていたので気にしていなかった。


 視界が暗転して、次のシーンであるその日の夕暮れ。


「報告遅くなっちゃった……でも……やっと約束の日……」


 朝、『天職進化の儀』を一番目に受けて【話術士】を賜った。友達と会って報告して、家に帰って報告したのだが、友人も家族もレア職を心からお祝いしてくれた。ただ、あまりにも喜んで貰えて話も盛り上がってしまったから、大切な幼馴染みへの報告が遅くなってしまった。


「……!!」


 幼馴染みを見つけるものの、慌てて彼女は物陰に隠れた。


「わたし、ずっとレーモンドさんと付き合っているんだと思って諦めてたの」


「いや。彼女は幼馴染みだよ」


 そのやり取りを黙って聞くリリアンナ。その瞳には涙。……画面越しに見ていても意味は充分に伝わった。それは彼女の失恋。


 幼馴染みは女の子と一緒にいた。リリアンナとは面識があまりないけれど、背が高くて細くて、髪型がショートボブの綺麗な女の子。


 リリアンナは彼好みにした自分の髪を触れる。


「……彼の好みって彼女だったんだ……」


 長かった髪を切った自分の行いが滑稽で悔しくて……彼女は黙って家に戻っていった。




 視界が暗転し、彼女の家と幼い彼女が表示される。


 リリアンナ=レーモンドは子供達に読み書きを教える教師の父と、隣の酒場でコックとして働く母の一人娘として国境に近い南の村メイディロッサに生まれた。


 何も知らなかった頃は、両親に過剰なほどの愛情を注がれて素直で優しい子に育った。多少天真爛漫で愛嬌の度が過ぎたところがあったが、世間知らずなものの持ち前の賢さにより話し上手で子供達の輪の中心人物だった。


「リリアっ!」


「どうしたの、タルト君?」


 家の中に幼馴染みの男の子、タルト少年が入ってくると彼は彼女にお菓子を見せる。


「作ったんだ。食べて感想を聞かせて」


「うん、いいよ」


 彼が運んで来る食べ物はお菓子類。クッキーやチョコ、ケーキやゼリーなど。試作品と言っては運んできて、リリアンナはそれを美味しそうに食べると、彼も満足そうな笑顔になる。


「あら、タルト君。また作ってきたのね?」


「おばさんも食べてみて? 僕の力作だよ!」


「どれどれ……うん、美味しい。上手にできたねぇ」


 彼女の母親に影響され、タルト少年は【調理師】を賜ってスイーツ職人になる夢を抱いていた。だから、リリアンナのところに通っては試食をさせていた。彼的には彼女の母親からのアドバイスをあてにして来ていたのだが、母娘達の間では……。


「リリアはタルト君と仲良しね。将来は結婚しちゃうかな?」


「え~、わかんないよ~」


 そう言われ続け、本人も割とその気になっていた。彼女の恋心は月日の流れと共に重みを増していくが、既に熟年夫婦のような関係になっていたタルト少年とは結婚するのが当然で疑念の余地もない状態になっていて、改めて彼の気持ちを確認したことが無いことに気づかなかった。何故なら、タルト少年も自分と気持ちは一緒だと信じていたから。


「はぁ……」


「溜息なんて、どうしたの?」


 ある日のリリアンナの部屋。彼女は趣味である本を読んでいた。主に呼んでいるのは英雄譚とか伝記。本格的な文献から脚色された児童向け書籍も関係なく読んでいる。重要なのは適正年齢ではなく、ジャンルなのが彼女のこだわり。


