遭遇したくなかったお約束展開と後味の悪い勝利
多分、どんな世界の住人であっても、男であれば可愛い女の子達に囲まれて好意的に接してくれるのは幸せなことだと思うし、それを見た同世代の男達であればきっとムカつくに違いない。その気持ちは何となく理解できなくもない。
ただ、俺のように一緒に行動する女の子の人数、向けられる好意や敵意の重さ、不可抗力で向けてしまう性欲等に応じて大きさの違うトラブルが「オッス! 待っていたよ!!」と挨拶しながら迫って来る女難体質だったりすると話は変わってくるし、ムカつかれても理不尽に思うだけである。
……理解されるとも思えないけどね。
「お兄ちゃん。お腹減った~」
荷台に胡坐で座っていたところ、その上にマオルクスがチョコンと座る。自身の背を預け、甘えるように食べ物を強請る。
「マオルゥ、自分で食べようね?」
「やだぁ、お兄ちゃんと食べるぅ!」
中身は16歳だが8歳の愛くるしい容姿を利用して俺に散々甘えてくる。もちろん、本来の姿を知っている2人は露骨に不機嫌だ。
「サクリさん、マオちゃんだけ甘やかすのはダメですよ?」
そうサティシヤは言うけど、その言い回しだと自分も甘やかせと言っているように聞こえるんだが?
「ほら、マオちゃんは大きいのだから、お兄ちゃんを困らせないようにね」
さりげなく皮肉を込めているクレアカリンさん、怖いっす。
「……まぁ、悪ふざけはその辺にして、本当に何か食べても良いかもね」
移動中だし、携帯食……干し肉を鞄から取り出しかじる。俺が食べ始めると他も倣って食べ始める。……これだけ女子に囲まれてベタベタされていれば、何か起こるだろうな……と覚悟を決めたその時。
「皆さん、前方に何か……」
御者のおじいさんが声を掛けた瞬間。事態を先に理解していたクレアカリンと共に馬車から武器を抜刀しながら飛び出す。
背後から、「馬車を止めて」と指示する声が聞こえ、遅れてみんなも飛び出してくるのを視界の端に捕らえながら、戦場に足を踏み込む。
「ゴフっ!!」
たった今、最後に立っていた女性冒険者の胸が刃に貫かれた。
「まだ助けられる!」
態勢が整う前だが一刻を争う事態と判断して速攻で攻撃を仕掛ける。クレアカリンが片手剣を構えて敵陣に乗り込むと、その勢いのまま相手の首を刎ねる。
敵の正体は多分コボルドだと思うが、こんな何も無い平地に現れることに違和感がある。本来、コボルドは森や山など木々の多いところに生息している妖魔である。
俺も遅れて敵との間合いを詰めると大剣で胴を薙ぎ、分離させる。最初の1撃は助走もあるので慣性の力もあって一撃必殺となったものの、本番はここからだ。
「お願い、プルーム達。少しだけ力を貸して!」
サティシヤの声と鈴の音が戦場で鳴る。戦闘中でうるさい中でも鈴の音はしっかりと聞こえた。それと共に草が伸び、コボルド達に絡みついては転倒させる。
「天王星の星霊よ、仲間達に星々の加護を!」
多分、イヤリングを取ったのだろう。歳相応なマオルクスの声が聞こえたかと思うと、身体に力がみなぎる。……多分、何らかの強化術なのだろう。
コボルド達の攻撃が俺達を襲うが、クレアカリンは多分【盗賊】のパッシブスキルで余裕をもって舞うように攻撃を回避している。一方俺はというと、同じく【念動士】のパッシブスキルで攻撃の来るタイミングと場所を判っているので、最小限の動きで攻撃を避ける。
2回、3回と続く攻撃を全て避ける。敵は残り6匹。全ての攻撃を受けずに避ける。相手が人だったら力量差をそれだけで理解するものだが、コイツ等は違う。
「サクリ!」
クレアカリンが2人の間にいるコボルドに短剣で背後から攻撃し、振り返って背を見せたところに一撃を加え1匹倒す。
