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生き残りが語る、カッパー級冒険者の見た悪夢

「ん……」


 ゆっくりと彼女の瞼が上がる。まだ意識が朦朧としているのか状況を理解できていないように見える。


 股上まである灰色のロングヘア。戦闘の邪魔にならないように配慮しているのか、それともただのお洒落かは判らないが、ツーサイドアップにされていて普通に似合っていた。


 装備は薄手で桃色のソフトレザーの鎧の上に黒いローブを纏い、多分彼女のモノと思われる杖と腰のホルダーに納められていた白色の小さな魔導書。それらから想像するに間違いなく【魔術士】である。


「……あっ!」


 ガバッと上半身を起こし周りを見回す。


「大丈夫ですか?」


「はい。助けて頂きありがとうございました」


 ……こ、これは王道なヒロインボイス! 耳が幸せになる可愛い声だ。……とても良き!


 内心テンションが上がっていることは内緒にしつつも、もう1つ気になる事が。……彼女の瞳が銀色だということ。指摘するのも気まずいのでスルーする。


「わたしはアッツミュ。【魔術士】です」


 そう言って自身の冒険者カードを見せる。確かにレベル1のカッパー級冒険者だ。


「あの、それで他のみんなは……?」


 それに対して無言で首を左右に振る。


「……あっ……そうですか……本当に短い付き合いになってしまった……」


 言ってから、失言なことに気づいたようで。


「いや、その……違くて。実はわたし、冒険者になりたてなんです。入って、いきなり外される現場に出くわしてしまって……明日は我が身なのではと内心思っていたんですよ」


「大丈夫だと思いますよ。わたしと違ってレア職でしたので」


 シオリエルの言葉を受けて彼女のことを思い出したのか、かなり恐縮した。




「ごめんなさい。その、憶えられていなくて……」


「ですよね。最後に入られた方なら、ほぼ一瞬しか会っていなかったですし、気にしなくて大丈夫ですよ」


 ……いや、気にするだろ。こういう時はさっさと話題を変えるしかない。


「そちらの事情を説明して貰って良い?」


「あっ、はい。……わたし達が引き受けた依頼は行商人の護衛でした」


「……行商人……」


 サティシヤがボソッと呟くのが聞こえてしまった。


「片道1週間くらいで街道沿いを護送するだけの簡単な仕事だとリーダーは言ってました」


「えっと、依頼を引き受けるのに相談とかは?」


「いえ、全く。そもそも一度も仕事をしたことが無かったので、意見を求められても困りましたし、チームの方針には慣れるまでの間は従うつもりで入りましたので」


 ……普通、そういうもんなのか?


 確かに人数が多くなったら全員の賛同を得るのは難しいかもしれないし、その場の判断が必要でリーダーが独断で決断することに不満のあるチームメンバーはいないだろうが、その独断だって増えれば増える程にリーダーへの不満は増えてしまうような気もする。


「確かに初めてじゃ何も気づかないよな」


「あっ……いえ、気づかないというか……個人的には不安しかなかったのですが……」


「不安?」


「自己紹介はされたので、どんな天職の方がいるのかは知っていたのですが。でも、何の打ち合わせも無かったので、大丈夫かとも思ってはいたんですけど……もしかしたら、わたしは戦力に含まれていないのかもとは思っていました」


「多分、そうだと思いますよ。あそこは男達が殴るだけのパーティなので、【修道士】の子の負担が大きくて……」


「なるほど」


 シオリエルの説明で何となく解ったけど、所謂ゲームでいう「脳筋プレイ」という奴か。確か、カッパー級になったばかりだという話だったっけ? シオリエルが入っていた理由が数合わせ的なことを話していたような……?


「それ、【魔術士】的に困りますよね?」


「ですねぇ」


 低レベルの脳筋パーティは、リアルなら後衛には苦労しかないだろうしなぁ。




「そんな感じで本当に何の打ち合わせも無い状態で朝5時にブライタニアを出発しました。ここで休憩を兼ねて朝食を食べるという話になったんです。最初は何もなく、賑やかに食事をしていたのですが……」


「油断していたところを襲撃された?」


 尋ねるとアッツミュは頷く。


「ちなみに、チームはどういった構成だった?」


「リーダーが【戦士】で、男性陣が【戦士】と【盗賊】。女性陣が【修道士】と【狩人】、【学者】。それとわたし【魔術士】の計7名ですね。護衛対象は依頼主と御者の方、あと依頼主のお弟子さんのような方が1人の計3名です」


 相手のコボルシフトには【重戦士】と【神官】が居た。後は【戦士】や【獣操士】など合計15人程度だった。普通に考えたら、【重戦士】には【魔術士】が攻撃した方がダメージを取れそうだが、味方の【戦士】が居たら戦い辛いか。


