里長による苦渋の決断と転生者モモニウレーラの前世
全く動かなかった俺の身体、事情を知ったユーマオロによって動くようになり、夕方から屋外にて里をあげて宴が開かれた。……主役は俺で「英雄を称える為」らしい。
……こういうのは苦手なんだよな……でも、善意を無碍にする奴は地獄に落ちるべきだし……やっぱり感謝の気持ちは大事。
ちなみに俺を看病……まぁ、病気ではなかったんだが……意識を失っている間に世話をしてくれていたオートマタ達はしっかりと送還した。そうでないと、結果として留守番になったリナトーラの機嫌を損ねてしまう。
なので、今はマリアキラとシオリリアが世話をしてくれる。特にシオリリアは抱き着いて離れない程好かれて嬉しいけれど、まだ本調子じゃないために歩きにくい。
「さて、みんな聞いて欲しい」
里長がみんなに聞こえるように声を張り、それに伴い周囲が静まる。
「救里の英雄サクリウスに対し、我々はその恩義に答える義務がある。……そこで彼とその一行に対し、里の出入りの自由とそれに伴いアダマスオーロ砂漠の移動の権利を与えようと考えている。反対な者はいるか?」
……正直、反対する者の1人や2人くらい現れると思っていた。
「いるわけがないわ。だって、勝てないでしょ?」
そうマリアキラが言う。……後で知ったけれど、ジャイアント族は好戦的な種族。対立解決には1対1の戦いで決着を付けるという事らしい。
それを抜きにしても周囲の反応から俺は歓迎されているみたいで、正直嬉しかった。
入れ替わり立ち替わりでジャイアント族の方々や王国兵が俺へ感謝の言葉を言うために訪れる。目の前に食事があるのに手を付ける余裕がない。……空腹だが?
誰も空気を読んでくれないので、我慢するしかないわけだけど。
空きっ腹に飲み物だけを流し込んでいる中、知っている人が現れた。
「サクリウスさん、助けて頂きありがとうございました。こうしていられるのも、サクリウスさんのおかげです。……それでその、お身体はもう大丈夫ですか?」
そう言ったのはユイリーナ。お酒を持って現れた彼女は俺のカップに注ぐ。……空きっ腹に酒はヤバイ気がする。……酒、強くないんだが?
「いや、気にしなくて大丈夫」
……はて? 俺は彼女を何時助けたのだろうか? 全く記憶にない……。
「そうはいきません。何かお困りでしたら、遠慮なく……たいした事はできませんが……」
「何をしているのかな?」
「……ひっ!」
ユイリーナに酔っぱらいのダル絡みをするかのようにアヤルンゼールが来たが、俺の勘では多分彼女は酔ってない。
「驚き過ぎよ? やましい事でもあるのかな? ……まぁ、いいわ。それよりもサクリウス様。昨夜の戦闘では助けて頂きありがとうございました」
「いや、気にしなくて大丈夫」
……やばいな。全く憶えていない。
「お礼にわたしの全てを差し上げますので、一緒にイチャイチャしませんか?」
「姉さん、やめとけって。マレイゼリンとマミルリーヌも求婚しているけれど、冒険者でいる事は譲れないと断っているんだからさ」
第一王女の圧はユーマオロによって回避する事に成功した。
「……念のために聞くけれど、実は好きな人がいるって事は無い?」
「いや、みんな好きですが……そういう具体的な事はこの旅に満足して1つの場所に落ち着こうって気持ちになるまで保留にしているので……」
この場合の好きな人とは恋愛的な意味で聞かれている事は承知しているが、うっかり誰かの名前を出してミューディアが気付いたら殺しているパターンもある。……無いとは言い切れないんだよ……恋愛感情と推しへの想いって違うからな……。
「なるほど、それで2人は……なら話は簡単ね。わたしも冒険者になってサクリウス様のチームに入ります。もちろん、ユイリーナも一緒に。……協力してくれるわね?」
「も、もちろんです」
不意に呼ばれてユイリーナも恐縮する。
「良いのですか? チームに入ったら他の方々同様に公の場以外は姫様扱いできませんよ?」
「構いません」
……マレイゼリンはユニットだから別として、マミルリーヌも元はNPC。アヤルンゼールが冒険者になると言い出しても驚かない。……ただ……。
「他の2人同様に手続きをとって貰いますよ? まずはご両親……国王様と王妃様に許可をとって頂いて、その後にチームメンバー全員の了承を得てから正式なチーム入りです」
「マミルリーヌ達も許可取りしたらしいよ」
援護するようにユーマオロもアヤルンゼールに言う。……正直、既に娘2人を城から放出しているのに、長女も国王は冒険者送りにするだろうかと疑問に思っていた。
食事は何とか食べる事ができた。……ガチで空腹過ぎてヤバかった。
宴も雰囲気的にそろそろ終わる頃合い。里長が俺の正面に腰を下ろす。……そういえば、今まで一度も話し掛けられなかったな。特に違和も感じず、部屋で少し話したからだと思っていたけれど……彼女の表情を見る限り俺の予想が間違っていたようだ。
彼女は笑っていない。至って真剣な眼差しで対面すると、姿勢を正して頭を下げる。文化的に存在しないが土下座スタイルである。……いや、日本人が作った世界なのだから実はあるのだろうか?
「ちょっ、頭を上げて下さい」
「お願いします。図々しい事は承知していますが、どうかシオリリアの事を引き取って貰えないでしょうか?」
……はい?
