【風水士】アイシア=M=クロノワールは人気NPC
依頼の事を仲間へ説明するために戻る。……そう説明して城から出て来られた。一国の姫様に対し反射的にツッコミをするようになってしまったら、命がいくつあっても足りない。
遺跡へはサチカーラに留守番を伝えると、とてもゴネた。スーパーレア職でもレベル1では連れて行くのが怖い。それならレア職のレベル9の方がマシまである。……そもそも、レア職でも連れて行かないが。
2泊目の夜。例によってダクネスには部屋への侵入者を見張って貰いながら眠りにつく。フラクタル家の方々には感謝しかない。
しかし、ベッドが違うからなのか眠りが浅かったようで……夢を見た。
「落ち着いて。さぁ、あなたが賜った新たな天職は?」
……おや?
「【風水士】です。良き縁に恵まれますよう、より一層精進して参ります」
他の王家ユニット同様、お約束の台詞を告げたのだけど。
彼女の名はアイシア=M=クロノワール。身長153センチ。童顔に漆黒の瞳。明るめの黒髪は股上まであり、クラウンハーフアップにされている。一見幼き王女様ではあるのだが、幼さを否定するには充分過ぎる程、胸部が主張していた。
……まぁ、ここではどうか知らんけど、二次創作や現実には足元見えて無さそうなくらいボリューミーな胸だったからなぁ。
そもそも、俺はこんなシーンを見たことがない。彼女は間違いなくNPCのはずだ。どんな攻略サイトや動画にも彼女が仲間になるなんて情報は無かった。
このオープニングのアニメーションには現実と変わらない可愛らしいアイシアが紹介されている。……まさか、『竜騎幻想』でもユニットだったのか?
視界が暗転し、場面が彼女の自室に移動している。でも、実際の部屋とはデザインが違っていた。……多分、ゲーム画面に寄せているのか?
「アイシア~、成人おめでとう! どんな天職を賜った?」
ノックもなく部屋に入る男。この男には見覚えがあった。もちろん、『竜騎幻想』で。
「【風水士】ですよ、ツグノス義兄様」
「おぉ、レア職か。おめでとう」
「ありがとうございます」
男の名はツグノス=M=クロノワール。アイシアの異母兄であり、ハルチェルカに拒絶されている男。最も国王の遺伝子を継ぎ、次期国王と目されている王子。女好きで、財力と権力、文武の才に恵まれ、容姿も整っている。何人もの女を惚れさせて囲うハーレム王子である。
余談だが、ユニットとして仲間に加えると、主力メンバーに加わる程に強い【双剣士】だ。
「……それだけ?」
「……はい?」
「アレだぞ? 何なら昔した『お兄様のお嫁さんになる』という約束、実行しても良いんだよ? アイシアも大人のレディーになったのだから」
「結構です。他に用事はありますか?」
「えっ? ……兄さん、寂しいんだけど……」
「では、自室に戻って自分を慰めてあげて下さい。ここに居られても鬱陶しいので」
「……」
ツグノスは花束と小さな箱を置いて部屋を出ていく。
「ふぅ……限界は近いかもですね」
アイシアはポツリと呟いた。
視界が暗転し、再び別シーンへ。これまでの構成から回想イベントのはずだけど、当然ながら初見である。多分、アイシアを仲間にすると発生する彼女関連のクエスト内のイベントなはずなんだよな。
「わたしは、父である国王の10人の妻の第一王妃の第二子として生まれた」
アイシアによるモノローグ。
視界にはゲーム画面による母親と思われる人に抱かれる赤ん坊と小さな男の子。そして男……実兄がいた。
「国王の第十一子にして末娘になるとは、当時のお父様も思っていなかったと思う」
モノローグが続く。そんな中、映像は少しずつ切り替わり、アイシアが成長していく。
「今思えば当然ながら両親も政略結婚で結ばれた仲。そこに愛は無いの。お母様は人質……生贄だと聞いた。お父様は性欲だけで動くケダモノだった。……ほんと、懐かしいな」
アイシアが言っている事も理解できる。一応、ツグノスのクエストはノーマルエンドだけやったからね。
現クリスターク王国国王の異名はハーレム王。それは、お国柄である「力こそ全て」の根幹をなす部分。力の頂点である国王は代々ハーレム王と呼ばれている。それは、各国の王族が1人ずつ娘を妻として差し出す。それはアイシアがモノローグで言った通り人質であり生贄だからだ。それで各国がクリスターク王国と敵対しないで済むなら安上がりと考えているかもしれない。
それでも9人の妻になるのだが、王は自分でも自国で妻を見つける。その条件は奴隷以外……おっと、それは現実の話か。『竜騎幻想』内ではどうか知らんけど、常識的には同じ気もする。とにかく自国で気に入った妻を娶り、10人の妻を持つ。それがクリスターク王国国王の証とも言えた。
しかし、『竜騎幻想』内でも現状の国王と同様のようになっている。少なくとも『竜騎幻想』内では宰相……現実で言う所の前宰相によって薬漬けにされ、リモコン操作のように操られる存在になっているからだ。……実際はどのように操られているか知らんけども。
