アイシア姫も気付いた遺跡『王位継承試練場』の異変
呼び出してから3日目の夜、呼んだ連中がアフタンダークに到着した。流石に日が完全に沈んだ後だったので登城は明日にする感じで、フラクタル家で夜を過ごす事になった。
一応コテージもあるし、設営用の広場も他の国同様にある。けど、それの利用はサチカーラに止められた。
そして俺は今、逆にサチカーラを止めていた。
「何故、わたしは留守番なの?!」
「レベル1だからだよ」
厳密に言えば【封監士】から進化して【双剣士】レベル1。だが、彼女の場合……。
「サッチンは【封監士】の力を使えないだろ?」
「むぅ……」
それでもステータス差で戦えなくはないが、場所が場所。彼女の口から事情は話して貰えてないが、力を隠しているのは気付いていた。
そして、この前の予知夢での内容。それを考えると、わざと力を隠していると考えて間違いない。
「そういう訳だから、アカネムの事頼む。……襲われない保証はない」
「わかった」
一応、用心して貰いつつ、俺達12名は城へ向かう。今回も荷馬車なのに正面から通る許可が出ていた。
正面にはメイド服ではなく、白い革鎧と片手剣で武装したナツキヨノが待っていて、合流の後にアイシアの待つ城の地下、遺跡の入り口へと案内された。
「改めて説明するね」
アイシアが入る前に多分追加で来た6名のための説明をする。
「目的は最下層まで向かう事。その往復の護衛。1つの階層はそんなに広く無くて……うーん……多分、お城の1階くらい?」
微妙なニュアンスだけど、確かに大きな建物は他に無いし比較するモノがないんだよな。
「1階全部歩くのに5分くらいかな? そして、中には妖魔。だいだい9体くらい。全部倒したら下に降りるの。5の倍数階に行くと少し強めのが出るよ。そして、下に行けば行くほど強くなる。説明終わり」
「待った。5の倍数階って言ったけれど、地下何階まである?」
……あれ? 予知夢では地下5階までだったが?
「地下50階……ううん、51階かな。最下層は敵が居ないから、戦闘は50階までになるけど」
「最下層に敵が居ないのは絶対?」
「うん、絶対」
「どうして判る?」
……何でも文献に書かれていたそうな。確かに過去に降りた者は沢山いそうだしね。
……うん、お城1階くらいの広さというのはオーバーだったんじゃないかな?
早速地下1階へ降りてみる。
徘徊していたのはゴブリン9体。1つの階層の広さは約18メートル×約36メートルという感じだ。確かに他の遺跡に比べると少し狭い。ぶち抜きの部屋ではなく、壁で遮られた迷路のような造りで道幅は2メートルくらい。確かに両手武器を振り回せる広さではあるが、並列で戦闘するのは無理だろう。……相手も同じ条件だろうし。
迷路具合もそれ程複雑ではないし、迷子になる心配はないだろう。
「えいっ!」
今、最後の1体となったゴブリンをアイシアが殴り殺したところだった。
「お見事」
「えへへ」
身体に不釣り合いなポールウェポン。逆に小さい身体だからリーチが必要なのか?
