女性同士が常時マウントを取り合う街プラストーロス
アスパラオウム王国の南東に位置する独立自治区、女王の実験場とも揶揄される街プラストーロス。その街が遥か遠方に薄っすらと見え始めた。
「日没前には街に入れそうですね」
「そうですね」
ミカルコアに声を掛けられて肯定する。
「サクリさん、念のため確認しますけど、くれぐれも1人で歩き回らないで下さいね。少しくらいなら平気……なんてベタパイコーロスと違って、ありえないですからね?」
「……ハイ」
厳密にはベタパイコーロスでも何故か犯罪者を見るような目で見られる。子供連れとか、露骨に子供を背に隠されるしね。
ちなみに、女性と一緒に歩いている場合は武装していても何も警戒されないのだから、男の独り歩きが危険な町なのだろうと思っている。
……で、プラストーロスはそれ以上に厳しい場所なのだそうだ。
「やっぱ、俺は帰った方が……」
「それはダメぇ~!」
隣に座っていたアヤネルヴァが急にくっついてきて俺の腕に抱き着く。
「姫様の言う通りです。今来ているメンバーで決断できる力があるのはサクリさんだけですよ」
ミカルコアに諭される。
今回一緒に来ているのはミカルコア、俺、ニチリカ、カナエアリィ、アヤナンリッタ、アヤネルヴァ、モエロイーズ、リコットロン。あとはユミリアを除くレイアール出身者。計14名。ただの納品で行くには多人数だが、念のため。
道中で獣類に絡まれる事もあったけれど、アヤナンリッタの良い経験値稼ぎとなった。
「良いですか? サクリさんはわたしと、ずっと一緒に居て下さい。それだけで大丈夫です」
アヤネルヴァが言っている事にいまいち理解が追いつかなかった。
「えっと、アヤネルというより、女性の誰かと一緒に居ればって意味ですよね?」
「サクリさん、それが違うんですよ」
俺の問いに答えたのはリコットロン。
「あの街では男性が日中外を歩く事がないんです。ですから、姫様と一緒が安全なんです」
……いや、流石に……日中、街に男が居ないなんて事……ないよね?
プラストーロスに入ったのは15時過ぎで、想定より早かった。
街の第一印象は「デジャヴ?」だった。
少なくとも俺の知っていたプラストーロスとは別物で、綺麗に整えられた広い道、統一感のある白い建物。古い建物は存在せず、綺麗な街並み。話に聞いていた通り出歩いているのは女性のみ。男性は外から見える建物の中にすら1人も存在していなかった。
「ここって……」
「やっぱり見覚え有るよね?」
アヤナンリッタも俺と同じ感想を持ったようだ。
「プエルトリトスですよね?」
「俺も同じ事思った」
プエルトリトスとは、トゥーベント王国の港湾都市。そこは元々街ではあったのだけど、今のここのように全然違う街並みになってしまっていた。
……もしかしてプラストーロスも転生者の関与が?
「サクリさん! ……離れちゃダメですよ」
街に入る前だというのに、再びアヤネルヴァが腕に抱き着いてきた。
「おっ、おぅ……」
腕に抱き着かれるのは、長い冒険者生活でかなり慣れて平常心を保っていられていると自負しているけれど、アヤネルヴァだけは別格だった。男殺しと言っても過言では無く……。
「サクリさん……鼻の下伸びてますよ……」
「そりゃ、伸びるよ……誰であろうと美人に腕組まれているんだよ?」
健全な男であれば美人に腕を組まれれば意識してしまう。ましてや推しと密着しているのだ……余程変な臭いでもしない限り喜びが勝るというもの。
「うみゅ……サクリさん嬉しいんだ……じゃあ……」
そう言って、アヤナンリッタが反対側の腕に抱き着き始める。アヤナンリッタもアヤネルヴァに比べれば劣っているが、それでも同世代女性が見れば目立つ程に大きい……普段なら理性が負ける前に逃げるところだ。
「よかった。顔が赤くなった……あたしも美人判定だね!」
「揶揄うのは良くないって……」
事前に説明を聞いているが故にプラストーロスでは逃げる事もできない。「離せ」と言って微妙な空気になるのも避けたい……俺の命は彼女達が握っていると言っても過言ではないのだから。
街はすり鉢状で中央が低く外側が高い。そこは知っているプラストーロスと変わらないのだが、雰囲気は全然違う。
両側から引っ張られながら、街の中へと入って行った。
街の中はお洒落な店が並ぶ。料理を提供する店が多く、薬屋やアクセサリー、服屋なども多いのだが、男性向けの商品は全く扱われていなかった。……多分、男性モノは街の外へ買いに行くのだろうか?
