改革派に発生した問題とアヤナンリッタのチーム入り
あとは納品するだけ。だからこそ、直ぐにプラストーロスへ向かうかもしれないとは考えていた。しかし、俺達の依頼主であるミカルコアの選択は1日だけ休むというものだった。
「おっはよ~、サクリさん」
「おはようございます、アヤネルヴァさん」
オートマタ達が『リエルディラ』を見ていてくれたおかげで久しぶりに熟睡できた俺は甲板に出る途中でアヤネルヴァと会った。
「あれ?」
「どうかしました?」
何故かご不満そうなアヤネルヴァに理由を尋ねる。
「チームでの呼称は本名そのままで呼び合う事を避けているって聞いたので……」
「いや、直ぐに切り替えできないですよ。……でも、許されるのであればサユリシアさんが呼んでいたように「アヤネル」と呼びたいですね」
「いいですよ」
……良いんだ?
「国を出てからでなくとも大丈夫?」
「公の場でなければ平気ですよ」
……そういうもんか。違う気がするけども……。
「了解。ところで……雰囲気が本来のアヤネルっぽいんだけど、大丈夫?」
「大丈夫ですよ。ここに裏切り者は居ないでしょうから」
「……あぁ、そういう……」
つまるところ、彼女の『アホの子』は裏切り者に警戒されないよう演じた姿というわけだ。
「そういえば、サクリさんはプラストーロスに行った事は?」
「いや、初だけど……」
そう答えながら甲板に出て朝食を受け取り席に着く。
「プラストーロスの男性差別はここやオムパイタツィーより酷いから……特に独身男性への風当たりはかなり強いの」
「……俺は留守番の方がいいか?」
「大丈夫。それなりに有効な回避手段があるから。それで詳しい話を共有したいのだけど」
アヤネルヴァの提案により、食後に主要メンバーが集まって話す事が決まった。
地下3階会議室。食後に集まりアヤネルヴァからの話を聞くことになった。
メンバーはアヤネルヴァとミカルコア、モエロイーズとリコットロンと俺、クレアカリン、マオルクス、サキマイール、ヒカルピナ、ナオリン、シャワール、サチカーラ、コトリスティナの計13名。サブリーダーのクレアカリンはともかく、転生者メンバーもしょっちゅう集まっているから主要メンバーという事になっていたようだ。……知らなかったのは俺だけ。
「プラストーロスは議会派が支配している女王公認の独立自治区なの」
「知らない言葉が幾つかあるね。まずは意味が想像できる独立自治区について教えて」
相手は一国の姫様なのに無遠慮に話すクレアカリン。よくよく考えてみたら姫様相手も慣れたもので、冒険者になりたいというような酔狂な姫様は礼儀くらいでグダグダ言わないと悟ったのかもしれない。……公の場でなければ問題無いし、彼女の方がそういうのはしっかりしている。
「独立自治区は、アスパラオウム王国内で自治をしている街です。国から税金を免除されているし、独自に国外と取引をしても口出ししない。ただし、貧困や防衛なども手を貸さない。例外が国外からの侵略。自治は認めていますが国を分割する気はないので「国政に口出すなら自分達でやって見本を見せろ」という話なのですよ」
……なるほど。「出来ない事は言うな」と副音声で言っている訳ね。
「独立自治区は判った。じゃあ、議会派というのは?」
……議会。確かにナッツリブア大陸では聞き慣れない単語だ。
「女王に異を唱えた王族の一部と豪商が中心となって作った派閥ですね。彼女達は「我々の社会には女性だけがいれば良い。女性はほぼ完全個体であり、生きる上で男性は足手纏いで搾取対象でしかない……という考えの派閥です」
……うわぁ、関わりたくない……。
「ちなみに女王派は「女の価値は従える事のできる男の数できまる」という考えの派閥で、一妻多夫制を推奨しているの。心身のどちらかでも不細工な女に価値は無く、男は女へ尽くすために存在しているという考えの派閥」
……うーん……理解できん……。
「学院派は「男女は平等であり、あるのは魔法使いか否かだけ」という魔法能力至上主義の派閥です。性別の差なんて問題では無く、重要なのは魔法使いかどうかという感じです」
……それは職業差別なんじゃ?
「わたし達改革派は既に聞いているかもしれませんが、「男女は平等ではなく対等で、もちろん魔法使いか否かも問題なく、男女は不完全故に共依存が好ましい」という考え方です。自立は素晴らしいですが、お互いがお互いを必要とする関係の方が幸せだとわたしは思うの」
……それも全面的に賛成とは言えないが……他3つに比べれば俺は理解できるかな。
ちなみに改革派だけは異種族に対しても共存推奨で、他3つは家畜相応と考えているらしい。
「話を戻すね。そんな訳でプラストーロスは男性差別が酷く、男性が単身で出歩ける街ではないんです。その対処方法として、原則サクリさんは1人で歩かない。目立たない。一緒に歩く女性がサクリさんの所有権をアピールしていれば物珍しい目で見られる可能性はあっても絡まれる心配はありません」
「具体的には?」
「腕を組む、荷物を持たせる、サクリさんに首輪をして貰い紐で繋ぐ……ですかね?」
……俺は犬かい!
