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学院の私設警備兵隊長【戦士】チカリーナ=アネット

 ベタパイコーロスからプラストーロスへ向かう途中の野営中。


「落ち着いて。さぁ、あなたが賜った新たな天職は?」


 ……このタイミングで予知夢という事は、プラストーロスで会うのだろうか?


「意外……【戦士】でした。これは……村で自警団にでも入るしかないかなぁ?」


 しかし、彼女はプラストーロスにいるはずではないんだよな。


 164センチと高身長な2歳年上の童顔女性で、橙色の瞳に尻まで届く高い位置で結ばれたツインテールの茶髪。そしてカワボの持ち主で美少女なのだが、性格はかなり元気である。


 彼女の名はチカリーナ=アネット。とても育てやすく最終戦闘にも戦力として参加できる強ユニットだ。


 仲間になるタイミングがアスパラオウム王国なので、割と遅めに仲間へ加わる。その割に仲間に加える人は多い。それは手間要らずな上に装備も適当で問題なし。更に【軽戦士】から【駆戦士】へと天職進化する。少なくとも俺は天職進化に失敗したという話を聞いたことがない。……単純なユニットとしての強さで人気だったはず。


 ……ただ、彼女はプラストーロスには居なかった……はずなんだよなぁ。


 視界が暗転し、場面は王都の城内へと変わる。アニメーションではなくゲーム画面。多くの三頭身キャラが集まっている。特に説明はないけれど、彼女達は全員新成人だ。


「新成人の皆よ。おめでとう……あなたとあなた。それと……あなた……あとは……以上、選ばれた者はこの後残りなさい」


 女王はそう言い壇上を下がる。


「まぁ、そんな美味しい話があるわけ無いよねぇ……」


 チカリーナはボソッと呟く。


 派閥の事は知らなくとも、出世する手段くらいは国民であれば子供でも知っている。


 最初のチャンスは『天職進化の儀』。ここで【魔術士】や【修道士】を引ければ就職は余裕で、才能次第ではエリートとして裕福な生活が約束される。


 その次がコレ。成人した際に女性のみ集められるこの場で女王様に選ばれる事になれば女王様に容姿の美しさを認められ、王城で仕事を得ることができる。……これの問題は選定基準が女王の気分で決まってしまうという事。だから、この世界ではそんな言葉は無いけれど、どうしても『運ゲー』という言葉が浮かんでしまう。


 2つのチャンスを逃してしまったら、正直厳しい。家が王家、王族だったら問題ない。まぁ、そんなレアな血筋じゃなくとも家が商家で継ぐことが決まっていれば将来は心配ないだろう。


 どれにも当てはまらない場合は、天職次第……いや、NPCの成長速度を考えたらアスパラオウム王国では底辺確定だろう。……ただし、性別が女性であれば最底辺ではない。だが、納得できないなら、もう国外に脱出するしかないだろう。


 ちなみに、俺が彼女を仲間に加えていた理由は強いからではない。仲間に招かない場合は彼女が死んでしまうから、可愛いのに死んでしまうのが悲しいと思ったのがキッカケなんだよな。




 視界が暗転する。……例によって回想シーンだ。


 チカリーナの故郷は学院都市グラヴィアスパシオから比較的近い場所にある小さな村の出身。ただ、村の名前はゲーム内で出て来ないし、行く事もできなかった。


「わたしの家は母と父、兄との4人家族。家業は村人達の中でも多数派の農業。父は畑を管理しているが、母と兄は別の仕事をしている。母は村で教師をしていて、8歳年上の兄は成人したタイミングで冒険者となり、国外へ出ていく」


 チカリーナのナレーションが流れる。


 画面には父と母、兄が現れるがチカリーナ本人は登場しない。


「幼い頃のわたしは食が細い上に病弱で、とにかく身体が弱かった」


 ……とは言っているけれど、チカリーナは多分心配なかったと俺的には思っている。


 根拠は彼女の橙色の瞳。


 ナッツリブア大陸のほとんどが橙色か桜色の瞳色をしている。瞳色は本人の魔力を示すと言われていて、橙色は氣属性の色。氣属性の人の特徴は身体が丈夫で病気への耐性があるのだ。


