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納品の為に応じたスピカレン議員の娘、ヒナミイシャ

 スピカレン議員の屋敷に向かいつつ、あの2人が追いかけて来なくて安堵していた。


 事情は知らないけれど、こちらの素性や事情を聞かれる前に退散したので「おあいこ」だと思う。聞かれて困る事はないが、俺が男故に難癖付けられたら面倒だ。


 ……まぁ、ただでさえ余計な事をしてしまったし、用心に越したことは無いよな。


 とりあえず、俺が助けたのは自己満足であり感謝されるためではないから。


「サクリさん、あーゆうのは危ないので辞めた方がいいですよ?」


「頭では解っているんだけどね……水場に突き落とされるのは可哀想だからさ……」


 ……そりゃ、注意されるよな。ただ、視界に入っちゃったのだから仕方ない。


「流石に憶えているとは思うけど、議員に目を付けられるのは良くないです。わたしが王女でも議会派は黙らせる事ができないです。そもそも、女王独裁に反対している人達なので」


 ……あの中年女性が議員とは思えないけど、繋がっている可能性までは判断できんからなぁ。


「大義名分としては、弱い女性達の代弁者だっけ?」


 ……さっきの様子を見ていると建前としか思えないけれど。


「そう。議員は財力や権力のある王族や豪商だったりするんだけど、庇護されるべき弱者と自覚している女性は少ないの」


「何故?」


「うーん。個人差はあると思うけれど、マウントとられて得しない状況であればとられ損って事なのかなって。例えば、男性相手ならマウントとらせてあげる事で色々利益があることもあるけれど、女性同士でそれはないからね……」


 彼女の言っている事を理解できなかったが、推測はできた。多分、男性からすればか弱い女性は庇護欲がそそられるのに対し、同性相手にそれは効果なし……むしろ同性故に下心を見透かされるって事かと。


「じゃあ、さっきのは?」


「単純なマウントだと思う。ほら、マウントとっていた方って年配の方だったでしょ?」


 これでは議員が頑張って自治権獲得しても目的は遂行できないんじゃないかな。




 西の区画に建つスピカレン議員の屋敷。屋敷を守る私設兵にミカルコアが声を掛けて屋敷の中に通して貰う。


 応接室で待っていると想像とは違う若い……俺達と歳の変わらぬ女性が入ってきた。


 ……おぅ、珍しい。


 身長は155センチオーバーで160未満。多分158くらい? 珍しい柳色の瞳と髪。髪の長さは判らないが、両耳の上で大きな団子状に纏めていた。


「初めまして。生憎母は留守にしていまして。代わりにわたしが承ります」


「【修復師】のミカルコア=チューンデッタです。『ティリーベルの懐中時計』の修理が完了しましたので納品に参りました」


「娘のヒナミイシャ=H=スピカレンです。話は母から聞いています。古代の技術も修繕できるなんて……凄い天職ですね」


「ありがとうございます」


 ……言われてみればそうだ。いくらスキルがあるとはいえ、そのスキルは知識と技術、道具があれば自力で可能なものでないと使えないと言われている。そして、彼女が直した物は日用雑貨ではなく、古代の遺物。そんな物の仕様なんて解りようが無いと思うんだよな。


「それに……そちらは冒険者の方ですよね? 男性も一緒で街を移動するのは大変ではありませんでしたか?」


「そうですね。でも事前に対策しておきましたので」


 俺が答えようとしたが、ミカルコアが答えたので口を噤む。


「王都を拠点にされている冒険者ですか?」


「いえ、国外から来ました。皆、出身地が違っていてナッツリブア大陸を巡る旅をしているんです」


 今度こそ俺が答えようと思ったが、リナイセムが先に答える。……故意か? 確かに俺は話さない方が安全か。


[サクリさん……どうしましょう? 彼女、ユニーク職っぽいんですけど……]


 ニチリカからの念話。マナー違反である「勝手に〈アナライズ〉」をしたのだと思うけど、俺と視覚共有をされて見たのは【呪符術士】の天職名。


「羨ましい……是非国外の話を聞かせてほしいです」


 ……それにしても珍しい人だな。普通、冒険者と聞けば距離を置きたがるものだけど……。


「わたしの天職、ユニーク職なので許されるなら冒険者になりたかったんですよ」


 ……おぅ、自分からユニーク職だと言ったわ……。




「あの、〈アナライズ〉失礼しますね」


 一言断りを入れて了承の下、サヤカレットが〈アナライズ〉をする。


「【呪符術士】……ですか?」


「大した天職ではないですが、それでもユニーク職。きっと冒険者として役立てると思うんですよね……」


 謙遜……実際、レア職よりユニーク職の方が強い。ただ、ユニーク職持ちから見れば、明確な欠点があるからね。


「ユニーク職って凄いですからね」


「確かに効果は凄いんですけど……わたしの天職は事前準備が大変なんですよ」


「準備?」


 興味津々なサヤカレットの質問にヒナミイシャさんは苦笑いを浮かべる。


「特殊な加工をした紙で作る札に特殊なインクで紋章を描く事で呪符を作っておく必要があるんですが、その呪符が……水に弱く、火に弱く、破れたら発動しないの……本当に不便で」


