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きっと俺は鈍感系主人公。多分、何も気づかないに違いない

 幸いなことに『ファンタジアン』に着くまで、追手がこちらに迫って来ることは1度も無かった。まぁ、まさか追っている女の子が8歳になっているとは思いもしないだろう。


 店内にはマリーさん本人が店番をしていた。先程と時間帯が違っても客は居なかった。


「こんちは、マリーさん。お届けモノですよ」


「あら、サクリウス。……さっきぶりね。それで、お届け物って?」


 そう言われ、ここまで抱っこして一向に降りようとしなかったマオルクスが自らの足で立ち、両耳のイヤリングを自ら外す。俺はその瞬間、咄嗟に後ろを向く。もちろん、クレンにも後ろを向かせる。


「えっ? ……あぁ……マオルクスなのね?」


「うん」


 背後から声が聞こえる。何をしているのかは知らない。だって全裸だろうし、男の俺達が見るわけにいかないじゃん?


「とりあえず、見て良くなったら教えて」


「……あっ、ごめんね」


 ゴソゴソと衣擦れの音とか、雑談が耳に入ってきて、1つ大事なことを確信する。……絶対にこの2人は師弟関係じゃない。


「まぁ、ここで立ち話続けるのも危険だし、中に行きましょ」


「うん。あっ、もう見て平気。ごめんね、気を使わせて」


 ……そう言えるだけ偉い! と思ってしまった。




 つい数時間前に来た応接間に入る。……あれ? 俺はこの部屋出る時空腹だったはずなんだけど、何も食べてない……ダメだ、自覚したら腹が……今度こそ何か食べよう。


「君の事、侮っていたよ。……まさか、お願いした当日に連れてくるとは思わなかったわ」


「俺達もこんなことになるとは思いもしませんでした」


 まぁ、女子に絡む時点で多少のトラブルは覚悟の上。それでもマリーさんの後ろ盾は欲しかったというのが本当のところ。


 勧められるままに席に着く。俺を挟む形でクレンとサティシヤが座り、対面にはマリーさんとマオルクスが座る。


「さて、こうなってしまうとサクリウス達にも知って貰った方が良いかしら」


 ……あれ? 何故だろう? 俺は何故かここから先の話を聞きたくない。


「実はマオルクスは、わたしの弟子ではなくて娘なの」


「「「えっ?!」」」


 いや、普通に見た目でそんな大きな娘がいる容姿ではないでしょ?


「……で、問題は父親の方なんだけど……この国の第一王子だったり……」


 いや、普通にリアクションできんけど? 何? どういうこと??


「知っているとは思うけれど、わたしは王族。まぁ、名ばかりの王族で王位継承権もかなり低いの。それで、当然ながら王子様とわたしは恋人関係ですらない。妃様が妊娠中にわたしを襲って生まれた子がこの子というわけ」


 ……あれ? なんかそんな設定聞いたことがあるような?


「当然妃様は怒って、わたしを娘共々城から追放したわ。だけど、マオルクスが6歳になった頃に王様の命令で国に奪われてしまって……」


「それで、わたしは王子様の娘の影武者とするべく、王族としての教養を仕込まれていたの」


 マオルクスが説明を継いだところまで聞いてようやく、その設定を思い出した。




 ……そうか、グアンリヒト王国の『幽閉姫』か。


 なんてことは無い。『竜騎幻想』にあった特殊な設定の姫様の話だ。


 『幽閉姫』はゲームに出てこない。よってイメージCGもアニメーションも存在しない。NPCでもユニットでもないため、その姿を確認することをプレイヤーはできない。


 幽閉姫は顔が国王の孫娘と瓜二つ。公務のためにどうしても危険な場所へ赴く必要があったり、孫娘の体調が思わしくなかったりした場合、彼女の代わりに王子の娘を演じる存在なのだという。