詳しく描写される事は無いが王妃の誰かは宰相と繋がっているかもしれない。匂わせだけで公式には描かれていないけれど。
あの変わりようなら、誰でも何かがあった事くらい判るだろう。
「ねぇ、ママ……」
「ママじゃなくてお母様です」
思い出している間に随分成長していたようで、アイシアは自分で話せる程度には成長したようだ。
「ちょっと、アイシアが何かしてほしいみたいよ」
第一王妃の発言の後、メイドが数名急いでアイシアのところへ駆けつける。
「しっかり見ていて頂戴」
「申し訳ございません、王妃様」
……まぁ、娘にも愛情は無いか。
「さぁ、アイシア様。あちらで遊びましょうね」
年配のメイドがアイシアを連れて母親の部屋を出る。
「ママ……」
「アイシア様。また「ママ」と呼ばれますと怒られてしまいますよ?」
「何でダメなの? お話したいだけなのに……」
アイシアの発言の後、数秒の沈黙。多分リアルならメイド同士で顔を見合わせているのかもしれないが、ゲーム画面だとよく判らない。
「申し訳ありません、アイシア様。代わりに私達がお相手しますので」
「えぇ、是非私達とお話しましょう、姫様」
メイドが3人。アイシアを囲んで機嫌を取る。でも、きっとメイド達も解っているんだろうなって思う。自分達ではアイシアが望む愛情を与えられない事を。
「大丈夫。我儘言ってごめんなさい」
「「「……」」」
アイシアは涙をポロポロ零して謝る。
……多分、アイシアが5~6歳くらいの話なんだよな。
視界が暗転し、次は何かのパーティの場面へと変わった。イベントアニメーションのようだが、当然見たことがない。
「アイシア姫、是非、僕と踊って頂けませんか?」
「ごめんなさい。今は気分が優れません」
そう答える彼女は別に体調が悪そうには見えない。……つまるところ、ただのお断りなのだろう。
何人も彼女を誘いに来るが全てお断りしていた。
彼女の視界には兄や姉達の周りに大量の人が群がっているのが映っている。
「権力に群がり、見えないところで邪魔者を蹴落とす……本当に気持ち悪い……正攻法で相手にされない時点で勝っても無様な姿を晒すだけなのに……」
そう小さな声で呟くとバルコニーに出る。
外は夜。風が彼女の黒髪を撫でる。
「涼しい……」
という事は、中は熱気で暑かったのだろう。
アニメーションが終わってゲーム画面に切り替わる。
「こんなところで、どうしたの? 主役の1人でしょ?」
「ん? あ~、来てたの?」
一国の姫様に馴れ馴れしい感じで少女が近付いてきた。あれだけ人が近付くと厳しい表情をしていた彼女がフッと力を抜いた。
顔が映らないから俺の知っているキャラクターかモブかは判らないが、アイシアにとっては親しい人物なのだろう。
「そりゃ来るでしょ。王家から招待状が届いて断る事ができる存在は、この国にいないでしょ」
「……そうよね」
「それで、ここで何していたの?」
「察しの通り。人混みから逃げてきたの。……人に酔って気分悪かったし」
「まぁ、アイシア様はずっと1人だったからね。でも、来年成人する今のアイシア様なら男達が……」
「うん、とても気持ち悪かった。それと、その呼び方止めて」
「無茶言わないの。ここは一応公の場なのよ? そんな場所で平民のわたしが姫様に敬称付けなきゃ立場無くなっちゃうわ」
「……仕方ないかもだけど……嫌味っぽく聞こえるわ」
15歳というと、もうほぼ成人。顔と身長以外は大人と変わらないだろう。……いや、成人しても顔と声は幼いままなんだけどね。
それと、顔のわからない少女は王家が主役となるパーティに招かれるような平民か。ちょっと想像が付かないな。どういった立場なんだろう?
「それだけ元気なら戻れるでしょ? 少しくらいは相手しないとダメよ? 貴女が拒否しようともクリスターク王国の姫の1人という立場からは逃れられないのだから」
「……」
アイシアは深々と溜息を吐くと部屋の中へと帰っていく。
「もう監視役ってバレてるかな? ……こんな事をさせるから、アイシア様はどんどん人間不信になるというのに……」
そんな名も無い少女は独り言を呟き……建物の中ではアイシアが誰か男と踊っている。相手が焦っているモーションが表示される中、アイシアは優雅に踊っていた。
視界が暗転し、再び場面が切り替わる。
ゲーム画面で【剣の乙女】が城内を動いている。謁見の間から出入口までの道を歩いているとアイシアと遭遇した。……もちろん、この場面は俺も見たことがあった。でも、何も起きないはずなんだが?
「初めまして。わたし、『邪竜討伐軍』を率いる※※※※と申します」
「……初めまして、第一王妃の第二子でアイシアです。城での用事は済ませましたか?」
……あれ? こんな選択画面あったか?
