戦場に降り立つ【剣の乙女】。彼女はダメかもしれない
最近は坑道の深部まで行き、採掘作業を護衛することが多い。その間に次の天職へ進化するための条件に近づくよう導いたりしている。……理由は街に居たくないから。
ゲーム通りの進行であれば、ムッチと呼ばれる彼女は城から出ることができない。自由に街を出歩けるようになるためには、最低でも街の外でのトロール戦を経験しなければならない。でも、現実はゲームじゃないので出てこないとは断言できないわけで。
……うっかり会ったら怖いじゃないですか? 特に俺の場合は色々と。
とにかく、主人公様には会わない。仲間を彼女に引き抜かれないようにするためにも今は街に居る時間は少ないに越したことはない。
「やぁ!!」
ズシャッという得物を裂く音と共にサティシヤの気合の声が坑道に響く。
「なぁ、本当にそれが使いやすい?」
「はい。これが一番シックリします」
サティシヤが振っている武器は両手持ちの武器である鉄の大鎌。【風水士】っぽくない武器なのだが、彼女は楽しそうに武器を振っている。……いや、振り回されているかもしれない。
事の発端は、【風水士】という職業はスキルによる攻撃力が無い。ランダムで発生するプルームによる精霊魔術でダメージを与えることもあるが、基本はデバフ系である。そこで、充分に弱体した後に手持無沙汰になってしまうところを彼女にも直接殴って貰おうと好みの武器を選んで貰った結果、何故かこうなってしまったのである。
「え~い♪」
ザグシュッ!
また1匹、大モグラを倒す。本来当たらないはずの攻撃が当たるのも、彼女のスキルによって充分にデバフの掛かった後だからだ。当たれば大ダメージのでる大鎌系武器は彼女の殺傷能力を向上させていた。
……まぁ、実際風水士に武器の制約ないからなぁ。
メインで戦闘を行う俺やクレアカリン、マオルクスやアッツミュはサクサク経験値が稼げるのに対し、サティシヤが一番経験値稼ぎに苦労していて、殴らせてトドメを刺させることで経験値取得量を増やすという対策をしている。
……それでも、大鎌を選ぶとは思わんよ。
「あっ……!」
この時、最後のレベル2だったサティシヤの冒険者カードが光を発した。
サティシヤがレベル3になったことで一度ブライタニアに戻って、冒険者カードの更新手続きをすることになった。一方ユミウルカも採ってきた霊石を加工するからと早々に解散。残りは“朽ちぬ日輪”亭へと戻る。
「おかえりなさい、皆さん。巻き込まれませんでしたか?」
親父さんの言葉が穏やかではない。
「いや……何も。何かあったんですか?」
「トロールの群れが近隣に出現したらしい。王国兵団も出動したと噂になっているんだ」
……あっ、チュートリアル終わったか。
夢に見たばかりなこともあって気にしてはいたけど、思ったより早く発生したことに若干慌てつつも、みんなに悟られないようにする。
「そうなのね。それってどのくらい前の話?」
「だいたい3時間くらい前なんじゃないかな」
……噂広まるの早っ! 直接見てきたんじゃないかと疑うレベルだけど、直接見た人から聞いたんだろうなぁ、多分。
クレアカリンも関心があったのか、親父さんの答えに対して少し考えているようだった。
「どうしたの?」
「ううん。この前のコボルシフトもそうだけど、なぜ人を襲っているのかと思って。ほら、普通は森に入って確実に狩れそうな人間ばかり襲うようなイメージない?」
「まぁ、そうだね。でも、きっと邪竜王復活と関係があるかもしれない」
……『竜騎幻想』の話通りであればね。
平和だったナッツリブア大陸は、邪竜王復活に呼応するように大陸中の治安が急に悪化する。それ故にいろんなクエストが発生し、混乱を鎮めることで【剣の乙女】は英雄として大陸中で賞賛される流れになるわけで。
「そうなると、冒険者の仕事が増えるかもしれないね」
「そうだね」
「お兄ちゃん、お外こわ~い♪」
マオルクスが俺にしがみつくが、8歳なら妥当な反応。しかし、中身は同じ歳。……彼女曰く、素の反応をすると年齢不相応になってしまうから、わざとやっているらしい。