 ……まぁ、それは現実での話だけどね。ゲーム内では氣属性という事以外判らん。


 画面が切り替わり建物の中。女の子がベッドで横になっていた。


「外へ出ると体調を崩しやすく、風邪などは直ぐに貰ってきてしまう程抵抗力もなく。だからこそ、体力も筋力も無く疲れやすい体質だった」


 彼女はベッドから起き上がると、窓から外を眺めたり、本を読んだり。部屋が明るくなったり暗くなったりを繰り返し時間が経過して。


 彼女は賢くなった。身体は弱いままだけれど、知識を蓄え才女と呼ばれるようになった。


「将来は【魔術士】かしら?」


「いやいや、【修道士】かもしれん」


 母、父が好き勝手に話す。


「ノーマル職かもしれないんだし……そんなにハードル上げられると成人するのが怖くなるよ」


 当時7歳のチカリーナだが、年齢の割にしっかりしていた。


「何言ってるんだよ。夢が大きい方が良いに決まってる」


 そんな兄は翌年に【戦士】を賜った。その瞬間、アスパラオウム王国では生活できないと考え、冒険者となって国外へ旅立った。……まぁ、兄もユニットなんだけどね。


「夢かぁ……わたしの夢は丈夫な身体になる事かなぁ」


 時間が経過して、チカリーナ10歳。彼女はベッドで横になっていた。


「コホッ、コホッ」


 咳をしているが、ゲーム上では何の病気か判らない。


「大丈夫?」


「はぁ……はぁ……」


 心配した母親が部屋に入ってきたが彼女は返事もできなかった。


 コンコン。


「はーい」


 母親が部屋から出て行き、戻ってきた時にはもう1人連れて来ていた。


「これは……」


 入ってきたのは女性で、彼女の様子を確認し、触診する。


「うん……これなら……奥様、この薬をお子さんに飲ませてあげて下さい。意識が回復したらで結構ですので」


 実はその薬が、チカリーナの運命を変えてしまう事をまだ誰も知らない。




 視界が暗転して、別のクエストのイベントアニメーションだ。


「お久しぶりです、先生」


「成人、おめでとう」


 場所はグラヴィアスパシオの学院内院長室。ただ、チカリーナは学院の生徒だった事は1度もない。そんな彼女が『先生』と呼ぶのは、6年前に薬をくれた相手だからだ。


「ありがとうございます」


「天職は?」


「……【戦士】でした」


「なるほど。別にあの薬には成長促進剤は入っていなかったのですが……」


 10歳までは平均より少し低いくらいの身長だった彼女だったが、3年後には既に160センチを超えていた。成長期と表現するにはえぐい成長速度だった。


「【戦士】を賜る程に丈夫な身体になったのですね」


「いやぁ、自分でもこんなに健康になるとは思いませんでしたよ」


 見た目は立派な大人なのだが、声は年齢より少し幼い。


「貴女はもしかしたら【学者】を賜ると思ったのですが……」


「やっぱり病気が治って、動き回ったのがダメだったのかもしれないですねぇ」


「落ち着き、無かったからね」


 そう言って『先生』はクスクス笑う。


「それで、【戦士】のチカちゃんは仕事をどうするの?」


「村で自警団しようかなって」


「自警団ね……ねぇ、チカちゃん。学院で働かない?」


「わたし、魔法使いでも【学者】でもないよ?」


「うん。私の警備兵にならない?」


 チカリーナは露骨に戸惑う。そんな様子を見て『先生』は楽しそうに微笑む。


「学院の警備?」


「いいえ。わたしの警備。言葉として使い方が間違っているのは承知しているけれど、警備兵という呼び名の方が都合良いのよ」


 ……護衛兵、用心棒とか言い回しはあると思うけれど、あえてそう言わないのは『先生』が「命を狙われている」と露骨に示さないため……と思われている。ただなぁ……俺的にはその解釈が若干間違っている気がしなくもない。


「なるほど、それで私設ですか……お給料良い?」


「自警団よりは出すわ。臨時でボーナスも弾む」


「じゃあ、決まり♪」


 ……こんな話の流れがあるから、本来彼女を仲間に加える為には学院で依頼を受ける必要があるんだよね。




 視界が暗転して、直ぐにアニメーションが始まる。


 チカリーナは邪竜王討伐後、アスパラオウム王国に帰って来ていた。厳密にはグラヴィアスパシオの『国立賢王学院』。ただし、建物は一部破壊されて戦った痕が残されていた。


「結構ボコボコだねぇ」


「でも、修理も直ぐですよ」


 呆れるチカリーナにモブキャラが返す。


 確か、『竜騎幻想』のシナリオでは学院派が勝利して女王が王座を降りて、女尊男卑の社会が魔法実力主義の男女平等に至ったはず。もちろん、【剣の乙女】の進行具合によっては女王が勝利するルートもあったと思うけれど、それは非正規ルート。素直にシナリオを進めなかった人向けだったはず。


 ちなみに、これはノーマルエンドのエンディングシーン。個人的にはこれでも充分なハッピーエンドに思えるけど、このエンディングだと『先生』が死んでいるんだよね。あと、チカリーナの母も何故か死んでいるんじゃなかったっけ?