多分、魔力の値が高く筋力を補佐しているのかもしれない。この世界では魔力で肉体強化するなんて、無自覚でやっている当たり前の事だからな。
そうじゃなければ、前世の世界のように男性と女性で力の差が生まれる。女性も男性なみに戦える理由は男女の筋力と魔力の合計に差が無いからだ。
「今度はオークだね」
地下2階に降りると敵が変わっていた。……つまり、各階層で敵が違うということ。
……こんな事なら【学者】系を誰か加えるべきだった。〈アナライズ〉が無いから敵のレベルが判らない。
敵を発見したヨークォットが速攻で1体を仕留める。
「……うん、暫くは雑魚だね。姫様が殴っても大丈夫」
ちなみに俺は殴らない。今回はヒーラー役で参加していた。
地下3階、4階と殲滅しながら下っていく。……そして、地下5階。
「敵はハーピーですけど、天井があるから楽勝ですね。武器も当たりますよ」
……以前は高いところから一方的に攻撃されそうだったからな。
「地下5階か。という事は、最低でも1体はハイハーピーの可能性があるな。アイシア姫とナツキヨノさんは今回殴らない方向でお願いします」
ハルクアルマの報告に俺が注意を促し、アイシアとナツキヨノに指示を出す。すると全員が散って、あっという間に殲滅する。……まぁ、天井がある場所でなくともハイハーピー如きじゃ敵にならんけど。
「2人は休憩必要ですか?」
「大丈夫です」
アイシアの返事にナツキヨノも頷いて同意する。
地下6階から、再び2人にも殴らせる。アイシアは仲間になる事が判っているのだから、少しでも経験値を稼がせたい。
敵は毎回9体でほぼ確定。だから、こちらも余裕があって、1体は2人の担当。残りの8体は他のメンバーで瞬殺していくというスタイルだ。
俺は念のため、2人の傍に付いている。事故ったら怖い。
「辛くなったら早めに言って下さいね」
「まだ楽勝です!」
2人のレベルを聞いていないので叩かせながら強さを計っていたけれど、もしかしたらレア職でも結構強い方なのかもしれない。
ナツキヨノもだが、アイシアも思った以上に強かった。
「お願い、プルーム達。少しだけ力を貸して!」
アイシアが半人半蜘蛛のアラクネ族相手にベルを鳴らしてデバフを試みる。すると、アラクネ一体が闇に包まれる。その間にアイシアは相手の背後に素早く静かに回り込み、身体に不釣り合いな両手斧を大振り。結果、アラクネの頭部と胴体が切り離された。
「鮮やかですね。無駄がない」
「運が良かった。プルーム達が都合良いデバフをしてくれたから」
【風水士】のスキル〈フィールドマジック〉は、近くにいる見えない妖精プルーム達に呼びかけ、デバフ……弱体させる。ただ、風のない所で突風は起きないし、火のない所に火事はおきない。つまり、環境異存な上にレジスト可能。スキル使用者が効果を選べるわけでなく、予測は出来ても完全ランダム。当然、ミスも発生するし、クリティカル……ダメージを与えるような弱体効果も発動する事が稀にある。
「デバフ効果も良かったけれど、近接戦もお上手です」
「幼い頃から叩き込まれているから」
【風水士】には特定の武器によるサポートを得られるスキルが無い。まぁ、武器による戦闘は【風水士】に全く関連しないから。だから、サティシヤやソラナディアもそうだけど、【風水士】は努力だけで身に着けている。学び方は師匠に学ぶか独学かは差があるかもだけど。
そして、武器を扱うスキル持ちに比べると当然弱い。それでも、【風水士】のスキルを使う事で個人差はあれども対等に戦うくらいの戦力となる。
もちろん、ナツキヨノさんも戦えている。
彼女の天職は【戦士】。そしてアイシアの護衛をする程の強さ。それなら、アイシアが余裕で倒せる相手であれば、当然ナツキヨノも楽勝だろう。
相性で倒す速度が変わるので強さ的には同じくらいなのかもしれない。
……前世では彼女が強いなんて微塵も思わなかったな……。
見た目だけなら戦闘力皆無な愛くるしいお姫様だ。保護対象ではあってもユニットとは思えない。それこそ、成人した今でも大きなぬいぐるみ抱えてフリフリのドレスを着ている姿の方が想像できる。
「……それっ!」
ザシュッ!
