夜都襲撃により私設警備員は交戦するも絶望する人達
応接室に戻った後、ヒナミイシャが報酬を支払い目的は達成される。
「大変お待たせしました。ご確認下さい」
「大丈夫ですよ。わたし達のリーダーはユニーク職の方を見つけると毎回こんな感じになるので……はい、確かに丁度頂きました」
……とは言っているが、ミカルコアは当然そんな経験が無い。きっと席を外している間に聞いたのだろう……何となく想像はできる。
「それでは帰りましょう。長い事お邪魔致しました」
「今夜は宿屋で?」
……窓ガラスから見える空は既に暗くなっていた。
「いえ、広場でコテージを展開します」
「……不躾ですが、サクリウス様はこちらでお泊り頂いた方がよろしいかと」
ヒナミイシャの予期せぬ提案。
「プラストーロスは冒険者であってもチームに男性が混ざっていれば不遇に扱われる街です。ゴールド級の皆様ですので余程の酷い扱いは無いと信じたいところですが、正直怪しいです。それなら、サクリウス様を我が家で預かる事で皆様だけならば充分以上の待遇を受けられます。そして、我が家は皆様を宿泊させられる程の余裕はありませんが、サクリウス様だけであれば、匿う事が可能です」
「……そういう事なら……世話になって良いかな?」
最後の返事だけは自分でした。
阿桜花蓮は知念家の隣に住んでいた2歳年下の女の子で幼馴染み。妹の杏珠と同年齢という事もあって本来なら反抗期で離れていく時期でも一緒にいる事が多かった。
当然、ウチを挟んで反対側で暮らすナオリン……美鼓や向かいに暮らすコトリスティナ……胡桃さんとも幼馴染み。少なくとも旅行で一緒に行き、一緒に死んでしまったくらいには仲良しだ。
他の子同様に前世の頃の話に花を咲かせ、少し遅めの就寝に入る。
ドンッ!!
眠りに落ちて何時間経過したか判らないが、まだ周囲は暗くて大して眠れていない事だけは身体の怠さからも理解できた。
そんな中、大きな音と地響き。そして、聞こえてくる悲鳴。
正直寝ている場合では無いと強引に身体を起こして簡単に武装して部屋を出る。
「朔理お兄さん」
「何があった?」
……音的には同じ「さくり」なので気にせず現状を尋ねる。
「襲撃です」
急いで屋敷の外へ出る。
「何、アレ?」
「……多分……魔人族」
上空には蝙蝠状の翼を生やした単眼の化け物。地上には同じ単眼だが、多分身長は15メートルほどの巨人達。ソイツ等が街を蹂躙していた。
[サクリさん、聞こえますか? 指示をお願いします]
[逃げるにしても戦うにしても、直ぐに実行できるように準備を]
ニチリカからの念話。とりあえず、避難しながら指示を出した。
……何故、直ぐに行動を指示しないか? それは判断材料が無いから。
本来、街を守るのは衛兵の仕事である。プラストーロスを拠点としている冒険者も組合からの要請があれば防衛に手を貸す……と思う。
残念ながら絶対ではない。……冒険者もピンキリだから。相手は魔人族だしね。
……つまり、俺達は防衛に協力する義務は無い。
俺達は邪魔にならぬよう仲間達と合流を目指しつつ戦火を避けるように街の外へと向かう。
「あっ」
……見つけてしまった。
何故ここにいるのか判らないけれど、チカリーナの姿を見つけてしまった。
……衛兵なのか?
チカリーナが巨人と対峙している。普通に考えれば無謀なのだが、近くに武装した女の子が倒れている。位置関係から彼女を庇っていて動けない……と、いったところか。
「ヒナミイシャ、少しだけゴメン」
敬称略……今なら許されるだろう。
「メディス」
倒れている女の子に近づく。……見覚えがあるな……なんて思いつつ、彼女をメディスに回復させる。治療しながら抱きかかえて、ヒナミイシャのところまで下がる。
「怪我した彼女を避難させた。貴女も下がって!」
チカリーナの名前は知っているけれど呼ぶわけにはいかなかった。
「……すみません」
「大丈夫? 魔法治療だから、出血はもう無いけど……痛いところは?」
下がりながら尋ねる。
「大丈夫」
抱えていた女の子の返事を確認しつつ、離れた場所に座らせる。
……〈テレポート〉。
「早く下がって!」
中々下がらないチカリーナの近くに移動すると彼女を背に庇うように立つ。その上でターゲットを奪うように〈サイコキネシス〉でコントロールしたチャクラムで頭部を攻撃した。
……厳密には判らないけれど、全くダメージが入った感じがしない。
[ニチュー、〈アナライズ〉頼む]
念話で頼むと返事の代わりに情報が表示される。
……魔人族のサイクロプス、レベル2……物理ダメージ耐性か……なら。
「ルーチェ、ダクネス」
メディスを帰らせた後、2人を呼ぶ。……一撃で仕留めるつもりで。
「〈ミックスレイド〉……マーブルスカッシュ」
光と闇の属性による単体特大ダメージ魔法攻撃が、サイクロプスを貫き絶命させた。
上空に浮いている敵を目視して、名前が別ゲームでの見た目通りアーリマンだと把握。アイツがサイクロプスを召喚している様子を目撃した。
「これは、アイツを倒すのがクリア条件だな」
ただし、飛んでいる。……撃ち落とすか?