 いや、死んだ理由が『先生』を助けに弟子だった母が駆け付けて2人とも女王派の兵士に倒されたという事情は知っているけれども。「物語的に死ぬ必要無くね?」とは思っている。


 ちなみにグッドエンドは、他のユニット同様に【剣の乙女】達と一緒に暮らすというもの。このルートだと明記されていないが母親は生きているはず。何故なら、『先生』との手紙をやり取りしている様子があるから。……まぁ、推測の域なんだけどね。


「結局魔法があっても壊れたものを修復できない。そう考えると、生活に必要な天職って魔法使い系では無くてノーマル職の方々だと思わない?」


「いやいや。学院を守れたのだって魔法のおかげですよ!」


 チカリーナの問いに別のモブキャラが否定する。しかし、彼女はモブの言い分を素直に受け入れる気は無いようで。


「魔法は凄いと思う。でも、万能じゃない」


「……」


 プレイヤーの時は「仕様次第じゃね?」とは思っていたけれど、今は違う。あのナンス様が苦労もせずに得られる万能な力を使わせるわけがないんだよな。


 ちなみにバッドエンドはノーマルエンドより早いタイミングで帰って来て、まだ内紛中に女王派の兵士に不意打ちで倒されてしまうというもの。……正直言って理不尽極まりない。


 ……つまり、バッドエンドと仲間にしない場合に限ってチカリーナは死亡してしまうわけで、これが彼女を絶対仲間にする俺の理由である。




 目が覚めた。見張りを代わり焚火を見つめる。アスパラオウム王国の朝は寒い。日中の最高気温と夜間の最低気温の温度差がえぐい。


 ……これも多分、砂漠が近いからだ。砂漠に入ったら、ここより酷いかもしれない。


 エスパフも股間からは出てきたが、一言漏らした後に服の中へ入って出て来ない。


 本当に小さいなら多少は我慢できるものの、彼女は全長40センチある。正直、服の盛り上がりで居場所が誰でも特定できそうだ。


「どうせ眠らないなら見張りを手伝ってくれ」


「オッケー」


 エスパフにも見張りを強要しつつ、チカリーナの事を考える。


 チカリーナは自動と言っても良いくらいに【軽戦士】へ進化する。そして【軽戦士】らしくガンガン戦わせていると【駆戦士】まで進化するユニットだ。


 【駆戦士】はブレードグリーブという機工装備を得て、全ユニット中最高移動距離を得る攪乱系ユニット。ブレードグリーブなんて呼んでいるけれど、要はローラーブレードだ。違いがあるとすればブレードグリーブは魔道具でもあり、魔石で動くエンジンのようなモノを積んでいる。消耗品で魔石をマメに交換する必要がある。


 ……何故知っているか?


 実物を見たことがあるから。……もちろん、『竜騎幻想』にはそんな仕様はない。


 現実はともかく、チカリーナは進化条件と適性が合っていて初心者でも育てやすい。弱点があるとしたら火力が低い事くらいだけど、そこは装備で補う事もできる。


 ……そう、『竜騎幻想』ならば。


 ただ、この夢を見た以上仲間に加わる可能性が高いけれど、現実故に発生する問題もある。


 一番大きいのはブレードグリーブの入手問題だ。先の話にはなるけれど、ブレードグリーブは店に売ってないんだよな。


 ちなみに『竜騎幻想』では、天職進化するとブレードグリーブは自動的に入手されている。だから、ゲーム内の店にもブレードグリーブが並ぶ事は無い。


 これまで装備されていた足装備は解除され、足はブレードグリーブが自動的に装備され外す事が出来なくなる。


 ちなみに、現実では流石に脱ぐことはできるけれど入手に困る。


 正規ルートは【機工師】にオーダーメイドで作って貰う。イクミコットに頼みたいところだが、現状はカエディステラの機工鎧を作っている。……進化する前から俺の指示で作って貰っているんだけど……これまでのパターンから彼女も進化すると思うんだよな……。


 ……そうなると、チカリーナのブレードグリーブはその後という事になる。


 彼女を誘ってしまえば、アスパラオウム王国で放置したら死ぬ推しユニットは居なくなる。


 絶対にチカリーナは仲間に引き入れると心に誓った。

読んで頂きありがとうございました。

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何卒よろしくお願いします。

尚、5日間連続投稿3日目+本日中にあと3回投稿します!

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