セルケティオ族……半人半蠍の毒針を持つ尻尾を叩き切る。
弱点なんぞ知らなくても物理破壊をする姫様が逞しすぎる。
「えいっ!」
胴を薙いで人部分と蠍部分を分割して、倒し終えた。
「姫様、つかぬ事を伺いますが……姫様のレベルはどのくらいでしょうか?」
キョトンとした彼女が答えたレベルは8。そりゃ、それなりに強いわ……。
「そろそろ休憩にしよう」
相手が弱すぎて、割とハイピッチで降りる事が出来ている。
現在、地下20階。戦闘でアイシアとナツキヨノは息が上がっていた。
「まだ大丈夫」
「ダメですよ。全然大丈夫に見えませんから。それに……そろそろ昼食の時間です」
「……わかりました。ナツ、食事の用意を」
アイシアは悔しい気持ちが表情に出ている。……それだけ余裕がないのだろう。そして、それはナツキヨノも一緒なようで、食事の準備を始める彼女も疲れを隠せていない。
……みんなには悪いが休憩は長めにする必要があるな。
みんなは寛ぎながら昼食をとる。2人以外は何ら疲れていないので普通の昼食と何ら変わらない。変わっているのは2人だけ。
「改めて、サクリウス様。この度はアイシア様の護衛を引き受けて下さりありがとうございました」
「いや。でも、思ったよりしんどそうだし、もう少し鍛えた後で挑戦しても良かったのでは?」
先程、遅くとも20歳までに挑戦して成功すれば国の意思に従わずに自由に生きる事ができると。それなら、まだ4年は猶予があるはず。
「いえ。アイシア様には時間が無かったんです」
食べ物を口に運びながら彼女の言葉に「何故?」という言葉が出そうになるのを堪える。好奇心は身を滅ぼす。……手遅れかもしれんけど。
「アイシア様は現状に絶望しています。国王様もすっかり別人になってしまいました。彼女を守ってくれていた腹違いの王子様達も庇う程の余力がなくなりつつあります」
……知っているけど。
「皆様との実力差で判るように、今後王子様達の庇護無くして自分を守り切るのは難しいのです。……それでも、以前までは諦めていたようですが。ご存知の通り、アイシア様は誰かと関わる事を嫌っています。そんなアイシア様が政略結婚のためにご婚約するはずもなく。既に死を覚悟されていました」
……あれ? アイシア死亡エンドってあったっけ? 俺が知らないだけか??
「そこにサクリウス様が現れた事で、アイシア様はその運命を賭ける事にしたようです。いったい、どうやってそんなにあのアイシア様に好かれたのですか?」
「……俺が聞きたい」
……結果論として、推しキャラだったアイシアの命を救ったのなら……まぁ、いいか。
地下21階から雰囲気が明らかに変わった。
「判るね?」
アイシア達2人以外は俺の言いたい事が伝わったようで、みんな「うん」と短く返事をする。
「どういう事ですか?」
「確証はない。でも、明らかに敵が強くなっている……様子見て来て」
待つこと数分。
「このエリアはリザード族。それで、ハイリザードが9匹って感じだよ」
アオルッティが最初に戻ってきた。
「地下21階から『ハイ』か。その調子だといずれ『アーク』も出て来そうだな」
……おかしい。推測通りだとするなら、たかが王家の人間の自由を保障するだけのために『アーク』を倒さなきゃならんの? NPCなら1年に1レベル上昇が目安とされているのに、厳しくないか?
もちろん、このメンバーなら『アーク』種でも問題ないが……。
「これって、本当に王族用?」
ハイリザード相手にアイシア達2人がかりで戦う。それで先程までの1人で戦うくらいの速度で倒せた。
「おかしいです」
そう言ったのはナツキヨノ。
「先人が挑んだ記録を読んだのですが、レア職で挑んでも2PTあれば余裕に勝っているんです。でも、まだ21階でこれは……」
……やっぱり変か。そうだよな、ゲームで考えた場合でも難易度設定が変なんだよ。
「防犯用の妖魔転送の罠が異常をきたしている可能性が……」
さりげなくナツキヨノが物騒な事を呟いた。
「遺跡の罠って魔器だよね?」
魔器とは昔、魔王が災いの種とするべく蒔いたという説もある魔石のエネルギーを必要としないマジックアイテムの類だ。
小さい魔器は製造が可能だが、こんな遺跡の罠を動かすような魔器を人類は作れない。
「そうよ。代々王家の者が管理しているの」
……おぅ……そりゃそうか。遺跡名が、『王位継承試練場』だもんな。その魔器を使って難易度を調整して試練の場として活用していた……といったところだろう。
「だから多分、わたしの失敗を狙っているか……それとも、到達されるくらいなら殺そうとしているか……」
そう言いながらもアイシアは戸惑っているようだった。
細かい部分で『竜騎幻想』と違う状況は毎度の事とはいえ、確かに変だと感じた。
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