もう1人の転生者とトラブルが発生する予感
……ダメだ。眠った気がしない。
全ては1つのベッドを3人で利用しているのが原因だ。無防備な女の子2人に挟まれて、熟睡できるわけがない。……数時間は眠れたけど。
2人とも恋愛関係にあるわけではない。サティシヤは滞在費の全てを俺が立て替えているので、自分のせいで余分なお金を使わせたくないという意思が強いようだ。
一方、クレン改めクレアカリンは、どちらかというと俺を見張るポジションなのかもしれない。サティシヤが俺と同じベッドに寝ると言い出したタイミングで張り合っていたし。
……どちらにしてもこの睡眠不足すら女難の1つなのではないかと疑ってしまう。
「おはようございます。お早いですね」
顔を洗いに行くと洗面所には既に仕事をしているシオリエルが笑顔で迎えてくれた。とても印象の良い営業スマイルである。
「あの、サクリウスさん。朝から不躾なお願いなのですが、わたしを仲間に加えて貰えないでしょうか?」
……ブファッ!!
口を漱ごうと貯めていた水を驚いた拍子に勢いよく噴き出した。
「えっと、何故冒険者に?」
無碍に断るのも何なので、事情を聞いて断ろうとしたのだが。
「わたし、将来は冒険者の店を経営したいんです。だけど、この店は兄が継ぎます。自分の店を経営するために冒険者である必要があって、自分の階級が店の階級になるので、冒険者チームに所属する必要があるんですよ」
……つまり、この店の店主はアイアン級冒険者ってことか。
「何でもやりますので、お願いできないでしょうか?」
……断り難い。昨日の様子も見ちゃっているし、無理言って個室に3人で泊まっているし。
「わかりました。本当に何でもやって下さいね?」
何処まで覚悟しているかは知らないが、宿を快適に利用するため彼女を受け入れた。
朝食の時は若干ドキドキしたのだが、シオリエルの加入に関して反対されるかと思ったが2人ともすんなりと受け入れてくれた。2人も昨日の様子を見ていたから、多分俺と同じ気持ちになったのかもしれない。
朝食後の行動に関しても2人はてっきり付いて来ると思ったのだが、明日から仕事があるということで準備のためにシオリエルさんも誘って3人で女性固有の買い物があるらしい。……ということで、久しぶりの単独行動だ。
街の東西南北のキャンプ広場近くに衛兵の詰め所があるが、中央に衛兵隊本部がある。そこの隊長にマリーさんの紹介状を持っていくのが本日最初の任務。いい加減、ずっと紹介状を持ち続けるのは紛失が怖い。
「へぇ、あのファンタズマ家が……」
隊長といえば、ごつくて暑苦しい感じの大男を想像していたが、思ったよりも若い男性だった。多分、30代半ばくらいかな? 細身で美形。多分モテるんだろうな……なんて思いつつ。
「サクリウス=サイファリオです。今日は顔を憶えて貰うための挨拶に来ました」
「そうか、君の事は憶えておくよ。何かあったら遠慮なく相談に来ていい」
……本当にマリーさんの紹介状って凄い効果があるんだとリアクションから察しつつ、戻ろうとしていたら、声を掛けられた。
「あら、昨日の……サクリウスさんでしたよね?」
……その耳が幸せになるような可愛い声は!
「はい、アミュアルナさん。昨日はありがとうございました」
サラサラと風に揺れる淡い橙色の腰まであるロングヘア。そして、整った顔の大きさに対して大きな目と深い橙色の瞳。まるでユニットのCGがそのまま実体になった……絵に描いたような美少女が傍に立って俺を見ていた。
「いえいえ。隊長とお知り合いなの?」
「今日、知って貰いました」
彼女の微笑みが尊い。流石、推しユニットの1人だけある。
「……ほら、新人! さっさと次に移動しろ!」
「はーい! すみません!! ……またね!」
そう言って、彼女は慌てて走っていく。……世界が違えば彼女は間違いなくアイドルだよ。
……だけど、メインシナリオに登場しない彼女は、主人公に見つけて貰えなければ不幸な人生が待っていることを俺は知っている。……まだ、先の話のはずだけどね。
気持ちを切り替え、彼女と話せた幸せな気分のまま次の紹介先へと向かった。
銀行に行って紹介状を渡し、ついでに所持金と換金前の素材も預ける。現金はどの銀行でも引き出す事は可能だが、アイテムは預けた銀行でないと出せないという仕様も発覚。……まぁ、考えてみれば当然とも言える。
その後は鍛冶屋にも紹介状を渡しに行き、全ての紹介状を渡し終えて安堵した俺は仲間が増えたことを報告するついでに『ファンタジアン』へと向かった。
「サクリ君、こっち来て!」
マリーさんに呼ばれて奥から出て来たマオルクスは直ぐに俺を店の奥へと誘う。応接間で2人きりになると入り口の扉に鍵を掛ける。