「我々ジャイアント族は地竜王との縁が深く、ひっそりと生きていた黄鱗の竜人族とは困った時は助け合うという盟約があります。彼女は家族共々迫害にあって逃げてきた娘でございます。……そして、昨夜の襲撃も全て彼女を攫う事が目的なのです」
……なるほど。それで限界か。きっと何度も襲撃されて退けてきたのだろう。
「里の方々も疲弊し、やがて里の者も全滅……って事ですね。判りました。引き受けますよ」
『女神様の使徒』からの話を聞かなければ腹がたったかもしれないが、快く承諾した。
「シオリリア、俺と一緒に来る?」
「うん!」
……ここでイヤと言われたら困っていたけれど、彼女は嬉しそうに頷く。その様子を見て里長は複雑な気分である事が表情からも判った。
「わたしも行く!」
「はい?」
そう言ってきたのはマリアキラ。驚いていたのは里長も一緒で。
「冒険者になるって言うの? ヒューム族の集落で差別を受けるかもしれないのよ?」
「俺の仲間も9割ヒューム族だよ?」
もちろん、厳密に計算した数値ではないが……ほぼヒュームだという事は伝わっただろう。
「サクリウスさんが居れば平気。わたしの強さはサクリウスさんも知っている。冒険者として劣るとは思わない。ヒューム族の集落は……ちょっと怖い。でも、貴方と一緒にいたいの」
そうは言うが……里長は心中穏やかではないのではないかと心配になった。
「さっきの話を聞いていたか判らないけれど、俺達は大陸を巡るチームなんだ。当分はレッツアレーナに戻る事ができなくなる。……それでも?」
もう無駄な問いだとは思ったが、彼女は当然頷く。
「彼の役に立ってきなさい。サクリウスさんの子を産むまで帰って来る事は許さないからね」
「……だそうですよ? サクリウスさん、覚悟してくださいね?」
何か違う話になっていないかとツッコミ入れつつも、俺は2人を連れて行く事を約束した。
宴も終わり、片付けが始まる。……当然片付けを手伝おうとしたが丁重に断られてしまった。
部屋に戻ろうとしたタイミングで腕を掴まれた。
「待って。大事な話がある……こっちに来て」
そう言ったのは今まで俺とまともに話すこと無かったモモニウレーラだった。
そもそも彼女はユーマオロと常時一緒にいるため、今回別行動が多かった俺が彼女に何かやらかしたという事はないはずだった。
「単刀直入に聞くけれど、サクリウスさんは転生者ですよね?」
そう聞かれて初めて、俺が周囲に流されて彼女の素上を探るのを忘れていた事に気付いた。
「うん。貴女と同じ転生者だよ」
彼女にもサヤカーラと同じく「俺も貴女が転生者だと知っているよ」と副音声で言う。
「やっぱりね。戦い方がこの世界の人達と違うと思ったもん」
……何かユーマオロの傍にいる時と雰囲気が違う……いや、モモニウレーラの素が本来コレなのだろう。声が幼く、見た目が可愛らしく清楚だからこそギャップがあった。
尻まである金髪に童顔を飾る金眼。俺のこれまでの印象は控え目で心優しい女の子ってイメージだったが、今の彼女は言葉に若干の覇気を感じる。
「改めまして……わたしの前世は佐伯蛍。15歳でもうすぐ高校生だったの……って言われても知らんって感じだよね? でも、こっちの名前はもしかしたら知ってる? ……こんもちょ♪ Vアイドルの環萌千夜です! ……うーん、やっぱり声が違うからしっくりこないね」
「おぅ? それは聞いた事ある」
某大手Vアイドル事務所に所属するヴァーチャル配信者。登録者数100万人越えのアイドル様だ。……本人には言えないが、歌やダンスも頑張っているけれど、ゲームの上達速度の速さが極まっていて、初見プレイのポンコツっぷりから指導されて上手くなる努力の達人。
……確かに、女神ナンス様が好むような人材だと思う……あのタイミングで死んでいたのか。
「俺は……」
「あっ、別にいいよ。……君の素性に興味ないし」
「じゃあ、何故名乗ったのさ?」
「もちろん、釘刺し」
……ん?
「わたしがどんな人間か知っている人が相手なら話は早いかなって思ってさ。その反応と戦闘の進め方……知っている可能性が高いと判断したわけ」
確かに詳しいわけではないが、彼女の事を少しは知っていた。
「さて、わたしのフォロワーではないようだけど、名前は知っている……動画や切り抜きは少し見たことがあるってくらい……で、合ってる?」
まさにその通り。反射的に頷く。
「オッケー。わたしね、異世界転生モノの話って好きでね。今の生活って結構好きなの。唯一の不満は戦闘に使えるような魔法が使えない事くらいかな。でもね、いずれは王子様に見初められて、前世の知識を使ったスローライフを送るのが目標なわけ……だから、邪魔だけはしないでね」
……いや、伴侶が王子様なら不可能だろ……いや、できなくもないのか? 知らんけど。
「助けてあげたんだから、それくらいのお願い、聞いてくださいね♪ ……それではおつもちょでした♪」
……一方的に彼女はそう言うとユーマオロの元へと小走りで行ってしまう。
ちなみに助けて貰ったというのは本当で、イクミコットから聞いた話ではユーマオロの指示ではあるが、彼女の神器である『杯』から出て来た液体……本人が言うにはエリクサーらしいが、それを飲んだ事で回復したらしい。
彼女の能力は望む液体や粉粒体などを『杯』に出現させる能力のようだ。
「……どうしよう……凄く便利な力っぽいけれど、仲間に誘いたくない……」
露骨な煽りをうけて、思わず本音が独り言として出てしまった。
現時点で転生者2名が確定し、どちらも誘いたくないと思う自分がいた。
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