でも、子供の姿を見る事から男性が街で暮らしている事だけは間違いない……と思う。
「ここから先は進めないみたいね」
街の中央へと至る道。その結構手前で進むのを止める。道には「ここから先、男性の立ち入りを禁ず」と書かれている。
……本来なら様子を探りに行くべきだけど……。
「先に他を回りましょう」
マナティルカの提案にサヤカレットも頷く。
……ちなみに街に入ってから最低限しか俺は言葉を発してはいない。それもアドバイスに従って。監視されているから不毛な絡まれ方をされぬように警戒するべきと。
「あそこ、ペガサス売ってますね」
「本当だ。あとで教えてあげようよ」
ミボットが値札の付いた厩舎を見つけ、リナイセムと共に厩舎に入っていく。
入口で店員の女性が笑顔で2人に声をかけていたが、俺達が入ろうとしたら嫌そうに俺を見る。だが、隣にいるアヤネルヴァを見て深々と頭を下げた。
……あぁ、そうか。王女様がいるから文句言われないって絡繰りか。
「あの、何故、街の中心は男性が入れないんですか?」
サヤカレットが尋ねる。
「それは、『シェルタルス教団』の土地だからよ。そんな事も知らないって事は国外から来たの? 『シェルタルス教団』はね、男性から酷い目にあった女性達の避難所なの」
「そうなんですね。でも、教団って言うくらいだから神様を信仰しているのよね?」
「いいえ。よく勘違いされるけれど、信仰しているのは神様じゃなくてティリーベル様よ」
……確かに信仰対象は神様とは限らないけれど……。
「元々小さな村だったらしいんだけど、『シェルタルス教団』の前身である女性保護施設の出身者が教祖となって人口が増えて町になり、女王と対立した王族女性が移り住んで街になったのよ」
その後も『シェルタルス教団』の話を詳しく聞くことになった俺は気分が悪くなった。
とりあえず、ペガサスはアイミトン本人に買いに来て貰う事にした。
いろいろ歩き回って出た結論としては、冒険者に解放されている広場と冒険者の店の従業員に男性が居たのを確認したくらいで、ほぼ男性を見かける事は無かった。
「男性は深夜に働いているそうですよ」
情報収集をしてきたリナイセムが報告に戻って来た。
俺はミカルコア、アヤネルヴァと3人で街を周り、他は情報収集のために散っていた。
「日中は何処にいるんだろ?」
「地下らしいです。街の住人男性のみが利用する地下通路があって、そこでコミュニケーションをとっているようです。そして完全に日が沈んだ後に男性は街の外へ出てくるという話です」
……どういう事だ?
「理由は聞いた?」
「聞いては見ましたが、答えて貰えませんでした」
「わたしも調べてきた」
最近鎧を着っぱなしのカエディステラも女性である事をアピールするために鎧を脱いでいた。
「『シェルタルス教団』について。わたしには理解できなかったけれど、教義は「男性は子供を作るための道具であり、それ以外では不要」と。あとは……」
女性にも序列があるらしい。最高位は金と権力をより多く持った者の事らしい。そして、女の子をより多く産んだ母親は更に上の序列。独身、男の子を産んだ母親の順でランク付けされており、原則年功序列らしい。
……つまり、金も権力も持っている娘のみを沢山産んだ高齢の母親が一番偉いって事か。
「自治にした結果、こんなに腐っちゃったんだよねぇ……」
アヤネルヴァが小さな声でボヤく。
……まぁ、主張が違うから派閥なんて出来ているわけだけど……。
あえて全員が触れなかったが、男の子しか産めなかった若くて貧しい母親が最低ランクという事になるのだが、その下に超えられない壁があって男性がいるんだよな。
「そろそろスピカレン議員の屋敷に向かっても良い?」
「あぁ、ゴメン。つい観光しちゃったね」
……本当は情報収集なのだが、観光は隠語のようなもの。
「屋敷は西の方ですので向かいましょう」
ミカルコアの案内の下、西へと進む。
「申し訳ございません。本当にその指示には従えません。ご自身でどうぞ!」
「まぁ、口答えするんじゃありません!」
途中、女性同士の言い合いを遠目に目撃した。
困っているのは多分俺達と同世代くらいの女の子2人組。一方、怒っている方は見た目が中年くらいの女性。多分、若い方は街の警備兵……もしくは冒険者?
「いや、しかしですね……」
「そんな難しい事を頼んでいないでしょ? 若い内に苦労はするものよ」
……まぁ、関わるだけ藪蛇というもの……。
素通りして向かおうと思った……思ったんだよ。
中年女性が若い子の1人を突き飛ばした。
「キャッ」
ただ突き飛ばされただけなら放置したかもしれないけれど、飛ばされた先が背の低いフェンス……その先は坂になっていて池があった。
フェンスにぶつかって頭から反対側に転がって……その時には身体が動いていた。
……〈テレポート〉。
咄嗟に動いて頭から落ちる寸前の彼女と一緒にいた若い女の子に触れる。
……〈テレポート〉。
連続使用の〈テレポート〉によって、2人の姿は中年女性の前から消えたように見えただろう。……多分ね。
「大丈夫? ……余計な世話だったらゴメンな」
体勢の悪かった方の彼女をちゃんと立たせてから、アヤネルヴァの元へ戻る。……自分でも無茶なことをした自覚はある。……感謝されなかったとしても後悔は無かった。
「離れてゴメン」
一言謝って、再びアヤネルヴァの隣に立ち、スピカレン議員の屋敷へ向かった。
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