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アスパラオウム王国への旅路は初の陸路による国境越えを目指す

 街道を歩いている時は気にならなかった。でも、キャリッジの中で黙っていると意識しなくとも大きな揺れと振動を感じる。


 とはいえ、馬車に乗ったのは初めての事ではない。それこそ、『邪竜討伐軍』に入る前から荷台に乗っていたし、国内を移動するのにも馬車は生活必需品。


 国によって多少の差異はあるけれど、街道の整備具合なんて変わりないし、この道が特別凹凸のある状態の悪い道なわけでもない。


 ……きっと、疲れているから。


 船旅とは違う憂鬱な旅路。それは思っていたモノとは全く違う状況で。


「国境はまだまだ先だよね?」


「そうですね。馬を休める手間を考えると、まだまだ掛かりそうです」


 オイファルに尋ねると、簡潔に答えてくれた。しかし、その口調の重さを感じ取り、もしかしたら彼女も憂鬱なのかもしれない。……確認はしない。知ったからと言って何もできない。何より、わたし自身に気持ちの余裕がない。


 工業都市ノクスドゥンケルを出発して3日目。わたし達はそのまま国境を目指して北上している。


 街道沿いには小さな漁村があるだけで宿屋がありそうな集落は無い。特にこのクリスタークは物騒で、強盗団の類に何度襲われたか判らない。そんな物騒なところに宿屋なんて運営されているわけもなかった。


 キャリッジの中はわたしとオイファルの2人。大きなキャリッジなので、男性でもあと6人は乗れる。しかし、誰も希望しなかった。……予想はしていたけれど。


 今回も男性が仲間に加わって、戦力が増強された。


 特に今回加わってくれた仲間で嬉しかったのは、クリスターク王国王子の1人【双剣士】ツグノスと彼の親友の【剣士】ノッブキールね。


 2人とも1つだけ性格的難点はあるけれど、容姿は美形で親友という事もあり仲睦まじく、見ていて元気になれる。ご飯も美味しく頂けるというもの。


 本当に良い男の子を仲間にできた。……オイファルの仕事は素晴らしい!


「ムッチ様、お考えが顔に出ておりますよ?」


「えっ?」


 慌てて顔を手で覆う。……って、ここは2人きり。別にこちらを覗いている者も居ない。


「……って、脅かさないでよ。別にオイちゃんには見られても良いよ」


「油断しませんように。ここは海上ではないので、安全ではありませんよ?」


 ……海上も安全じゃなかったけれどね!


「それで、何をお考えだったのですか?」


「いやぁ、見目麗しい男子を2人ゲットできて、ホクホクだなぁって」


「その言葉、うっかり誰かに聞かれないよう注意してくださいよ? 他の方が気分を悪くしますからね?」


「は~い」


 ……そんなヘマはしない。わたしの腐歴は伊達じゃない!


「でも、あと数日ですね」


「そうだね」


 ……おや、頑張ってテンションを上げていたのに心を折っていく感じですか?


 今回のクリスタークでの旅はお世辞にも楽しかったと言えるものではなかった。……だって、仲間が増えた事以外で良かった事など無かったから。


「クリスタークではかなり鍛えられました」


「そうね。わたしももう直ぐレベルクラウンになりそう」


 今回はかなり成長できた。もう、何処を通っても襲われる。しかも、強い。今回で気付いたのが、野獣や魔獣に比べたら妖魔の方が強いけど、人の方がもっと強いという事だった。




 思えば、これまでが配慮されすぎて楽だったのかもしれない。そう自覚する機会をくれた事には感謝するけれど、代償として支払った心の負荷は思った以上に大きく、たまに夢でうなされる自信はあるかなぁ。


 でも、最初は自分が配慮されていたとは思っていなかったんだよね。だって、【剣の乙女】よ? ユニーク職よ? この世界の主人公だし! 世の中には『ご都合主義』という理が存在するものだと本気で思っていた。


 そうではなかった事をクリスターク国内に入った瞬間悟った。


 ……。


「高いわ。こんな馬車、半額が相場でしょう?」


「嫌なら買わなくて結構。帰りな」


 ボートで移動した結果、辿り着いたのは商業都市スカーノワール。人力で漕いだため、海流に少し流されたみたい。


 商業都市というくらいだから馬車を直ぐに購入して王都を目指せると思っていた。しかし、現実は甘くなかった。


 最初に高額を吹っ掛けられたのを皮切りに何処も高額販売な事に気付いた。相場より倍以上高い状況に戸惑っていた。


「……どうなってるの?」


 ……オイファルも困惑していたっけ。


 でも、馬車だけじゃなかった。宿代も食事代も全部倍以上。クリスタークは物価高騰しているって事? ……だとしたら、何が原因で?


