遺跡『闇霊王の古祠』は留守番多めで挑む事になる
暫く休養する事になった。アカネムの依頼関連で疲労が蓄積していたという事もあるけど、実はそれが一番の理由ではない。一番の理由は考える事が多かったからだ。
……解っている。考えたところで答えなんて無い事くらい。それでも『竜騎幻想』のストーリー通りに歴史が動いていない以上、備えなければ仲間を失う可能性がある。……簡単にそうならないよう慎重に鍛えて貰ってはいるけれど、それだって絶対ではない。
クリスターク王国内だけでも、保留にしている謎は結構ある。
最初の謎はセイントゥス島のアンデッド大量発生と他には見られない呪い。本土の問題とは多分無関係だとは思うけれど、あれだけ対アンデッド戦のできる人材がいるのに謎のままなのは解せない。
本土では一番気になる新宰相の正体。王家に近い王族を町や村へ移動させ、自分の手駒で街を治めている。おまけにアイシアが城を出る事も歓迎しているように見えた。
それとアカネムを王都へ行かせぬように足止めをした問題。それだって理由が判らない。何のために妨害していたのか?
あとスキアーオスクリタに現れた魔人族フォモル。そこに現れた原因は? 目的は? それに多分、アイツは滅んでいない……これに関しては物証からの推測にはなってしまうけれど。
……さて、これらはそれぞれ別々の問題なのか、それとも幾つかは関連付いているのか?
コンコン。
「フフッ、どう?」
扉をノックされて出てみると、コトリスティナが笑みを浮かべ立っていた。
「おっ、装備を揃えたんだね」
朝一でメグルーナと共にナッツリブア冒険者支援組合へ行き、コトリスティナの冒険者カードを作り、その後は別れて装備を買いに行っていた事は知っていた。
「うーん。露出多すぎ」
「いいの。動きやすさ重視」
上にフード付き外套を羽織っているとはいえ、腕、腹、腿が露出されていて寒そうだった。
本当に回避率重視で防御力の無さそうな装備が心配になりつつも、武器に目が行く。
「その武器……」
「うん、鉄扇。近接戦だと強い武器なの。大丈夫、護身用として使い慣れているから」
……そういえば、天職は【幻術士】。幻術なら物理攻撃手段は必要なのか?
「そういえば、【幻術士】ってどんな事できるの?」
「うーん……話すから、中に入れて?」
そう言われたら断れない。サチカーラの件もあるし、国内では秘密にしたいのかもしれない。
彼女を部屋に入れると彼女の気が済むようにオートマタ達も退室させた。
「それで?」
「【幻術士】はね、一応幻影を見せる能力と伝えているけれど、本質はそこじゃないの。見せたいモノを見せて、見せたくないモノは見せない。騙すことがメイン能力かな」
コトリスティナの説明によると、基本的に人は視覚情報に重きを置いている。だから、それがメインであり、別の五感である聴覚、味覚、嗅覚、触覚を騙すのは、視覚の補佐的役割が大きいのだと言う。……もちろん、例外もあるとは言われたけれど。
「やっぱり、幻術という事は物理的なダメージは与えられない?」
「そんな事はないよ。でも、弱いと思う。……あ、ダメージが少ないとかじゃないよ? 幻術によるダメージは攻撃をされているという認識が必要なの。相手が「これは幻。実体はない」って思われたら、もう無意味なの。不意打ち程度なら良いけれど連発していたら慣れてしまう」
……なるほどね。それなら奥の手にせざるを得ないのか。
「だから冒険者として活動するなら、分類としては盗賊系になるんじゃないかなって。盗む事はできないけれど」
別に盗賊系が全て盗みをしているわけじゃない。【盗賊】は【怪盗】や【海賊】以外に体術メインの【曲芸士】、戦闘メインの【双剣士】へ進化する道がある。言い方は悪いが詐欺系特化と考えれば……感覚詐欺的な?
「なるほど。じゃあ、スキルで今できる事は幻影を見せる事くらい?」
「厳密には違うけれど、そう思って貰って良いかも。国内では実力を隠す事になるけれど、国外に出れば多分大丈夫だろうから」
……やっぱり、そういう事情なんだろうな。
「それで、この格好か。前世と雰囲気違うねぇ」
「うーん、そう? でも、おとなしくしていても、この国では生きる事が辛くなるだけだから」
反応から察するにコトリスティナらしくはあるのかもしれない。
コトリスティナをメインに、サチカーラと生産職で戦闘経験が少ない者を連れて戦闘の練習をしてきた。サチカーラは保険で、他のメンバーが安全に戦闘の練習ができるように見張って貰った。
それなりに戦う事に対し過剰に怯えなくなった頃。
「サクリ様、クラウディ様から古祠へ招かれております。そろそろ……」
「うん、わかった。明後日に出発しよう。それで『闇霊王の古祠』の場所なんだけど」
多分、『竜騎幻想』と同じ位置にあるとは思う。
「場所……谷の底?」
「谷の底?」
『竜騎幻想』では、谷という雰囲気では無いが、確かに低い場所にあったとは思う。
「具体的には?」
「うーん、よく判らないかも。谷って、そんなにいっぱいあるの?」
「どうだろう?」
「あたし達の移動は影を渡るの。だから、割と簡単に長距離移動しちゃうから、細かい位置とか憶えていないの」
……どうやって帰るつもりだったんだ?
