ヒナミイシャの母の死と議員代理を務める姉と跡継ぎ
……男が居ない街ではあったけれど、女も居ないわ……。
コテージを出て、あとはスピカレン議員の屋敷へ戻るだけ。急いで何かしなければならない予定も無く、改めて街の惨状を確認する。
「酷いですよね」
不意に後ろから声を掛けられて驚く……完全に油断していた。
振り返ると、チカリーナ達3名の姿。
「……そうだね」
ざっと街を見回して、全壊の建物は街の7割といったところ。そして、2割が半壊だろうか。
アーリマンを倒したタイミングで神器使用により限界が近かったため、サイクロプス退治はみんなに任せてしまった。スピカレン議員の屋敷に戻って寝てしまったため状況は把握していなかったが、改めて見て「酷い」の一言だった。
「ちょっと行ってきます」
何をしに行くか聞いていないけれど、多分生存者の確認に行ったのだろう。辞めたとはいえ、街を守る立場だったのだから、急に割り切れないだろうし。
……おっ。
ペガサスを売っていた厩舎は半壊していた。
パッと見た感じでは店主はもちろん、馬達も居なくなっていたかのように見えた。
「マジか……」
厩舎の一番奥にいたペガサス2頭だけ放置されていた。奥のペガサスは軽く怪我をしているが、無事。その手前のペガサスは完全に壊れた厩舎の下敷きになって翼と足が折れているように見えた。……恐らく普通の治療では使い物にならない。だから置いて行かれたのだろう。
……〈マーク〉。
適当にチャクラムを投げて柱に刺すと、危険を承知で半壊の厩舎へと入る。
「今助けるから」
優しく声を掛けて顔を撫でると、そのまま〈リコール〉した。
ペガサス2頭を無料でゲットした。
軽傷だが厩舎から出せなかった藍色の毛並みで茶色の瞳をしたペガサスはメディスに治療させて、コテージに預けている。
もう1頭は黒色の毛並みで黒い瞳をしたペガサスで、〈サイコヒール〉で全快させると俺の影の中に入って出て来なかった。一瞬逃げたかと思ったが、たまに顔を出すので違うようだ。
治療に時間も掛かった事で街の観察を打ち切って、スピカレン議員の屋敷に戻ってきた。
「おかえりなさい。急用って何だった?」
「うん、チームに入りたいって人が来ていたんだよね」
「……そっか」
その後、街を出ていく人達が多く、壊された街を片付けようとする住民は少なかった事を話した。実際、見かけた住人は全て街の外へと向かっていた。
……多分、いちいち説明しなくとも彼女は知っている。
「ただいま……どちら様?」
女性が入って来て、俺の顔を見て訝しむ。
「姉様! おかえりなさい。ご紹介します。こちらは国外出身のゴールド級冒険者、サクリウス様。『ティリーベルの懐中時計』の修繕依頼を出していた方の護衛として来られました。ですが、街の事情を知らないため、泊まって頂きました。そのおかげでわたしと屋敷は無事だったんです」
……一部説明が違うような気はするけれど……姉への説得材料として不足分を盛ったか?
「……そうでしたか。妹を助けて頂きありがとうございました。わたしは姉のサジュナーシャ。今は母の代行をしております」
そう言って、丁寧に頭を下げる。……正直、冒険者相手には丁重すぎる態度だった。
相手は王族。冒険者であれば何処の国であっても野蛮な存在として距離をとる。考えられる理由としてはゴールド級だから助けられた立場から敬意を払ったという事か?