 全く情報が無いので判断もできず、可能な限りの仲間と合流し、王都アフタンダークまで徒歩移動する事になった……でも、それが困難の始まり。


 王都へ向かう前に全員が合流し、アフタンダーク目指して歩いて移動する。……もちろん、乗合馬車は存在したけれど、全員が乗れない以上はそれこそ時代劇で見るような大名行列のように並んで歩くしかない。


 他の国であれば、徒歩とはいえ1アライアンス以上の集団で移動しているのだから襲撃される心配は無い。……ううん、無かった。


 結局、王都アフタンダークに着くまでに夜だけでなく日中も襲撃されて、何回襲撃されたか判らない程戦闘を行い、辿り着いた頃には気が休まらずに疲弊していた。


「……何あれ?」


「……何でしょう?」


 珍しい事にオイファルも把握していなかった。


「ん~……パレード?」


 ……答えはたまたま合っていた。


 街はお祭り状態ではあったんだけど、それらは『竜滅隊』の出発式だった。ただ、当時のわたし達はその情報を知らず……パレードの邪魔にならぬように城を目指して移動する。


 タイミングが悪かったのか、実はこれが原因で宿にも困る状況だった。だから、折角街にきても携帯用コテージでの生活に変わりなく、みんなもテントで生活する期間があったの。


 国王との謁見は事前に予測はしていたけれど、翌日にされてしまう。多分、それでも今思うと配慮してくれたんだとは思う。


 正式な謁見は不可能で、国王ではなく宰相と話す事になったんだけど……彼は似て非なる趣味の持ち主だったのよね。


「ようこそ。見ての通り公式の場ではない。楽にしてほしい」


 ……最初は格好良く見えたのよね……。


 最初は可愛らしいメイドを2人連れて上座に座り、わたしとオイファルも下座の席に座る。


「そして、国王の代理として謝罪する。国王は現在体調が優れない為お休みになっている。元々病気のため体力が落ちているのだが、昨日で無理をした為に今日は1日安静するように……というのが主治医の判断だ。そういう訳で私が全権を委ねられている。改めて話を聞こう」


「それでは遠慮なく。わたしは『邪竜討伐軍』専属【秘書官】のオイファルです。そして、隣におられる方が【剣の乙女】ムッチミラ様です」


 ムッチミラに紹介されて軽く頭を下げる。


「それで、御用件は?」


「わたし達は多国籍で構成された『邪竜討伐軍』。クリスタークにも邪竜王を討伐するために協力をお願いしたい」


「……それは難しいですね。先日のパレードは我々独自で編成した『竜滅隊』のお披露目式。既に討伐に向けて出発済み。傘下に下るなら話は別ですが……違いますよね?」


 せめて船の購入を手伝って欲しいと伝えるがそれも却下されてしまった。




 クリスタークからの支援を得られない事が確定し、王都アフタンダークから工業都市ノクスドゥンケルに移動した。目的は販売店で馬車を購入できないなら、製造元から直接購入するという考えで。


 不運中の幸運で、声を掛けてくれたツグノス王子とノッブギールのおかげでクリスタークの最新国内事情を知る事ができたの。


「今、クリスタークは王家の力を国内に喧伝する目的で『竜滅隊』の支援に集中しているんだ。だから、国としては同じ目的の『邪竜討伐軍』が目立つのは都合が悪い。ただ、何もしなくとも『邪竜討伐軍』の存在は知られてしまう。だから、差を付ける必要があったんだ」


 馬車の隣を歩くツグノス王子が説明する。


 ツグノス王子がわたしに声を掛けて来た理由はハルチェルカ=セレニティと再会するためだった。


 彼には「セレニティさんは遺跡での戦闘において戦死した」と伝えた。……本当の事は言えない。彼の話では彼女と婚約する事が決まっていたのだと言うのだから。


 王子が仲間に加わってくれたのも彼女の代わりに『邪竜討伐軍』を支えると決意してくれたから。


 内心良心を痛める中、ツグノス王子とノッブギールのおかげで彼等の知るキャリッジの製造も請け負ってくれる木工師の工房に口を利いて貰い、大型のキャリッジと幌付きの荷台の製造を正規の値段で請け負って貰えた。ただ、1から作るという……だから、用意するまでに日数が掛かると言われて、暫くノクスドゥンケルに滞在する事になったんだけど……まさか、こんな事になるなんて思っていなかった。