「お願い、プルーム達。少しだけ力を貸して!」
多分、【風水士】が戦闘に使えるスキルはそれだけなのかもしれないが、姿無き妖精、プルームに声を掛け、敵にランダムなデバフをしているように見える。
サティシヤのスキルの効果で更にコボルド達の動きが鈍くなり、回避に余裕ができるとマオルクスの声が響く。
「金星の星霊よ、我が敵を貫け!」
地面から金属の棒が飛び出し、コボルド1体を貫く。これで残り4体。
「……2人とも強い……」
「本当に、レベル1なの?」
シオリエルの驚きにユミウルカも同意している。しかし、種明かしは簡単だ。【学鍛童】の時に実践的な戦闘をしたかどうかでレベル上昇時のステータス変化が変わる。俺とクレアカリンは長い戦闘訓練の末に戦闘に特化したステータスになっていただけである。
正直、コボルド相手なら島の森で何度も戦闘経験があり今なら余裕だ。
コボルドの攻撃を2匹ずつ避け、戦闘は楽勝。
「クレア、2匹だけ残してシオチとユミーにトドメを譲って!」
「わかった!」
正直、圧倒的戦力差だと言っても過言じゃなかった。
シオリエルとユミウルカは武器を構えてコボルドに近づく。多分、まともに戦うのであれば命懸けになったかもしれない。しかし、2人ともマオルクスにより強化され、コボルドもサティシヤによって弱体化されている。2人の実力はわからないが多分大丈夫ではないだろうか?
俺とクレアカリンはそれぞれ1体ずつ攻撃を仕掛ける。そして、サティシヤがデバフをするがマオルクスは待機。代わりにシオリエルは片手剣でコボルドを攻撃。ユミウルカも槍で攻撃して、1匹ずつ受け持つ。
……ぶっちゃけ俺とクレアカリンで殲滅は簡単だとは思うのだが、多分2人は戦闘に参加しないと経験値が貰えない。戦闘以外で経験値が得られるとしても、戦闘で得られる経験値でステータスの伸びに変化はあると思われる。
まぁ、ゲーム内には存在しないクラスだから、何をどうすれば強くなるのかは判らないので手探りにはなってしまうけども。
「これだけ念入りに手順を踏めば、攻撃を受けることなく倒せそうだね」
「そうだね」
そんなことを話しながら、コボルドを1匹ずつ倒す。残りは2匹。
「あの、これ……コボルドじゃないですね」
「「え?」」
シオリエルの言葉に俺とクレアカリンは動きが止まる。戦闘中に危険な行為かもしれなかったが、幸い俺達の相手は既に倒れている。
「そうね、多分これはコボルシフトだね」
……初めて聞く名前。そんな名前の敵は『竜騎幻想』には存在しない。
「この人達は……えいっ!」
そう言ってシオリエルがコボルシフトを剣で殴り倒す。
「……えっと、元人種族です」
人種族……つまりヒューム族かエルフ等の亜人種族ということか。
「やっ!!」
最後にユミウルカがコボルシフトの頭を槍で貫き、倒し終える。
「……これで殲滅かな?」
「そうですね……」
シオリエルが返事するけども、そのタイミングって普段ならクレアカリンが……。
「間に合わなかった……ごめんなさい」
生きているかもしれなかった最後に倒された冒険者は既に死亡していた。
「……正直、どうにもできなかったと思う」
悔しがるクレアカリンだが、正直俺達の限界だったとは思う。戦況だけを見れば圧勝だったが俺達には専業のヒーラーが居ない。戦闘中に回復行為を行うことは無理だ。
また、このチームでの初戦闘。俺に至っては初の集団戦闘。そんな中で護衛任務を受けた冒険者チームが全滅するような敵を相手に初陣であるアイアン級の俺達が相対するには上出来な結果だと思う。……もちろん、助けられなかったことは悔やまれるけども。
「わかってる」