「エスパフ、アイツを地上に落とす事できないかな?」
「うーん……やるだけやってみるけど……」
……多分何かしたのだろう。不自然に……落ちるというより、引っ張られている?
しかし、落下する前に空間に穴が現れたかと思うと中に入って……上空に現れる。
「ダメね」
今の方法で新たなサイクロプス召喚は防ぐことができるとしても、有効な攻撃手段がない。
「いや、ダメじゃないかも」
〈ハイアナライズ〉じゃなく〈アナライズ〉なので分析が遅かったアーリマンの弱点の詳細が今、表示された。
……木属性か……。
アーリマンの弱点。遠距離攻撃の手段がない木属性魔法は副効果で眠らせるのが精一杯。だが、相手は魔人族で抵抗されるのが目に見えていた。
コツン。
靴に何かがぶつかる。下を見ると“毒棘の緑鞭”リエルディラが転がっていた。
それを拾うとアーリマンを仕留める為に思考を巡らせた。
「ねぇ、エスパフ。俺をアーリマンのところに運ぶ手段はある?」
「もちろん、攻撃を避ける事前提よね? ……無くはないけど、落ちるよ?」
「それは平気」
鞭の届く射程に入る事ができれば、一撃で倒せる。そして、俺は落下ダメージが発生しない。
「じゃあ、説明するけど……斥力の発生する壁を生成するから、上手に飛び乗ってほしいの」
「そんなの簡単……じゃないな……」
思わず固まる。
一回で飛び上がる……それだと的になる事は想定していたけど……壁、幾つあるんだ?
空属性魔法は珍しく、使い手は少ない。故に一般的でもない。
空属性は、重力や引力、斥力を主に司り、戦闘中でなければ空間湾曲なんかも可能だとエスパフから聞いてはいた。……そう説明だけは聞いていた。
「実際に見るとやばくね?」
……いや、トモリルが空属性魔法を使うので知らない事は無い。でも、流石は妖精。規模が違っていた。
「行くんでしょ? いくら透明の壁とはいえ、わたし達に見えるものは相手にも見えているのよ?」
[攻撃してください]
「わかった」
……まぁ、ビビっていたわけで。
鞭を構え、覚悟を決めて壁に向かって跳ぶ。
乗った瞬間、弾かれるように次の壁に向かって跳び、更に弾かれる。……俺は『ピンボールの玉』か?
上下感覚が狂って目が回りそうな中、一瞬でアーリマンの上に弾き飛ばされた。
……逃げられる前に!
天地逆な体勢ではあったが、鞭を振る。……思ったよりヘッポコな勢いで伸びた鞭は脅威を感じなかったのかアーリマンは逃げる事もせず当たる。……だが、当たったところから崩壊が始まり、アーリマンの姿が数秒で消失してしまった。
……打撃というより、遅効性の分解?
[ユニット名:サクリウス=サイファリオの全ての情報を獲得しました。これよりリエルディラの最適化を開始いたします]
理解が追いつかないまま、リエルディラも消失してしまった。
後から知った話だけど、他のサイクロプスに関しては俺が交戦している事を知った仲間達が攻撃し、俺達だけの活躍とは思っていないが、結果として全滅させる事に成功した。……ただし、街を守り切ったとはお世辞にも言えないくらい破壊されていた。
屋敷は結果無事だったため、安全を確認した後に再び眠りに着いた。
[おはようございます。サクリさんにお客様が来ています。コテージに来てください]
翌朝、外の騒がしさを意識しつつもヒナミイシャと朝食を食べているとニチリカから連絡が入った。……客?
心当たりは無かったが、俺は朝食後にコテージへと向かった。
コテージに着くと早速来客相手を見て、間違いなく俺の客だと認識した。
チカリーナと見覚えのある2人。1人は池に突き落とされそうになっていた女の子。もう1人はサイクロプスとの戦闘で怪我により動けなくなっていた子だった。
3人とも俺の顔を見てホッとしたのが露骨に判った。
「お待たせしました。えっと……?」
「わたしは【戦士】のチカリーナ=アネット。彼女が【盗賊】のシオングリット=シュナイダー。そして、この子がサクターニア=ビビアンローズ。わたし達3人、仕事を辞めてきたのでチームに入れて貰えませんか?」
どうやら、3人はチカリーナをリーダーとする私設警備員のチームとして動いていたらしく、一緒に入れて欲しいとの事で……結局3人には返事を保留にさせて貰った。
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