「はいはい。マオルゥはクレアお姉ちゃんやアッチュお姉ちゃんと一緒にいてね」
サティシヤは冒険者カードの更新にため、ナッツリブア冒険者支援組合へ。ユミウルカはさっそく素材を加工するべく広場へ帰っていて、2人とも夕飯時まで帰ってこないだろう。
「お兄ちゃんは?」
「ちょっと出かけてくる」
このイベントはアミュアルナの今後が決定的なモノになる可能性がある。俺にとって都合が悪いのは彼女が放置死されること。逆に都合が良いのは戦場が本来予定されている場所とは違うこと。
買っても負けても構わない。アミュアルナが生きて戻ってくれればそれで良かった。
厩舎で預けていた馬に乗り、東門から真っ直ぐ東へと走る。途中でそれなりに高い丘へと向かい、戦場予定地を見下ろす。……そこが戦場でないことを祈って。
「……まぁ、ですよね……」
予定通りに戦闘は行われていた。トロールの数は6体。一方、王国兵は1隊。概ね100人といったところ。それだけ多くの人数がいても近接攻撃する班や遠隔攻撃をする班、魔法攻撃をする班、回復を担当する班と役割分担がされている。しかも、王国兵は予定通りであればトロールの数は3体と報告されているはず。……それが、全滅の原因。
何故3体と報告されていたかというと、紹介者のいない訓練兵を戦場に送り出し、全滅させて処分することが目的だから。……まぁ、これも『竜騎幻想』のゲーム内クエストで知る情報故に、当然実際は違う可能性が充分にあったりするので、所詮はシナリオ通りであれば、の話。
戦場にいるのは隊長と9人の班長以外は全員が訓練兵。まぁ、間違いなく負け戦である。本来正しい判断をするのであれば勝ち目がないのだから戦略的後退が正しい判断。それができないのは、兵団内部の込み入った事情があるわけで……。
「ぐぁ~」
「ギャー!!」
会話は遠くて聞こえない距離で見ているが、悲鳴だけはよく聞こえる。あと、隊長や班長の怒鳴り声も僅かに聞こえてくるが、そんなことで覆る戦力差ではないんだよな。
何故なら、訓練兵は全員がレベル1だから。
どんなレア天職であろうとも、レベル1のステータスは子供のそれと大差はない。もちろん、俺みたいに森の中で実戦を積んでいたのなら話は別だけど、そんな人は少ないはず。多くは【学鍛童】の時に【戦士】になるべく訓練をしていただけの人達だろう。で、【戦士】になった今でもかなり実戦経験に近い訓練をしているかもしれない。……だけど、それらの成果が反映されるのはレベル2になる時の話。
いくら訓練しても経験値は得られず、レベルが上がったタイミングで訓練内容に応じたステータスがアップするのであれば……戦闘の素人が6体のトロール相手に勝てるわけがない。
「あ~……これは……思っていた以上に一方的な展開だな……何とかしようとする意図は見えるんだけど……」
多分、隊長はトロール5体を少数で相手している間に1体を残りの戦力で倒す作戦なのだろう。その作戦自体は有効だとは思う。でも、火力不足だし、トロールは妖魔の中でも強力な再生能力を有している。倒しきるのに時間が掛かり過ぎてしまうだろう。
「隊長、トロールが!」
集中攻撃を受けていたトロールに加勢するかのように、1体トロールが近づいて来ていた。とはいえ、トロールの数が増えたわけではない。単純に引きつけていた班の1つが壊滅してこちらに近づいてきたわけで。
「これは……終わりかな……」
1体を倒しきれない殲滅班が2体を同時に相手にすることは不可能だろう。そうなるともうじり貧になるのは目に見えている。
圧倒的トロールの力に1人、また1人と脱落させられていく。せめてレベル3……いや、2でもあれば変わって来たかもしれない。
気が付くと5体が暴れまわり、最初に集中攻撃をされていた1体もかなり回復しているように見える。班長と隊長が多分最後まで交戦し……この時点で逃げないのは、逃げることが許されないから……やっぱりあの設定のままなのだろうか?