……こういうのも慣れないといけないんだろうけど……クレアカリンは優しいからな。
とりあえず、気持ちを立て直して貰うにも少し時間は要るだろうと、彼女から離れてシオリエルとユミウルカの元へ。すると、シオリエルの胸元が光っていることに気づいた。
「シオチ、何か光ってる」
「え? ……あっ!」
彼女が上着の内側をゴソゴソと漁ると冒険者カードを取り出す。それが光源の正体。
「これは……?」
「レベルアップです。表記は1ですが組合に行けば更新してくれます」
……流石にファンタジーだったりゲーム世界だったりでも自動更新にはならないんだね。でも、レベルアップ時は光るんだ……。
「おめでとう!」
「ありがとう!」
俺を皮切りにおめでとうラッシュになるのだが、本題はこれからなんだよな。
「……えーっと、聞きたいことがあって。亡くなった冒険者の方は土葬で弔うとして、そのコボルシフトって元人なんでしょ? そうなると、魔石もないよね? 土葬するべき?」
「えっと、魔石は無いですね。でも火葬するべきですよ。……そのコボルシフトになるのって呪いとも感染症とも言われているので」
「そっか……ありがと。やっぱり経験者の知識は助かるよ」
こういう細かい事に関して、唯一冒険者経験が既に1年先行しているシオリエルの知識は助かると改めて思っていた。
事後処理方法をチームで共有し、後始末へ。……初陣はもう少し後味の良い相手が良かったよな。……まぁ、相手は選べないけれども。
「あの、この人って確か……」
コボルシフトは感染症の疑いもあるらしいから俺が〈サイコキネシス〉で装備を剥がしている時、被害に遭った人達を土葬するべく女性陣が総出で準備をしていると、サティシヤの一言で全員の動かしている手が止まる。
「そうですね。わたしの前のチームですね」
……気づいていたのか。
「大丈夫?」
「……はい。そのぉ……まぁ、あまり良い思い出もないチームでしたので……」
何とも言い辛そうに答えるシオリエルに俺もそれ以上何も言えず。彼女も淡々と身分証や冒険者カードを抜きつつ遺品を纏める。
「依頼主と思われる方の遺品は関係者の方に届けます。冒険者の装備に関しては剥いで、欲しいものは貰い、要らないモノは売却します。冒険者カードに関しては死亡届として協会に届けます。サクリ君も装備を剥いで冒険者カードを抜いておいて下さい」
テキパキと動けているのはシオリエルだけで、俺も含めて他はその差はあれども動揺している。だが、彼女の在り方が多分冒険者として正しい姿勢なのだろう。
「わかった」
何でもすると言ったシオリエルに俺が望んだのは、既に得た冒険者としての知識を共有してほしいというもの。その知識に早くも助けられた。……まぁ、このトラブルも俺の女難体質が引き寄せたかもしれないのだから、若干申し訳なく思わなくもない。
シオリエルの前の仲間は割と良い装備をしていた。それでも負けたのは、コボルシフトが実は元シャドウ級冒険者だったからかもしれない。俺やクレアカリンが倒した憶えの無い死体の装備からスーパーレア職の【重戦士】と【神官】と思われる冒険者カードが見つかったので、彼等を倒すのにてこずって負けてしまったのだろうと推測した。
「あの、この方……生きてる?」
「え? 見せて!!」
サティシヤが装備を剥ごうとして触れた時に身体が温かくて気づいたらしい。……助けられた命があったことにクレアカリンが一番嬉しそうだった。
「多分、わたしと入れ違いで入った人の1人だね。多分【魔術士】?」
手早くシオリエルとユミウルカが応急処置を始め、マオルクスが治癒術を掛けた。
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