ユーリンチェルがユニーク職【戦匠】を賜る異例事態
甲板の客が捌けて、本日の店の営業を終える。完全に日が落ちてから時間も経過している。でも、それからが仲間の夕食時間だ。
……明日が早朝出発じゃなければ苦労しないんだけどな。
「うぅ……やっと終わった」
かなり疲れた表情のエルミスリーが隣に腰を下ろして愚痴る。
「エルミもかなり経験値稼げたね」
「……要らんわ」
普段優しくて言葉使いも丁寧なエルミスリーが半ギレでツッコミを入れた。
「お隣失礼。サクリ君、わたし【双剣士】を賜ったわ」
「おめでと、サッチン」
サチカーラがエルミスリーの反対隣に腰を下ろす。
……まぁ、予想はしていた。狩りの時から双剣持っていたし、もしかしたら二刀流のスキルがある天職を賜るのではないかと。
「でも、近接戦闘がスキルアシストついた事で【封監士】のスキルもかなり活きるのでは?」
「うん、FOみたいにね」
『フロンティア・オンライン』の名前を出すのは意味通じないだろうけど、あまり転生者以外に聞かれたくない。そういう意味では略称は都合が良かった。
【封監士】のスキルは主に物体を固定するスキルと説明された。でも、実際は色々できて便利なスキルと聞いた。それを隠しているのは主に保身のためだと彼女は言った。
「サクリさーん、わたしもちゃんと進化しました!」
流暢なヒューム語なのは何時もの事なのだが、現在は変身してヒューム族の姿になったワカナディアが向かいに座る。
「【アークエルフ】になるなんてビックリです」
彼女の進化も間違いなく〈女運の加護〉の影響だろう。エルフ族の人口は少ないと言われている。【学鍛童】から【エルフ】に進化する可能性は100%。【ハイエルフ】に進化する可能性は10%。【アークエルフ】へは1%の可能性となっている。ワカナディアは100人に1人の存在となるわけで。
「おめでとう、ワカチ」
そんなワカナディアは単独行動でハイオークを殺しまくっていた。〈森の加護〉の力で圧倒的な強さだったからな。
「また、これで成長の難しい人が増えたか」
ウルトラレア職だと仮に加護の効果があったとしてもレア職相当の敵を倒しても経験値が入らない。多分、これがノーマル職の成長が難しい原因でもあると思う。
「戦略を考え直すタイミングですね」
ワカナディアの隣、エルミスリーの向かいにアオランレイアが腰を下ろして会話に加わる。
「そうだね。聞き慣れない天職の能力を知らないとだし」
「あの、お手伝いできるかもしれません……そこの席空いていますか?」
「どうぞ、どうぞ」とみんなが勧め、ニチリカが最後の席に腰を下ろした。
「【見術官】の能力は主に『見る』、『聞く』、『伝える』という事です。主には超遠方の方々との相互会話に利用されますが、例えばチームの意識をリンクさせて指示を出せるようになります。情報をリアルタイムで知る事もできます。……どうでしょうか?」
確かにそれならば、新たな戦術を組む事も簡単かもしれない。
そろそろ夕食の時間も終わり、一度部屋へ戻ろうとした時にユーリンチェルが俺の下へと寄って来た。
「あのね、サクリさん。わたし、『天職進化の儀』を受けたいの」
チラッとエルミスリーを見る。きっと嫌がるだろうなと思ったが。
「食事休憩も終わったし1人くらいなら……でも、ユーリンちゃんはノーマル職じゃなかったっけ?」
「うん……やっぱり無理ですか?」
「いや、やろう。……でもね、ノーマル職が天職進化した前例は無くは無いけど、厳しいと思って良いからね? ……でも、何かサクリ君関係の人達って確率無視するからなぁ……」
彼女も自分で言って、「もしかしたら進化しちゃうかも?」と思っているのかもしれない。
片付け前だったから、2人で直ぐやってくるという話で俺達は全員テーブルで待っていると5分後くらいに2人が慌てて戻って来た。
「あのね、あのね、サクリさん。わたし、ユニーク職の【戦匠】を賜っちゃったの!」
「おめでとう!」
「すごーい!」
その場に残っていた者はもちろんだが、片づけをしていたメンバーまでユーリンチェルへ祝福の言葉を贈る。
「えっ?」
そんな祝福ムードの中、ニチリカだけが困惑していた。
「ニチリカさん、どうかした?」
「今、【戦匠】と言いましたよね?」
ニチリカの困惑具合にユーリンチェルは不安そうに頷く。
「実はその天職、わたし知っているんです」
……どういう事? 知っていて何か問題が?