「いや、女の子の髪型で首の近くで切りそろえてある髪型ってあるじゃん?」


「うーん、ショートボブのこと?」


「多分それ。あの髪型の女の子って可愛いなって思わない?」


「ふ~ん。その髪型が好きなんだ?」


 そう言いながら、彼女は自分の桜色の髪に触れる。


「ロングも可愛いと思うよ?」


 お尻の届くくらいにまで伸ばした髪は、生前の祖父母が昔、幼い頃褒められて以来伸ばし続けていて、マメに手入れして大切にしていたモノだった。


「うーん。今は断然そのショートボブってヤツかな」


「そっかぁ……」


 その次の日、祖父母との大切な思い出の詰まった自身の髪をショートボブになるよう切って貰った。……彼に好かれたい一心で。


 ……彼女は知らなかった。タルト少年にとってリリアンナの髪型は興味の対象外なことを。




 再び視界が暗転して、リリアンナは檻に囚われていた。


「(……はぁ、もう、いっそ楽になりたい……)」


 とても紛らわしい台詞ではあるが、彼女は何もされていない。周囲には桜色の髪の女の子達が何人も檻に囚われていた。


「(お父さんとお母さんは心配してくれているかなぁ)」


 初めて見た時は当然心配しているだろうなって何の疑いもなく思っていたんだけど、実は結構怪しい。……その話に関心を惹くための伏線だったりするんだけど、絶対気づけないだろうなっていうのが個人的な感想だ。


 『天職進化の儀』の後、彼女の母親は本気でタルト少年……いや、もう青年か。彼との結婚を期待していただけに、露骨にガッカリしていた。どうも、義理の息子になるからと親身にスイーツ作りの指導をしていたらしい。


 また、父親は幼い頃と違って娘に無関心になっていた。もちろん、幼い頃は彼女を心から可愛がっていた。しかし、それは彼女が読書家であったから。娘は将来自分が独身時代から研究していた『竜王の時代』を引き継いでくれるかと期待していたからというのもあった。しかし、成長するに従い学問の方に興味がないことが判り、天職が【学者】ではなく【話術士】であったことが決定打となり、すっかり過剰な興味は失っていた。


 ……これもリリアンナ関連クエストをクリアしないと知られない話だし、クエストをクリアすることで壊れてしまった家族の絆も回復する運びとなるのだが……まぁ、彼女の育成には影響が無かったりするので放置されることが多い。


 しばらくすると、金属同士のぶつかる音が聞こえて、【剣の乙女】が現れる。


「大丈夫? 怪我は無い? 今、助けるから」


 一緒に囚われていた村長の娘と共に檻から解放されて、村へと送り届けられる。画面上では村長の娘の周りには人が集まって彼女を囲い賑わう中、リリアンナを心配する人はいない。男子達からは声を掛け辛く、女子達からは露骨なガッカリ感が表現されている。この雰囲気もクエストを攻略することで原因が判明し状況が一変するのだが。


「あのっ、大丈夫ですか?」


「え? ……大丈夫です。助けて頂きありがとうございました」


 【剣の乙女】が村を出る際にリリアンナに声をかけることで仲間に加えるフラグが立つ。クエストをクリアした以上、話しかけるだけで仲間になると言っても過言ではない。


 ここで、会話に選択が現れて分岐する。1つは「それなら良かったです。怪我されていなくて何よりです」という選択。もう1つが「本当に?」というもの。


「本当に?」


「……」


「あの、良かったら『邪竜討伐軍』に加わって頂けませんか? 貴女の力が必要です」


 ……こういう会話の流れで、彼女は仲間に加わることになる。




 『竜騎幻想』におけるリリアンナの天職【話術士】は基本的に弱い。それこそ、サティシヤの【風水士】と同じくらい弱いと言われている。ただ、【風水士】と違って【話術士】は圧倒的にユニット数が少ない。


 【風水士】に比べて圧倒的に評価の高い【話術士】は、数が少ないからという理由だけで評価されているわけではない。【話術士】は普通に育てても【吟遊詩人】に進化するので大変なのが最初だけという認識から、数が少ないのも合わさって【風水士】より評価が高い。


 特にリリアンナは普通に育てても【吟遊詩人】に進化すれば全【吟遊詩人】ユニットの中で最強クラスに育つ。逆を言うと、リリアンナがいれば他の【吟遊詩人】が要らないまであるんだけど、【話術士】も【吟遊詩人】も防御力がかなり低い。どんなに大切に育てていても、うっかり知識不足で死なせてしまう人は多いので、貴重な【話術士】は全員育てるというのが基本だったりする。


 問題があるとしたら、【話術士】の段階ではどうやって育成するかという話なのだが、ゲームであれば武器で殴るしかない。後半になると進め方によっては銃を手に入れることも可能ではあるが、少なくとも現時点では装甲が紙な状態で接敵してトドメを刺させるように殴らせるしかない。……だから事故死が普通にあるんだけど。


