視界不明瞭で光源を使えない遺跡『闇霊王の古祠』
早朝から馬車3台でポーンブラを出発した。
結構な距離を移動するので1週間くらいの日程と考えて移動している。いや、天候や襲撃、道程による想定の誤差などでオーバーする可能性は普通にあるとは思っている。
……だからこそ、食料は多めに用意している。
今回は急ぎではないからこそ、馬の体調を気にしつつ、使い潰さないように気を付けて移動をしていた。
「メグチ、一緒に食事を食べよう」
「はい! ……あのぉ、その呼び方……」
「あ~、嫌だった? よくネーミングセンスについて苦情はくるんだけど、なるべくチームメンバーは呼称というか通り名というか、本名で呼ばない癖を付けているんだ」
「いや、それは判るんですけど……いえ、慣れますから大丈夫です」
みんなから不評ではあるが、本人に行きついて尾行された事は無い。幸い、似た名前や同じ名前なんていっぱいあるから、本人が呼ばれた自覚さえあれば呼び方は何でも良い。
俺がそんな事を考えているとは思わないだろうなとも思いつつ、一緒に昼食を食べる。
……はっ! そういう事を言いたいんじゃなくて、馴れ馴れしいと思われたとか?!
「メグチが探している人って、どんな人か聞いても良い?」
若干不安を覚えつつ話をふってみる。
「兄さんと会ったのは孤児院で、村が野盗に襲撃されて家族が殺されたって言っていました。ただ、孤児院というか集団行動が苦手みたいで、よく仲間外れにされていたあたしと一緒にいましたね」
両親が幼い頃に殺されていれば寂しがりで甘えたがりになると思うんだけど……実際は違うってことなんだろうな。
「兄さんはそのぉ、悪戯好きで口が悪く、喧嘩っ早くスケベ、その上卑怯で……」
「えっと、そのお兄さんの事嫌い?」
「いえいえ。悪口は色々でるんですけど、それでも子供の頃はガキ大将ってイメージだったんですけどね……大人になって変わってしまって」
……うん、やっぱり寂しかったんだろうな。ただ素直じゃないだけで。
「変わった?」
「優しくなったんですよ。人当たりが良くて、世話焼きで……あたしが冒険者になった時もチームを組んでくれて、すぐレベルが上がって……」
何も知らなければ「大人になったんだね」って流す話なんだけど……少しだけ引っかかった。
「兄さんのおかげで【風水士】はすぐにレベルクラウンに達して、『天職進化の儀』を経て【死霊術士】を賜ったんですけど、そのタイミングで兄さんが行方不明に……」
「いきなり? 依頼中に事故ったとか?」
「いえ。街の宿屋に宿泊中、朝起きたら置手紙があって……一方的に別れを告げられて」
……どういう事だ? こればかりは一方の話だけだからなぁ。
「何かそのお兄さんの行先……いや、目的のヒントは?」
行先は一ヶ所に留まっているくらいだったら既に向かっているだろうから知らなくて当然。だから何を目的に姿を消したのか判ると目的地が推理できるかもしれない。
「一応、修行の旅に出るような事を書いてはありましたが……あてにできないかな」
「何か、【死霊術士】なら霊に話を聞いて直ぐ見つけられそうなものと思っていたけれど……」
そう言うと意外そうに俺を見る。
「そんな訳無いじゃないですか。そんな便利な天職じゃないですよ?」
「そう? 以前【死霊術士】に墓地で襲われた事があるんだけど、大変だったよ」
そう答えると彼女は少し考える。
「それは多分、墓地だからですね」
「どういう事?」
「1人の【死霊術士】が所有しているアンデッドは最大8体。それも条件が厳しいので簡単には所有できないの。でも、墓場から呼ぶスケルトンやゾンビは《不死者の召喚》で墓地の規模に応じた数を呼べるから数頼りが目的なら墓地が良いんですよね」
「そういうモノなのか……」
「そうですよ。レベルが低い内は変わらないですけど、所有アンデッドと魔法で呼んだアンデッドでは強さも違うし、頭の良さも違うの」
「そうなんだ。こういう事を教えて貰えるのは貴重だよ」
「あっ……確かにそうですよね。普通は【死霊術士】を賜っている人はその事を隠すから」
……ですよね。
「それに夜間や地下とかなら実力を発揮できるけれど、例えばよく晴れた日の昼間とかはアンデッドが生存できないから……【死霊術士】としては無力なんですよ」
「言われてみればそうか……絶対に昼間はダメなの?」
「いえ。曇りとか雨とか太陽が見えていなければ可能だし、コストは割高ですが《冥府の侵蝕》を使えば昼間でも呼べます。……でも、あまり使いたくないですね」
……なるほど。彼女の出撃は洞窟等の地下での活動をメインにした方が良さそうだ。『竜騎幻想』では【死霊術士】を操作する機会が無かったからなぁ。
「ついでに、説明すると〈エボリューション〉も制限あるんですよ。例えば、あたしが8体呼び出していると、スキルが使えないんですよ。1体戻す事で使えます」
「イメージではアンデッド2体分って感じ?」
「そうですね。更にそのアンデッドを〈エボリューション〉するには、追加で2体戻さないといけない。更に〈エボリューション〉するには追加で4体戻さないといけなくて……」
……それ以上は出来ないと。だから沢山呼びたければ弱いまま使役する必要がある……か。
「それで、実際は何体所有しているの?」
「全部で6体ですね。移動用のスケルトンホース2体とドロシー、セーラ、ウェンディ、アリス……」
「そう、それ! スケルトンに名前を付けている?」
「いえ、あたしが付けている訳でなくて、彼女達の生前の名前なんです」
「どういう事?」
てっきり異世界モノなんかによくあるモンスターに名を与えると強化されるみたいな事かと思ったんだけど、違うのか?