天職によってはレベル2でも倒せるとは思うけれど、【戦士】では3でも厳しい。近接系より遠隔や魔法の方が戦えるとは思うけども、厳しいだろうな……。だって、そういう天職の班長がいるなら、既にそう動いているとは思うんだけど、その様子が見られない。
数的有利が無くなったことで、トロール達の殲滅速度が上がり、ついに残りは隊長1人になってしまった。ここからでは確認できないが、倒れている連中のほとんどが即死だろう。
「うおおおおお!」
隊長の雄叫びが俺のところまで聞こえてくる。……あの人、俺が挨拶した隊長さんじゃないか? 女性ファンが悲しみそうだけど……。
「あっ……」
思わず声が出る。トロールに隊長が捕まり握られてしまった。
「放しなさい!」
……おぉ、まさに『竜騎幻想』と同じタイミング!
まだトロール達の位置から少し離れた場所。8人が馬に乗って戦場へ向かっていた。離れているとは言っても、戦況は判る程度の距離。……そして、ゲームの展開と同じように制止の声は意味を理解されることなく、トロールによって隊長は握り潰された。
戦場に辿り着いた面々は馬から降りて何か話している。……本当にそう話しているかは知らないが、もしゲームと一緒なら……。
「……全滅?」
「トロールが6体? 3体という話じゃなかったのか?」
「はい、そう聞いています。これは一体?」
「とりあえず、トロールどもを殲滅するのが先決だろう。ボヤボヤするな!」
「ムッチは無理するなよ? そのために俺達がいる」
……なんてやりとりが行われているはずだ。けれど、ゲームをしている時に思っていた疑問の1つが今解消された気がする。
当時、短いながらも会話が発生していたのに、トロールは襲ってくることがなかったのは何故か? という素朴な疑問が幼い頃にあったんだけど……実際、トロールはじっとしていたわけでなく、興奮状態なのか暴れまわって死体蹴りしているのが原因なのだと理解した。
「……マジか……トロールは混乱しているってヤツか」
身長3メートル超えの巨人が6体、全員錯乱して暴れているとか恐怖しかないんだが。
そんなことを思っている間に動き始める。構成は……【剣の乙女】とリーダーでタンカーの【機戦士】、サブリーダーで近接アタッカーの【双剣士】と【戦士】、【狩人】、【修道士】、【魔術士】の7人。あとは、非戦闘要員で【秘書官】兼ムッチの世話役の女性。……まぁ、ウルトラレア職の【機戦士】とスーパーレア職の【双剣士】だけでもトロール達を殲滅できそうではあるが、そうすると今後詰むから特に【剣の乙女】には経験値を与えたいところ……さて、どうなるかな?
予想通り、圧倒的戦力差で殲滅してしまったが……ムッチという人はダメかもしれん。
ムッチは仲間の協力を得てトドメを刺して、それなりに経験値を得ていた。ただ、【修道士】以外のユニットにも経験値を分配したいところだが、攻撃させずに終わってしまっていた。
「さて、この後どうなるか……」
……こういう時、日中仄かに光る金髪は目印になって良い。
ムッチは近くに転がっている死体の様子を見て、口元を覆う。そして、早々に馬に乗せられてしまう……そんな展開、ゲームには無いわ!
「遺体埋葬は他の者に任せて、撤収します!」
……うわぁ、最悪。いや、遺体埋葬までしなくとも、生存確認はしてやれよ……。
「頼むから、アミュタ……助けさせてくれよな……」
【剣の乙女】以外が助けるとどうなるのか、若干の不安を感じていた。
読んで頂きありがとうございました。
下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いいたします!
もし続きが気になって頂けたなら、ブックマークして頂けると筆者の励みになります!
何卒よろしくお願いします。
尚、本日中にあと2回投稿します!