「金髪金眼……間違えないな。おいっ、そこの女達。有り金全部渡して貰おうか」


 最初はわたし達2人が食料を買い漁っている時だった。ガラの悪い男達6名が取り囲む。


「嫌です。痛い目を見たくなければ帰りなさい。今ならまだ見逃すわ」


 そう話しながら香木剣“ミストルテイン”を取り出し左手に持つ。


「木剣? 嬢ちゃん、それで何をする気だ?」


「安心して。もう1本あるから」


 そう言って、氷刃剣“アルマス”を右手に持った。


「二刀流? ガキの格好付けか?」


 この組み合わせには意味がある。一緒にいたオイファルは何をするのか察したのか口元を布で覆った。


「さぁ、どうぞ。わたしを倒せたら、所持しているお金は差し上げるわ」


 そう言うと男達はニヤリと笑い襲い掛かってきた。


 ……あれから5分くらい経過したかな。全員が倒れて動けなくなっていた。


「な、何故……」


 男が気分悪そうにしている。ちなみに、こちらは一撃も当てていない。ただ、彼等の周りで攻撃を避けつつ動き回っていただけ。


「薬を吸い込んで思考力と集中力を奪い、凍気で身体の自由を奪ったわ。とはいって、思考が麻痺していて寒さも感じないでしょう?」


 ……屋内であればもっと早く決着がつけられたのだけど、屋外でやるには手間過ぎて二度とやらないと心に決めていた。


「お客さん、悪いけれどコイツ等連れて帰ってくれないか? 商売の邪魔すぎる」


「……ごめんなさい」


 よく見ると商品も男達がやった事には間違いないが散乱してしまっていた。


 そそくさと剣を収納し、商品を片付けて、男達を縛って衛兵に突き出す。


「最悪……」


「そうですね」


 結局、客として歓迎されなくなってしまったわたし達は、馬車が完成してすぐ出発した。




 移動中も町や村に滞在している間も安全だった事は無かった。


 軽傷は治癒魔法で治る。でも回復魔法でも重傷を治すには、それなりの力量を必要とされる。


 海上での戦いで鍛えられたつもりだったけれど、思い知らされた。


 遺跡『闇霊王の古祠』に挑む頃には重傷レベルの怪我人が1人や2人では無くなっていた。


「オイちゃんは留守を任せるね。重症の人達の世話をお願い」


 わたしの目算では【機戦士】のアーキオルクや【竜騎士】カズピンさんが無傷だったし、主戦力のメンバーは全員無事だった。


「済みません。ボクが【神官】だったら皆さんの傷も完治できるのに……」


「ううん。気にしないで」


 ……最近気づいた。【修道士】を戦わせない以上、神聖魔法を使用しないと彼等は成長できない。それなのに、強い人達に任せてしまっているので回復魔法を使うタイミングすら無かった。それなら成長しなくて当然なのよ。


 逆を言えば、今までそんな事を考える必要がないくらいに旅が順調だったという事。


 遺跡『闇霊王の古祠』の中は暗く、強いアンテグラ族が徘徊していてじり貧ながらも最下層へ到達した。……正直、死ぬかと思った。


 下へ向かう程暗くなり、魔法の灯り類も無効の遺跡で苦労した。


 最下層に辿り着いた頃には既にMPはほぼ無い状態で、残HPも全員25%を切っていた。


 妖精プルームに誘導されて闇属性の上位精霊クラウディと対面。塩対応なのはいつもの事なんだけど……今回は変な事を聞かれた。


「ねぇ、【剣の乙女】。貴女は何のためにわたし達に会いに来てるの?」


 ……試されている?