いや、よく考えたら「帰る」という概念がプルームにあるのか?
「まぁ、谷の位置はみんなに聞けば判るとは思うけれど、谷を見れば『闇霊王の古祠』の場所は判る?」
「うん、それは判る」
……まぁ、それなら何とかなるか。
「あっ、そうそう。古祠の中って松明とか魔法の光とか無効だから。あと、アンテグラ族が居るから戦闘も……」
「えっ?!」
正直、道中は他の古祠よりも厳しいかもしれない。
「あっ、サッチン」
後ろ姿……鮮やかな淡い桃色の髪でサチカーラと判り声を掛ける。
「どうしたの?」
「ちょっと聞きたい事があって……」
尋ねるのであれば彼女ほど適任はいない。
「これから遺跡『闇霊王の古祠』に向かうんだけど、場所に心当たりない?」
「『闇霊王の古祠』って、【剣の乙女】が闇の上位精霊クラウディから侵夜剣『ナイトフォール』を取得するところ?」
「そうそう。谷にあるらしいんだけど」
「谷? 谷なら……東かな。スキアーオスクリタの北に小さな谷がいくつかあるんだけど……」
位置的に『竜騎幻想』と一緒だし、多分そこだろう。近くに行けばダクネスが判るみたいだし、手間だけど1つずつ見ていくしかないかな。
「ただ、あの辺って結構物騒だよ?」
谷は鬼人であるオーガ族のテリトリーなのだが、谷が小さすぎて居ないらしい。その代わりオーガ族と同じく〈谷の加護〉を持つ蜘蛛人である妖魔のアラクネ族が巣食っているらしい。
……まぁ、聞いただけだと実際はどうか判らないから、規模はともかく少なくとも「居る」という認識程度で良いかな。
それだけじゃなく、当然野盗の類もいるだろう。少なくともコテージはシオリエル1人で留守番というわけにいかないだろう。『竜騎幻想』と同じならば東側は貧しい村しかなく、物騒な谷周辺には村もないと思う。
「今回は留守番要員もそれなりに人数を連れていく必要あるかもなぁ」
「その方がいいかも」
期待する眼差しで俺を見ているので、「サッチンは今回突入メンバーだから」と伝えた。
朝食時、一度で話が済むように全員が食事のため席に着いている事を確認してから、立ち上がって静かにするよう促す。
「もう昨夜までに話を聞いている人もいると思うけれど、明日の早朝には遺跡『闇霊王の古祠』へ向かう。今回は突入を24人。留守番に6人。計30人で向かう。メンバーは、突入メンバーとして俺、メグチ、コトリス、キヨリン、アイちゃん、サッチン、ミュータン、アヤカン、ミハルン、ナッツン、アヤメル、アッスン、ルイルイ、カニャ、カロン、サーヤン、マナティ、フィナ、ユーリン、ミナ、ユミ、ニチリカ、アカリフィカ、ユカルナ。留守番はシオリン、ミボリン、イックン、リンク、ユールン、ルリーシュ。あとは船での活動を宜しく」
選定基準はまだ古祠に行ったことが無い人。それと暗視能力持ちと闇属性耐性持ち。留守番組は主に馬車の御者役である。
一応俺以外は戦闘があっても無条件で経験値が入るメンバーを選んでいる。
最初こそ少数精鋭で……と思ったけれど、俺達の旅の目的の1つを知る機会だし、古祠に行った事の無い連中は全員行くべきだと数名に助言されていた。
「馬車は3台で行く。準備は今日中にね」
1日前の指示。本来なら急すぎる指示なんだけど、一昨日の段階で話してはいたので全員がいつでも出発できるように準備していたと思う。
椅子に座ると全員が朝食を食べ始めた。
「今回は留守番メンバー多めですね」
普段はシオリエル1人が留守番担当である。彼女は充分に実戦経験を積み、相手が少数であれば1人で倒せるし、大勢でも死なずに逃げられる程度には強い。
俺からも「死ぬくらいならスクロール使ってでも逃げろ」とは言ってある。……大半は返り討ちになるだろうけど。それでも例えば魔人族相手だったら最低ランクでも死ねるだろう。
「うん。ここはクリスタークだからね。大丈夫だとは思うけれど念のため」
留守番が獣操士系なら人数以上の戦力になるはず。
「今回もコテージの管理をよろしく頼む」
翌朝、予定通り馬車3台30人が国の東、スキアーオスクリタの北へ向けて出発した。
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