運命を変える、推しの命を救うための予定にない戦い
……〈テレポート〉。
スキル〈テレポート〉は、瞬間移動である。……ただ、思ったよりも便利な仕様ではなく、移動距離は見えている範囲。少なくとも一度行った場所へお気軽に移動といったモノではない。
高い丘から戦場を見下ろしていたので、当然距離に関係なく移動できるわけで。完全に『邪竜討伐軍』が撤退したのを確認した後、一瞬で戦場に到着した。
「うっ……」
まず襲ってきたのは圧迫感すら感じる血の匂い。そして、ゲーム画面とは違うリアルな死体の山。それと同時にトロールから魔石が抜かれていないことにも気付いた。
「ゲーム内でも魔石を抜いて売る描写とか無かったし、多分国から金出して貰っているから全く気にしないんだろうな……」
こうやって声を出していれば、生きている人が反応するかもしれない……そう思ったが、誰も何も言わない。……気を失っているだけかもしれないが、それならば後で助けて貰うことも可能だろう。
……俺は万人を救済する正義の味方ではない。
それは、ムッチと呼ばれている【剣の乙女】様に任せれば良い。分不相応なことはできない……もちろん、俺にできる範囲であれば目的の邪魔でない限りは助けるけれども、原則は厄介事に首を突っ込まない。これが長生きのコツだと教わった。
「そういうわけで、魔石は俺があとで抜いて金にする……文句があるなら今の内に。第一優先権は戦った人達にあることくらいはわきまえているからさ」
やっぱり反応がない。……まぁ、すぐに【魂葬官】が来る。俺に残されている時間はあまりないだろう。
「もし、まだ生きている人がいたら申し訳ないが……まずは目的を優先させて貰うからね」
再び反応がないことを確認しつつ、俺はアミュアルナを探し始める。
まず考えるべきは位置関係。ヒントはゲームでの配置。
実際、ゲームで表示されていた人数より遥かに多い人数の死体が転がっているし、ゲームであれば消えているはずの倒されたトロールだって死体が残っているし。
アミュアルナ個人の特定は丘の上からでは無理だった。だって、100人以上いる中で1人を見つけるって無理……推しでも武装していたら見分けがつかない。
そこでゲームでの位置がヒントになるってわけだ。
戦況は判っているから、アミュアルナが引きつける役割だったことは間違いない。問題は何処で脱落しているかなんだが……。
「誰か~! 意識ある方いませんかー!」
アミュアルナが居そうな場所で再び呼びかけてみるものの、やはり反応無し。仕方ない……とばかりに1人1人確認していくと、思ったより早く、あっさりと見つけることができた。これもゲーム内で位置をだいたい把握していたおかげ……いや、実際に彼女の位置がゲームと同じ位置だったおかげだろう。
「アミュアルナさん!」
声を掛けて、腕に触れる。……脈はある。死んでない。
「……んっ……」
俺が触ったからもしれないが、彼女が反応する。ただ……下半身が横倒しになった大木の下敷きになっていた。これでは動かせないだろう。……普通なら。
「あっ……サクリウス……さん?」
「うん。無理に動かないようにね? ……今、助ける」
弱々しく反応する彼女に注意して安心させつつ、うっかり何かの上に移動しないように、手頃な場所を探す。だが、俺のパッシブスキルである〈危険感知〉が反応する。
「アミュアルナさん、少しだけ待っていて。絶対助けるから」
そう言って、なるべく彼女から離れつつ、背負った大剣を抜いて構える。
「ングォオオオオ」
トロールが1匹だけ起き上がる。倒しきれていなかったのか起き上がれる程度には再生したのだろう……だから魔石を抜く作業はしなきゃならんのよ……。
うーん。1匹だったことを喜ぶべきか、そもそも倒しきれていないことにキレるべきか。
そもそも、『竜騎幻想』でのアミュアルナ救出イベントの際に倒したはずのトロールと再戦するなんてイベントは無い。よって、これはオリジナルである。
「はぁ……まさか、これが運命改変を阻止する動きってヤツか?」
仮にそうだとしたら聞いているはずである神様に尋ねてみる。……神様と言っても女神ナンス様ではなく、世界をデザインした開発陣営に対してだが。
「反応なしっと。知っていたけどね……ゲーム世界だから、ちょっと期待しただけっていうね」
……長期戦になればなるほど不利。ならば、完全回復する前に速攻あるのみ!