「もちろん、復活した邪竜王を討伐するためです」


「では、邪竜王を討伐すれば平和は訪れる?」


 ……やっぱり試されている。


「いいえ。でも、邪竜王を討伐すれば人類の人口が大幅に減るような災害には遭わないです」


 争いは人同士でも起こる。妖魔や魔獣などの敵も生き続ける。竜人族だけが敵ではないから平和にはならないけれど……対抗できない程の脅威では無くなるはず。


「なるほど、つまり貴女の役目は邪竜王を討伐することだけって事ですね?」


「だけ……というのが引っかかりますけど、それだけは代わりの居ないわたしだけの役目だと思っています」


 ……。


「そういえば、ムッチ様」


 呼ばれて意識が現実へと引き戻された。


「えっ、何?」


「新しい剣……侵夜剣“ナイトフォール”ですっけ? どんな性能なんですか?」


「ん~と、主に効果は2つ。ダメージを与えた相手に対して明るさを奪う効果。厳密には夜を付与する効果らしいけれど」


「夜?」


「そう。2つの目の効果は夜の間はわたしの姿を認識できなくする能力ね」


 そう、この剣はダメージを与える事ができれば、どの程度かは判らないけれど、わたしの位置を認識できなくなる能力らしい。




「……周囲が暗くなる……そんな能力を期待したんですけどね……」


「それこそ、魔法で暗くして貰えば……」


 くだらない話をしていると、遥か遠くに大きな川が見えてきた。……国境だ。


「話変わるけれど……アスパラオウム王国ってどんな所?」


 初めて国名を聞いた時、「アスパラ」と「鸚鵡」が特産の国だと思った事は内緒。


「一言で言うなら、魔法至上主義の女系王国ですね」


「女系?」


「そうですよ。あの国はずっと女王が治めています」


「ふーん」


 わたしは女性が偉い国とは何故か相性が悪いような気がしている。


「王家の人で王子様は?」


「いないですね。王女様が3人いるだけです」


 ……一気に関心が減っていく。


「ムッチ様、露骨に表情が凹んでいますよ? 気を付けて下さい」


「……うん」


「話、戻しますよ? ……簡潔に言うとアスパラオウム王国は女尊男卑の国です。ですので、女性というだけで国から優遇されます。一妻多夫制の国ですので、1人の妻を大勢の夫が支えています。優秀な女性は美形の男性を執事という名目で飼って専属の男娼扱いをしている方もいますし、体格が良くて筋肉質な男性はボディガードという名目で専属の男娼扱いをしている方もいらっしゃいます」


 ……趣味が悪い。男は男同士で絡むから美しいのに。


「そして、どちらでもない男性は危険で汚い、女性がしたくない仕事に回されているという噂ですが、真偽はわかりません。ただ、優れていれば男性が尽くしてくれると言われています」


「いや、わたしは遠慮したいなぁ……」


 わたしは干渉せずに遠くから微笑ましく見ていたいだけなのよ。


 この国の宰相も未成年男児を女装させて侍らしていたけれど、心まで女性にさせたら台無しだし、これから行く国も折角の美形男子を従わせようとするし……どうして、男性を男性として愛でる方法を知らない奴ばかりなのか……。


「わたしもです。でも、問題がありまして……アスパラオウム王国では男性の仲間を勧誘するのは難しいかもしれません」


 オイファルのその一言が一番わたしをガッカリさせた。




「どうしてよ?」


「アスパラオウム王国の男性には需要の方向が決まっていまして。まず美形の男性ですね。無能でも美形なら価値を見出してくれる……それがアスパラオウム王国という国だそうです。その次が魔法を使える天職を賜った男性。その次が戦闘系レア職を賜った男性ですね。……そのどれかに当てはまる男性は既に誰かが所有している状況です」


「つまり、誘って付いて来る男性は無能しか存在しない?」


「……言葉を選ばなければ、そんな感じです」


 とても理解した。男性は人ではなくて所有物扱い。女性が所有権を放棄しない限りは誰も誘えない。……いや、待って。


「ねぇ、10~20代男性は無理でも30~40代の男性なら……」


 ……ワンチャンあるかも?


「ムッチ様。……大変申し上げ難いのですが、世の中にはそのくらいの男性が好みの女性も多いのです」


 ……そっかぁ。そういうのは元の世界だけじゃないのか……。


 新しい国に対して膨らませていた期待が萎んでいくのを感じながら、国境超えを目指した。

大変お待たせしました! そして、読んで頂きありがとうございました。

下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いいたします!


もし続きが気になって頂けたなら、ブックマークして頂けると筆者の励みになります!


52人目の読者様を確認できました。ブックマークありがとうございます!

また、☆の応援も本当にありがとうございます。最後までお付き合いして頂けたら幸いです。

また、☆満点の応援も本当にありがとうございます。「面白い」を共有できることがとても嬉しいです!

今後も続読して下さる方がいるということを励みに頑張ります!!


2025年12月11日に [日間]異世界転生/転移〔ファンタジー〕で256 位にランクインしました!

初ランクイン通知にこっそり1人で歓喜の小躍りをしたのは内緒の話(笑。

本当にありがとうございました!


今月は明日から5日間にかけて前回同様に1日5回、10万文字超のボリュームを投稿します。

楽しんで頂ければ幸いです。


何卒よろしくお願いします。

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