「その天職、実は『竜滅隊』のメンバーの天職だったんです」
「あ~……」
……察した。言われてみれば俺も聞いた記憶があった。
ユニーク職とは、前職、進化後の基本ルートを無視して賜る事がある天職でイヴァルスフィアにおいて1人しか保持していない天職の事。
「彼の天職、ユーリンチェルさんが継承したんですね」
ニチリカにとっては、同行した『竜滅隊』の転生者の死亡を再度突きつけられた事と同意である。あまり良い印象の天職ではないかもしれない。
でも彼女には悪いかもしれんが、強力な天職である事には違いない。
ノーマル職がユニーク職を賜った事に興奮していたエルミスリーもニチリカの気持ちを察したのか、雰囲気が暗いモノに変わっていく。
多分、それに紐づいて辛い記憶を思い出したのか、ニチリカは動かなくなってしまった。
「大丈夫? 部屋で休もうね?」
そう優しい言葉を掛けて、ワカナディアとサチカーラがニチリカの部屋へと連れて行く。
「色々思い出しちゃったのかな?」
「そうかもね」
エルミスリーの問いに答えると、ユーリンチェルも悲しそうで。
「わたしが、天職の事話したからダメだったのかな?」
「それは違うよ。天職の進化はみんなに祝われるべき事だよ。これからは一緒に戦おうね」
「うん!」
元々甘えん坊な事もあって、ユーリンチェルは俺に近づくと抱き着いて来る。
「ユーリンチェルは凄いのよ。少なくともわたしは、ノーマル職が天職進化したのを見た事ないんだからね」
「ありがと」
エルミスリーのフォローもあって、彼女は少し元気を出したようだった。
「あの~、質問なんだけど」
片付けを手伝っていたアヤカリカが一旦手を止める。
「うん?」
「これってノーマル職でもユニーク職を賜ることがあるって事だよね?」
それにはエルミスリーも頷いた。
……ただ、後で確認したので間違いないが、ユーリンチェルは転生者ではなかった。
「……ふぅ……」
スッキリサッパリした感覚と同時に襲ってくる疲労感。
風呂は好きだ……本来は。ボーっと妄想に浸るも良し。天然エコーでうろ覚えの歌を歌うも良し。風呂上がりにキンキンに冷えたフルーツ牛乳を飲むのも良し。本当に大好きだった。
ただし、今の風呂は男としての尊厳を削られる日々。俺が入る時は女性が居ない事を確認してから入る事が義務付けられ、俺が入浴中だと札を掛けているのに知っていて入りに来る女性がいて、それを追い返す事すらできない。
そんな悩みを抱えている事など知った事ではなく、ダクネスは戻って来ると抱き着いてきた。
「おかえりなさい、随分疲れているのね」
「サッパリはしたんだけどね」
男としての尊厳より入浴の方が大事。これが俺の価値観なのだから仕方ない。
「うん、いい匂い……」
「そりゃ、洗い立てだからね」
男女逆の立場ならセクハラ……は、前世の話。俺的にはやってしまいそうな事は許す主義なのでスルーはしているけど。
「何でそんなに疲れているの?」
「お風呂は1人でゆっくり漬かりたい……百歩譲っても同性同士なら距離感一緒で問題ないんだけどね。……入って来られる事がストレスなのさ」
「えー。良くない? 雌の裸見放題って、雄なら喜ぶんじゃないの?」
「多分、そういう人が大半だと思うけどね。俺は嬉しさもあるけど、それ以上にストレスを抱えるタイプなの。相手に申し訳なくなる」
「別に入ってきた雌だって見られる事前提に入ってきてるでしょ」
「そうなんだけどね。でもさ、お互いに自分とは違う身体って、無意識に見ちゃうでしょう?」
「……そんなの「ゲヘヘ、ラッキー♪」程度に思っていれば良いのよ。嫌だと思ったら入って来なくなって望み通り浴室を独占できるでしょ?」
……あら、賢い。思いつかなかったわ……。
「できるかもしれんけど、俺の男としての信頼を大幅下落させる可能性が高そうだね」
「それもそうね……じゃあ、あたしの胸やお尻、揉んどく?」
「……遠慮する」
正直、ダクネスの胸や尻を揉んでも罪悪感はない。どうせ、誰かに見られるわけでもないし。……でも、何が悲しくて赤ちゃん体型の妖精の胸や尻を揉んで喜ばなきゃならんのよ……。
「……はぁ、とりあえず寝よう。明日も早い。フカフカのベッドで寝られるのだから、しっかり寝ないと」
「はい、おやすみなさい」
俺がベッドに横たわると彼女も再び抱き着いてきた。
「ふふ、あたしが抱き着いているからって、悶々とせずに眠るのよ?」
「ダクネス……くちゃいよ?」
俺が一言意地悪く言うと、彼女はバッと離れる。
慌てて部屋を飛び出したのを見届けてから、俺は意識を手放した。
翌早朝、目が覚める。多分、周りの明るさから察して予定より少し早い。でも、物音から察して既に起きて働いている連中もいるようだ。
「おはようございます、主人」
「おはよう、サヤーチカ」
サヤーチカ以外は居ない。多分、もう手伝いに出ているのだろう。
そして、股間に感じる重み。これは慣れている。ダクネスが陣取っているのだろう。妖精の習性だから仕方ないとして……コイツ、今までの妖精と比較して寝相が悪い!
昨日まではたまたまかと思ったが……流石に確定だろ。
「ほら、起きろ。お前さんを無理に引っ張ると大惨事になりそうなんだ」
彼女は起こされて寝返りをうち……俺の股間に激痛が走った。
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