 ちなみに王子の娘の方はちゃんとゲームに登場する。ユニットとしてではなく、NPCとして。確か主人公を嫌っている設定じゃなかったかな? 興味無いから詳しく憶えてないけど。


 声が可愛くて、見た目が好みであっても、あの性格……いや、見せ方になるのか? ……だと、好きになれんよなぁ。登場回数も少なくて彼女の性格を深掘りするような話も無かったし。


「問題は王子様の娘……わたしもあえて、どの人かは言わないよ? その子が『天職進化の儀』をして賜った天職というのが【再現師】だったというのが問題になって……」


 ……なるほど。【再現師】とは見聞きした知識を元に演じる天職であり、ノーマル職。幼い頃から英才教育をされた際に言われる儘に動いていれば確かに【再現師】を取得する可能性は高いだろう。


「わたしもノーマル職だったら良かったんだけどね」


 その口振りから察するに彼女はノーマル職ではないのだろう。だけど、『幽閉姫』は結局没になったことで設定にしか存在しないキャラになったんだが……実はこういった事情だったか。




「何になったの?」


「それがユニーク職の【占星術師】でね。賜った際には気を失って大変だったの。あ、でも一応ノーマル職の【占い師】って言ったけれどね」


 マリーさんからの内心一番聞きたかった問いにマオルクスがあっさりと答える。


 ……ちょっと待て。ユニーク職と気を失うって……いや、まさかね。


「ただ、天職バレするのは時間の問題だと感じたから、即占って……お母様のところに帰ることで運命が変わるとは判っていたの。でも、わたしではお母様のところに辿り着く未来が無くて、その方法を占った結果が、サクリ君だったわけ」


 ……まただ。その呼ばれ方に何か違和感。サクリと呼ばれることは友達の間では普通なので、若干なれなれしいとは思うけれど、それとは違うんだよな。


「わたしが自由を手に入れるには、サクリ君の傍にいることが絶対条件なの。他の手段を占ったけれど、どれもダメ。だから、サクリ君がブライタニアに来る日を占って、居場所も占って、そこを目指して逃げ出したってわけ」


「もし、逃げずにいたら、どんな運命だか聞いてよい?」


 好奇心からつい聞いてしまったが、彼女は複雑な表情を浮かべる。


「『邪竜討伐軍』に入れられていたんだと思う。近々【剣の乙女】が現れるみたいだし」


 ……ついに来るか。主人公が……。




「……ちょっと待って。それってもしかして俺はある意味、国王の孫娘の逃亡補助ってことならない?」


「あはは……そうなるね」


 ……マリーさん? 笑いごとじゃないんだが?


「えーっと、知らなかったから無関係ってことにして良い?」


「「ダメです」」


 2人から否定されてしまった。……だから女と絡むと……。


 まぁ、美少女とキスしてしまったのだから、トラブルが発生する覚悟はしていたさ。


「どちらにしても手遅れよ。わたしが捕まれば、サクリ君の事話すし。だから、ちゃんと捕まらないように面倒見てほしいな?」


「……鬼かい」


 思わず可愛くお願いするマオルクスにツッコミを入れる。


「ねえ、サクリウス。わたしからもお願い。大事な娘を預かって貰えないかな? もちろん、今後も可能な限りの援助は惜しまないよ?」


「いや、流石に無理でしょ? 見つからずに暮らすって。そのイヤリングだって借り物だし」


 そもそも追手の2人がそのまま諦めてくれるとは思えない。自分のクビ……いや、下手したら命も掛かっているのではないだろうか?