「ゴールド級冒険者チーム“サクリウスファミリア”リーダーのサクリウス=サイファリオです。ヒナミイシャ様の好意によりお邪魔しております」
……敬語、合っているか? 正直、自信はない。
彼女は礼を言うと俺への関心を失ったようで、ヒナミイシャだけを見る。
「街は見た? 正直街としての機能の回復は暫くしないでしょう。議員の半分以上も亡くなってしまいました。……母様も亡くなりました」
サジュナーシャの言葉に、ヒナミイシャはフリーズしてしまった。
「……今、何て……?」
ヒナミイシャの硬直は30秒近くあったと思う。
浅い考察でも、彼女は母親を……家族を大切に思っていると理解できる。成人し、ユニーク職を賜って、前世の記憶を思い出して尚、母親の立場を考慮して自分の夢を諦められる程には大事に思っている。
「母様は夜、職場の仮眠室で休んでいたところを殺されました。そして、それは母様だけの話ではなく、判っているだけでも半数は同じような死因で亡くなりました」
「そんな……姉様は?」
「わたしは、自分の仕事を終えて家に戻る途中で襲撃に遭って……生き延びるので必死でした」
行間を読んで、多分「同じ場所に居て姉様は無傷なのに母様を見殺しにしたのか?」と言いたかったのだと思う。だから、サジュナーシャもそう答えたのだろう。
「母様は建物の下敷きになっていて、遺体回収は難しいでしょう。……こちらは助ける側の立場。優先すべき事が多いのです」
……理不尽な話だ。議員という手を差し伸べる側は大事な家族も後回しで住民を助けなければならず、肝心の住民の多くは街を見捨てて逃げ出している。文句の1つでも言いたくなるのだが、俺は余所者故に言う資格すら無い。
俺は男だから拒絶される対象であり、助ける義理も無い。冒険者故に無償の奉仕はしない。……厳密にはこういった場合は冒険者でも救助や治療の手伝いはするべきだ。でも、このプラストーロスに限っては、男による俺の支援の手を差し伸べても払われるのがオチだろう。
……もちろん、全員がそうとは言わない。でも、積極的に助けようとも思えなかった。
「でも、多くの人が街を出て行ったのでは?」
「出て行ける人は余裕のある人だけ。残っている人もいる。残っている人達は好んで残っているとは限らない……元々支援をあてにしてプラストーロスに来たのなら、もう他に行く宛もないのでしょう。だから、助けなければならないの」
……内心、自分達の事ですら何もせず権利だからと支援を待つ住民に心底腹が立った。
「議員の半数が亡くなってしまった以上、新しい議員が本来であれば選定される。でも、この街の状況では無理でしょう? だから、生き残った議員の家族が一時的に代行を務める事になったの。……だから、母様の代理をわたしが引き受けます」
同じ私財を擲つのならば、自身の家族をまずは助けたいだろう。それが普通だと思う。それでも、このプラストーロスは『弱者女性の救済』を謳っている以上、その矜持に従う……という事なのだろう。
「横から失礼します。聞いた話では議員の数は13名と伺っています。議長はもしかして生存されている?」
「そうですけど、それが何か?」
「いえ。会話の横入り失礼しました」
立ち入った事を聞いた自覚があるので、潔く謝罪する。
……これは個人的な感想ではあるが、もしかしたら全て議長の方針なのかもしれない。
自分の家の財産はまず自分の為に使う。これが当たり前だと思う。実際、議員ではない自分の財産を持つ者はさっさと街から去った。何故、議員だけ犠牲にならなければならない?
……もちろん、財産が全く無い者は別としてね。そして、そんな事を指摘するまでもなく本人も解っている事だろう。
「姉様。わたしも手伝います」
「不要です」
「でも、1人じゃ……」
……今の会話で判った。父親は居ない。死んでいるのか、離婚しているのか、よく判らないけれど、現在の家族に含まれていない事だけは確定。
「ヒナミイシャ。今なら貴女の夢を咎める人はいないよ? チャンスは掴まないと!」
その一言には驚いた。……サジュナーシャはヒナミイシャに冒険者となるよう勧めていた。
「サクリウス様。ヒナミイシャは冒険者を希望しています。妹を守って頂けた貴方であれば信用できます。どうか、ヒナミイシャを連れて街を出て頂けませんか?」
サジュナーシャのお願い。普段であれば即答で了承するところ。何故なら俺としても都合が良かったから。……でも、今のヒナミイシャの心情を考えると即答は難しかった。
「姉様だけを残して街から出られるわけがないじゃない!」
……当然、こうなるよなぁ。
そもそも、置いて行けるのであれば初めから手伝うとは言わないわけで。ヒナミイシャも判っている。今のこの状況は財産をただ減らすだけの作業だという事を。
「はっきり言うわ。ヒナミイシャはまだ成人したばかり。仕事だって何もできない。正直、足手纏いなの。本来であればじっくりと仕事を憶えて貰っても良い時期だけど、この状況でそうは言っていられない。余裕がないの」
「でも……」
「ユニーク職を賜った時から、貴女の夢は実現可能なモノになったの。だから行きなさい」
……正直、行くべきだ。姉が庇ってくれている内に。
議長が生きていた。ならば、派閥争いは継続される。そして、サジュナーシャも気付いているのだろう。……妹が母や自分と考え方が違うという事に。
ヒナミイシャは最初黙って姉を見つめていた。しかし、絶望したかのように視線を下げた。
「ヒナミイシャ、街が混乱している今しかチャンスは無い。冒険者として旅立ちなさい」
「……わかった」
無駄と悟ったのか、ヒナミイシャは不服そうに返事をする。
「サクリウス様、お願いしても宜しいでしょうか?」
「はい、承ります」
不本意だろうとなんだろうと、彼女が街をでる意思を固めたのなら連れ出さない理由はない。
「……ヒナミイシャ。夢を叶えるなら後悔しないよう、精進しなさい」
サジュナーシャは優しく告げて、彼女が頷くとプラストーロスから出る準備を始める。
屋敷を出てコテージを経由して、俺達はベタパイコーロスに向けて出発した。
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