毎度の如く、勝手に「はい」が選ばれる。
「そう。なら丁度良いわ。お願い……ううん。依頼があるの」
「依頼? それなら冒険者に……」
「それは無駄なの。近くに強い冒険者はいないから」
厳密には、国への反乱分子になったら困る強そうな冒険者は淘汰されているだけの話。
……あれ? 待てよ。そうだ、そういう設定が『竜騎幻想』にはあった。でも、もし現実もそうならば、『竜滅隊』があっさり全滅した理由って……?
「そんなに大変な内容なの?」
「はい、頼れるのは皆様だけです。実は、この城の地下に『王位継承試練場』と呼んでいる遺跡があります。昔は国王選出の際の条件の1つとして使われていた遺跡だったそうですが、事情があって、その最下層まで行かなければならないんです。最下層までの往復を護衛して頂けませんか?」
その台詞を言い終えると、ウィンドウに「このクエストを受けますか?」という問いに「はい」と「いいえ」の選択肢が現れる。
……つまり、これから向かう予定の遺跡も『竜騎幻想』に実装済みだったの?
隅々までやり尽くしたと思ったのに……まだ知らない事があるとか……しかも、この夢の情報の真偽を確かめる術もない……ショック過ぎる。
そして、勝手に「はい」が選ばれる。
……っていうか、毎回この夢のプレイヤーが一緒だとしたら、コイツ何者? 一般的な情報収集じゃ判らない情報だよな?
画面が一瞬で切り替わり、戦闘マップへ。説明はされていないけど、間違いなく遺跡だろう。
……確かに他のMAPと比べたら狭いかもしれない。最大出撃数も主人公の他に11名となっている。
地下5階までのマップを攻略し、敗北条件であるアイシアの死亡を避けるように護衛クエストを攻略。敵はオークで正直簡単そうではあった。……このプレイヤーは苦戦していたようだけど。
ラスボスのハイオークを倒すと自動で地上に上がって来るみたいで。
「ありがとうございました。あの、皆様の強さに惚れました。是非仲間に入れて下さい」
そうアイシアが告げると、再び「はい」と「いいえ」が現れる。
……「はい」を選ぶと仲間になるって感じか。でも、このクエストの発動条件って、もしかしたら、城にツグノスが不在でハルチェルカが仲間に居ない事かもしれない。
視界が暗転し、場面が変わったが……これは多分エンディング?
場所は城。玉座には宰相が座る。そして、宰相を守るように兵士がアイシアを囲んでいた。
そして、アイシアも両手斧を構えて相対していた。
「お父様と兄様の仇です。覚悟はよろしいですか?」
「ふん。確かに『邪竜討伐軍』は脅威だった。しかし、アイシア姫1人で何ができる?」
「何でも。……安心して。ちゃんとこの国のルールに従うわ」
アイシアは闇属性の魔法を放ち囲んでいた兵士達が気絶する。何の魔法か言わないのは、彼女の成長具合に対応するためだろう。
「ひっ!」
「そう、『力こそ全て』。ここで倒されてもそれは、弱い貴方が悪い」
ゆっくりと宰相に近づき、画面が暗転して……
ジャキン!
……切断音のSEが入った。
視界が明るくなると、場面が変わっていた。時間も経過しているのかな?
何処か広い場所。兵士や執事、メイド、官職など城で働く人々が集められていた。
「国王選定の結果、私、アイシア=M=クロノワールが女王として就任する事となりました。理由は1つ。わたしより強き者が王族に存在しないからよ。異議のある者がいるなら武器を手に名乗り出なさい。命懸けで証明してさしあげるわ」
アイシアらしくない強い口調。ロリ声の彼女だが、精一杯低めの圧のある声色を使っていると思う。
視界が暗転して、早送りでクリスターク王国内の様子が流れ始め、アイシアによるナレーションが流れ始めた。
「わたしは罪人を厳しく罰する法律を制定し、汚職役人を処分した。国の治安は国が責任を持たなければ、また暴力に屈する平民が犠牲になってしまうから」
そのナレーションを最後に視界が暗転する。
正直、グッドエンドには見えなかったが、多分ノーマルエンドではないかと推測する。
……うーん……自分で仮説を確認したい……。
そんな事を思っていたら、目が覚めてしまった。
正直なところ、『竜騎幻想』に実装されているのか半信半疑で、もしかしたら妄想の可能性もあった。
……まぁ、確かめる術はもう無い。
けれど、アイシアはNPCだったとしてもユイディアと同じくらい好きなキャラクターでもあったので、環境さえあれば仲間にしてみたかったな。
……そして多分、夢の内容をしっかり憶えていて、構成も一緒。だから、これもきっと例の予知夢だ。つまり、アイシアも近々仲間に加わる事を暗示している。
厳密には【剣の乙女】と条件は違っていても、俺は【剣の乙女】ではないので、条件も結果も変わる事も身をもって知っている。
……アイシアか。
確かに好きだけど、それは『竜騎幻想』での話。実際は……何故、あんなに懐かれているのか? チームに加わってトラブルが発生しないか? 機嫌を損ねて暴れないか? なんか予知夢の内容から察するに強力なアタッカーのような気がするんだが?
俺の不安も吹き飛ぶ程、ダクネスは今日も俺の股間でとてもダイナミックな寝相をしていた。
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