 ……なるほど。万能ではないけれど、かなり強い天職っぽいなぁ。


 要は呪符が壊されれば不発するだけで、壊れる条件を避ける手段は結構ある。


「特に呪符の事前準備が本当に……使うのが勿体なくなる……」


 彼女のその一言に気持ちが解り過ぎて思わず笑ってしまう。


「呪符を作る材料って、揃えるのは大変なんですか?」


「いえ。揃える事くらいなら街であれば簡単かと。でも、材料から呪符にする手間が大変で」


「そうなんですね~」


「皆さんの話も聞かせて頂けませんか? こういう機会は滅多に無いので」


 サヤカレットだけでなく、皆と話している今しかチャンスは無い。


[ニチュー、ヒナミイシャさんと念話がしたい。繋いでほしい]


[聞いてみますね]


 ニチリカの独断で相手とは繋がれない。会ったばかりの他人様なら尚更。




 待つこと数分。


[繋がりました]


 ニチリカからの短い一言。


[念話失礼します。ヒナミイシャさんはもしかして転生者ではありませんか?]


 単刀直入。念話で話しかけた理由も聞いた内容で察してくれるだろう。……万が一、自分が転生者だと知られる危険性を知らない可能性もあるけれど。


[転生者って何ですか? 詳しく教えて下さい]


 ……まぁ、警戒するよな。俺、男だし。


[前世の記憶、お持ちではありませんか? 成人して初の『天職進化の儀』で記憶を思い出しているはずなのですが]


[何故、そんな事をご存知なのですか?]


 ……質問に質問で返す。やっぱり警戒されているなぁ。


[それは、俺も転生者だから。他の転生者の経験も踏まえて、貴女も転生者だと思っています]


「あの、そちらの男性の方、お名前は?」


 変化。念話での会話を辞めて、直接俺に話しかけてきた。


「冒険者チーム“サクリウスファミリア”のリーダーでサクリウス=サイファリオです」


「ちょっと来て頂けますか?」


 そう言って、彼女は俺を強引に部屋の外へと連れ出す。


「確信があったのですね。確かにわたしは転生者です。貴方の前世の事教えて頂いても?」


「俺の事ですか? ……俺の前世は異世界の日本という国で知念朔理という名で……」


「え? 朔理お兄さん? わたし、花蓮だよ! 阿桜花蓮!」


 まさか、花蓮とこんなに早く出会えるとは思っていなかった。




 念話でニチリカに彼女が転生者だった事を伝え、少し待機してほしい旨を伝える。その間に俺はヒナミイシャに別の部屋へと通される。


 ……防音を気にするなら念話で良いと思うけれど……気持ちは理解できなくもない。


「本当に朔理お兄さんだよね?」


「うん。花蓮とも出会えて良かった」


 確認した瞬間、ヒナミイシャは抱き着いてきた。だが、彼女の様子が少し変だ。


「……とも? 他にも会ってる?」


「うん。みんな仲間として活動しているよ」


 彼女の腕に若干力が籠る。……気持ち痛いんだが?


「みんな、一緒なんだね……いいな……」


「なら、花蓮も一緒に来る?」


 さっき、花蓮自身も冒険者になりたかったと話していた。それなら、こちらとしては仲間に加わって欲しいし、そのために障害があるなら排除に協力を惜しむ気は無い。


「無理。ただでさえ王族で議員の娘という目立つ立場だから……姉様が家を継ぐのが決定しているけれど、姉様だけに負担を背負わせられないから」


「そっかぁ」


 ……この障害は排除できんな……。


「一緒に冒険者したかったな」


「……少し、返事を待って貰う事できる?」


 ……ん?


「わたしだって、みんなにも会いたい……冒険者になる夢も未練がある……ただ、即決は難しい……だから……」


「そういう事なら、俺達はもう少しアスパラオウムに滞在している。拠点はベタパイコーロスにあるから、滞在している間においでよ。少なくとも、みんなには会えるから」


「そうだね。……そろそろ戻ろう? 皆様をお待たせしすぎてしまいました」


 雰囲気が花蓮のモノからヒナミイシャに戻ると、応接室へと促された。

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