「なるほど。それでコボルシフト15人程度に対し、【戦士】×2と【盗賊】が突っ込んで行ったと?」


「そうですね。おかげで攻撃の邪魔でした」


 ……割と辛辣。まぁ、事実か。魔術を撃つ身としては射線や攻撃範囲に入られたら危ないし。


「わたしが驚いたのは、【修道士】の方が強化魔法を使わなかったことですね。戦闘中に気になって聞いたら、回復を要求される頻度が多くMPがいくらあっても足りないからだそうで」


 その一言に流石に呆れる。


「スーパーレア職の【重戦士】と【神官】が居たことに関しては?」


「もちろん知っていますよ。【学者】の方が〈アナライズ〉をしてくれたので。でも、前衛の方々は殴るのに必死で聞いている余裕すら無く……」


 あ~。これは全滅するわ。そんな戦い方、MMORPG初心者くらいしかやらないわ。


「そう考えると、よく生き残ったね」


 これじゃパーティ戦闘ではなくて、ソロ3人のヒーラー奴隷によるパワーレベリングだわ。




「本当に運が良かっただけだと思います。わたしは早々に仕事が無く、数発は攻撃魔法でコボルシフトを攻撃したのですが、リーダー達に怒られてしまいまして」


 アッツミュはどうやら不満がかなり溜まっていたようだ。でも、それも理解できるというもの。俺にはそのリーダー達が何故彼女を怒ったのか想像がついたから。


 検証したわけではないが、レベルを上げるための経験値という概念がある。所謂ゲーム的なアレである。戦闘に参加した時点で最低保証の経験値を得ることができる。敵を攻撃して敵対心を稼ぐことで、その敵が死んだ時点で経験値が入る。天職のスキルを戦闘中に使用することでも僅かだが経験値が入る。だが、一番経験値を得られるのは敵のトドメを刺した場合だ。


 敵が倒した相手に与える経験値総数は決まっていて、最低保証の経験値を除く全ての経験値取得行動が敵の持つ総経験値を減らしていく。だから、【魔術士】の魔法による支援を怒り、強化魔法を拒否し、前衛3人だけが殴るという作業になるのだろう。


 ちなみにそう考えた根拠は『竜騎幻想』の戦闘による経験値分配システムだ。だから、確信ではなく、そのリーダー達が怒った根拠を逆算したメタ読みに近い邪推である。ゲームでのシステムがリアルの冒険者の経験値分配システムと一緒なのではないかというね。


「それでも、わたしとしては前衛が全てのコボルシフトを倒してくれれば問題なくて……でも、結局厳しかったのだと思います。わたしはMPを全て【修道士】の方に渡してしまったので知りませんが、おかげで敵対心を稼がずに済んでトドメを刺されなかったのかと」


「MPの譲渡なんてできるの?」


「自分では無理ですけど、【学者】の方が使用するアイテムの効果で可能だと聞きました」


 なるほど。確かに【学者】は使用するアイテムの能力が強化されるスキルがある。【学者】がパーティにいた理由と【魔術士】をパーティに加えた理由はその辺かな。


「そうか。話してくれてありがとう」


 話を聞けば聞く程に彼女が気の毒に思えたが、これも彼女の選択による結果なんだよな。




「ところで、大丈夫ですか? 今後の対応とか」


「今後の対応?」


 俺への事情説明を終えた彼女が心配なのか、シオリエルが確認するように聞いたが、彼女の反応から察するに何も知らないのだろう。


「まずは依頼を受けた冒険者の店へ失敗の報告をして下さい。その後は依頼主の関係者への謝罪ですが、場合によっては冒険者の店の主人も一緒に行くことになるかもしれません。そこで、遺族の遺品と積荷は全部返して下さい。依頼主が他の冒険者に頼むか、どうなるはか判りませんが、いろいろ言われると思いますので覚悟して下さい」


「……色々ですか……」


「そうです。今回、わたし達は貴女が悪くないことを知っています。ですが、依頼主からすれば貴女達が悪いのであって、生き残った貴女が全て謝罪しなければなりません。ですから、心の準備が必要だと思います」


「……そうですね……」


「依頼主の関係者から解放されたら、ナッツリブア冒険者支援組合に行って冒険者チームが自分を除いて死亡した報告をすることで、貴女の冒険者カードがアイアン級に更新されます。その際に料金が発生するので気を付けて下さいね」


 シオリエルによる丁寧な説明……これもきっと【家政師】のスキルなのだろう。


「……色々、お気遣いありがとうございました」


 最初は他人事のように話していたアッツミュだったが、今はどうやら少しは現実味を帯びてきているようで。若干、表情からも変化は見て取れた。


「いいえ。これも一瞬とはいえ仲間だった縁です。これから頑張ってくださいね」


「いや、そういうわけにもいかんだろ。荷馬車も壊れているようだし」


 チラッとユミウルカを見ると、彼女も俺に頷く。


「今1人になるのは酷だし、せめて街まで一緒に戻ろう」


「ありがとうございます」


 これがアッツミュの初仕事なのだから、彼女に同情せずにはいられなかった。

読んで頂きありがとうございました。

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