「……目が覚めた……」


 ……多分眠りが浅かったのもあるのかもしれない。


 現在、部屋には1人。ベッドを1人で占有できる喜び……改めて実感する。


 リリアンナの夢を見た心当たりはある。今、まさにリリアンナを仲間にするためのクエストを受けて、メイディロッサへ向かう道中の野営なのだから。


 ……本当に良い復習だったかもしれん。


 身支度を整えてコテージを出る。外のウッドデッキには見張り役のアッツミュとマオルクスがウッドデッキ外にある焚火を見ながら談笑をしていた。


「おはよう、2人とも」


「おはよう、お兄ちゃん」


「早いですね。まだ寝ていても平気ですよ?」


 ちなみに俺はサティシヤと1番手を担っていた。だから、早起きしてしまった分、睡眠不足なのは否めない。


「どうも目が覚めちゃって」


「……1人で寝るのに不慣れだからだよ」


 マオルクスの冗談に思わず苦笑いが零れた。




 グアンリヒト王国の南。国境に近い村。メイディロッサは一応宿屋が存在するタイプの村である。一応大丈夫かもしれないが、サティシヤにはフード付きのローブを着させて髪を隠させる。……彼女に不快な思いをさせないために。


 村に入ると村人達が遠巻きにこちらを見ていて、誰も近づこうとしない。……今だから普通だと思うけれど、生まれ変わる前の俺ならゲームの印象が強くて悲しんだかもしれない。


 誰かに家を尋ねようにも近づこうとすると、近づいた分だけ後退されてしまう。どうしたものかと悩んでいたら、屈強そうな大柄な若者2名を引き連れた中年男性が現れた。


「ようこそ、旅の方。ここはメイディロッサ。何か御用ですか?」


「こんにちは。我々は冒険者チーム“サクリウスファミリア”。ブライタニアで依頼を受けて来ました。村長にお会いしたいのですが……」


 そう答えると、男性は露骨に緊張が解けた。


「そうでしたか。依頼を受けて頂きありがとうございます。私がその村長です。立ち話も何ですから、どうぞこちらへ」


 ……思えば、『竜騎幻想』の場合はブライタニアの冒険者の店で依頼を受けたタイミングで村長の話が展開され、直接『人攫い集団のアジト』へ向かうことになる。だから、解決前の村の様子なんて知ることもないんだよな。


 村長宅に入ると客間に通され、本来のシナリオ通り「娘を助けて欲しい」と言われる。


「出せる報酬が足りていないことは理解しております。ですので、娘以外に関しては何も言えませんが、一緒に助けて頂けたら幸いです」


 ストーリー上では村の経済力では報酬を出すのが厳しいという話になっているのだが、ゲーム的には仲間が増やせるので、その分報酬少な目……なんて裏事情だったりする。だからといって、仲間に加えなかったとしても報酬は増えることがないんだけどね。


「あのぉ、人攫いですよね? 王国兵団に訴えたりしなかったのでしょうか?」


 ……あ~。言われてみれば確かに。ゲーム中は特に何も感じなかったんだよな。王国兵団なんて、そんなものっていう偏見があったからだと思うけど。


「当然訴えはしましたが……受理されたものの、一向に動いて貰えず……」


「……ひどい……」


 アミュアルナの問いは俺の予想通りの回答ながら、彼女を憤慨させるには充分だった。


「それでは娘さんの特徴を教えて下さい」


「娘もですが、全員が淡いピンク色の髪の16歳前後の娘達が攫われているのです。私の娘は15歳。身長は155センチくらいだったと思います。1週間前は淡い緑のワンピースを着ていたので、当時のままなら目安になるかと……」


 言葉の端々に他の攫われた娘に対する気遣いが見え隠れする。……お金が無いから雇えないという雰囲気が既に伝わっており、仮に嘘だったとしても助けてあげたいとは思っていた。

読んで頂きありがとうございました。

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何卒よろしくお願いします。

尚、5日間連続投稿1日目+本日中にあと3回投稿します!

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