「大丈夫よ。そのイヤリングは責任もってわたしが買い取るわ。だから、お願い」


 ……周りに助けを求めたが、クレンもサティシヤも俺から視線を合わさずに逸らした。




「……やってますよね?」


「いらっしゃい。えーっと?」


 冒険者の店“朽ちぬ日輪”亭は閑散としていた。夕飯前だというのに酒場に客がいないのは解釈違いというもの。他に店があるのなら、思わず回避したくなるくらいだ。


 ウェイトレスさんも俺の反応に困っているようで、とりあえず店を出る選択はないわけで。


「えっと、とりあえず食事を……」


「はい、どうぞ。お好きな席にお座り下さい」


 本来であれば部屋を押さえるべきなのだが、何をするにも既に空腹具合が限界を迎えていた。




 ……ふぅ、お腹膨れた……。


 部屋を借りること自体は問題なかった。……問題は普通起こりえないことだった。


「「……大部屋は嫌」」


 何故かクレンとサティシヤは意見が一致していた。個室は高いのだが、腕が未熟な冒険者なり立て故に他の男性冒険者と同じ部屋に滞在することが嫌なのかもしれない。……聞いた話だと泊まっている冒険者は俺達だけらしいのだが。


「じゃあ、個室2部屋借りることになるけど……」


「それなら、ボクとサクリで1部屋だね」


「嫌です。わたしはサクリさんと離れたくありません」


 まだクレンは男同士だから理解できる。ただ、サティの発言は危険だ。それが恋愛感情からではなく、1人になることの不安からだとしても。


「……あの、少し広い個室はありますか?」


 結局、3人は同室の部屋で過ごすことになったのだが、既に嫌な予感しかしない。相手に悪意が無かろうと、トラブルの方から「オッス! 出番待ってたよ!!」と言わんばかりに襲撃してくるのだから、こっちが用心しなければならない。


「では、この部屋で宜しいですね? こちらが鍵となっております。お風呂の準備もできていますので、お早めにどうぞ」


 そう言って部屋を出ようとしたウェイトレスさんに思わず声を掛けた。


「あの、失礼かと思いますが……もしかしてナッツリブア冒険者支援組合で……?」


「お気づきでしたか。その節はご迷惑かけました。わたしはこの店の娘でシオリエルと申します。何かありましたら、声を掛けて下さい」


 ペコッと頭を下げると仕事に戻ってしまった。……まぁ、仕事中だしな。


「それじゃ、お風呂に行こう」


「あ~、サクリ。実は……このタイミングで申し訳ないけど、秘密にしていたことがあって」


 そう言うと、クレンは服を脱ぎだす。


「実はね、ボク……いや、あたし、女だったりするんだよねぇ……」


 そう言って、上半身を見せる彼女の胸には布が巻かれて膨らみを潰していた。


「はっ?! なら、尚更2部屋に分けるべき……」


「いや、良いから。どうせ男として刷り込まれているし、今更女として見れないだろ?」


「いやいやいや、そういう問題じゃないからね?」


 ……風呂に入るタイミングで隠しきれないと悟って明かしたのだろうが、俺は混乱するわ。




 ……結局、押し切られてしまった……。しょうがないやん? 俺だってトラブルさえ無ければイチャイチャしたいんだよ! ……でも、命が掛かっているなら話は別になるわけで。


「おやすみ、サクリ。あたしの事は今後、クレンじゃなくてクレアね? 本当の名前は、クレアカリン=クリアミックなんだから。呼び間違えたら、身体で判らせるからね?」


 そう、ニコニコ笑顔で隣に寝る。


「おやすみなさい、サクリさん。お金出してくれてありがとうございます。ちゃんとお返ししますから、しっかり節約させて下さい」


 反対隣りに髪がほんのりと光っているサティシヤが寝る。……その川の字、必要ある?


「あぁ、おやすみ。大丈夫、きっと俺は鈍感系主人公……多分、何も気づかないに違いない」


 そう自分に言い聞かせて1つしかないベッドで寝る。……他の場所で寝たかった……。

読んで頂きありがとうございました。

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2人目の読者様を確認できました。ブックマークありがとうございます!

これからも皆様に読んで貰えるよう、最低限として自分が面白いと思う話を書いていきます。

面白いを共感して頂けたら、筆者的に大変幸せです!


何卒よろしくお願いします。

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