「あとは……街の中央は女性限定エリアで男性は立ち入り禁止になっています。サクリさんは間違えても近づかないで下さい」
「わかった」
……ますます行きたくない。
「話変わるけれど、アヤネルヴァさんからの協力要請って、具体的な事を教えてくれない?」
クレアカリンの問いに彼女は一瞬キョトンとしていたが、直ぐに元に戻る。
「えーっと……わたしがサクリさんに依頼した内容ですか?」
クレアカリンが頷く。
「実は革命派にスパイがいるのです。我々の拠点である地下街の場所をリークされてしまいまして、近々取り締まられます。問題は誰がスパイなのか割り出し中で判らないという事」
「そうなんですか?」
驚くミカルコアにアヤネルヴァは頷く。
「あの地下街は違法だからね……取り締まられるのは仕方ないけれど、厄介なのはスパイが潜伏している事と亜人種の皆さんの安全な居住区域が無くなる事なの」
「何か考えがあるんですか?」
……あれ? そういえばミカルコアはこっちの姫様の事を知っているのか。
「スパイの割り出し……と言いたいところだけど、それは多分難しい。だから、絶対味方だと確信できる人物だけでも脱出させたいの」
「スパイ疑惑を払拭できない人物は?」
「自力で逃げて貰うしかないね……申し訳ないけど……」
……当然そうなるわな。改革派の人数は少数とは言われていても、1人ずつ調べるには当然多すぎる。魔法で調べたとしても万能ではないから抜け穴があって誤魔化せるのだから。
何となく、モエロイーズとリコットロンの表情を見る。当然知っていると思っていたけれど、彼女達の表情はそれを否定していた。
ちなみに2人を会議に参加させたのはアヤネルヴァだ。……何となく彼女の思惑が透けて見える。
「もしかして、お2人は知らなかった?」
気付いたのは俺だけじゃなくて、ナオリンが2人に尋ねた。
「全然……」
「派閥の事は知っていましたが……」
「でしょうね」
2人のリアクションはアヤネルヴァの想定内だったようだ。
「2人は城内勤務で新人だから情報も入ってこないの。関心があれば城外で話を聞くこともあるでしょうけど……普通に生活していたら話に出る事はないからね」
「なるほど」
ナオリンは感心しているが、俺は2人がアヤネルヴァの雰囲気や話し方に驚いているのではないかと思ってしまう。
「……つまり、改革派を無条件に助けるわけでなく、アヤネルヴァさんがスパイでは無いと確信した人のみを逃がす……という事で良いですか?」
クレアカリンの問いにアヤネルヴァは頷く。
「そういう事なら……確認ですが、あたし達はスパイかどうかの裏取りをしなくて良いって事で良いんですよね?」
「大丈夫です」
クレアカリンが俺をジッと見る。……アイコンタクトなのは察している。
「じゃあ、問題なしかな。協力内容も確認したし、アヤネルもマメに報告お願いね」
「はい……それと2人とも、事情を聞いた以上は協力して貰うからね?」
有無を言わせぬ迫力に2人は頷くしかなかった。
会議が終わった時点で午前中が潰れてしまった。甲板には客が沢山いて俺達の食事までは時間が掛かりそうで、半端な時間をどうしようかと思っていた。
「サクリさん!」
甲板とは逆の背後から声を掛けてきたアヤナンリッタに少し驚いた。普段から役割として手伝っているため、彼女は甲板にいると思い込んでいたから。
「どうしたの?」
「実はさっきまで『天職進化の儀』を受けてきたんです」
「おっ、成人おめでと!」
「ありがとうございます」
……そっか、アヤナンリッタも16歳か。
「天職は?」
「【風水士】です。ご指導宜しくお願いします」
「えーっと、その前に。今後はどうするの? 冒険者するの?」
「はい。仲間に入れて欲しいです」
「わかった」
……アヤナンリッタには一応尋ねはしたけれど、そういうだろうと思っていた。両親は上級奴隷で自身も操られていたくらいだし……自覚している今、家族を取り戻すためには冒険者として力を手に入れる必要がある事は予想できていた。
昼食後にはアヤネルヴァ達も連れて登録へ向かって……受付で軽く男性差別を経験した。
……ゴールド級冒険者の肩書は伊達じゃないな。受付の掌ドリルはとても見事だった。
ナッツリブア冒険者支援組合から戻ってきた。彼女の真新しい装備を見ていて思いついた。
「なぁ、アヤナンリッタ……いや、アヤチ。初仕事行ってみる? プラストーロスまでの納品だけど」
「行きたいです!」
「わかった」
どちらにせよ、死なないレベルになるまでは手厚い援護で経験値を稼いで貰わないと。
「後は、3人も同行させないとな……いきなり魔人族でも出てきた日には死にかねないし、今の内に強くなって貰わないと……」
翌日には『ティリーベルの懐中時計』を納品するため、プラストーロスへ向けて出発した。
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