……ちなみに、今のマオルクスは本来の姿をしており逆にドキドキしないものの、同世代の異性と密室2人きりという女難フラグが成立しそうな状況には不安しかない。
「見て、これ」
そう言って彼女は冒険者カードを見せてくる。
「ちょっ、大丈夫なんですか?」
「うん。特別なルートでね」
……マリーさんのやる事だから、多分大丈夫なんだろうな……。
「これで正式にサクリ君と同じ冒険者チームになれるってわけ。ちなみにこのイヤリングも買って貰ったの。王国の兵士に見られる可能性がある場所は小さい姿で居ることになると思う」
「……了解。あと、こちらも仲間が2人加わりました」
ユミウルカとシオリエルの話を事後報告という形で報告する。本来は仲間に入れるのであれば彼女にも承諾を得るのが筋というものだけど、彼女は気にしていないようだった。
「実はもう1つ、確認したいことがあるの。ねぇ、サクリ君って知念朔理君??」
「……うん。もしかして占い?」
「そう。ちなみにわたしは天原満月だよ。憶えてる?」
「え?」
忘れるわけがない。だが、俺は彼女の言っていることを理解できなかった。
「本当にあの『あまはらみつき』? 『月天』??」
「そう。『ゲッテン』の名を知っているんだ……」
少し恥ずかしそうに彼女は肯定する。
天原満月は小学生時代のクラスメイトで、小3から小6まで同じクラスだった仲の良い女の子だった。ただ、中学では私立の女子中に通うことが決まっていたため、小学校卒業後に直接会った記憶がない。
彼女は高校生になった頃から有名な美少女コスプレイヤーとして雑誌に取り上げられるほど有名になっていたから一方的に見ていた。『月天』は彼女のレイヤーネームである。
「どうして、この世界に?」
「コスプレのイベントがあって、友人の車で新潟へ移動している時に土砂崩れとトンネル内火災があって、爆発に巻き込まれたところまで記憶があるの。だから、その時に死んじゃったんじゃないかなって。『天職進化の儀』で記憶を思い出して、慌てて逃げる算段を探したの」
……なるほど。どうも同じタイミングで死んで、同じ『天職進化の儀』で記憶を思い出した感じか。
「ねぇ、サクリ君。前世からの付き合いだし、お互い協力しない?」
「あの、参考までに聞くけど天原さんは『竜騎幻想』をやったことはある?」
「キャラクターのコスプレはしたことあるから、タイトルは知っているけど……何でそんなことを聞くの?」
「ここがその世界だからだよ」
……うーん。多分マオルクスが協力できるのはユニーク職のスキルを使用することくらい。いや、充分強力なんだけど。でも、彼女を裏切るとマリーさんの評価が下がることは間違いないわけで。……いや、一緒に仲間になるのは前世を知る前から確定している事実だから……。
拒否する理由もなく、互いに協力となるか判らないけど、とりあえず彼女の要望を承諾した。
翌日。朝8時に集合する。ユミウルカからの依頼で、近隣の坑道へ霊石を採掘するために坑道までの道中と坑道内の護衛が今回の仕事だ。
「おはよう」
北の門前に集合となっていたが、ユミウルカは幌付き馬車で現れる。御者込みでレンタルでもしたのだろう。
「荷台に乗っちゃって。……それにしても人数増えたね。全員で行けば即カッパー級に昇格じゃない」
「まぁ、そうなんだけど」
認めつつも、どうも乗り気になれない。自分でもつまらない事を気にしているのは自覚しているけど、そもそも何故『アイアン級』が存在しているのかという話。依頼を受けるなら6人以上じゃなきゃダメだっていうのなら、別にその階級など設けなくとも条件に6人以上のメンバーとでもしておけば良いだけの話。なのに、わざわざ階級を設けているということは、何か意味があるのではないかと勘繰ってしまう。
全員が荷台に乗り込むと馬車はゆっくりと進み始める。
……判ってはいたけれど、御者の隣にユミウルカが座っていて、荷台には5人。俺と御者さん以外は女。しかも3人が俺に密着状態。
……平穏無事に仕事が終われば良いけど……正直、嫌な予感しかしない。
「えーっと……ちょっと今後の方針について聞いてほしい。正式にユミウルカも仲間に加わり、一応カッパー級の資格を得ることが可能にはなったんだけど、階級を上げるのはしばらく止めておこうかと思う」
「何故ですか?」
「これは俺の推測なんだけど、もしかしたらアイアン級で身に付けておかないといけない事ってあるのかもしれないと考えたから。その結論を出して、身に付けた後でも良いかなって」
サティシヤの問いになるべく率直に答える。
……言えないけれど、レア職以上で6人揃えないと依頼を受けても達成できないのではないかという疑念が俺にはあるんだよね。
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