「アンデッド所有の条件として、霊と交渉して契約を結ぶ事。そして、その霊自身の遺骨がある事。ちなみに【死霊術士】に所有された霊は成仏できなくなります。【死霊術士】が亡くなれば、所有した霊は消滅します。……そういう条件から、簡単に霊を所有できないんですよ」
……なるほど。普通は死んだら成仏する。現世に残る霊は未練があるから残っている。家族を見守りたいという未練で残る霊は魂の消滅を恐れて契約しないだろう。するとすれば、魂が消滅するリスクを背負っても解決したい問題を抱える霊くらいだ。
「じゃあ、その4人は?」
「はい。彼女達は元王族で実の姉妹なんですよ。サクリさんは知ってます? この国では東の国境付近にある村は貧しく、廃村になっては新しい村が生まれる。彼女達の両親も小さな村を治めていたそうです」
そういう事があるのは聞いていたから知っていたけれど、頻繁に廃村するのは知らなかった。
「大規模な強盗団が村を襲って、村は滅んでしまったそうです。その際4人は乱暴されるくらいならと自害して、その恨みから屋敷に魂が縛られていたの」
「じゃあ、その4人と交渉を?」
「うん。復讐をお手伝いするという契約を結んで、4人が仲間になってくれたの」
「……その復讐は?」
「終わっているよ」
……それは良かった。そもそも、終わってなかったら仲間になっていないか。
「でもね、4人は割と有名だったみたいで……」
「うん?」
「よく、死者からの依頼とかもあるの……」
「えっ……」
メグルーナはそういった事情から死者との懸け橋的な仕事をしていたらしい。
結果として、幸運にも1つ目の谷が当たりだった。
ポーンブラを出発してから10日目に谷の近くへ辿り着いた。コテージを設置して、まずは近くにある谷から調べてみようと早朝に行ってみて、当たりを引いた。
「こういうのって、定番は一番奥だったりするよね?」
「まぁ、ゲームならね」
作成者からすれば、全部の谷を見て調べて貰いたいと思う所。だけど、これはゲームじゃないしなぁ。そんな事を考えながらサチカーラに答える。
「ダクネス、古祠の場所は?」
「丁度、この真下」
……なるほど。
「近くにオーガ族もアラクネ族も居ないみたい」
近くに……か。移動中に近づいて来る事もあると。
ざっと周囲を見回す。遠くに谷を降りる細い道がある。だけど、その道は奥へ向けて進む道。つまり、道なりに進めば敵の山に突っ込む形となる。……ただの経験値稼ぎなら、それもありだとは思うけれど……。
「これは仕方ないかな……」
チャクラムを〈マーク〉して……近くに木がないので仕方なく地面に置く。……踏みそうだなぁ。
「待ってて」
一声掛けてから谷底へ向けてジャンプする。パッシブスキルの〈レビテーション〉にてダメージ無し。
「ダクネス、ここが入り口?」
頷く彼女を確認して、適当に岩壁の切れ目っぽいところにチャクラムを突き立て〈マーク〉する。
……〈リコール〉。
足元にあるチャクラムに後悔しつつ、総勢24人を3往復して下ろす。無駄な体力とMPを消費させずに最小限で遺跡『闇霊王の古祠』の中へと入って行った。
入って直ぐは普通の洞窟と変わらない。魔道具によるランタンも有効だった。しかし、地下1階に降りた瞬間、ランタンの光が消えた。ランタンの故障では無い事は周りを見れば明らかだった。
光源が全く無くなったわけではない。例えば、カナージャの金髪金眼や念のために持ってきたゴールデンパロットも光っている。ただ、ランタン代わりにはならない事は明白だった。
普通、光というのは周囲を照らす。だが、ここでは光源しか光っておらず、周囲が明るくなっている様子はない。幸い、周囲の明るさは真っ暗というわけではなく、晴れた日の夜空程度には明るい。……いや、充分暗いが。
「見ての通り暗い。仲間を視認できないほど離れないように。暗い人影を目印にすると、うっかりアンテグラ族と見間違える事もあるかもしれない。だから、ゴールデンパロットや金髪を目印にするように」
……目は瞬きしたり、別方向を向かれたりすると見えないからな。
「は~い、先生♪」
「そこ、ふざけない!」
お道化るコトリスティナに注意しつつ、ゆっくりと進む。
「サーヤン、〈アナライズ〉で迷子確認と索敵を適度に頼む」
「わかった」
広い。遺跡『王位継承試練場』と比べるとではあるが、直近で入った遺跡がそこだけに広く感じる。普通に迷路なのも金霊王を除く他の古祠と一緒。迷わず進めるのもダクネスのおかげ。
「下り階段だ。地下2階に行くけど全員いる?」
サヤカレットに確認した後、俺達は地下2階層へと降りて行った。
地下2階に降りると個人の識別が難しいくらいの暗さになって、シルエットが判るだけマシなのかと考えていた矢先、周囲が急に明るくなった。
「えっ?」
「サクリ様、ごめ~ん。魔法掛けるの忘れてたわ」
「おいおい……でも、ありがとう。みんなには掛けられる?」
「無理」
……無理か。全員に掛けられれば安全なんだけど。
「大丈夫。そこのドワーフさんも普通に見えているし、黒髪のヒューム族もサクリ様よりは明るく見えているはずだから」
……あ~、対闇属性耐性か。考えてみれば、これは自然の暗さじゃないもんな。
読んで頂きありがとうございました。
下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いいたします!
もし続きが気になって頂けたなら、ブックマークして頂けると筆者の励みになります!
何卒よろしくお願いします。
尚、5日間連続投稿4日目+本日中にあと3回投稿します!