……〈マーク〉。
大剣を左手で持ち、右手で短剣2本を投げる。
……〈サイコキネシス〉!
念動で短剣を操作して、トロールの動きを封じるべく足首を狙う。
「グオオオオッ!」
プシュー。
切った瞬間から音を立てて回復していく足首。足止めはできているので目的は果たしているものの、ダメージを与えるにはそれなりに火力が必要。やっぱりレベル3になっていて良かったと心底思う。
短剣が首筋に刺さる。
……なら……〈リコール〉!
一瞬で正面から背後に移動したところで首の切断を試みる。しかし、骨のところで刃が止まって切り落とせない。手が回ってくる前に移動を試みたが、刃が抜けずに叩き落される。
「ぐはっ!」
肺の中の空気が地面に叩きつけられた反動で全て吐き出された。
……やばいな……レベル3なら何とかなると思っていたけれど……。
「うぐぅ!!」
起き上がったタイミングで思いっきり蹴り飛ばされる。
……〈リコール〉!
一瞬で先程の首筋に辿り着くと大剣を握る。
……〈テレポート〉!
もう抜けないと判っていたので、大剣ごと瞬間移動してトロールと距離を取る。
「ゲフッ……内臓、やった?」
咳と共に血を少し吐く。骨が折れているような気もしなくもないが、緊張感とショックで感覚が麻痺していた。
「くっそ……俺が負けたら……推しが……死んじゃう……アミュタは絶対俺が死なせない!」
余力がもうあまり無い。魔石のある部位を狙って攻撃するしかない。
……〈アポート〉。
首裏に刺さっていた短剣を瞬間移動で引き寄せては投げ直し、2本並走で今度は鳩尾を狙う。短剣では肋骨を切断できないだろうという判断から狙い定めたが、案の定回避能力は低くて2本とも刺さる。
……〈リコール〉。
「喰らっとけ。貧弱で申し訳ないけど、これが今できる最大火力……〈サイコブラスト〉!!」
鳩尾に瞬間移動したタイミングで、全力の念動弾を放つ。短剣の刃で作った裂け目が念動弾の衝撃で広がって、トロールの肋骨を砕いて胸に大きな穴を穿った。
爆破の勢いのまま、トロールは仰向けに倒れる。……まだ気が抜けない。必死に手を伸ばしてトロールの魔石に手を伸ばす。
その時、トロールの腕が俺を圧し潰さんばかりに叩こうと、まさに当たる瞬間。
……〈テレポート〉。
1秒遅かったら死んでいただろう的な勢いで、巨人の手は自分の胸に叩きつけていた。
「残念。……俺の勝ちだ……1匹で瀕死だった癖に強すぎだよ、クソが……」
俺の右手にはトロールの魔石。ギリギリ短剣で分離できていた。
魔石の無い妖魔や魔獣は心臓がないのも一緒でもう動けずに死に至る。……確実な死を他の5体にも与え、馬鹿でかい魔石を回収した後、アミュアルナの元へ戻る。
「お待たせ……遅くなった……」
俺はもう返事する余力のない彼女の肩に触れ、〈テレポート〉をする。……予想通り下半身が潰れていた。
……〈サイコヒール〉。
超能力による治癒なのだが、体力と怪我を治せる。ただし、状態異常は治せないし、戦闘中の治療も集中が必要なので無理。その上コスト……消費MPが高すぎた。
「これで治ったよ。痺れとか、少し残っているかもしれないけど、時間経過で治ると思う」
「ありがとうございました。サクリさんも早く自分を治療してください」
アミュアルナは立ち上がって促すが、俺は彼女の言葉に首を横に振る。
「もうMPがないんです。幸い、もうアミュアルナさんは回復したし、俺も帰れれば治療して貰えます。戻りましょう」
そう言って、俺は丘を指す。
「あの丘の上に馬を繋いであります。俺と2人乗りで申し訳ないけど、一緒に帰りましょう」
そう言うと、彼女から俺に肩を貸し、2人して丘を目指して歩き始めた。
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